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霊能物語  作者: Parsy.Store
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番外編その七 封鬼高校の鬼・螢の物語

 鬼族は最強の種族だ。俺がそれを証明してみせる。これが、俺を突き動かす、たった一つの動機だ。俺は、鬼族が最強であることを証明するために、軍に入った。

「あの新人、めっちゃ頑張るよな。」

「俺だったら無理だわ。訓練の後に自主練なんてよ。」

 俺は鬼族を最強にするために、朝から晩まで鍛錬に明け暮れた。俺が世界最強になれば、鬼族が最強であることを世界に示せる。そう思っていた。俺は、どこかで自分が特別だと勘違いしていたのだろう。

 小さい田舎で育った俺は、その村の中では一番強かった。相手が誰であれ、喧嘩で負けたことなど一度もなかった。いろんな種族が住む俺の村で一番になった俺は、どこかで勘違いしていたのだ。鬼族が最強なのだと、俺が一番強いのだと。

 でも、それは勘違いで、広い世界にでてみれば、俺より上なんかいくらでもいた。鬼族は弱かった。俺達の国、飢鬼国は、どうしようもないほどに脆く、貧弱で、脆弱な国だった。

「どうした!それでも国を守る兵士足り得るのか!」

「教官、すいません。」

 俺は木刀を持ち、立ち上がってもう一度構える。

「もう一本、お願いします!」

 教官は構えることなく、俺の姿勢をジロジロと見て口を開いた。

「螢は今日はもういい、休め。」

「はっ!」

 敬礼をして、俺は訓練を終える。後ろでは、教官が「童子、前へ」と次の訓練兵を呼んでいた。俺は、訓練場の裏手へ周り、茂みの中へ入る。十数歩進むと、人がちょうど5,6人ほど入りそうなスペースがある。そこは俺が、訓練を終えた後に、毎日来てるせいで草が潰れ、綺麗に整地された場所だった。俺は、訓練が終わった後に、ここで今日の教官の動きを追うような練習をする。一人ひとり、教官を追い抜くことが、鬼族を最強へ導くのだと、俺は思っていた。

「童子はすごいよなぁ。」

「まさか、教官から一本とるなんてな。」

 食事中、食堂でそんな話し声が聞こえてきた。どうやら、童子という訓練兵が、教官から一本とったらしい。称賛するべきなのだろう。同期として、負けたものとして。しかし、俺の中には焦りが生まれた。俺より先に、教官を超えたものがいることに、俺は焦った。自分が一番早く超えるはずだった一線を、誰かに超えられたことに。

「なあ。そいつの名前、教えてくれよ。」

 俺は、楽しく語らていた同期に、件の訓練兵の名前を聞いた。

「ん?螢、お前知らねえのか。」

「鬼の顔と名前を覚えるのが苦手でさ。」

「だからってお前、首席の名前覚えてないのはどうかと思うぜ?」

「首席?」

「ああ、桃斬丸だよ。あの貴族の……酒呑童子の息子。」

 それを聞くだけで、俺はすぐにそいつの顔を浮かべることが出来た。むしろ、出来ないやつのほうが珍しいだろう。それくらい、酒呑童子とその一族は有名だった。この国では、国王よりも、酒呑童子のほうが有名と言われるほどに、彼らは有名な一族だ。同時に、そいつが強いことにも、納得がいった。

 国防で名を挙げた一族。一般庶民だった英雄・酒呑童子が、たった一代にして成り上がったことで生まれた新家の貴族。その名を知らないのは、赤子くらいのものだろう。

「なるほどね……、酒呑童子の。」

 勝てる気がしないわけじゃない。絶対に勝てる。努力は必ず報われる。そのためには……。

「おい、桃斬丸。」

 彼は訓練場にいた。たった1人で、木刀をひたすらに振っていた。その洗練された動きは、思わず見惚れてしまうほどだった。たった一振りが、彼の努力を語っていた。その一振り一振りに、彼の殺意がこもっていたし、愛国心すら感じ取れた。相当集中しているのだろう。彼は、俺の呼びかけに振り向かずに、ただ一点を静かに睨んで振り下ろしていた。風切り音のならない一振りなのに、俺の一振りよりもよほど速く見えた。

「ふー!」

 およそ200は振っただろうか、彼は深く息を吐き、木刀を下ろした。見えない何かに静かに頭を下げ、腰を下ろした。

「おい、そこの。」

 桃斬丸は、こちらに目も向けないままに、俺に呼びかけた。

「なんだ?」

「それはこちらのセリフだ。俺に何のようだ。まだメニューが残っている。そこに居られると邪魔だ。」

 汗を拭き、前を向いたままこちらには目を合わせない。

「訓練に付き合ってもらおうと思っただけだ。邪魔ならいい。」

 俺は背を向け、訓練場を出ようとした。

「その程度の覚悟か。教官を超えたいからここに来たと思っていたが、とんだ腰抜けだったな。その程度で、軍人が務まると思っているのか。勘違いも甚だしい。」

――その程度の覚悟なら、居ないほうがマシだな。お前も、それ以外のやつも。

 センダングサの種のように、連続して発せられた悪態に、俺の脚は止まってしまった。確か、彼の一族は、軍人と元軍人で構成されていた。当主の酒呑童子を始め、その誰もが、前線で名を挙げた英雄である。彼は、軍人になるべくしてなった、そんな存在なのだろうし、きっと軍人以外の選択肢など、幼い頃から存在しなかったのだろう。証拠に、彼の動きは洗練されているし、その一つ一つが、相手を殺すことに特化している。座学も優秀だと聞いた。はかるに、幼い頃から英才教育でも受けてきたのだろう。そう思えるほどに、彼は優秀で、彼の言葉は心がなかった。

「それは違う。」

「どういう意味だ?」

「お前は確かに優秀だし、努力したんだろう。」

「そうだ。だから俺は、お前らもそれくらいの努力をしたらいいといっている。」

 違う、そうじゃない。

「違う、そうじゃない。俺らはお前じゃないから、お前みたいに恵まれた環境にいないし、お前みたいな才能もない。」

――これでも頑張っているんだよ。

「――これでも頑張っているんだ。」

「足りないといっている。覚悟も、技術も、鍛錬も。」

 桃斬丸は後に断言した。俺に才能はない、と。

「頑張っているというなら、見せてもらおうじゃないか。お前の腕前を。――努力の程を。」

 俺は訓練場の木刀を静かにとり、彼の正面に立つ。礼をし、構えた。その瞬間、俺達の間に重々しい空気が流れる。俺は静かにすり足で寄るが、彼は動かない。静かに正面を向き、俺を睨んでいた。だが俺はそれでも静かに寄り続ける。届かなければ振ることも出来ない。

「はああぁぁぁ!」

 桃斬丸は、それとは反対に後ろに退いて距離を開ける。長い長い睨み合いにしびれを切らした俺は、足をすべらせるようにして、2メートルはあった距離がを一瞬にして縮める。俺は木刀を大きく振りかぶり、まっすぐ距離を詰める。

 以前、直線的な動きは直したほうがいいと、教官に言われたことがあった。それを俺はより速く詰めればいいだけだと言って一蹴した。きっとそれが、俺と彼の差なのだろう。素直に直した彼と、一蹴した俺。それは、俺が食らった一撃に全ての答えとなって現れた。彼は、俺が振るよりもなお速く、俺の首を打った。経験を積んだ時間だとか、努力した時間だとか、そういう誰もが積んだらなれるとかの、綺麗事以前の問題だった。大きな大きな、差だった。

「速いとか、遅いとか、そういうレベルじゃない。芸が無い。」

 目を覚ました俺に、彼は開口一番にそういった。木刀で殴られた鬼に、大丈夫か?とか言う前に、ダメ出しを食らった。正直、なんだコイツって思った。別に、被害者ぶるつもりはないけれど、それくらいの心配はしてほしかった。

「すべてがダメだ。兵士の道は諦めたほうがいい。お前が戦場に出るくらいなら、その辺でちゃんばらでもやってる子供を連れて行ったほうが幾分、良い働きをするだろう。」

 ひどい言われようだった。これでもそれなりに鍛錬を積んできたつもりだった。

「なんで、こんなに弱いんだろうって、考えたんだよ?君が10分も気絶してる間。でさ、思い出したんだけど、お前、立ち会いの訓練のとき、いつも余ってるやつだろ?」

 そのとおりだった。俺はここに来てから1回も、最後の教官との立ち会い練習以外の立ち会いをやったことがない。

「そんなんだから弱いんだよ。」

「俺だって、好きで1人でいるわけじゃない。」

「我が今日から、毎日この時間に立ち会いの相手になってやる。覚悟しとけよ。」

「えっ?」

 その宣言通り、その日から毎日、桃斬丸はその時間から約1時間。俺に立ち会いの手ほどきをしてくれた。半月がすぎる頃には、俺も教官から一本をとれるほどになったいた。その間、大きな変化がいくつかあった。まず、武器が変わった。その速度と脚力を活かした戦闘スタイルになった。獲物を捨て、素手で相手を殺すことに特化したスタイルになった。次に、霊力を使って攻撃することもできるようになった。これも、桃斬丸が教えてくれたものだった。

 しかし、一番大きな変化はなんといっても、友だちができたことだろう。桃斬丸が紹介してくれた訓練兵と友だちになって、交流の幅が大きく広がった。家族や教官以外と話したのは、いつぶりだっただろうか。心が洗われた。

「本日を持って、第328期訓練課程を満了とする。君達の最前線での活躍を期待している。」

 2年後、俺達は訓練兵課程を終え、戦場へ送られることになった。桃斬丸はその後、研究課程を取って研究室へと入っていった。寂しくはあったが、俺と彼は、ここで終わりになるのだろう。それから約300年、俺は最前線で戦い抜いた。毎日のように敵の血も、味方の血も見た。だが、負けたことはなかった。俺の率いる精鋭の部隊は、輝かしい功績とともに祖国へと凱旋した。

 獲得した植民地からの供物で、俺達の国は潤った。飢餓で今にも潰れそうだった村々が、息を吹き返したように活気で満ちた。病に冒されて今にも死にそうだった国民が、エルフの植民地からの薬で奇跡的な回復を見せた。毎日のように戦場まで届く感謝の手紙を見て、俺は正しいことをしているんだとそう思った。戦場でぶつかるのは互いの正義だ。いいも悪いもない。相手の正義をへし折って蹂躙してこそ、鬼族を最強へと導ける。それこそが正義であり、その結果が鬼族には必要だった。

「そういや、あいつの話聞いたか?」

 戦場で負けが続いていたときの夜営中、同期の兵士の1人がそう切り出してきた。

「何のこと?」

「桃斬丸だよ。あいつ、物質の世界の開拓に駆り出されたらしい。」

「すごいなぁ、あいつは。」

 素直に、そう思った。もう1000年はあっていないが、相変わらずの鬼才を発揮しているようだ。戦場とは思えないほど、日常的な会話が繰り広げられていた。まるで、同窓会にでも来たかのような。そんな些細な会話が、明日死ぬかもしれない俺達の生きがいだった。

「敵襲、敵襲ー!」

 夜の見張りに着いていたとき、北の方から騒がしい声が聞こえた。どうやら、明日襲撃予定の零の国の襲撃部隊が、奇襲を仕掛けてきたようだった。俺は深く踏み込み、襲撃をうけているところまで移動する。その時にはもう、奇襲を仕掛けてきた兵士たちはおらず、味方の死体が力なく横たわっているだけだった。その中には、ついさっき桃斬丸の話をしてくれたあの同期もいた。

 先の襲撃で壊滅的な被害を受けたとして、俺達の部隊は本国に呼び戻された。

「余の言いたいことはわかるか?奇襲部隊副隊長螢」

「は!貴重な御部隊の一つを潰してしまったことに、深く責任を感じております。」

 内心ではわかるかと思いつつも、出来合いの構文を述べる。

「違う。部隊のことは、余も非常に残念に思っておるし、友人をなくしたばかりのお主に言っていいものかとも思っておる。だが、薄々感じていると思うが、今この国は危機に陥っておる。」

「植民地の反乱……ですか?」

「そうだ。長らく植民地にしてきたエルフの国、ドワーフの国が先日反乱を起こした。糸を引いているのは吸血鬼の国だろう。自分たちの領土と武器をそのままエルフとドワーフに与えた。物質の世界に移住するらしい。」

「そのまま、ですか?」

「そう、インフラも建物も、領地も資源もそのまま。」

 ありえないほどの太っ腹だ。人にそのまま与えるのは、楽だがそれだけ損失もある。それをそのまま与えるということは、それだけのリターンが見込まれているということだ。

「おそらくは、鬼族(われら)を滅ぼすことだろう。我らもお主の同期、桃斬丸を使って物質の世界の開拓に手を出していた。それが面白くなかったのだろう。」

「植民地になっていない大多数のエルフとドワーフの国には、同族を助けたいという意思がある。その意志を巧く使って、反乱を企てておる。」

「つまり、私達はその意思を迎え撃てばいいということですか?」

 皇帝・蠱独はゆっくりと玉座を降りて俺の肩に手をおいた。側近が「おやめを」と進言するが、皇帝はそのまま俺に目線を合わせた。

「それは無理だ。螢。長く前線で戦ってきた君達には悪いが、この国の国力は大きく低下している。植民地からの食料に、微量だが毒が混ざっていたようだ。すまない。そして、戦力の差も大きい。」

「戦略でどうにかなりませぬか。」

「ならない。この国には、戦略の歴史がない。」

「そうでしたか。」

「だが、酒呑童子の一族は別だ。彼らが長年開発してきた兵器なら、逆転できるかもしれない。」

「兵器?」

 皇帝は、合わせた目を更に改めてしっかりとした口調で言った。

「兵器については、詳しくは言えない。君は、桃斬丸の良いライバルだと聞いた。君に、彼を迎えに行ってもらいたい。酒呑家の一族13名の霊力を込めなければならないらしい。それに、良くない話も聞く。」

 ――頼んだぞ。

 皇帝は、荷物の入った鞄を俺に渡してそう言った。


 物質の世界は眩しかった。目が眩むほどに。そして、我々が想定していたよりも、霊能の概念がしんとうしていた。おそらくはエルフが一枚噛んだのだろう。桃斬丸を探してはや3ヶ月、俺は血を流して地面に横たわっていた。

「異界からやってきた悪鬼め!大和の国の英雄を殺した恨み、お前で晴らさせてもらうぞ!」

 7,8人の男が持つ、長い刀のようなものには、男たちのものではない霊力が籠もっていた。俺は2時間、拷問を受けた。愛国心で乗り切ったが、切られても再生する手足は、これ以上ないほど拷問にはうってつけだった。男たちが満足した頃に現れたきれいな衣に身を包んだ男によって、俺は札に封印されてしまった。


 徐々に脆くなっていく封印のなかで、俺は様々な声を聞いた。封印が解かれた時にそこにいたのは、1人の女と2つのだった。片方は向こうでも希少な種族だった悪魔で、もう1つは向こうでは規制対象だった応声虫だった。

「何のようだ。殺すぞ。」

 長年封印されてきた俺の気は立っていて。恩人に礼もなく俺は脅した。そんな俺に、応声虫はこういった。

「君に自由をあげよう。なぁに、怪しむことはない。君の友人に頼まれたんだ。螢をよろしく、とね。君は俺に言われたことを1つ、こなすだけでいい。その後は晴れて自由さ。」

――頼んだよ。

 藤樹瑠衣に喧嘩をうったことに悔いはないむしろ、それで良かったとすら思っている。友人の無念を晴らせなかったことが、少しばかりの心残りではあるが、少なくとも生きている間に、鬼族の転落を見ないで済んだのは幸運ですらある。その意味では、死こそが真の救済なのかもしれない。

 盛者必衰。

 勝ったものこそが全てを掌握できる。

 負ける鬼族に興味はない。

番外編その七「螢の物語」です。お楽しみいただけましたか?次回は本編です。そちらも読んでいただけると幸いです。また、楽しんでいただけた方は、評価とブックマークもしていただけると助かります。次回もお楽しみに。

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