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霊能物語  作者: Parsy.Store
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美倉家の刺客

 美倉玲の殺害事件は霊能界ではかなり有名だった。もちろん、蛇崎斑ほどではなかったが、そこそこ大きな事件だったと言って差し支えない。

「ふうん……悪魔ちゃんが美倉玲さん殺したんだ」

「そうだぜ。あの双子よりは強かったが、まあ、大した強さではなかったな。あの詐欺師でも、十分に殺せると思うぜ」

 さすがにそれは冗談だと思うが、美倉家の霊力量を考えると一概に嘘とも言い難い。霊力酔いは、霊能者の死因の上位に入る。酒酔いと言うよりも車酔いや船酔いに近い。霊力は、音エネルギーや光エネルギーのような波長のあるエネルギーだ。霊能者は、それぞれ異なる波長を持っている。これは、霊力回路の構造の差によって生じるもので、これを生体波長という。次に、星や世界を周遊した霊力が最終的にたどり着く一定の波長を自然波長という。

 霊力を生まれ持った霊能者は、まず初めに自分の霊力に酔う。霊力には波長があるから、それに慣れる必要があるのだ。これは、本能であるから、これに死ぬようなやつは少ない。次に、相手の霊力の波長に酔うのだ。こればかりは、周囲の霊力の波長や霊力量次第だから、乱数に近い。私みたいなのがうじゃうじゃいたら、もしかしたら死ぬかもしれない。だから、近い周波数を持つ霊能者を近くにおいて、少しづつ慣らしていくのがセオリーだ。

「まあ、美倉家は霊力量が少ないことで有名な一族だからね」

「その代わり、数は多いけどな」

 そうは言っても、やはり当主レベルを殺せるのは才能と言ってしかるべきだろう。悪魔ちゃんには霊能者を殺す才能があるのかもしれない。

「あの双子の女は強かったなぁ。霊力量が少ないのが残念だぜ。あれ以上強くなるのは難しいだろうな。すでにコントロールが才能を凌駕している。男はだめだな。まるで向上心がない。あれ以上強くなるのは厳しいだろうぜ」

 その節がないとは言えない。才能の上に胡座をかける私と違って、彼らは向上心をなくした瞬間に成長が止まる。紅玉くんは向上心がない。自分のコントロールに満足してしまっている。

「紅玉くんが今回の敗北で成長したら良いけど……」

「それはないぜ。あの双子は次期当主の候補なんだろうが、こうぎょく?は妹に遠慮してやがる。成長はないぜ」

 なるほど、戦いの中でそこまで考察できるとは……。最初から出来レースだったわけか。

「それはそうと、さっきから俺達を遠巻きにしてる連中はどういう奴らなんだ?」

「ん?ああ、美倉の暗殺集団だよ。当主を、殺した相手を、大家がほうっておくわけないでしょ」

「なるほどだぜ。どうりで霊力量が揃いも揃って少ないわけか」

 私の霊力視の中にうつる人影は約10人。全員が熟練の暗殺者だ。家の屋根を飛び越えたり、木々を飛び移ったりしながら、私達を静かに包囲している。

「なんで襲ってこないんだ?」

「私がいるからだよ」

 最強の霊能者である私に勝てる霊能者はいないとされている。私はその戦力の保護のために、襲ってきた他の霊能者を殺すことを許されている。だから、私を快く思わない連中も、なかなか私には手を出せない。勝機がないからだ。

「じゃ、少し離れろよ。勝ち目がないってことを教えてやるぜ」

「やめときなよ。悪魔ちゃんじゃ、この人たちには勝てないよ」

 さっきの2人とはわけが違う。対人戦に長けた人たちだろう。見えなくてもわかる。悪魔ちゃんじゃ、勝てない。姿勢、殺気、足音、呼吸、霊力。どれをとっても、霊能者として悪魔ちゃんに勝ち目はない。

「まあ、見とけよ」

「ダメだよ。私は絶対に悪魔ちゃんのそばを離れられない。空音ちゃんに怒られちゃう」

「ちっ」

 悪魔ちゃんは舌打ちをして闘気を抑えた。私は少し目線を上げて霊力の出力を少し上げる。もちろん、相手が酔わない程度に、だ。威嚇の範囲で霊力を相手にぶつける。刺客の人たちは、メッセージを正しく解釈したのか、リーダーらしき霊能者が合図を出して去っていった。

「へ〜、そんな事があったんだ」

 所変わって食堂。空音ちゃんは手短に悪魔ちゃんを落として、優愛ちゃんに人格を強制的に変更した。きっと、この場に医者がいたら卒倒していただろう。あまりにも乱暴なやり方だ。優愛ちゃんの症状が解離性同一性障害であれば、いち早く人格を統合するための処置を施したほうがいい。空音ちゃんに遊ばれてしまう。

「そう。空音ちゃん知ってた?」

「瑠衣ちゃんが言うところの悪魔ちゃんが美倉家の当主殺したこと?」

「うん」

 空音ちゃんは一拍置いて口を開いた。

()()()()()。人格操作は……っていうか、内面干渉は、相手の記憶を覗かないといけないから」

 詐欺師の宿命として有名な話だ。誰かを騙したければ、まずは相手を知らなくてはならない。空音ちゃんが天才たる理由の1つだ。どんなに相手のことを深く知っても、正気を保てる。詐欺師の第1原則と言っても支障ない。

「どう思った?」

「まあ、想像通りって感じだね。槿花ちゃんたちと戦ってた時の戦闘スタイルが美倉玲の死体の傷とほぼ一致してたから、もしかしてとは思ってたし」

 空音ちゃんはそう言ってうどんをすする。すする姿も妙に色気があって、ここに駿さん達がいなくて本当に良かったと思った。気が狂ってしまうだろう。

「あのー。殺気から私達の事置いてってませんか?」

 恐る恐るといったふうに手を上げたのは槿花ちゃんだった。忘れていた訳ではないが、会話についていけてないのかと思っていた。どうやらそういう理由ではないらしい。

「そりゃそうでしょ、槿花ちゃんはこれでも高校生の勉強してるんだからね。会話についていけないなんてことないって」

「それもそうだよね」

 上の勉強をしている霊能者は少なくない。霊能者は貴重だから、小さい頃から任務を受けるし、大家によっては勉強を終わらせたものから訓練や任務に当てているらしい。勉強を終わらせていない霊能者への差別があるとか。

「いや、そうではなくて。空音ちゃんが頭の中読んだ内容で話してるじゃないですか。ついていける訳なくないですか?」

 非常に真っ当な理由だった。私はてっきり、情報量が多いし、会話についていけてないのは、中学生として当然だろうと思っていたが、そうでもなかったようだ。

「てか、瑠衣さんは嫌じゃないんですか?頭の中読まれるの」

 これまた真っ当な質問だ。確かに、普通の人だったら嫌がるだろうが、私は不思議と嫌ではなかった。なぜだろうか。

「別に嫌ではないね……なんでだろ?」

 空音ちゃんは気まずそうに視線をそらした。

「なんか知ってるの?空音ちゃん」

「いやー……。知ってると言うか……。なんというか……」

 空音ちゃんは「いつかわかるよ」と言って話を終わらせた。

「そんなことよりさ、槿花ちゃん。紅玉くん達、中に入れていい?」

「いいですけど……。空音ちゃんは、少し自粛してくださいよ?人の頭の中に答えるの」

「わかってるって」

 空音ちゃんは軽く返事をして内部無線で駿さんに連絡した。5分後に、駿さん達が食堂にやってきた。

「重要な話って?」

「優愛ちゃんの中の悪魔が、美倉玲を殺したんだって」

 私は、焦りと不安で潰されそうだった。だけど、駿さんと紅玉くん、そして鷹清くんの反応は至って冷静だった。

「へ〜、それで?」

 私は、彼らの冷たい反応にすごく驚いた。別に驚く必要があるわけでもないのに、驚くこともないのに驚いてしまった。なんでこんなに冷たいのだろうと。

「美倉家に襲撃されるかもしれないけど、どうするって話」

 駿さんは、すごくつまんなそうに答えた。

「ここ襲撃するって事はないですよ。ここは全ての勢力から独立した、国家のための霊能の研究所です。ここを襲撃するってことは、瑠衣ちゃんに喧嘩を売るってことだし、自分たち以外の全てに喧嘩を売るってことです。瑠衣ちゃん1人に勝てる人材すら、美倉家は確保できません。そんなのを確保できるのは――それこそ、国くらいのものですよ。心配ありません」

 駿さんは、コーヒーをすする。コーヒーの香りが食堂を満たした。外から、鳥のさえずりが聞こえる。私は、鷹清くんに目を向ける。鷹清くんは、視線に気づくと身体をビクッと震わせて、視線を少し泳がせた。そして、真面目な顔になって口を開いた。

「俺は、やめといたほうが良いと思う。うまくいえないけど、外的操作で鬼化された人間の技術の解明も終わってないし、大家の序列で3位の家とは言っても、大家だよ。瑠衣ちゃんがいない時を狙われたら、この人数で戦っても勝ち目がない」

 鷹清くんは、深く息を吸った。

「少なくとも、戦略を立てるものとして言わせてもらうと、俺はこの人数でやりあって、勝てる戦略を知らない」

――やめといた方がいい。

 鷹清くんは、そう言って視線を落とした。鷹清くんの隣で沈黙を守っている紅玉くんに、空音ちゃんは「紅玉くんは?」と促す。

「俺は……。――ごめん、なんとも言えない」

「わかった」

 つらそうな表情で俯いてしまった紅玉くんに、空音ちゃんは「できるだけ、紅玉くんの意思は組むよ」と言った。

「ありがとう」

 紅玉くんの中で、どんな感情が渦巻いているのかは知らないが、内心穏やかではないだろう。紅玉くんも、槿花ちゃんも。

「最悪、僕の霊能さえあれば、みんなのこと逃がせるしね。気楽に構えて大丈夫だよ」

 駿さんが、場を和ませるようにそう言った。確かに、その考えは的を射ている。駿さんの霊能の強制解除さえあれば、少なくとも死ぬようなことはあるまい。

「それもそうだね!大丈夫だよね。じゃ、解散解散〜」

 空音ちゃんは明るくそういったが、そこで動くような人はいなかった。

「ごめんなさい」

 これまで黙っていた優愛ちゃんが、重い空気に針を入れた。

「私の二重人格がなければ、こんなことにはならなかったのに……」

 重い。思いが重くて、それがまた想いを呼んでいる。優愛ちゃんの後ろには、あの悪魔がいるのだろう。優愛ちゃんの人格は揺らいでいる。

「それは違うよ」

 紅玉くんが答えた。

「優愛の霊力は、美倉家のそれとすごく相性がいい。だから、遅かれ早かれ同じ事になってたと思う。これは、美倉家の責任なんだよ。――全てにおいて」

 紅玉くんの言葉は、すごく冷たかった。

霊能物語本編第三篇「悪魔」第四話「美倉家の刺客」でした。楽しんでいただけたでしょうか?楽しんでいただけた方は、評価とコメントをしていただけると嬉しいです。ブックマークまでしていただけたら、書き手冥利に尽きます。誤字報告、リクエスト、共に常時受け付けておりますので、気軽にお寄せください。

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