オカルト同好会
「桃斬童子のことがバレてるかもしれない?」
19歳の女子高校生、蛇崎白は、私の言葉を繰り返した。
「うん。クラスメイトの梨里ちゃんと優愛ちゃんが、昨日の鬼の死体引き上げるの見てたんだって。」
移動教室のとき、空音ちゃんと駿さんはいつの間にか消えてしまうので、私が今この話をできるのは白さんしかいなかった。
「そんな……、一般人に避難解除出したのはあれを引き上げた3時間後のはず……。」
彼女らは、一体どうやってあれを見たのだろうか。私と白さんの間に、同じ謎が蓄積される。
「双眼鏡を使ったとか?」
「一般人は1か所に集められてたから、そんな目立つことしたらすぐに抑えられる。」
「望遠鏡。」
「双眼鏡と変わらないじゃない。」
「小型……カメラとか?」
「いつ仕掛けるのよ。」
「ドローン撮影!」
「使用可能時間外。条例違反ね。それだったら楽だわ。」
「あとは……、う〜ん。」
私の頭の中に、案が出てこなくなったところで、白さんは「そもそも」と言った。
「あの人達は、どうやって封鬼山を見たのかしら。10度結界は一般人の視界を撹乱させて、そもそも見ることすら、叶わないはずなのだけれど。」
「それは……。」
確かに、どうやって彼女らは封鬼山を見たのだろう。私は生まれながらに見得ただろうけど、彼女らからは霊力を感じなかった。つまり、普通の一般人だ。――矛盾してるけど。
「……空音なら、知ってるのかしら。詐欺師は、知識が豊富だから。」
――まだ、私達に隠してる情報があるのかもね。
そう言って、白さんは理科室の扉を開いた。私だって、まだ空音ちゃんを信用しきってるわけじゃないから、なんとも言えないけれど、やっぱりこの事は空音ちゃんにも想定外であってほしい。いや、そうであるべきだ。
「そんなことが……。一般人にバレちゃうとか、上になんて言ったらいいんだ。」
頭を抱えてそういったのは、駿さんだった。やはり、しっかりしている駿さんは、こういうことには敏感に反応するのだろう。
「まぁ、山一つ消えちゃったし、そういうことも起こるよね。」
空音ちゃんはこんな感じだった。いや、知ってたけど。知ってたけどさぁ、やっぱりなんか……なんかねぇ。
「そもそも、その山が見えてたことが問題なの、空音。」
「どうして?」
「だって、10度結界は一般人に見えないでしょう?」
「なんで?」
「なんでって……霊力の濃度が高すぎて壁になってるから、霊力を持たない一般人には、10度結界を透かすことが出来ないって……。」
「その10度結界は、結構序盤になくなってたけど気づかなかったかな?」
結界が、なくなっていた?
「あっ。」
そういえば、桃斬童子が雷落としたときに何か割ってたような気もする。……あれって結界だったんだ。
桃斬童子の霊力がすごすぎて気づかなかった。いやいや、失敬失敬。
「だから私は、避難指示延長させたんだよ。」
「なるほど。」
「うん。」
「なるほど。」
そうか。
「で、どうする?梨里ちゃんと優愛ちゃん。絞める?」
「絞めないで!?友達でしょ!?」
空音ちゃんが珍しく驚いている。さすがに絞めるのはやりすぎだったか。どうも世俗は加減が難しい。
「おいそこ、席につけ。授業始めるぞ〜。」
どうやら、話し込んでいる間に授業が始まっていたらしい。化学担当の先生が、私達に注意した。
どうすればいいんだろう。梨里ちゃんと優愛ちゃんのこと。あれってほぼ私のせいだよね。いや、責任はたぶん空音ちゃんと鷹清さんにあるんだろうけど。やっぱり、私が結界を壊さなければ済んだ話なので、やっぱり責任を感じてしまう。授業は簡単な(既に終わった)範囲だから、やっぱりつまらなくて、私の頭の中を、様々なことが飛び交う。
でもやっぱり、一番大きな問題は梨里ちゃんと優愛さんのことだから、結局いろんな事を考えた末にたどり着くのはその問題だった。かと言って、私がどうこう言えるような問題でもないなという結論に至って、別のことに頭を使おうとするのだけれども、また一周して戻って来る。そんなことを3回ほど繰り返すうちに、いつの間にか授業は終わっていて、空音ちゃんに言われるがままに私は席を立ち、教室へ戻る。
その後の6限目とHRが終わるまで梨里ちゃんと優愛さんを見ていたが、結局彼女らが接触してくることはなかった。ただ、彼女らを見張るうえで、霊視を使ってみると面白いことがわかった。彼女らの周辺だけ、わずかに霊体化の速度が遅い。これは、既に別の向きの霊力がその周辺にあって、霊体化の霊力に対し、反発しているということだ。
「なぁに考えてるの?」
「知ってるよね?」
「知ってても話すのと感じるのじゃわけが違うの。」
空音ちゃんは、私に目配せして梨里ちゃんと優愛さんの方を指した。
「うん、わかった。」
私は椅子から立ち、2人に近づく。徐々に近づいてくるように見える2人に、私の中で緊張のようなものが芽生える。
「梨里ちゃん、優愛さん。さっきのことで話がある。ついてきてほしい。」
「うん。どこで話すの?」
梨里ちゃんがそう聞き返した。
どこ、どこだろう?
(どこか、邪魔の入らないところ。)
ふと、頭の中に空音ちゃんの声が流れてきた。空音ちゃんの方を見ると、小さくたてに首を振った。
「どこか、邪魔の入らないところ。」
「そっか。それなら、私達がいい場所知ってるよ。」
私は空音ちゃんに目配せをして、2人について行く。2人は階段を登り、4階に上がるとそのまま部室棟に出た。秋、と言ってもまだまだ暑い暦上の秋の初めの今日は、外に出ると一気に肌に日光が当たってきて、私は眩しさに目を細めた。私達はそのまま部室棟の奥の奥、部活ではなく同好会ばかりが立ち並ぶ区画の一番奥の部屋の前に来ると、おもむろに鞄から鍵を取り出し、扉を開けた。
「足下、気をつけてね。」
優愛さんはそう言って部屋の中に入る。先に入った梨里ちゃんが照明をつけると、そこに4畳半ほどの部屋が現れ、慣れた足取りで入った2人はこちらをくるりと振り返った。
「ようこそ、オカルト同好会の部室へ!」
部室に入った途端、人が変わったような明るい声で優愛は私達にそう言った。
「オカルト同好会?って、そんなものうちの学校にあったんだ。」
「失礼な。ここ、封鬼高校のオカルト同好会は、全国でも有名な部活なんだよ。」
「部活?」
「失礼、同好会。」
やはり、同系のキャラが語り部無しで喋ると分かりづらいな。これが小説の限界なのかもしれない。今喋ったのは、梨里ちゃんと空音ちゃんかと思いきや、びっくり優愛さんと空音ちゃんなのだ。
「それより梨里さん、この御札って何?」
駿さんがそう聞いた。
「ああ、それ?なんか3日くらい前に男バスの部室に落ちてたの貰ったんだよね。優愛がなんか変な気配感じちゃってさ。」
私は駿さんが右手に持った札を、そっと霊視する。
「気づきまして?瑠衣さん。」
「うん。間違いないね。」
この札は、鬼の封印に使われた札だ。それも、桃斬童子ではなく新手の、未登録の鬼のものだ。私は駿さんが私の方を見ているのに気づいた。札と私を交互に見ている。おおかた、この札を押収するかどうかといったところだろう。私は静かに頷き、駿さんに合図した。
「すみませ、梨里さん。この札、預からせていただいてもよろしいですか?」
「まあ、うちはどっちでもいいけどさ、それは優愛に聞きなよ。優愛が持って帰りたいって言うから、その札引き取ったんだし。」
駿さんは「優愛さん」と、机を叩いて話しかける。
「この札、預からせてほしいんですが。」
「いやだ。絶対にダメ。」
急に、子供じみた口調で拒否した優愛は「実は……重々しく口を開いた。
「私には、人にはない特別な力があって……。」
?私の中に何かが浮かんだ。
「その……、梨里ちゃんは知ってるんだけど……。」
言うのにすごくエネルギーがいるのだろう。口ごもりながら、途切れ途切れにそう言った。
「霊感みたいな感じなんだけど……そうじゃなくて。でも幽霊みたいなやつが見えたり、でもやっぱり幽霊じゃなくて、妖怪とか……どちらかと言うとそっちに近いような。そんな感じ何だよね。」
これは……つまり優愛さんも霊力を持っている。ということだろうか。カミングアウトしてもいいのだろうか。私の一存で決めることではないと思うが、これは……。
「霊力」
空音ちゃんが、ボソリと呟いた。
「え?」
「それはね、霊力っていう、汎用性が極めて高いエネルギーを持っているっていうことだよ。」
うわー、空音ちゃん言っちゃったよ。マジですか。駿さんも白さんもなんかビミョーな顔だし。絶対独断じゃん。
「急に教科書喋りしてどうしたの?」
梨里ちゃん、突っ込むところそこ?
「霊……力?漫画的なあれ?厨二病?」
「厨二病だったら痛いからやめな?石谷さん。」
梨里ちゃんと優愛さんの容赦ない口撃にも、空音ちゃんは顔色一つかえない。その辺は、やっぱり騙りの霊能力者なのだろう。
「違うよ〜。それ言ったら駿くんとか瑠衣ちゃんとかもでしょう?」
「白さんは……?」
なぜ私が厨二病なのか。理解に苦しむ。私は厨二病ではないはずだ。包帯巻いてないし。
「私が厨二病なわけないでしょ。寝言は寝て言いなさい。私は19歳だから、あなた達と違って大人なのよ。」
「大人だから厨二病にならないと?」
「そういうこと。」
大した自信だなぁ、と私が感心していると、優愛さんが口を開いた。
「霊能者って言うなら、みせてよ。」
「なにを?」
「霊能、見せてよ。」
一気に私達の間にあった緊張が凍りついた。空音ちゃんの霊能は見えないし、白さんの霊能はトラウマ級らしい。つまり、私か駿さんしかいないのだが、私が霊力を使ったら、この校舎を壊しかねない。だが、かといって駿さんの霊能はここで使っても気づかれない。やっぱり私しかいないのだ。
「瑠衣ちゃん、この部屋壊さないように霊能使える?」
「無理。」
「だよね〜。」
あはは……と気を使ったように苦笑いする空音ちゃんには申し訳ないが、出来ないものは出来ないのだ。槿花ちゃんか紅玉くんなら、出来たかもしれないが。
「私はなんで無視されてるのかしら?」
白さんが、不服そうに口をとがらせてそう言った。
「だって、白ちゃんの霊能気持ち悪いじゃない。」
「屈託なく言わないでよそんなこと。大人になれないわよ。」
「騙りの霊能力者は、別に大人なんかにならなくていいんだよ?」
仕方がないなぁ。と、そう続けて、空音ちゃんはゆっくりと立ち上がり、鞄から一枚の紙切れを取り出した。
「よいしょっと。こちらに見えたるは、数学のノートの切れ端にございます。」
「うんうん。」
「種も仕掛けもござりゃせん。」
「確かに。」
「これにちょいと力を加えると……。」
空音ちゃんの指に少し、力が入ったのと同時に、ノートを掴んだ空音ちゃんの指の下からメラメラと燃料のそれに似つかわしくない炎がこぼれ出た。
「ちょっと!手品でもひどいじゃない!警報がなっちゃう!」
「しーっ、静かに。耳を澄ましてみて。警報なんて、鳴ってない。」
唇に人差し指を当て、もう一度「しーっ」と言った。空音ちゃんが紙を横に振り「炎縄」と言うと、炎が4つの方向に分岐し、それぞれに縄の目のような模様が現れた。
「からの"紫雷"!」
4つの方向に分岐した炎が紙の方から紫色の電気に置き換わっていく。瞬きする間もなく部屋中に満ちた電気は、まるで生きているかのようにうねり、4つのうち2つが再び炎に置き換わる。さらにそれぞれが捻れ、紙の上に収束していくと雷と炎の壁に包まれ、瞬き一つのうちに消えたその壁の向こうには、炎と雷で出来た龍が、小さな小さな可愛らしい龍がいた。龍は空音ちゃんが指を鳴らすとそこには何もなかったかのように、全てがなくなっていた。さすがは天才と呼ばれる霊能者・石谷空音だ。鮮やかな霊能さばきは、見るものを圧倒させるものがある。
「どうかな?これでもまだ、信じられない?」
梨里ちゃんと優愛さんは、お互いに顔を見合わせ、優愛さんが「いやぁ」と口を開いた。
「信じるしかないでしょ、こんなの見せられたら。」
第二編「封鬼高校」第二話オカルト同好会でした。次回は「梨里と優愛」です。この話がいいと思った方は、高評価とコメント、ブックマークをお願いします。リクエストも待ってます。リクエストがある方は、最新話でコメントしてください!また、誤字報告も受け付けております。作品向上のために、気づいた方は良ければ教えてください。




