条件
「条件?」
私の出した言葉に反応したのは、所長だった。
「瑠衣ちゃん、条件があるっていうことは、それを私達が満たした場合、引き受けてもらえるということかな?」
「えぇ、引き受けるどころか、お釣りが帰ってきますよ。私にとっては。」
私の言葉をうけ、少し考える素振りを見せた空音さんは、さっきよりも少し真面目な表情で私の発言を促した。
「私がだす条件は、3つ。1つ目はそちらの研究所内、もしくは管理地に任務にあたっている間の居住場所を用意すること。2つ目は任務の完了確認のためにそちら側の職員を一人、私につけること。3つ目は、私が任務にあたっている間、地元の高校に通わせること、以上です。」
正直、3つ目に関しては私のわがままだが、私とて、鬼の相手は決して楽ではないのだ。特に今回は初めての屋外任務だ。これくらいふっかけてもいいだろう。……成功できるかは、わからないが。2人は、少し目を見合わせたあと、ゆっくりと頷いた。
「条件をのむよ。それくらいのことでいいならね。ただ、3つ目の高校に関しては、制服はこちらで用意させてもらうけど……、それでいいよね?」
「……もちろんです。制服代は私が出すので、請求書、渡してください。」
「いや、制服代もうちで出しましょう。今回、瑠依さんにやってもらう仕事は、僕達にとってそれだけの価値があります。」
「……そうですか。」
(気前が良すぎる。逆に怖い。)
今の霊能者は昔に比べて弱い。原因は詳しくわかっていないが、恐らくは信仰心が原因だろうと言われている。仮に、今回の鬼が、過去の霊能者が勝てなかったから封印したのだとしたら、私に勝てる見込みは低い。あまり期待されても困るというものだ。
「よし、こちらからは以上ってところかな。瑠衣ちゃん、他にある?」
「いえ、ありません。」
「村田所長は?」
「ありませんよ。」
所長の返事を聞くと、空音さんと駿さんは立ち上がった。
「では、これでお開きで。受け入れの日とかは、追々メールで送るので、それで決めましょう。」
「はい。」
「と、言う訳で、村田所長、後で本部の村田所長のメアド、教えてくださいね。」
「了解。」
そう言うと、村田所長は私に立つように促し、私達は立ち上がった。
「本日はお忙しい中時間を作ってくださりありがとうございました。」
駿さんはそう言うと私に右手を出した。
「はい。連絡、待ってます。」
私は駿さんの手を取り握手する。
「村田所長もありがとうございます。」
「可愛い弟子が困ってたんです、これくらい当然ですよ。」
そう言うと、所長は微笑んだ。
「では、僕達はこれで失礼します。」
「村田所長、瑠衣ちゃん、またね〜。」
私は、手を振る空音さんに手を振り返す。ここでは、送り出しは係の方がやってくれるので、私は手を振るだけである。
「ふぅ、嵐のような人でしょう、空音は。」
「そうですね。」
私と所長は、引き続き応接室で紅茶を飲みつつ、今回の資料に目を通していた。
「所長、3ページのこの内容……鬼が現れた場所って、神社の中ってことですよね?」
私は、ここ、ここ、と、所長に必死でアピールする。
「そうですね。それがどうしたんだい?」
「どうしたんだいって、鬼は神より位の低い存在だから、神の領域である神社の中には入れないんじゃ……。それに、この資料からじゃ、鬼が封印されていたとも言えないのではないでしょうか。」
「瑠衣ちゃん、君は大事なことを見落としているよ。そこに奉られているは、誰だい?」
そう言われた私は、もう一度資料に目を向ける。
『現人神大和防人を奉る神社の境内を定期調査中にに突如鬼が出現、調査を行っていた研究員1名が負傷、逃げる研究員を鬼は追ってきたが、神社のある小山の麓まで逃げたところ、鬼は結界に阻まれ追うのをやめた。』
(何がおかしいのだろうか。鬼、研究員、現人神……あ)
「現人神だったから、ですか?奉られているのが。」
「そうだね、半神半人やもとから神として存在していた者たちと違って、現人神は、人でありながら神と呼ばれた者たちだ。死後神として神の次元に行ったときの、存在エネルギーは他の神や半神半人の比にならない。おまけに、彼らを神として存在させるのは、人間の彼らを神として崇める畏敬の念だ。伝承や昔話として残ったものはいいが、そうでないものは時代とともに人々の記憶から消え、忘れられる。そうなった現人神は、下の次元……鬼の次元に堕ちるか、本来ある天国か地獄に落ちるか。」
「じゃあ、所長は落ちてきた大和防人だとでも?」
「いや、全然?」
「なんで言ったんですか。」
「さあね。」
「じぇあ、鬼をどうやって境内までつれてきて封印したんですか?」
「さあね、そこまではこの資料にも載っていないようだから、研究者として不確定なことはなんとも言えないよ。けどね、私個人の意見だけど、今回のこれは、違うと思うよ。」
「違う?」
「鬼を封印したあとに、神社を建てたんじゃないかな?」
「そんな事できます?そんなことしたら、鬼がその場から弾かれてしまいませんか?」
「できるさ、やったことないけどね。」
「なぜ、そう思うんですか?」
「経験からの勘さ、君にはない。長年のね。」
そう言うと、所長は立ち上がって、ドアに方へと体を向けた。
「私は部屋を出るけど、君はどうする。今日はもうさっき処理してもらった分の怪異で終わりだけど、ここに残るかい?それとも、自分の部屋に戻るかい?」
「部屋に戻ります。」
私はそう言って立ち上がる。
ギィ
部屋を出た私は、女子寮に向かって歩く。所長は研究棟に戻っていった。
(経験……か。)
所長は、私が生まれるまでは名実揃った最強の霊能者だった。私のようなすべての次元に肉体を持つ異常な霊能者は、1000年に1度か、それ以下の頻度でしか存在しないようだ。私の目は、所長には見えない、神の世界、鬼の世界、霊の世界、地獄まで、すべてを1度に見ることができる。もちろん、普段は人間の世界だけ見て、それ以外の世界からは存在ごと消えているが。私のこれは、生まれながらにそうだった。だから、経験で霊の世界いわゆる怪異の世界まで見えるようにした所長は、控えめに言って天才だし、それに鑑賞する技術まで作ったのだから、私など、所長がいる世界すれば不要な存在だ。それでも、人々は彼ではなく、私を選んだ。なぜなら、今の技術では災害級の怪異や鬼には、勝てないからだ。しかし、私が霊力量を彼と揃えて戦ったとき、私は彼の足元にも及ばない。それが、経験なのだろう。
「ふぅ」
部屋に帰った私は、ベッドに寝っ転がりながら、もんもんと考え続ける。だけど、わからない。なぜ彼が、鬼は落ちた大和防人ではなく、何らかの要因によって発生した鬼だと、言い切れるのか。
「これが、経験か。」
(彼にはあって、私にはない。)
次の日、所長あてに空音さんからメールが届いたと言うので、私は怪異処理を早々に切り上げ、所長室に向かった。
「失礼します。」
私はそう行って所長室入る。
「来たかい。」
所長はそう言うと、私をソファに座らせ、そのメールを画面に写したノートパソコンを、私の前においた。
「これがそのメールだよ。君の方に問題がなければ、これで空音たちの方にも大丈夫だと伝えようと思ってるから、よく確認して欲しい。」
「はい。」
私は、送られてきたメールをよく読む。
『ー昨日お話した件についてー
移動の都合上、私達としては、移動の日を今月の13、14、15日のいずれかにしていただけると非常に助かります。なお、そちら側に不都合がございましたら、返信でお伝えください。また、瑠依さんが通う高校は、私立鬼牢高等学校普通科に決定いたしました。制服は、ブレザータイプでございます。制服につきましては、アレルギー等の理由での制服の改造を許可されていますので、その場合は今日中に返信でお伝え下さい。』
(なんて非効率的な文章なんだ。)
絶対に空音さんが作ったな。偏見だけど。
「13日に行きます、それでいいよね?」
「君がそれで問題ないなら、そう調整しましょう。素材にアレルギーはありませんよね?」
「うん」
私がそう返事をすると、所長は返信を打ち始めた。
「君がいなくなると、寂しくなりますね。」
「せいぜい一ヶ月くらいでしょ。」
「そうとは限りませんよ。別れというのは、いつだってこの人と合うのはこれで最後かもしれないと思いながらするものです。」
「そんなことしたら、本当に最後になるかもしれないよ?」
「それでも、二度と会えなくなった時の悔いが減ります。」
「そっか、でも私のときは、その心配をしなくてもいいよ。」
「最強だからですか?」
「うん」
「でも、私は今日にも死ぬかもしれません。」
「大丈夫、そのときは看取ってあげるから。」
そんな、不謹慎とも言える会話をしているうちに、所長は打ち終えたらしい。確認を促され、私は画面を見る。
「これでいいと思います。」
「じゃあ、送りましょう。」
カチ、とキーボードの高い音とともに、返信のメールが送られる。
「では、3日後なので、準備に必要なものがあったら、早めに行ってくださいね。」
「はい」
3日後、私は空音さんたちと一緒に本部をあとにした。
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