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霊能物語  作者: Parsy.Store
32/36

一方その頃 語り手:蛇崎白

「優愛さん、あまり気負わないほうがよろしくてよ?どれも仕方のないことでして」

 私は泣いてる優愛さんに、そう声をかけました。ご愁傷さまほどに、力のないその言葉でも、今は届いたほうがいい。そう、判断したのです。

「うん。大丈夫だよ、白さん。仕方ないって事は、わかってるんだけど……」

 瑠衣さんたちが、霊体化の呪いを解呪しに行って数分。私たちは地下の訓練場に戻っていました。

(さすがに徹夜明けはきついですね……。頭が痛い)

 そんなことを思っても、今この任務を引き受けられるのは私しかいません。槿花ちゃんと紅玉くんでは、役不足です。私なら、止めるくらいはできるでしょう。

「そういえば、聞いてませんでしたね」

「?」

「あなた、いつ頃から化物……もとい、怪異が見えるようになりましたの?」

 瑠衣さんや駿くんのように、生まれながらに見える逸材は稀です。彼女も、そういう逸材ではないでしょう。

「うーん……。いつから?物心ついたときには既にって感じかなぁ……。白さんは?」

「はっきり見えたのは、小学生くらいでしょうか?それより前は、ぼんやりいるなぁくらいでしたわ」

 嫉妬してしまいます。彼女もまた、才気に溢れているようですね。彼女が霊能を学んだら、紅玉くんくらいはすぐに超えるでしょう。ポテンシャルは、あの悪魔と同じなのですから。

「美倉家と知り合ったのは、いつですの?」

「……」

 あまり、話したくないようですね。でも、私達は聞かなきゃいけません。いくら霊力が少ないとはいえ、美倉家は大家です。揉めれば石谷家はもちろん、透石家も跡形もなくなるでしょうし、蛇崎家ですら、ただでは済まないでしょう。瑠衣さんは……無傷でしょうね。あの人に挑む勇気のある人間なんて、偉黎さんと本部の終夜さんくらいのものでしょう。

 私はじっと見つめます。話すようにと、圧力をかけて。

「半年前だよ。私が美倉家?って人たちと知り合ったのは」

 どうやら、話す気になったようですね。しっかり、覚えましょう。


「半年前、私と梨里ちゃんが部活帰りにコンビニに寄ってたの。ほら、白さんもわかるでしょう?学校近くの。そしたら急に、青い蝦夷菊の紋様を胸につけた人達に囲まれて、同じ紋様がある車に乗せられたの。そしたら、眠らされて。目が覚めたら、一族の長?って人の目の前にいたの。……そこからは、記憶にない」


 なるほど。思ってたより短かったですわ。記憶にないって事は、その間は、悪魔のほうが出てた可能性が高いですね。その間に何かあって、長である美倉玲を殺したってところでしょうか。ドラマや漫画のような話ですわ。別にここは、美倉家の勢力圏内じゃないでしょうに。なぜ、見つかったのでしょうか。

「ねえ、白さん。私、死んだりしないよね」

「ええ。絶対に殺させたりはしませんわ」

 約束はできかねますが。まあ、相手が美倉家の人間なら、どんなに対人に長けていても、5人は余裕でしょうね。それでも、疑問は残りますが。口ではいくらでも言えますが、実際に勝てるかと言われると厳しいです。殺させないことは簡単ですが。私も生き残るとなると、それのハードルは一気に高くなります。

 戦闘も格闘も、霊能と同じで若弱老強の世界です。いくら第34支部に若い才能が多く集っていても、手練の老人には勝てない人が大多数でしょう。確実に生き残るのは、戦闘要員の中でも私と瑠衣さんくらいでしょうか。もし、美倉家が本当に攻めてきたら、真っ先に殺されるのは、槿花ちゃんと紅玉くんでしょう。その次に優愛さん。井宗さんは厄介ですが、殺すのにも時間がかかりすぎるので、その次は鷹清くん。そして、井宗さん、空音さんでしょうか。あの2人はもしかしたら、殺されずに誘拐にとどまるでしょうか。私はその後でしょうね。瑠衣さんは、まず無視されるか、よくて無力化でしょう。あの子1人に割く戦力は、美倉家全員でも足りるかどうか。足止めなら別ですが。

「白さん、白さん」

「なんですの?」

「霊力って、どうやって使うの?」

「突然ですのね……」

 本当に突然です。このタイミングで聞くでしょうか、普通。驚きです。

「霊力の使い方……ですか」

 普通は見えたら使えるので、どうやって使うのかと今更聞かれても、答え方に困ります。それに、私は未だに、悪魔の人格がいつ何がきっかけで出てくるのかがわかりません。もしかしたら、霊力の波の強度かもしれない。うかつに教えるわけにはいかない。悪魔をこれ以上強くしたら、私ですら危うい。

「空音さんたちが帰ってきたら、教えますわ。私はあまり、説明がうまくなくて」

 優愛さんは、少し残念そうにうつむきました。

「そうですか。残念……」

 ここまで残念そうにされると、心が痛みますね……。ですが、教えるわけには。

「白さん白さん」

「なんですの?」

「もし私が、また悪魔?の人格に取り込まれたら、どうやって戻ったらいいの?」

「突然ですのね……」

 どうやって戻るか、ですか。私には少し難しい質問ですわ。私の霊能は、騙りではありませんから、人の人格とかにはあまり詳しくありません。それでも、あえて答えを出すのなら……。

「そうですね……。私はあまり詳しくはありませんが……」

「うんうん」

「ずっと、中で叫び続ければ、いつかは出られますわ。いつかまでは、存じませんが」

 憑依型の解離性同一性障害の中には、別の人格が身体を使っている時、それを夢の中の出来事のように見ている事があるらしいですわ。

「どういうこと?」

「夢の中で、それが夢であることを自覚したら、夢が覚めることがあるでしょう?」

「うん」

「それと同じですわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。――まあ、難しいとは思いますが」

 不可能では、ありませんわ。

「うーん……なるほど?」

 優愛さんは、難しいと思っている顔で、考え込んでしまいました。まあ、難しいでしょうね、今の彼女には。私はふと、壁の方に不思議な気配を感じて、視線をやりました。

――それがいけなかったのかもしれません。私は、優愛さんの監視員なんですから、目を離すべきではなかったのです。

「きひひ」

 優愛さんの気配が変わりました。というより、優愛ちゃんの霊力の流れが変わりました。霊力の質は変わりません。けれども、霊力の流れが変わりました。優愛ちゃんの霊力が、外に出てきました。

「優愛さん!」

 私は慌てて視線を戻しました。ですが、それではあまりにも遅かった。そこに優愛さんはいませんでした。

「お嬢ちゃん……いらないことを教えてくれちゃったなぁ」

 優愛さん――もとい、悪魔は、私の頭をがしっと、強く掴みました。

「いらないこと、とはなんですの?」

 この世界に。

「いらないものなどございませんわ」

 白蛇・穿

「きひひっ。そういう奴だよ」

 私の手から一匹の白蛇が、ぬるりと頭を出して、胴を出して、するすると優愛さんの手に巻き付きます。するすると巻き付いた蛇は、優愛さんの手を締め付けます。メキメキと骨にヒビが入る音が、私にも伝わってきます。とっさに、悪魔は私から手を離し、距離を置きます。

「そういう、いらねぇ事するやつが、俺達は一番嫌いなんだ。ひひっ」

 しゃくり笑うような笑い声が、耳につきます。優愛さんが、こんな事考えてるはずがありませんわ。私は蛇に指示を出して、さらに腕を締め上げます。あと少し締め上げれば、腕は完全に折れるでしょう。

「私は、詐欺師じゃないからわかりませんが」

「?」

「あなた、優愛さんから生まれた人格じゃないわよね?」

 予感は十分にありました。優愛さんの近辺調査は私がやったので、優愛さんの事はよくわかります。ですから、少なくとも彼女には、第2人格が生まれるようなストレスがなかったことは明らかですわ。悪魔は、ニヤニヤとした笑みを崩さずに、また「きひひ」と笑いました。とても、優愛さんとは思えない、気持ちの悪い笑みです。

「せ〜かい、だぜ。俺は野田優愛からは生まれてねぇ。あくまで怪異として生を受けたぜ。悪魔だけにな」

「……」

 寒い、ですわ。

「ここ、笑うところな」

 笑うところ、だったんですの?悪魔の小ネタは分かりづらいですわ。

「選ばれたって思ったぜ。世間が思うように、悪魔はどんな怪異よりも神に近い。だから、神の天敵なんだぜ。選ばれた。選ばれたんだ、俺は」

「選ばれた。神か、何かに。神の天敵だけどな」

 悪魔は、自虐的にそう笑いました。

「与えられたこの力を使って、成り上がってやる。って、思ったぜ。いつか絶対、悪魔として、神に成り代わってやるってな」

 与えられた力を使って、成り代わってやる。ですか。

「バカバカしいですわ。あなたは、どこまでも愚かですわ。与えられた力なんてものは、端から努力が伴わない。才能なんてものは、この世に存在しないのよ。純粋な才能は、絶対に努力に勝てない。天才は、努力したから天才なのよ。与えられた力をアホみたいに振るって、優越感に浸りたいだけのあなたは、絶対に槿花ちゃんにも、紅玉くんにも勝てませんわ」

「きひひっ。アホかおめぇは。勝ったじゃねぇか、アイツラには。認めろよ、努力じゃ、才能には勝てねぇ」

「勝てますわ。あなたに全く刃が立たなかった紅玉くんも、私を殺すことができる。努力は、才能を超えられる。あなたの腐った価値観を、私が変えて見せますわ」

「てめぇの青クセェ価値観を、俺が正してやるよ。ドブ色にな」

――ちょうど、あっちも始まったみてぇだしな。

霊能物語本編第三篇第七話「一方その頃」を語り手:蛇崎白でお送りしました。お楽しいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをしていただけると嬉しいです。誤字報告等も、常時受け付けておりますので、見つけた方は教えていただけると助かります。こんな小説を書いてほしい!このキャラの、こういう情報を知りたい!という希望がある方は、InstagramのDMで受け付けておりますので、Parsy.storeをフォローしてください。

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