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妖魔執行人 〜永永無窮の呪い〜  作者: 冬時雨
成崎姉妹は普通じゃない編
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第四話 無能(2)

崎家、異能家系の名家にして、天明において王家に次ぐ権力を持つ執行官の家門。

現在は鬼崎、城ヶ崎、成崎の三つの家門があって、私その成崎の本家に生まれた。

優しい両親がいて、少し気が強くて当たりも強かったけど、なんだかんだで気にかけてくれる姉もいる。毎日が楽しくて幸せで、悩みなんて一つもなかったのに、七歳の誕生日が来るまでは。

七歳の誕生日が迫る度に、周りの人達は私にどんな異能が現れるのかと期待をしていた。けれど、誕生日当日を迎えてから数日経っても異能は現れなかった。

異能が現れる期間は個人差があって、七歳の子もいれば八歳の子もいるからと両親は慰めてくれた。

けれど八歳になっても、九歳になっても、十二歳になっても異能が現れる様子はなく、両親や姉は異能がなくてもあおいはあおいだからと、異能はなくても強くはなれると言ってくれた。

家族は許してくれても、周りの人達はそうではなかった。

崎家に生まれたくせに異能無しの無能、ただの凡人、期待外れだ、普通じゃないと散々嫌味口を散々言われた。私に向かって言うならば我慢はできた、全部その通りだったから。でも、成崎も落ちぶれたと家族まで侮辱するようなことを言われるのは決して許せなかった。

いつか嫌味口を叩いた奴らを、家族まで侮辱してきた奴を見返すためにも必死に強くなろうと毎日、毎日ひたすら刀を振り続けた。

けど、街中を親子で歩く人や友達と楽しそうに笑いながら歩いてる人達を見ると、あの中に入れたら私も普通もなれる気がした。だから高校は執行官育成機関学校には行かずに、地元から少し離れた普通の高校を選んだ。何度挫折しようとしても、刀を振るうことは辞めずに。



昔のことを考えて思い詰めても埒が明かない。

ここは夏夜先輩のことを滝に任せて、モモの方に加勢しに行くことにした。

土蜘蛛に八つ当たりでもしようと思う。


「モモの方行ってくるから、子蜘蛛でも油断せずに気をつけてよね!」

「成崎さんも気をつけて!!」


夏夜先輩の言葉にはいと返して土蜘蛛の方へと走る。

モモに夢中な土蜘蛛は、私が近づいてきいてるこに気づいていない様子だったから、勢いをつけて思いっきり上空に飛び跳ねて刀をぎゅっと握りしめて土蜘蛛の胴体目掛けて落ちる。


土蜘蛛はいきなり胴体に刀が刺さったことによって暴れ始めけど、そんなのお構い無しに私は刀に全体重を乗せて刺し続ける。


「あおい! ちょっとそのままで目閉じてろ!!」


土蜘蛛の真正面に立っているモモ。

モモが目を閉じろと言って、土蜘蛛の真正面に立っている理由と言えば一つしかない。


目を閉じた瞬間、眩しい光が瞼を通して伝わってくる。

光はほんの一瞬で消えて、私は目を開くと同時に土蜘蛛の胴体から刀を引っこ抜いて離れた。


土蜘蛛は、眩しすぎる光に目がやられてフラフラとしている。

目を閉じている間にモモは持っていた刀を鞘に収めて、光を帯びている剣を手に握っていた。

モモは土蜘蛛の顔目掛けて光の剣を両手で振るい、土蜘蛛の顔を切り傷をつけた。


光の剣、これがモモの異能。単純だけど、暗い中でいきなり使えば目眩しにも使えてかなり便利だ。


土蜘蛛は私に胴体をぶっ刺された挙句、モモにも顔を切られて随分お怒りの様子であちこちに糸を飛ばしながら暴れている。


ジタバタとしているだけなのに、無闇に糸を飛ばしてくるから近づけない。


しばらく近づけずに土蜘蛛の様子を伺っていると、足の方がやけに重いと思って見てみたら、いつの間にか子蜘蛛が私の足に糸を付けまくって動きずらくされていた。


「え……、嘘じゃん……」


足に登ってくる子蜘蛛を刀で払っていると、土蜘蛛の糸が飛んできたことに気づかずに思いっきり糸を食らってしまった。


蜘蛛の糸に捕まってしまい、身動きが取れないでいると、土蜘蛛は足を上から振りかざしてきた。


これは流石にまずいと思い、避けようとはしたけど動けず、諦めて目を瞑り覚悟を決めた。


攻撃はいつまで経っても来ず、おかしいと思い目を開くと目の前にはモモがいて、光の剣で土蜘蛛の足を止めていた。が、土蜘蛛の方が頭も良くて力も強かったみたいで、止めていた足とは違う足で私とモモは投げ飛ばされる。


投げ飛ばされた場所にはちょうどフェンスがあってぶつかった。


フェンスがあって良かった、なかったらこのまま落ちてるところだった。


「あおい! 怪我は!?」

「かすり傷だけ!!」


モモが庇ってくれたおかげで怪我は軽く済んだ。モモも見た感じ大きな傷は見当たらなくて軽症で済んだようで良かった。


子蜘蛛を蹴散らしてた滝と夏夜先輩が駆け寄ってきて、滝は蜘蛛の糸にぐるぐる巻になって地面に転がる私を見つめながら何か言いたそうにしていたけど、言わずに傍にしゃがみ込んで無言で糸を切り出した。


「え、何!? 今なんか言いたそうにしていたよね!?」

「別になんでもないけど、強いて言うならチョココロネみたいだなって思っただけ」

「いや、どういうこと!?」

「「確かに」」

「モモいいとして、夏夜先輩まで共感できるのこれ!?!? 私一切分からないんだけど、チョココロネよりも、えっとなんだろう、桜餅の葉っぱ」


「「「……」」」


三人とも静まり返った。

言ったはいいものの、私も気がおかしくなったのか咄嗟に出てきた桜餅の葉っぱというのは意味がわからなかった。


「やっぱりチョココロネでいいよ、今の忘れて……」


穴があったら今すぐにでも入りたい。糸とかどうでもいいぐらい入りたい。


「てか、こんなこと言ってる場合じゃないからね!?」

「はい、切れた」


滝は変なことを言いつつも糸を全部切ってくれていた。


「あ、ありがとう」


お礼を言ってすぐに気づいた、モモと滝の足が、さっき見た私の足と同じ光景になっていることに。そう、子蜘蛛が糸を張っていた。


途端に夏夜先輩が「危ない!」と声をあげた時はもう遅かった。


滝とモモは土蜘蛛の糸によって一瞬でフェンスに貼り付けられてチョココロネになっていた。


視線を横に向けると、土蜘蛛がまた糸を飛ばしてきた。

二人のためにも今度絶対に切ってやると思い、刀を抜刀しようと右手を左腰の方に伸ばしてもそこには刀はなかった。

さっき糸でぐるぐる巻きになった時に、刀を落とことを思い出した。


もう間に合わない、そう思った瞬間には私ももうフェンスに貼り付けられてチョココロネになっていた。


夏夜先輩だけでも逃げて欲しいと言おうとしたら夏夜先輩が短刀を握りしめて私達の目の前に立った。


「夏夜先輩何してるんですか!?」

「もうすぐ本隊の人が来るんだよね? だったらそれまで僕にも君達を守らせてよ」


土蜘蛛が狙いを定めるように睨みを効かせていた。


「雨宵先輩はただ巻き込まれただけなんすから、今すぐ逃げてください!!!」


モモが声を荒らげて言う、けど夏夜先輩は言うことを聞かない。


「ここまで守ってもらってばかりだったから、それに……、怖かったけどこうしてわちゃわちゃするのも楽しかったから」


夏夜先輩に不安そうな様子があんまりなかったのは楽しんでたからだったんだ。

こういう事態になっておいてあれなんだけど、実は私も結構内心楽しかったりした。


いや、だからそんなことを思っている場合じゃない。

土蜘蛛の方を見ると、狙いが定まったようで糸を出そうとしているところだった。



「夏夜先輩!! 来ます!」


叫ぶと同時に糸が飛んできて、夏夜先輩は身構える。真正面から受けるつもりのようだ。


受けるよりも避けてくれと思って静観していると、糸は夏夜先輩の前でピタリと止まっていた。

夏夜先輩は止まった糸を瞬時に短刀で切り、数秒後、いや一秒程で止まっていた糸はパラパラと地面に落ちていった。


きっと滝とモモ同じことを思ったに違いない。これは……


「夏夜先輩……、それって……」


言おうとした瞬間、後ろから青い光が差し込んできた。


瞬く間に青い光ではなく、青い炎、蒼炎が目の前に広がり、子蜘蛛がどんどん燃えて消えていく。


頭上から陰が降ってきて、夏夜先輩の前に人が落ちてきた。

青っぽい黒髪を後ろで三つ編みでまとめいる女の人。

私はこの人を知っている。

三つ編みをゆらゆらと揺らしながら振り返ってくる。


依蕗(いぶき)姉!!」

「遅くなってごめん、ちょっと途中で一反木綿に絡まてちゃって」

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