第二話 図書室
深夜の校舎を全速力で駆け回る四人の高校生。ただし、土蜘蛛に追われながら。
たったの数分生徒会室にいただけなのに、廊下に出ると蜘蛛の糸だらけになっていた。
走りながら、目の前の糸を刀で切ってはいるが、捌き切れず絡みついてきて走りにくい。
「要請出した!?」
「ちゃんと出したわよ! とにかく誰か来るまでは走って!!」
どうやら滝は逃げる時に、咄嗟に要請を出していたらしい。
土蜘蛛は校舎なんかお構い無しに壊しまくりながら追いかけてくる。
修繕費がだいぶ貸さみそうだ。
それにただ追いかけて来るならまだしも、さっきから糸も飛ばして来て結構ウザイこの土蜘蛛。
飛んで来た糸は私達の最後尾を走っているモモが切ってくれているおかげで、被害は全然ないんだけど。
夏夜先輩はと言うと、私達同様に必死に走ってくれている。
「成崎さん、あれは土蜘蛛でいいんだよね?」
「はい! 疑う要素もなく、見たまんま土蜘蛛です!! 普通は山とかにいるんですけどね!」
「飛べ!!」
モモが突然大声を出したと思ったら、土蜘蛛が私達の足を引っ掛けて捕まえようと思ったのか、脚を地面をすって振り払うかのように足元に攻撃してきた。
私は夏夜先輩の腕をすかさず掴み一緒に飛び、滝もモモも無事この攻撃を交わすことができた。
廊下の突き当たりを右に曲がると、土蜘蛛は対応出来なかったのか、勢いよく壁を破って外に落ちて行った。
私達は一旦足を止めて、土蜘蛛が壊した壁に行き下を伺った。
そこにはひっくり返って餅つきをしてしまった人のように土蜘蛛が脚を上に向けて固まっていた。
相当痛かったに違いない。
「どうする? もう下からの脱出は無理だぜ?」
本来は逃げながら一階に逃げて学校から脱出したかったのだが、土蜘蛛が一階の出入口付近に落ちたため、惜しくも一番安全な脱出方法はできなくなった。
「こうなったら、執行官が来るまで上に行ってどこかの部屋で隠れるしかない!」
ということで、三階から四階に移動して土蜘蛛から一番離れた図書館で身を潜めることにした。
「ここなら少しの間は、大丈夫なはず」
私は滝と夏夜先輩と一緒に図書室の一番奥の本棚間に身を潜める。
モモは廊下と窓、土蜘蛛がどちらから来てもすぐ逃げれるよに見える場所にいてくれてる。
馬鹿なのにこういう時は妙に頼れるんだよなー。
「あの……夏夜先輩、巻き込んでしまってすいません」
夏夜先輩を巻き込んでしまったのが気がかりで、なるべく小さな声で謝った。
「成崎さんが謝ることじゃないよ、それに元はと言えば僕が学校に忍びこんだのも悪いんだし」
「夏夜先輩は本当はどうして学校に忍び込んだんですか……?」
「恥ずかしい話なんだけど、課題を学校に忘れててね。別にこうして取りに来てまでやらなくても良いんだろうけど……、生徒会長が課題をし忘れたら皆に示しがつかないと思ってね」
「それだけ……、ですか……?」
「それだけだよ。先生に連絡したらこんな深夜取りに来なくてもよかったんだけど、学校に忍び込むとか、一度やってみたかったんだよね」
夏夜先輩はきっと不安なはずなのに、あははと笑って場を和ませようとしてくれた。
「雨宵先輩でもモモみたいなこと考えるんですね」
滝が端末を確認しながら横からサラッと言ったけど、滝も前に忍び込んでみたいとか言ってたよね!?
「確かに、城ヶ崎君なら考えていそうだね」
夏夜先輩が楽しそうに笑う。
土蜘蛛から隠れている時にこんな悠長な会話をしていていいのかな。
「いやーでも、夏夜先輩も意外と普通なんですね」
「そうかな?」
夏夜先輩は生徒会長として、成績優秀で優しくて、皆から尊敬されている。
だからこそ考えることはもっと私達が考えるよりも遙かに想像もできないようなことを考えていると、思っていた。
「何でも完璧な姿見てたら本当に同じ人間なのかと疑っていましたよ。そんな先輩も皆が一度でも思ったことがあることをするなんて、安心しました!」
滝が詳細の報告を終えたのか端末をしまい込んでから口を開いた。
「本隊の人がもう近くまで来てるって」
本隊の人が来ると聞いて少し安心した。
あんまり本隊の人と話したことはないけど、その活躍っぷりは知らない人はいないほど強い。
一夜の隊制度はまず八区域ごとに分けられていていて、その中の壬隊と言うのが私の所属している隊。隊の中でも執行官の階級により下から、分隊、中隊、本隊と分けられている。
今私が所属しているのはその中の分隊で、主に妖魔がその場所に本当にいるかどうかの調査やその他諸々の雑用をしている、ある意味底辺執行官。
中隊は四級から特一級と分けられている妖魔の内の、四級から一級と判断された妖魔の執行、中隊が大全隊を支えている主力部隊でもある。
本隊は、四級から特一級の妖魔執行を担当していて、一隊の中の精鋭が揃う部隊。
だからこそ、本隊の人達が来るということは、このまま土蜘蛛に見つからなければ勝ち!
「夏夜先輩! このままここで見つからずに隠れ続ければ私達は生きて帰れますよ!!」
「成崎さん声抑えて」
「あ、すみません……」
やってしまったと口元を手で塞いだ。
さっきからずっと思ってたけど夏夜先輩が冷静すぎる、私達よりも冷静なんじゃ……?
元々慌ててるような姿を見たこともないし想像もできないような人だけど、ここまで冷静差を保たれているとなんだかちょっと怖いまである。
少しの時差を置き、見張り役のモモが突然慌てたように振り向いてきた。
「え? どこが来るって?」
「壬隊本隊」
滝が隙なく答えると、モモが急に冷や汗をたらたらと流し始めた。
一体何に焦っているというのか、だってあの本隊の人が来るのに心配事なんて一つもないんだから。
「どこの班が来るとか聞いて……」
モモの言葉を遮るように、突然図書室のドアがモモの後ろをものすごい速さで吹っ飛んでいった。一瞬見えたけど、蜘蛛の糸を絡ませて吹っ飛んでいったのだ。
しばらくの沈黙が流れたあと、全員がゆっくりとドアの方を見た。
廊下には土蜘蛛が子蜘蛛も連れてそこにいた。
「えー……、子蜘蛛もいたの……か」
土蜘蛛は突然現れる時、誰かが何かを言っていて、その言葉を遮るように現れる。
タイミングがいいのか悪いのか、わからない。