表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊能物語  作者: 野沙朝臣
桃斬童子
13/66

透石家の隠し事

 「じゃ、報告書お願いね」

 空音ちゃんは、そう言いながら机の上に報告書と書かれた紙を置いた。

 「はい」

 自分で引き受けたとはいえ、やはり報告書というやつは面倒だ。しかし、これをきちんと書かなければ経費で落としてくれないし、最悪自己負担になる。

 「書き終わったら所長室に持ってきてね、できれば今日中にお願い」

 空音ちゃんはそう言って部屋を出た。まぁ、私が担当する部分は当日の動線だけだし、今日中という期限は頷けなくもない。――早い気もするが。

 結局、封鬼高校の呪は解けてなかったし、そっちの任務が終わるまでは、ここにいることになるのだろう。桃斬童子が言ってたことを真とするなら、日本にはまだまだ鬼がいるということになる。それも、未登録の鬼が、日本中に散らばっている。それを、どうやって結界の中にいながら確認したのかは知らないが、そこは研究員がやってくれることだろう。私は戦闘要員だから、そこは気にしなくていいはずだ。――一応、報告はするが。私は、基礎項目を埋め、戦闘中の内容を書き込む。研究機関でありながら、古臭い風習の残る怪異研究所では、報告書は全て手書きだ。だから、すごく時間がかかる。

 槿花ちゃんか紅玉くんを連れて行ってればよかった。そしたら、2人に任せられたのに。事細かに記入していなければ返却されるし、結局最初から細かく書いたほうが早く終わるのだが、そうとはわかっていても、やはり面倒なものは面倒なのだ。私は無意識にペン回しで時間を潰していたとき、遠くからドタドタと、騒がしい足音が近づいてきた。その足音が私のいる部屋の前で止まると、勢いよく扉が開いた。

 「瑠衣さん!」

 扉を開いたのは、槿花ちゃんだった。

 「どうしたんですか?槿花ちゃん」

 どれだけ走ってきたのか、槿花ちゃんは深呼吸してから、「それがね」と切り出した。

 「瑠衣さんが言ってた劣化した鬼、山の跡地から死体が見つかったの」

 「!」

 完全に霊体化したものは、もとが何であろうと死体は残らない。だから、霊能者たちは殺処分という雑な処理を何千年と続けてきた。今回、死体が残ったということは。

 「つまりね、瑠衣さんが殺した劣化した鬼は、多分鬼化した人間なの」

 つまり、私は人殺しか。

 「ううん、そこは大丈夫。鬼化、っていうか霊体化した人間を殺しても、業務の一部ってことで霊能者は罪に問われないから、そこじゃないの」

 「というと?」

 「物質を霊体化する過程で使われた技術っていうか霊力の波長が、封鬼高校の霊体化とぜんぜん違うの!」

 ってことは、つまり。

 「そう、鬼がこの村にもう一体……ううん、あと何体かいる可能性が出てきたの!」

 表情や感情の反応が大きい彼女は、霊力こそ少ないけどその霊力で大きな事象を引き起こすことに特化した戦闘要員らしい、つまりは省エネの天才ということだ。

 「だからね、空音ちゃんが報告書明日でいいから、とりあえず今日は来てほしいって!」

 霊能業界ってブラックなのかな。――連勤だよ?私。


 「あ!瑠衣ちゃん来た!」

 私が車から降りるなり、そう言って走ってくる空音ちゃんは、土で汚れていて、さっきまで掘り返しの作業でもしていたのだろうとわかる格好だった。

 「空音ちゃん、報告書もう書き終わったけど、所長室に置いとけばいいんだっけ?」

 「はやっ、ちゃんと書いた?」

 「もちろん」

 しっかり、びっしりと文字で埋め尽くした。

 「そんなことはどうでもいいんですよ、瑠衣さん」

 空音ちゃんの後ろから、負のオーラをちらつかせて出てきたのは、鷹清さんだった。

 「ど、どうしました?鷹清さん」

 やっぱり、山一つ消すのはやりすぎだっただろうか。結界で目隠しされてたから、大丈夫だと思ったのだけど。

 「どうしました?じゃ、無いですよ!なに山一つけしてるんですか!胃に穴が開きそうですよ!」

 半泣きで抗議してくる鷹清さんは、目の下に隈を作っていた。

 「すみません、楽しくてつい……」

 私が申し訳なさそうにそう言うと、鷹清さんは「しっかりしてください」と言った。

 「まぁ、俺は鬼と対峙したこと無いから、あまり強くは言えませんけど」

 それを聞いた空音ちゃんは、口角を上げてにまにまと笑った。

 「それに、鷹清くんは今回自分の動線入れ忘れて、霊能込めたとか言って、私に矢、打ち込ませたもんね〜」

 「うぐっ。その節はほんとにすみませんでした」

 「どうやって、霊能込めたのかな〜?お姉さんに教えてほしいな〜?」

 相当焦ってたんだろうな、霊能込めるとか、出来ないのに。

 「っていうか、鷹清さんの霊能って、未来視じゃないんですか?空音ちゃん言ってましたよね?」

 空音ちゃんは鷹清さんにジト目で見られ、「言ったっけ?」と全力でとぼけた。

 「いやいや、言ってたよ。理由が知りたければ、鷹清くんに聞くといいよって」

 「空音さん!?なに人の霊能喋ってるんですか!?」

 「ちょっと違うからいいでしょ!?」

 「うわっ、開き直った。最悪だー!」

 仲良しだなぁ。

 ぎゃあぎゃあと、眼の前で騒ぐ2人に私は温かい視線を送る。私も、もっと早く空音ちゃんに出会っていて、もっと早く感情器官を治してもらえていれば、結果は違ったのだろうか。

 「でさ、結局なんの霊能だったの?鷹清さんは」

 ぎゃあぎゃあと、騒いでいた2人がピタリと止まった。

 「そこ、今聞きます?」

 「聞かないよねぇ、普通」

 「何なんですか!?2人共」

 言ってくれる流れだったじゃん、なんとなくだけど。


 劣化した鬼は、本当に劣化版だ。いや、正しくは普通の鬼の下位互換とでも言ったほうがいいのか。普通の鬼は、人間のレベルに合わせた私の霊力で一突きしただけでは死にやしない。少なくとも、あと3回は急所を突かないと、即死はしない。だけどあの鬼は一突きで即死だった。少なくとも、何らかの霊能で作られた鬼なのだろう。

 「うーん……。見事に残ってますねー」

 私は、見事に潰された形で残ってるあの鬼の死体を見て、頭を抱えていた。

 「だからそう言ったでしょう」

 白さんも一緒に、死体を覗いている。

 「これ、解呪したらだめなんですか?」

 「していいならとっくにやってますよ」

 そりゃそうだ。

 「この死体には、そのままでいてもらったほうが都合がいいんです」

 後ろからそう返したのは、

 「紅玉くん」

 「都合がいいっていうのは、外的操作の分野かしら?」

 「その通りですね。透石家に外的操作の分野では独占されてますから」

 確かに、透石家と石谷家を同義とするなら、私は空音ちゃんが私に施した内部干渉の技術を知らない。それに、本来遺伝できないはずの霊能の才気を透石家を始めとする大家は、少なくとも500年、代々受け継いでいる。これは、この鬼に使われた技術と同じものではないのだろうか。

 「潰されないといいわね、透石家に」

 「頑張ります」

 しかし、呪の元を殺しても消えない呪とは、かなり高度な技術のようだ。やっぱり、今の私のレベルでは、あの鬼には到底追いつけない。最初に空音ちゃんから貰った感情器官を壊した相手には、及ばない。


 「あの鬼に使われている技術ってやっぱり石谷家のものと同じですか?空音さん」

 紅玉くんがそう聞くと、空音ちゃんは少し考えるような動作のあと、「厳密には……」と言った。

 「少し違う……気がする。何ていうか……未完成って感じかする。うまく言えないんだけど……少し目を凝らすと、やっぱり違うんだ、霊能の構造が」

 未完成、と言う言葉に妙な沈黙が流れたとき、空音ちゃんの通信機からノイズが響き、駿さんの興奮した声が流れてきた。

 「石谷所長、所長の指摘通り、石谷家のデータバンクにありました!封鬼高校の霊体化の元凶に見える鬼の情報!」

 「さすが、私。素晴らしい記憶力だね」

 駿さんには見えなくてもきちんとドヤ顔をするあたり、騙りの霊能者は筋金入りだ。

 「自画自賛」

 「自画自賛だ」

 「すげー、自画自賛だ」

 なんか既視感がある。私も乗っかったほうがいいのかな?

 「瑠衣ちゃんまで乗っかったら、私の逃げ道がなくなるからやめて?」

 乗っかろうかな。今んとこ私こういうのに参加しない人になってるし。

 「と言うわけで、みんな戻ろうか。次の任務だよ!」

 空音ちゃんが仕切り直して逃げられるなら、私乗っかっても良かったんじゃ……。

霊能物語本編第一章「桃斬童子」第九節「透石家の隠し事」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ