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霊能物語  作者: Parsy.Store
35/36

野田優愛の悪魔 語り手:蛇崎白

「与えられたものに意味はない――だったか?」

「……」

 私は静かに悪魔の全身を見ます。何の変哲もない、優愛ちゃんの身体に線を引き、霊力の波をじっくりと観察します。

「そう言ったってなぁ、人生才能があるやつ方が、上に行くもんだぜ?」

 チャラチャラと、何の防御もなしに手を使い、体を使って身振り手振りで話し続けます。

「現にお前だってそうだろう?霊能力者なんてのはなぁ、才能の上にあぐらかいてる奴らだろう?」

 無造作に、何の殺意もなく振り下ろした手から、私の白蛇が吹き飛ばされて、私に向かって飛んできました。

「!!」

 私は、空中で霊能を解除して蛇を消します。

「きひひっ。驚いたか?殺意なんてなくても、俺は攻撃できるんだぜ?悪魔だからな。殺すのに理由なんていらない」

――息をするように殺し。

――食べるように殺し。

――寝るように殺す。

「それが悪魔ってもんだぜ。あまちゃんよぉ」

 まさに悪魔的。というより悪魔ですね。息をすように殺し、食べるように殺し、寝るように殺す。確かに、そうなのでしょう。それが、悪魔というものなのでしょう。それがなんとも。

「滑稽ですわ」

「あ?」

「あなたが悪魔なら、私は神ですね。だって私は、生きるために殺し、愛するために殺し、恋するために殺す。あなたごときでは、辿り着けませんね」

「この!あまちゃんがよぉ!」

 悪魔は右の拳を大きく振り上げて、飛びかかってきました。格上相手に、距離を考えるのは愚かです。構えた瞬間に避ける。それが鉄則。

「あなたは、愚かですわ」

 相手との力量の差を考えないなんて、おおよそ、まともな戦闘などしたことがないのでしょう。いつも、槿花ちゃんたちにしていたような、狩りのような戦闘を行っていたのでしょう。いいえ、狩りというほどの戦略も、駆け引きも、あの場にはありませんでした。まるで、赤子と遊んでいるかのような。そんな戦闘経験だったのでしょう。

「白蛇・蝮」

 白い蝮が、私の左手から飛び出ます。出た勢いもそのまま、悪魔の首に巻き付き、締め上げます。

「ぐう」

 悪魔がうめき声を上げる頃には、頸動脈に噛みつき、毒を打っていました。

「私は反対でした。優愛さんをここに入れることも、助けることも」

 悪魔が音を立てて膝をつきます。

「悪魔に憑かれた人間は、エクソシストにでも頼まない限り、私達にも助けられません」

 空音ちゃんは、大方エクソシストとしての訓練でも受けたのでしょう。詐欺師なりの生存戦略かもしれません。

「いーや。お前ならできろだろう?この肉体を傷つけずに、俺を殺すことだって、できるだろう?」

「やりませんよ。めんどくさいので」

 未知数に賭けるほど、私達の業界は人手不足じゃありません。

「それより、あまり動かないほうがよろしくてよ?神経毒ですから、放っておけば優愛さんもあなたも共倒れですわ」

「ううっ」

「蛇を使って絞め殺すのもよろしいですね」

 私は、苦しそうに首を押さえる悪魔に近づきます。徐々にうっ血してきた顔は、赤くなり、死ぬのも近いでしょう。

「早く自主的に身体から出たほうがよろしいのでは?そしたら、無駄なあなたの命も、最後に有意義になる――。いい提案でしょう?」

 私が顔を近づけたからか、悪魔の視線が上を向きました。

「そんな事、できるならとっくにやってるぜ。……俺はこの体から出られねぇ。お前らの大将には、言ったがよぉ。俺にはこの身体がきついんだよぉ。できることなら、もっと潤沢な霊力があるあの最強さんか、お前らの大将、少なくともお前くらいの霊力があれば、楽だったんだがなぁ」

 力尽きたのか、ゆっくりと悪魔は目を閉じました。悪魔と優愛さんの霊力回路の粘着が弱くなっています。今なら、あの子を使えばできるでしょう。

「白蛇・代蛇」

 この架空の蛇は、寄生するタイプの怪異の寄生相手になる。この悪魔がそうとは限りませんが、多少は相手になるでしょう。私は、そっと悪魔の霊力回路に近づけます。ピトッとくっついたところから、勢いよくヘビに飲み込まれていきます。全て飲み込む頃には、優愛さんの霊力回路も綺麗に回復していました。

「代蛇、蝮解除――お疲れ様でした」

 最近、毒を吐けてないせいか、どうも口調が荒れますわ。私はこの研究所での薬師も兼ねているのですから、しっかりしなければ。

「アスクレピオスの蛇」

 明治になって、ギリシャ神話の入国とともに、蛇崎家が総出で研究・実験を重ねた、万能薬。ギリシャのオリュンポスの12の神の1柱医療と弓と芸術の神の息子、死者の蘇生をも実現したアスクレピオス。その力を蛇崎家が再現した、この国で鎖国以降、初めてに輸入された霊能。どんな傷もきれいに治してしまう。

「ま、あんまり使い所ないんですけどね」

 優愛さんが眠そうに目を擦ります。

「起きましたか?おはようございます」

「白さん?なんかあったの?」

「いいえ?特には」

 後でゆっくり話せばいいでしょう。悪魔のことは、みんなで共有しておいたほうがいい。ホッとしたのがいけなかったのか、けたたましいサイレンが訓練場に響き渡りました。砂嵐の音の後に、スピーカーから紅玉くんの声が聞こえます。

『侵入者、研究所に侵入者が入りました。侵入者の特徴から、瑠衣さんが確認した美倉家の刺客と思われます。俺と槿花で迎え撃ちます。白さんは優愛さんを守ってください』

 悪魔のことを話すのは、もう少しあとになりそうですね。もっとも、今日話せるとは思っていませんが。槿花ちゃんと紅玉くんは大丈夫でしょうか?彼らはあくまで美倉家の人間。研究所内に招き入れるかもしれません。

「大丈夫ですか?白さん」

 心配そうに優愛さんが私を見上げています。

「大丈夫ですよ。心配ありません」

 全員でかかられるときついですが、あの子達も少しくらいは足止めしてくれるでしょう。今の私は"斑"もありますし。

「少し移動しましょうか。――立てますか?」

「なんか、脚が痺れてて」

 まだ痺れが残ってましたか。ですが、もう少し下まで潜っておきたいですね。

「私が運びますわ」

 私は優愛さんに背中を向けてしゃがみます。

「乗ってください」

「いいの?」

「鍛えてますから、問題ありません」

 確かな重さが、私の背中に恐る恐るといったふうにかかります。

「しっかり捕まっててくださいね」

 霊力の波を薄く広く伸ばし、刺客たちの僅かな気配を探ります。

「いましたわ」

 まだ外のフェンス周辺でなにかしています。まだ安心ですわ。ここから非常口使って逃げるというのもありですね。

「人数は?」

 失念していました。瑠衣さんの情報だと10人程度、でしたか。1、2、3、4……。4人ですか。

「4人ですわ」

 報告より少し少ないですね。まあ、ずっとこの村にとどまり続けることも難しいでしょう。

「白さん、上!」

 優愛さんの声で反射的に私は上を見ます。町中迷彩のフード付きの服のフードを深く被り、顔が見えないようにした人間が、天井から生えていました。そいつの右手に、どこからとなくナイフが現れます。逆トゲのついた、殺傷能力が極めて高いナイフです。

「……」

「え?」

 低い声で何か呟くと、そいつはおもむろにナイフを振りました。私は、上を通っていくナイフに少し反応が遅れたものの、後ろに飛んで回避します。

「避けるなよなぁ」

 天井から上半身だけを生やしたまま、そいつは文句を言いました。

「霊体化の能力は難しいんだぞ?この一撃のためにどれだけの手間がかかるか……」

 のんびりと、そいつは悪態をつきます。

「知りませんわ。他人の霊能事情に興味なんてありませんね」

 霊体化、という霊能なんて聞いたことがありません。いつの時代の霊能でしょうか。

「まったく、次は避けるなよなぁ」

 次、というからには、また添乗に出てくるのでしょうか。

「白さん、下!」

 下を見ると、下から手が出てきていました。私は右の壁に飛んで回避します。

「足下!」

 また、手が生えてきました。私は向かいの壁に飛び移ります。

「ここもダメ!」

 私は斜め下に飛び、走ります。

「逃げんなや!」

 途中、天井から生えてきた彼がナイフを振ってきましたがそれも避けます。

「白蛇・大蛇」

 足止め用に、私は大蛇を置きます。大蛇と言ってもただの大蛇じゃありません。人を食らい、神に捧げる。そういう大蛇です。

「あなた達に手間取るようなレベルじゃなくてよ?」

 霊能力者にとって、霊力量の差はそのまま、強さの違いに反映される。霊力量が違うだけで、霊能の練度、弾数、範囲、種類に至るまで、全てに差が出ます。そういう意味では、私は与えられたものの上にあぐらをかいているだけです。だけど、私の霊力量は私自身で増やしてきました。人には言えないようなことだって、甘んじてやってきました。

「あなた達には、覚悟が足りない。霊力量の差は、努力で埋められます。どういう努力をするのもしないのも、あなた達が決めることです。こういう芸当も、できるようになりますよ。」

 かつて、蛇崎家で悪夢と言われ、忌み嫌われた技。

「白蛇・斑・縮小版」

 大蛇から、大小さまざまな大きさなの、斑模様が入った蛇が出てきました。やはり、斑はすごい威力です。あっという間に全員を蛇に変えてしまいました。その上、証拠も残らない。完全犯罪ですね。私は足を鳴らして蛇を消します。

「白さん、今のって……」

 わなわなと震えた声で、優愛さんが後ろから聞いてきました。私は優愛さんを掴む力を、少し強めます。

「白蛇・内喰」

 指の動きと同期して、頭を蛇が貫通します。血は出ません。ホログラムのようなものです。効果は指定した時間の記憶を消すこと。これで目撃者もいません。

「あれ?襲ってきた人たちは?」

「さあ?どこかに行ってしまいましたわ」

「ふーん……」

「紅玉くんたちのところに行きましょうか。敵があちらに行ってるかもしれません」

「そうだね……」

 私は速度を上げます。早く紅玉くんたちのところへ行かなければ。空音さんたちに報告されてしまうかもしれません。

霊能物語本編第三篇「悪魔」第八話「野田優愛の悪魔」を語り手:蛇崎白でお送りしました。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをしていただけると嬉しいです。こんな小説を書いてほしい、このキャラのこの時期を知りたいというリクエストは、感想やInstagramのDM で常時受け付けていますので、気軽にお書きください。

Instagram→parsy.store

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