石谷空音と世界最強
ブロロロロ……
私達は東京にある本部からかれこれ2時間ほど車で移動していた。
「瑠衣ちゃん、気持ち悪くない?」
「いえ、まだ大丈夫です。」
正直、私はこの車よりも速く走れるので、あまり車という乗り物のメリットを感じることがない。お母さんが生きていたとき、何度か乗ったことはあるが、その時は暇で寝ていたのであまり覚えていない。
(今回は眠るわけにもいかないからなぁ。)
「もうすぐパーキングエリアだけど、休憩とる?」
車を運転している運転手さんがそう聞くと、
「休憩、取りたいです。」
「私も〜。」
「私も少し。」
私達が、口々にそう返事をすると、運転手さんは見えてきたパーキングエリアに入った。
「予定では、13時に第3支部に到着なので、休憩はだいたい15分くらいかな。」
「了解でーす。」
「ありがとうございます。」
運転手さんが休憩時間の連絡をすると、すぐに陸奥守さんと空音さんはすぐに車を降りてしまった。
「え?え?」
その速さに、私は戸惑う。
「ほら、嬢ちゃんも早く降りなよ。」
「あ、はい。」
運転手さんにそう促され、私は車から降りる。車から降りて初めて見る世界は、とてもきれいとは言いがたかった。いや、ゴミ一つ落ちていないこのパーキングエリアは、綺麗なのだろう。しかし、私の目にはそうは映らなかった。
(なんてひどい場所だ。そこら中に怪異がいるなんて。)
この世界は、約4つの次元からできている。そのうち、私達の住む人間の世界は、物質の次元。それ以外はエネルギーの次元だ。私達の次元とそれ以外の次元では元のエネルギーの違いからほとんど交流がない。それでも稀に強すぎるエネルギーの存在や次元間の隙間をくぐれるほどに小さいやつが入ってくる。それが、私達の言うところの怪異や妖怪と言ったところだ。稀に、だ。こんなに発生しているのはおかしい。ここだけでも優に100を超える微級怪異がいる。
「#&%$&&?>++*`?」
気付かないうちに、私の足元に来た微級怪異がよってきたらしい、そいつはゆっくりと私の足を這い上がってくる。
「相手を選びなよ、君じゃ私には勝てないでしょ。」
私は霊力を足に集中させる足が少し熱くなるのを感じだ瞬間、そいつは霧散する。
「なんでこんなに発生してるかわからないけど、駆除しといたほうがいいよね。」
「うんうん、そうだね。」
私は独り言に返事が帰ってきたことに驚き、相手を見る。
「石谷さん?」
「空音でいいよ?」
「空音さん?」
「ちゃん」
「空音ちゃん?」
「うん、何かな?」
何行使うつもりだ。
「腕、離してくれません?」
私はがっつりと掴まれた(そりゃもう、背負投げでもできそうなほどだ)腕を指さしてそういった。
「やだよ〜、そしたら君が全部祓うじゃない。」
「実際そうしたほうが早いじゃないですか。」
まるで私が全部祓ったらダメとでも言うような言い方に、私はムッとする。
「ようなじゃなくて、私はそう言ってるんだよ。」
「ダメ、なんですか?」
「確かに、私達よりも君一人のほうがよほど早く終わるでしょう。最強なんだから。でもね、君一人で祓ってしまったら、私達は成長しない。例え、微級怪異が相手でも、私達は最強じゃないから成長する。」
「私一人のほうが効率がいいです。」
そんな私の返しに、空音ちゃんは「あはは」と苦笑いする。
「そりゃそうだよ。まぁ、今回は私と駿くんのチームワークを見てて。私から見たら、君もまだまだ成長の余地がある。本部では、この経験はできないよ。」
思わぬ待機命令に、私は驚きつつも「はい」と返事をする。
「駿くん、タイプΘ戦闘、戦闘可能人数二名。倒した数少ないほうが、今日のティータイムの紅茶作る、ね。」
突然、空音ちゃんが虚空に向かってそう言った。
「おいおい、そりゃないって、お前が相手じゃ私負け確じゃないか。」
どうやら車の陰に隠れてたらしい。焦ったように陸奥守さん飛び出してきてそういった。
「条件は早いものがちだよう。よーいどん!」
陸奥守さんの抗議など意にも介さないと言ってるかのように、笑顔で空音ちゃんはタイプΘ戦闘とやらを始める。
「ああ、もう。」
ニッコニコの笑顔で先手を取る空音ちゃんに、呆れたような声をだしながら、陸奥守さんも微級怪異の駆除に乗り出す。
ちなみに、空音ちゃんは右、陸奥守さんは左を担当するという括りらしい。
(よく見とけ、ですか。)
よく見るなら上からのほうがいいだろう。私はパーキングエリアの建物の上へ、ジャンプして移動する。ひとっ飛び、というやつだ。
「どれどれ?」
お手並み拝見と、私は下を見る。
「なるほど、確かに空音ちゃんには陸奥守さんは勝てませんね。」
どういうからくりか、怪異が明らかに空音ちゃんの方に偏っている。これでは勝てる勝負も勝てまい。
(そういえば、運転手さんは……?)
大丈夫だろうか、研究所所有の車を運転するということは、あの運転手さんも一般人ではないだろうが。私はそんなことを考えながら、ゆっくりと視線を車の方へと向ける。
(ん?)
運転手が車の中で何かをやっている。手に持っているのは、経典だろうか。なるほど、運転手は僧だったのか。確かに、僧であれば怪異を視認できるし、何より危険地に連れて行っても自分の身を守れる。
(でも、研究所の車なら、すべて本部の方ですでに霊的な加護を付与してある。なら何をしているのだろう?)
さすがにこれ以上は今考えても仕方あるまいと、私は予想をたてるに留める。
(トイレも行きたくなったし、私も休憩するか。)
〜10分後〜
(ふう、まさかトイレの中にもいるとは……。そりゃいるか、野生だもんな。)
驚いてトイレの中の微級怪異をすべて駆除してしまったところまでは可愛げがあったと思うが、そのせいでトイレの壁に無視できないレベルの日々が入ったことに関しては後でしっかりと謝っておこう。
「あ、いたいた〜。もー、心配したよ。なんでさっきいた場所にいないの。間違って微級怪異に食べられたかと思ったじゃない。」
「私は空音ちゃんの子供か何かですか。」
私の感情のこもってない返しに空音ちゃんと陸奥守さんは顔を見合わせて同時にため息をついた。
「あのね、瑠衣ちゃんは感じたことないかもしれないけど、私達はこの仕事で死のリスクを常に負ってるんだよ。」
その言い方に私は少しムッとする。
「死のリスクを負ってることくらい私が一番わかってます。」
報告書では、空音ちゃんも鬼を見に行ってるはずだ。鬼をその目で見たからこそ、私に今回の依頼を持ってきたはずだ。はず、でしかないが。
私だって怖い。いや、怖かった。最初に鬼と対峙したときの恐怖は、彼女らのそれに引けを取らない自信がある。
一気に険悪なムードになったのを感じたのか、陸奥守さんが止めに入った。
「はいはい、そこまで。空音ちゃん、相手に踏み込みすぎない。それは、もう少し関わってから踏み込むことだよ。瑠衣さんも、あなたが一番死の恐怖を知ってるかもしれませんが、あなたが一番死のリスクを知ってるわけじゃないかもしれませんよ。」
パーキングエリアでのこの一件は、車で移動している間も続いた。運転手さんは何があったのかわからず、すごく気まずそうにしていた。無愛想だが、チキンなのかもしれない。気まずい車内の中で、私は首から下げているペンダントをいじる。所長からは任務の間ははずせと言われているが、一度もはずしたことはい。大切なペンダントだ。もう、誰からもらったものかも忘れたが。
「瑠依さん、瑠依さん、つきましたよ。起きてください。」
「バッカだな〜、駿は。こういう時のために俺がいるんだろ?」
(……駿さん?と、誰だ?)
「あなたの利用価値は寝ている人を起こすことでしたか。道理で普段の研究で役に立たないわけです。」
「ねえ、それ今俺のことディスった?ディスったよね!?」
(騒がしいなぁ)
私はあまりの騒がしさに体を起こす。いや、起こそうとしたがここはもともと車の座席なので頭が虚しく前の座席にぶつかっただけだ。
「お、起きた。」
「おはようございます。瑠依さん。つきましたよ。ここが、国立怪異研究所第34支部です。」
(第34支部?ああ、そうだった)
私は頭が回転してきたことを感じ、ゆっくりと立ち上がる。立ち上がりながら寝起きのむくみや髪を整え、普段通り以上の見た目に仕上げる。
(右に空音ちゃんと陸奥守さん、あと誰か。左に運転手と知らない顔が3人。前方に4人。この配置なら私は5秒で殲滅できる)
「だーかーらー、戦う相手じゃないってば。仲間、協力する人たちなの!」
「心を読まないでくださいよ、空音ちゃん。」
「心読むなよな空音。」
「読む相手を選んでください空音ちゃん。」
「誰も彼も読むようでは、品がないですぞ。」
「そうだぞ、嬢ちゃんの心とか、本当に読めるのか?」
「すげーな、こいつ俺達の事殺そうとしてんのか。」
「世界最強ですからね。」
「でもなんだか物騒ね。」
「そうね、聞くのも野暮ってものかしら。」
「なにそれ、超ウケる。」
空音ちゃんの発言に対し、みんなそれぞれに反応する。
「あの、報告書の時よりも随分と人がいるんですね。」
私が陸奥守さんにそう言うと、陸奥守さんはえっと驚く。
「何も聞いてないのですか?」
「聞くって、何を?」
「ここの特性についてですよ。」
「研究所に特性なんてあるんですか?」
研究所に特性なんてあるのかと、私が聞くと陸奥守さんは「はぁ」とため息をついて、私の方を見る。
「研究所はですね、概ね5つのタイプに分かれているんですよ。」
(5つのタイプ?)
私は表情で陸奥守さんに続きをねだる。
「……本当に何も聞いてないんですね。」陸奥守さんは苦笑いをしながらそう言うと研究所について話し始める。
「我々が研究する怪異は主に2種類ありますよね?」
「はい。」
「その2種類、なにが違うかわかりますか?」
「人間の世界より上から来たか下から来たか、ですよね。」
私がそう答えると、陸奥守さんは満足そうに頷いた。
「そうですね。私達が研究する怪異は鬼や神の世界ーーもとい、人間より高位の次元から来た怪異と人間の世界……いや物質の次元よりも下の次元である死者の世界から来たものがいます。」
ここまでは記憶がある。でもそれだけだ。
「要するに、物質の次元以外から来た奴が怪異ってことですよね?それを分けて研究する意味があるんですか?」
私の言葉に、陸奥守さんは目を見開いた。
「驚いたなぁ。そうか、瑠衣さんはすべての次元に行けるんですもんね。確かに、その瑠衣さんからしたら、物質の次元とそれ以外っていう括りになるかもしれませんね。」
「違うんですか?」
「いや、間違ってはいませんよ。ただ、瑠依さん以外の研究者からすると、ちょっと括りが大きすぎるってだけですよ。」
「そうですか。」
自分と他者の能力の違いはわかっているつもりだ。つもりだが。
「続けますね。私達が今使っている括りは、上から神の次元、鬼の次元をそれぞれ研究するものと死者の世界を2つに分けて死者の世界における人間の世界とそれ以外、そしてそれらを総合的に研究する総合界ですね。ちなみに、総合界は本部しかありません。」
どうやら、私が知らなかったのも無理もないようだ。本部から出なければ、あくまで総合界の範囲で研究を進めていたはずだったのだから。
「なるほど。それで、ここはどこを研究しているのですか?」
私がそう聞くと、答えたのは陸奥守さんではなく、空音ちゃんだった。
「よくぞ聞いてくれた!所長たる私が、こたえましょ」
「ここはあくまで管理用の研究所なので、まだ何を研究するのかは決まっていません。」
失礼、空音ちゃんが応えようとしたけどそれより早く陸奥守さんが答えた。
「ちょっと〜、駿くん、それは酷いんじゃない?今完全に私が答えるところだったじゃない。」
「どこがだよ。瑠衣さんは僕に聞いていたでしょうが。」
「でも私が私達の存在を思い出させようとして、割り込んだんじゃない。」
「自分で割り込んだ自覚あったんだ。」
「あるよ、そりゃあ。」
あったらしい。
空音ちゃんと陸奥守さんが、そんなやり取りをしていると、しびれを切らしたらしい。他の研究員?が入ってきた。声から察するに、さっき陸奥守さんにディスられた人だろう。
「おいおい、空音ちゃんに駿、そんなやり取りしてないで、とっととスケジュール進めないと、鬼が出てきちまうぜ?もう10分押してんぞ。」
は?
こんにちは、作者です。前回終わったポイントは車に乗るまで、でしたが。前回すでに飛んでいた別れのシーンは今後配信予定のおまけに入れる予定です。なので今回は石谷空音と主人公のからみをお楽しみいただければな、と思います。誤字や脱字等あれば受け付けますので、気づきましたらコメントや報告をお願いします。第3話もお読みいただきありがとうございました。




