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妖魔執行人 〜永永無窮の呪い〜  作者: 冬時雨
成崎姉妹は普通じゃない編
7/11

第五話 執行

「依蕗姉!!」

「本当に遅くなってごめん!」


依蕗姉こと、鬼崎依蕗(きざきいぶき)は私やモモと一緒で崎家の人。

私よりも歳が一つ上で、崎家同士は何気に交流が多いから幼い頃から知っている。

依蕗姉は憧れでもあり、私にとってはもう一人のお姉ちゃんのような人。


依蕗姉が壬隊に移ってきたとは噂程度で聞いてはいたけど、こうして会えると嬉しくなって少し興奮してしまう。


「いろいろ聞きたいことはあるけど、まずはこの土蜘蛛執行するからそこで待ってて」


依蕗姉は土蜘蛛の方に体を向き直して、刀を抜き始めると共に蒼炎も刀に纏うように出てきた。


蒼炎を纏う刀が鞘から全身抜けると、依蕗姉は左足で地面を蹴って瞬時に土蜘蛛に駆け寄り、上から下に一文字に刀を振るった。


土蜘蛛は防御をする隙なく真っ二つになり、蒼炎に包まれて消えていく。周辺にいた子蜘蛛も同様に燃えて消えていく。


依蕗姉は私とモモがどんなに刀を振っても切れなかった土蜘蛛をいとも簡単に両断してしまったのだ。

やっぱり、依蕗姉は凄い……。


依蕗姉は刀を鞘に収めて、くるりと振り返って私達の方へと歩いてきた。


「よく頑張ったな君、もう肩の力は抜いていいぞ」


依蕗姉は夏夜先輩の肩に手をぽんと置いて声をかけてから、私の方に来た。


「熱くないから」


依蕗姉は一声かけてから、私と滝、モモの体に蒼炎を出した。

蒼炎に包まれた体は、全然熱くなくて、蜘蛛の糸だけを丁寧に燃やしていく。


蜘蛛の糸が全部燃えきると、蒼炎は自然と消えた。

フェンスから離れた体が地面に足を着く。


「三人とも残ってるとかない?」

「うん、無い!」

「はい、お陰様でありません」


私は糸から解放されて、もう糸はないというように腕を回して見せた。

滝も手首周りを触りながら丁寧に言った。

依蕗姉はそんな私達を見たあと、返事をしなかったモモの方に近づいて、俯いている顔を覗き込むように言った。


「モモもない?」

「ねぇよ……!」


モモは突き放すように言ってからそっぽを向いて、依蕗姉から離れた。

しっかりとしたことは聞いたことはないけど、モモと依蕗姉の間には昔何かがあったらしい。

モモが依蕗姉に対してぶっきらぼうな態度を取るのも、それが原因なのかもしれない。


ちなみにモモの耳はいつもよりほんのり赤い気がする。


「そっかそっか、ないなら良かった」


モモとは反対に依蕗姉は余裕の笑みを浮かべていた。

依蕗姉はモモからこっちの方に視線を向けたと思ったら、その視線は私ではなく夏夜先輩に向けられたものだと歩いてくるのでわかった。


「君、名前は?」


夏夜先輩は依蕗姉に言われたままに答えた。


「雨宵夏夜です。えっと……、あなたは?」

「あ、ごめん、名前聞く前に名乗るべきだったよね。私は鬼崎依蕗、よろしく。唐突で悪いんだけど、雨宵くん、さっきのは君の()()だよね?」


先程の夏夜先輩が糸を止めたのを、依蕗姉は目撃していたみたいだった。

夏夜先輩は一瞬躊躇ったようにも見たけど、すぐに話し始めた。


「はい、あれは僕の異能です」


やっぱり異能だったんだ。


異能を持つ者、異能師(いのうし)はこの天明においては、原則として一夜に異能師届けを出さなくてはならない。

異能は時に暴走を起こすことがある、異能師を本人達を守るためにも提出することが決まっている。


依蕗姉は真剣な表情で質問をし始めた。


「時間停止ってところであってる?」

「はい、合ってます」

「いつ頃から異能が現れ始めたとか、覚えてる?」

「現れた始めたのは十四歳の冬頃からです」

「そうか……、尋問めいたように立て続けに聞いてすまなかった」


聞き終えると、依蕗姉は真剣な顔を崩して先程のように口角をあげた。


滝がその隙をついて口を開いた。


「そういえば、他の人達はどうしたんですか?」

「あー……、それは」


依蕗姉が目を背けて言葉を詰まらせた時、屋上の出入口から大声が聞こえた。


「おい依蕗!! お前先に一人で突っ走って行くなよ!」


そこにはゼェゼェと息を吐いている、前髪をポンパドールしてタレ目がちな目をした男の人が立っていた。

本部で見かけたことがあるような気はするけど、壬本隊の人にあんな人はいなかったはず。

依蕗姉と同じ班の人なのだろうか。

依蕗姉はその人方を向いて口を開いた。


「あれ、七瀬と悠利は?」

「下で蜘蛛狩りしてる、そろそろ来るんじゃねぇかな」


ポンパドールの人が言うと同時に、階段を登ってくる二つの足音が聞こえてきた。


一人は階段を駆け上ってきた。

ふわふわとした金髪の髪をハーフツインにしていて、少しつり目な目は純粋そうでとても綺麗だった。戦闘服も露出が多くて、総じて見た目は陽キャオーラ全開なギャルのような人だ。


「お待たせー!! お、もう本体の方も片付いたんだ、さっすがいぶきち!」


依蕗姉に手で作った銃を両手で向けて、ウィンクをしながらはつらつとした声で言った。

見た目もギャルだけど、性格もかなりのギャルかもしれない。


「だからその呼び方は……、いや、もういいや……」


依蕗姉はいぶきちと呼ばれたことに対してか、諦めたようにぼそりと呟いた。

いぶきち呼びがなんだか可愛くて羨ましい。

きっと優しい依蕗姉なら許してくれるはず、私も今度いぶきちと呼んでみたい……。


ハーフツインの人が依蕗姉に駆け寄って、勢いよく依蕗姉に抱きついた。


「もうー、いきなり飛び出して行っちゃうんだら、びっくりしたんだから!」

「ごめん」


依蕗姉は目を逸らしながら謝っていた。


「強いからって、一人で飛び出していくのは無謀だぞ」


また出入口から声がして、そっちの方を向くと、先程聞こえたもう一つの足音の正体である人が立っていた。


前髪が目の辺りぐらいまでの長さで流されいる紫っぽい黒髪で、凄く上品な雰囲気な顔。

あれは正しく美男子と言ったところか。


少し見ていると気がついた、この人知ってる人だ。


「悠利……さん?」


悠利さんと思わしき人と目が合った。

心の中で思っていたつもりが、声に出てしまっていた。


「あおいか? ってモモもいるし」


悠利さんは私のことを見た後に、辺りを見回してモモの姿も見つけたようだった。


「あー、そういう事か……」


悠利さんは何か考えるように下を向いて顎に手を添えた。

何がそういう事なのかは私には全く分からなかったけど、今来た三人が依蕗姉が一人で突っ走って来たことに対して言っていたから、その辺の何かではあるのかなとは思った。


悠利さんは鬼崎家に仕える不破家の人で、鬼崎家にお邪魔した時に何度か会って、少し話したことがある程度だった。


久しぶりに会うから、一瞬誰だかわからなかった。

二年ぶりか、それ以上かもしれない……。


何が何だか分からずに静観する滝とモモと夏夜先輩に私、これは一体どういう状況なんだろうか。


「それで、えっと……、僕はどうしたらいいんですか?」


この場で一番状況がわからないであろう夏夜先輩が、どうすればいいのかと言うように片手を肩辺りまであげながら声を出して言った。

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