封鬼高校の鬼
場所は変わって、研究所。おなじみの会議室に、紅玉くんと槿花ちゃんも加わって座っていた。井宗さんは朝本部まで行ったっきり、まだ帰ってきていない。よって、今は子供だけだ。
「うん。じゃあ、会議を始めようか。」
空音ちゃんは映画のごとくそう言った。目がもう名優のごとく決まっている。
「あの……その前に一つ、いいですか?」
「言ってみたまえ、槿花くん。」
「あの人達……誰ですか?」
あの人達と槿花ちゃんが指を指したのは、ご存知の通り、梨里ちゃんと優愛さんだった。それもそうだ。槿花ちゃんたちからしてみれば、全く知らない人がいるわけだから、そりゃあ聞きたくもなる。
「封鬼高校一の不思議っ子、野田優愛と……。」
「封鬼高校一のギャル、梨里ちゃんだよ!」
事前に練習でもしていたのだろうか、アニメの2人組よろしくの決め台詞だ。
「まるっきり部外者ってこと?」
「まるっきり部内者ってことだよ。」
空音ちゃんよりも速く、梨里ちゃんがそう返した。あまりにも速すぎる返しに、もはや霊能者を疑うレベルだ。もちろん、梨里ちゃんからは霊力を感じないから、その線は限りなく薄いのだが。
「紅玉くんも槿花ちゃんも、梨里ちゃんたちと仲良くなったってことで。今回の事案の再確認をしよう。」
「仲良くなってないんだけど。」
空音ちゃんは、「まあ、これから仲良くなれるって」と不満そうな紅玉くんを抑え、マウスをクリックした。それと同時に、画面が切り替わって封鬼高校が映る。今回も、プレゼン形式というのは、そういう特技なのだろうか。それとも趣味なのだろうか。
「封鬼高校の概要は飛ばして、石谷家のデータバンクにあった鬼の概要からいくよ。」
私は、封鬼山跡で鬼の死体を見た日に、駿さんから渡された資料に目を落とす。『石谷家データバンクのコピー』と書かれたその資料には、封鬼高校が建つ前にそこに封印されたというある鬼の情報が書かれている。
『螢』という名前と人相、そして対処した当時の霊能者が淡々と書かれたA4 の紙は、あまりにも人間味がなく、機械的な冷たさを感じた。当時の筆にしてはあまりにも機械的で、どちらかと言うと現代の警察が書くような、そんな人相書きだ。これをこういうふうに感じるのは、感情があるゆえか。ギョロリと描かれた太い目は、やはり現実味がないようにも感じるが、それでもどこか、冷たく感じる自分がいる。
「当時の霊能者が総出で抑え込んだ鬼だね。レベル的には桃斬童子より少し弱いくらい。だから今回は、瑠衣ちゃん以外で対処しようと思う。」
つらつらと、少しばかり考え事をしている間に、空音ちゃんが爆弾を落とした。
「それって……私と紅玉だけで螢を倒すってことですか!?」
槿花ちゃんが勢いよく立ち上がり、信じられないとでも言わんばかりの口調でそう言った。――実際、そう言っているのだろう。事実、この世界で鬼を倒せるのは、私と所長がいいところだろう。数年前までは、もう1人いたらしいが、そいつは反軍になったのだとかで、霊能界から追放されてしまっている。
「そうじゃない。私は、瑠衣ちゃん以外の全員で倒すと言った。だから、今回は白ちゃん、駿くん、鷹清くん、梨里ちゃん、優愛ちゃんにも、戦闘に参加してもらう。」
「!!」
全員が、驚いた。というか、もはや驚愕したと言っていい。非戦闘員までなら、わかる。霊能者というのは、少なからず戦闘訓練をうけているものだ。でも、公認の霊能者でない優愛ちゃんを入れるのは、いかがなものなのか。ましてや、霊能者ですらない梨里ちゃんを戦闘に参加させるのは、どうなのか。桃斬童子の1件以降、私は多少空音ちゃんのことを見直したが、やはり空音ちゃんは空音ちゃんだ。何をする気か、わかったもんじゃない。
「部外者を巻き込むというのは……。一体、どういうつもりでして?空音さん。」
白さんが、一番速く空音ちゃんに抗議した。
「そうだよ。白さんはともかく、俺が戦場に出たら足引っ張るだけだよ。――自信があるね。」
その自信はどうかと思うが、確かに、鷹清くんの霊能は明らかに戦闘向きではない。もちろん、やりようがないわけではないが、少なくとも鬼に通用するレベルの手段ではないのは確かだ。
「もちろん、実際に全員で退治するわけじゃあない。何人かは後援……後方からの目眩ましや物資の補給とかにまわってもらう。でも、基本的に白ちゃん、槿花ちゃん、紅玉くんは近接として鬼と直接やりあってもらう。私も、後方だけじゃなくて3人が休憩する時間を稼いだり、駿くんと大技の阻止をしたり、色々手助けはする。でも、今回はギリギリまで瑠衣ちゃんはださない。」
まあ、私がいなくても鬼を倒せるくらいのレベルにはなってほしいという上からの指示だろう。考え自体は間違えていないが、私としては時期尚早と言わざるを得ない。このメンツのこのレベルでは、鬼を倒すことは出来ない。ましてや……いや、これを言うのは今じゃないか。今これを伝えたら、鬼に加担することになってしまう。それだけは、霊能者として避けなければならない。
爆弾発言の後、個別に私に質問するようにとだけ空音ちゃんは言い、会議は終了された。もはや会議というか、連絡会だと思う。対話していないし、意思も汲み取られていない。やはり、そういうところが、騙りの霊能力者なのだろう。自然と、腹のさぐりあいを拒否してしまう。民主的なリーダーと言うよりは、詐欺師であり、独裁者だ。
「空音ちゃん空音ちゃん。」
「どうしたの?瑠衣ちゃん。」
私は夕食の時に、食堂の隅で食べている空音ちゃんに左に並ぶ形で話しかけた。
「爆弾発表だったね。さっきの会議。」
「うん。でもね、後悔はしてないよ。みんなも、今にわかると思う。」
確かに、みんなもすぐに気づくだろう。遅くても、戦闘開始のときには。
「だね。」
私は、夕食のナポリタンを口に運び、頬張った。トマトの酸味が、口に広がり、初めて空腹だったことに気づく。
「私ね……見たことあるんだ。」
空音ちゃんは、ナポリタンを食べ終わっていて、フォークをそっとお膳に置いた。
「何を?」
「優愛ちゃんが戦うの。」
空音ちゃんらしくない、少し重い雰囲気をはなっていたのは、そういうことだったのか。
「へぇ、強かったの?」
「ううん。瑠衣ちゃんよりは。」
そりゃあ、私と比べたら大体の人は弱いだろう。最強なんだから。
「強い弱いじゃなくて、珍しかったんだ。優愛ちゃんは。」
「珍しい?」
霊能界で珍しいと言ったら、いくつかある。限りはあるが。
「うん。たぶん、駿くんと同じくらい。」
「駿さんと!?」
あの人と同じくらい珍しいと言ったら、かなりだ。ただ……そうなると――。
「保護が必要になってくる。特に、鬼からは。」
「なるほど。どうするつもりなの?」
「うちで引き取ろうかなって思ってる。上からの許可は……頑張るしかないけど。」
「わかった。協力する。」
「心強いね。――最強だけに。」
「あはは。最強だからね。」
最強に、不可能はない。必ず、やってみせる。
空音ちゃんいわく、タイムリミットは1週間らしい。それまでに、場所の準備と鬼の誘導。そしてメンバーの協力が必要だ。前回は、研究所としてのテーマだったから全員が協力したが、今回はあくまで突発的な課題。なかなか理解も得られない。それぞれに事情もあれば、信念もある。特に、自衛隊や警察、消防と違って、怪異研究所の支部は対応義務がないから、拒否することもできる。そうなってくると、やりたくないことを拒否してしまう人も多い。
私は前回、空音ちゃんに助けられた部分が多いことに後で気づいた。だから、今回は空音ちゃんの助けになるようなことをしたい。まあ、結局そうなってしまうんだろうと思う結末はあるが。少なくとも、今の段階でそれを言うのは、空音ちゃんの苦労を増やすだけだ。上がそうしたいなら、そうすればいい。私は、せめて個々の人が死なないようにするだけだ。
「白さん白さん。」
「どうしたのかしら?私の部屋に来ても、お菓子しかでてこなくてよ?」
糖尿病アタックでもしてるのだろうか。それなら、今すぐに止めたほうがいいというのが正解だろうか。
「白さんって戦闘できたんですね。」
「当たり前でしょ。――失礼。戦闘訓練は、蛇崎家の義務教育でして。」
殺伐としてるな……蛇崎家。っていうか、そっちが素なんだ。
「空音ちゃんと、どっちが強いの?」
「石谷家のものには、蛇崎家は負ける気がしませんわ。」
「じゃあ、鬼にも勝てるよね。」
「もちろん。私は、あなたを出さないのに反対であって、鬼とは一度戦っておきたいと思ってますのよ。」
戦闘狂なのかな……。
「じゃ、白さんは出るんだ、今度の作戦。」
「ええ。鬼とやり会える機会なんて、そうそうあるものでもないですし。」
ふうん……。
「腕がなります。」
そう言って、白さんは小さくガッツポーズをした。
私は、部屋で1人、父からもらったネックレスをいじりながら考えていた。空音ちゃんにも気づけなかった。最も重要なことについて。
……白さんも、気づいてなかったな。当然と言えば当然か。あの鬼の霊能は、ほぼ完璧だ。霊力量が同程度か、それ以上じゃないとまず見破れない。今回の鬼は、それくらいレベルが高い。空音ちゃんは「桃斬童子より少し弱いくらい」と言ったが、私の見立てでは、少なくとフルパワーの桃斬童子と同程度か、それ以上のはずだ。
みんなを怪我させたくないし、みんなが動くよりも早く、私が少しでも削っておくのが正解か……。できれば、優愛ちゃんは巻き込みたくないというのが私の本音だ。今回の戦いは、彼女には酷だ。あまりにも残酷だ。人にもよるだろうが、私は見せたくない。まだ、情緒が子供レベルだからかもしれないが……。私は、どうするのが正解なのだろうか。
……パパに聞いてみようかな。私は、鞄からスマホを取り出し、通話アプリを開いた。「パパ」と表示されているアイコンをタップし、着信音が流れる。
着信音が6回流れると、不意に途切れ、プツと音がした。
「パパ!あのね!」
私は、妙に高揚した気分で言葉を発したが、それを遮るように、女性の機械音声が聞こえてきた。
「お掛けになった番号は、現在でられません。ツーという機械音の後に、メッセージをおかけください。」
「パパ?」
私は、電話を切った。このとき異変に気づいていれば、パパにもう一度、会えたかもしれないのに。
第二編「封鬼高校の鬼」です。お楽しみいただけましたか?お楽しみいただけた方は、評価と感想もお願いします。ブックマークまでしていただけると、なお嬉しいです。ついでに、ハロウィン企画のフォームにも回答していただけると助かります。次回もお楽しみに!




