表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊能物語  作者: Parsy.Store
28/36

遺体処理

 研究所には、怪異に殺害された人のための遺体処理場が併設されている。もちろん、安置所もあるし、葬儀のための設備もある。怪異に殺害された遺体は、ほとんどの場合目も当てられないほどの損傷具合であり、これを民間の火葬場で仮想するのは難しい。そのため、怪異研究所では、その専門家が常駐している。第34支部では、井宗さんと鷹清くんがその役割を担っている。

「瑠衣ちゃんは、幽霊とかも見えたりするの?」

 優愛ちゃんがそう聞いてきた。私は首を縦に振って肯定する。

「うん。時と場合……場所にもよるけど」

「いいなぁ。幽霊が見えたら、もう1回、本物の梨里ちゃんにも会えるのかな」

 ストレスで第2人格に変わるくらいだ。その言葉は、本当なのだろう。優愛ちゃんは、斜め上を見ている。目で反射した光が、少し揺らいでいる。

「梨里ちゃんはもう、その魂もここにいない。ついさっき……2時間前に、あの世に行ったよ」

 ここで包むのは、酷というものだろう。霊能に妙な希望を抱かれても困る。霊能は何も万能ではない。なんでもありだが、なにもないのだ。科学のような進歩もなければ、文学のような美しさもない。ましてや、美術のような華やかさなど、もってのほかだ。魂を引き止めることなどできやしない。

「梨里ちゃんはもう、ここにいないの?」

「うん」

「そっか……。梨里ちゃんにはもう、会えないんだね」

「うん」

 別に珍しいことではない。死者の魂が、告別式を待たずに旅立つことくらい、いくらでもある。霊能者にとって告別式とは、あまりにも形式的な儀式なのだ。それでも、やりたくなるのだが。届いていると、信じているのだが。

 優愛ちゃんは、静かに泣いている。声を殺している。それでも声がかすかに漏れているのは、きっと、それくらい悲しいのだろう。その気持は、優愛ちゃんの霊力の波を見ればわかる。ゆらゆらと、線香の煙のようになびいている。

 扉が開いて、鷹清くんが入ってきた。鷹清くんは、泣いている優愛ちゃんを一瞥して、私にそっと伝えた。

「そろそろ、火葬しようと思うんで、お別れを……」

「わかった。後どれくらい時間ある?」

「遅くても、あと10分くらいでは……」

 霊力で死んだ一般個体は、爆発する。もちろん、普通の死因でも、燃やさなければ爆発するのだが、霊力で死んだ個体は、霊力にあてられている限りは、状態が変化しない。もちろん、死臭はあるのだが、大胆に腐ることはない。霊力にあてられなくなった時に、一気に腐るのだ。今も、私が霊力をあてているから、進行を遅らせているが、それでもかなり……波長が違うせいか、どんどん腐っている。

「わかった」

 鷹清くんは、小さく会釈をして扉から出ていった。

「優愛ちゃん……。そろそろ、火葬しないといけないから、でてもいいかな?」

「……わかった。出る」

 妙に物わかりがいいのは、性格だろうか。それとも、心持ちだろうか。優愛ちゃんは、あれだけ泣いていた割には、やけに素直に忠告を聞いてくれた。

「ありがとう」

 安置室から出た私は、扉の外で待機していた鷹清くんに目配せをする。鷹清くんは、また小さく会釈をして、安置室に入っていった。その場しのぎの棺桶だから、どう燃えるかはわからないが、せめて彼女らの身体が、ゆっくり休めることを祈るばかりだ。

「ねえ」と、優愛ちゃんが言った。

「なに?」

「霊力の相性がいいって、どういうこと?」

 紅玉くんの言葉だ。確かに、優愛ちゃんは自分が霊力を持ってることを知らない。先の紅玉くんの言葉は、引っかかるだろう。

「霊力の波を改変できるってことだよ。優愛ちゃんの霊力の波は、美倉家の霊力とぶつけると、どちらかの波長に寄る。この時、どちらの波長に寄るかは霊力量が多い方だから、優愛ちゃんと美倉家の場合、ほぼ必ず、優愛ちゃんの波長になる。だから優愛ちゃんは――美倉家の天敵ってこと」

 優愛ちゃんのせいではない。美倉家の戦略のせいだ。美倉家はこれまでも、優愛ちゃんに近い波長を持った霊能者を抹殺してきた。だから、今回も優愛ちゃんを抹殺するつもりなのだろう。そんな事はさせない。空音ちゃんの方向性にもよるけど、私は絶対に優愛ちゃんを守る。

「優愛に霊力があるってこと?」

「うん。槿花ちゃんよりも多く」

「駿さんよりは?」

「駿さんは霊能のせいで霊力量がわからないけど、鷹清くんと同じくらいかな」

「ふうん……」

 悲しくはないのか、優愛ちゃんからは悲しみの波長が伝わらない。もしかしたら、悪魔の人格が感情を食べているのかもしれない。そうだとしたら、困る。すごく困る。優愛ちゃんの霊力の一部が、悪魔の人格を育ててることになる。憑依型の解離性同一性障害の場合、能力が人格によって差が出る場合がある。主人格はピアノを弾けないのに対して、第2人格はピアノを弾くことができる。といった具合だ。

 それでも、身体のレベルによる能力は共通することも多い。特に、霊力を外に放出できるかどうかは霊力を出す放出孔が開いているか開いていないかという問題がある。悪魔の人格の霊力孔が開いていたのに対して、優愛ちゃんの霊力孔は閉じている。これをどう説明したものか……。

「霊力……、私も使えるかな……」

「え?」

「霊力を使えたら、私も鬼倒したりできるんだよね?あと、悪魔の人格も吸収できるかも……」

 意外だった。まさか優愛ちゃんの方からこの話を持ち出されるとは思わなかった。私が先に打診しようと思っていたところだ。

「優愛ちゃんに覚悟があるならそれでもいいよ。ただ、一度入ったら、後戻りはできないからね。――その辺、よく考えてみて。霊能に、一生を捧げられるか」

 霊能界はいつだって人手不足だ。特に、研究や戦闘員は不足しやすい。死亡率が高すぎるからだ。かと言って、無闇矢鱈に人を勧誘することもできない。入る人にも才能が必要で、滅多な才能がない限り、使えるようになるのに10年はかかる。人を自分から減らしにいっているのだ。入る人も、入りたい人も減る。

「……ごめん」

「全然」

 気まずそうに何かに謝って、優愛ちゃんは下を向いてしまった。ちょうど、鷹清くんが葬儀を終えて出てきたので、私は優愛ちゃんに「いい返事を待ってる」とだけ言って、その場を離れた。空音ちゃんいわく、今度は特殊な封じ方をしたから、悪魔が表に出てくることは当分の間、ないようだ。

「それじゃ、行きますか」

「うん」

 私は、鷹清くんと一緒に、第34支部所属のバンに乗り込む。運転手は井宗さんで中には、運転席の後ろから、縦に並ぶようにして空音ちゃんと駿さんがいる。

「おかえり。どうだった?」

 空音ちゃんが聞いてきた。

「全然わかんないよ。ほんとに、あの伝え方で良かったの?」

「要は、あの悪魔の人格が、本当に優愛ちゃんの人格なのかが調べられたらいいから。それに、槿花ちゃんたちがいれば、あの悪魔は十分に無効化できるよ」

 空音ちゃんは、仲間を信頼しているようだった。私には信頼という感覚がまるで理解できないが、きっとそこが、私と彼女の差になるのだろう。「なあ。」と、鷹清くんが会話にメスを入れた。

「どういう可能性を調べるのかは勝手だけどさ、これから相手にする呪い、わかってるよね?」

 確かに、私達は立て続けに起きる数々の問題に対処を迫られて、この呪いの存在をどこか遠く感じていた。この、下手したらこの街どころか国ですら獲りかねない霊体化の問題を、私達は失念していた。つい30分前に、井宗さんが出張から戻ってきて、戻るついでに現場である封鬼高校を見てきたらしい。霊体化の影響は校舎に及んでいたらしい。

 ()()()()()()()()()()()()()

「呪いの解除自体は駿さん1人で十分だけど、元凶が鬼じゃなかったか、呪い主がいなくても動き続けるタイプの呪いってことですから、もっと気を引き締めてくださいよ」

 呪いの解除だけなら、駿さん1人でも事足りる。だから本来、これは槿花ちゃんたちに任せる予定だった。私が呼ばれたということは、呪いの主がまだ生きているということだろう。それも、空音ちゃんと鷹清くんは、桃斬童子や螢と同じレベルの怪異を想定しているようだ。でなければ、もしくは――。

「着きましたよ」

 井宗さんが、少し緊張した声でそうアナウンスした。

「結界は要りますか?」

 井宗さんが、1人で車から降りた駿さんに、そう聞いた。駿さんは、少し考えるようにして、口を開いた。

「僕が入った後に、カモフラージュの結界と、衝撃緩和の結界をお願いします」

「分かりました」

 駿さんは、指示を受けて休校になった学校の門を、手もつかずに飛び越えて、校庭に入っていった。井宗さんは、それを見て、経典をカバンから取り出して、祝詞を読み上げ始める。

「■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■。」

 聞き取れないほど速く、流暢に謳い上げられる祝詞は、どこか不気味な響きを持っていた。車内で反響する詩は、車の外にその効果を現した。空から透明な幕が下り、駿さんのいる学校を、優しく包みこむ。すぐに、一定以上の霊力がないと中を見ることができないほどには、中の様子が隠された。普通の人では、たどり着くこともできない。

 結界が学校全体を覆うとすぐに、中で大きな異変が起きた。今まで地を這うようにして、自然周波に紛れるようにして学校全体に影響を及ぼしていた呪いと思われる霊能が、駿さんの霊能に破壊された。駿さんの霊能を、様々な大家が欲しがる理由だ。

「さすがだね。駿くんは」

「さすがは、霊能の強制解除。これで、何の問題もなければ楽なんだけどなぁ」

霊能物語本編第三篇「悪魔」第五話「遺体処理」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークまでしていただけると、励みになります。また、誤字報告、コメントも常時受け付けておりますので、気軽に投稿ください。こういう物語も作って欲しい等のリクエストは、Instagramで受けてつけておりますので、DMに送ってくれましたら、創って投稿しますので、気軽にお寄せください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ