第五十七話 最悪の共闘
「……それじゃあ、最高の共闘を始めようじゃないか!!」
ナベリウスが両手を広げて大きく叫ぶと、立ち上がった伯奇も巨大な咆哮と共に、口から吐き出された生暖かい湿った空気が討伐隊に降りかかる。
討伐隊のメンバーはそれぞれ己の役割をまっとうする為の道具を構え直し、また新たに帯を締め直す。
ナベリウスの隣に立ち、最前線に居るアルベルが振り返った。
「よし、さっきと同じ感じで行くぞ……!」
その言葉に一同は頷き、近接部隊は剣を、後衛達は杖を構えたり魔術を使うためにオドを集中させたりしていた。
アルベルもその光景を見て頷き、天才軍師へと声を掛ける。
「そんじゃあここの指揮はドラード、お前に任せ――」
アルベルがドラードにその言葉を言おうとした瞬間、アルベルの言葉は急に途切れ、討伐隊の目の前から地面から挙げられた砂埃と共にアルベルとナベリウスの姿が一瞬にして消えた。
「あ…………」
その場にいる全員が目の前の出来事に頭が着いていかず、ついポカンと口を開けて呆然としてしまう。
突然目の前からいなくなった事、二人を目で追っていたが、流石に急な出来事だった為驚いている者と、それぞれの反応は別々だった。
しかし彼等はどこか違う空間に消し去られた訳では無い。
それは次の瞬間に誰もが理解した。
「……あのよぉナベリウス。」
「ん?なぁに?」
凄まじい風圧が容赦なくアルベルの顔を叩きつけた。
冷たい風がまるで鋭い刃のように肌を切り裂く感覚を残し、目を開けているのがやっとだった。
視界の端でチラチラと景色が流れていく。
大地が遠ざかるにつれて、地面の細かい起伏はただの模様となり、山や森の影が一つの巨大な塊に溶け込んでいく。
今、アルベルは、ナベリウスの小脇に抱えられていた。
「なぁーにしてんだお前ぇぇぇ!!」
アルベルは大声で叫んだ。
何故自身が本日二度目の、誰かの小脇に抱えられているのか、ただのジャンプでここまで飛んでいるのか、その考えが出てきたのは、ナベリウスに対して大声で叫んだ後だった。
「だって、こっちの方が速いじゃないか。」
「速いかもしれねぇけどよ!違ぇだろ普通!なんかもっとこう、皆で作戦通り行くぞ!……みたいな雰囲気だったじゃねぇか!それなのになんで一番戦闘能力の低い俺を小脇に抱えて連れてくんだよ!どうせならデルミアとかガヴェルドとか連れて行けよ!」
伯奇まであと少し、今更文句を垂れるアルベルにナベリウスは少しだけ悲しそうな顔をする。
「だって、僕は君と一緒に居れる、たったそれでいいからさ。正直、他の人達と共闘するメリットが無いんだ。君の言うデルミアやガヴェルドが100人いても、僕には勝てないしね。だから僕と君だけで行った方が良いんだよ〜。」
その言葉にアルベルは耳を疑う。
ガヴェルドの実力は自信満々に言える程知らないが、デルミアに関して言えばその実力をよく知っている。
大剣を小型ナイフのように振り回し、狭い通路でもその巨大さを感じさせない程細かく繊細に大剣を扱う彼女の経験値は底知れない。
彼女は三つの流派を扱うことが出来る。
本人は天川流を得意としていると言っていたが、彼女は王国騎士団特別指南役だ。
王国騎士団に広く教えられている王国流剣武術の元となった護陣流も相当扱えるだろう。
そして攻撃に特化した同系統の流派である鬼獣流も、並大抵の者には負けないだろう。
そのデルミアが100人いても勝てない。
ものの例えにしては随分と大袈裟な気がした。
しかしこうも思う。
この男から発せられる威圧感とプレッシャーは、以前よりも大きく、そして凶悪になっている……と。
あながち先程の発言も嘘では無いのかもしれない。
こちらの最高戦力を無力扱いされて少し憤ったアルベルだったが、今は伯奇に集中すべきだろうと、気持ちを切り替えた。
「……なぁ、そういやよ。」
「ん?なんだい?」
「お前の能力まだ聞いてねぇんだけど。」
ナベリウスはあんぐりと口を開けているのがマスクの上からもよくわかった。
アルベルはその間の抜けた表情思わず呆れてしまった。
おいおい嘘だろ。
まさか「忘れてた」なんて言わねぇだろうな。
つい今しがたの事じゃねぇか。
するとナベリウスは小脇に抱えたアルベルを腕の内側で支え、わざわざ両手を使って掌をポンと叩いた。
「そうだそうだ忘れてた。」
言いやがりましたよこの野郎。
興味ねぇもんには極端に疎いな。
「じゃあ実践で見せるね!もうちょっとで伯奇の背中に乗れるから。」
またしてもアルベルは突然言われた事に「は?」と言ってしまった。
その言葉を言われてから下を見下ろすと、アルベルを抱えたナベリウスは既に伯奇の背中の上まで飛んでいた。
「たっっっっっけぇぇぇぇぇ!!!」
ナベリウスとの会話に集中し過ぎて周りを見ていなかったのは否定しないが、それにしたって高いし突然過ぎる。
前世で車に撥ね上げられた時の事を思い出してしまった。
アルベルが悲鳴を上げていると一定の所で止まり、そのまま真下まで落下した。
「いぃぃやぁぁぁ!!!!」
その落下は、パロミデスにステンチューへ招待され、地下迷宮へと落とされた時の感覚に似ていた。
地面に顔がぶつかると思ったアルベルは顔の前方を両腕で防いだ。
しかし、ズゥンと重苦しい音が響いたが、アルベルにはなんのダメージもなかった。
恐る恐る目を開けてみると、ナベリウスの顔が良く見える。
体勢から考えるに、アルベルはお姫様抱っこをされているのに気がついた。
「大丈夫かい?凄い悲鳴だったよ。」
ナベリウスは何の悪気も無いような瞳で見てくる。
下まつ毛が長く、顔に対して大きな瞳がアルベルを見つめている。
アルベルもその目見返したが、ナベリウスの目を見ていると、何かに吸い込まれそうな気がしてすぐ目を外してナベリウスの手の中から降りた。
「……礼は言わねぇぞ。」
「くぅ〜!!アルベル君は相変わらず釣れないねぇ〜!!ん ……だが、そこもいい!!」
意味の分からないガッツポーズをとるナベリウスを放っておき、アルベルは伯奇の背中を上を歩いた。
背中から見える皮膚の上は先程、聖流一家やシャーフェリアの人達に斬られた所から血が吹き出している。
しかしビンスの言う『瘡蓋』とやらのせいで傷が塞がっているのもチラホラある。
そして遠くからではよく見えなかったが、本当に背中には硬い皮膚……ほとんど鎧のようなものがあった。
しゃがんで触ってみると、前世でもこの世界でも触れたことの無い感触だった。
「金属に近いけど、表面がなんかザラザラだな。それに……」
アルベルは手の甲でそれを叩いてみた。
しかし、コツコツと自分の手の甲の骨が鳴る音しか返ってこなかった。
その次に試しにデルセロを突きつけてみた。
デルセロは武性を解放する前でも、数多の魔術を耐え抜くオーガトロルの皮膚を貫ける程の斬れ味を持っている。
力を入れなくともそれは斬れる。
しかし、触れさせただけではやはり斬れず、力を入れて刺してみてもやはり傷一つつかない。
「叩いても響かねぇ。デルセロでも斬れない。オマケに表面がザラザラで光沢も無い。やっぱこれって金属じゃなくて本当に皮膚なのかもしれねぇな。」
「それは『鎧骨格』だよ。」
少し遠くから声が聞こえる。
それは先程まで謎のガッツポーズをとっていたナベリウスだった。
「外骨格?」
アルベルは聞き馴染みのある言葉に聞き返した。
「いや、鎧の骨格さ。体の一部分だけど鎧みたいに発達しているんだ。ほら、食べた事無い?海老とか蟹とかバッタとかサソリとか……」
「待て待て待て!最初の二つは食うけど残りは絶対食わねぇって!」
アルベルは目の前の男の言った言葉の半分を否定した。
まさかこいつ、バッタとかサソリか食った事あるんじゃねぇだろうな……と下がりに下がっている好感度が更に下がった。
「あぁ、そう。……まぁだから、外骨格ってのも皮膚ってのもあながち間違いじゃないよ。」
アルベルの考えを肯定しつつ、ナベリウスは正解を言う。
これがこのデカブツの体の一部分ならば金属の特徴を持っていない事も、触ったことの無い感触なのも納得がいく。
「そんじゃあお前のスキル見せてくれよ。それが共闘の条件つったろーが。」
アルベルは共闘の条件を提示する。
本来は能力を教える、というのが条件だったが、本人が見せた方が早いと言う為、急遽見せることを共闘の条件とした。
「分かったよ。それじゃあアルベル君、おんぶするから背中まで来て。」
「は?なんで。」
「いいから!そうしないと危ないの!」
ナベリウスは地団駄を踏んだ。
たった一蹴りで伯奇の真上にまで飛び上がれる脚力だ。
踏まれている伯奇がなんだか気の毒な気がしてきた。
「わーったよ。……言っとくけど、変な事すんじゃねぇぞ。」
「分かってるって〜。ささ、早く乗った乗ったぁ!」
「はぁ……調子狂うぜ。」
アルベルは嫌々ながらナベリウスの背中まで歩み寄り、背中を丸めて待機しているナベリウスの背に乗った。
身長がアルベルより10cm程高い為、少々乗るのに苦労したが、肩にしがみついて何とか乗り、前面をナベリウスの背中に預けた。
体格通りの広い背中は安心感だけは抜群だった。
ただこの不快感さえ無ければもっと良かっだろう。
「うひょー!!アルベル君の胸の感触!!僕ぁ幸せだなぁ……」
「てめぇ……いい加減にしねぇとぶん殴るぞ。」
アルベルは握り拳を作って振りかざす準備をした。
いい加減この男の発言は気持ち悪過ぎる。
アルベルに"そっちの気"は無い。
彼には心に決めた女性がいる。
その娘の事を思い浮かべて、アルベルは何とか拳を引っこめる。
「ごめんって、ついつい嬉しくなっちゃって。……それじゃあいくよ。僕の力、よぉく見ててね。」
先程の発言から急激に見る気の失せたアルベルは「見飽きたわボケ。」と言おうとした。
そして次の瞬間、ナベリウスが手をかざした伯奇の鎧骨格の部分がひび割れ始めた。
メキメキと音を立てるそれは、簡単には割れるハズの無い物であることは、先程確認している。
しかし、最終的にはとてつもない速度を纏い、周辺へと砕け散った。
それに伴って大量の血飛沫が飛び出した。
「うおっ!」
アルベルはその血飛沫に思わず手で顔を覆った。
斬った時とは違う傷口が、修復しにくく破壊される。
鎧骨格と言っても、外骨格とは違い、その骨格の中にも血管があるようだ。
その為伯奇も背中の鎧骨格が砕かれた事で痛みを感じ、大きな悲鳴を上げている。
「これが僕の力だよ。」
アルベルを背負って飛び出す血飛沫の中空中へと跳び上がったナベリウスが、アルベルに向かって言う。
「いやいや、こんなんじゃ分かる訳ねぇだろ!何が起こったのか分かんねぇ内にあいつの背中が砕けただけじゃねぇか!お前のスキルって対象を爆発させたりするんじゃねぇのかよ!?」
今のでさも分かって当たり前、と言いたげな言い方をしたナベリウスに怒りを顕にしたアルベル。
すると詳しく説明するようにナベリウスが口を開いた。
「虫、植物、獣、魚、人間……これらのように、生物には全て『欲』がある。自ら操れる『欲』、性欲、睡眠欲、金銭欲、承認欲、支配欲、知識欲、愛情欲、美欲、収集欲、自己実現欲。そして、自らではどうしようもない『無意識の欲』、食欲、成長欲、復讐欲、生存欲……。僕はそれらの欲を操って増幅、減少させられるんだ。」
「……それがなんで爆発に繋がるんだよ……。」
「簡単さ。僕は君達の『無意識の欲』の一つである『生存欲』を増幅させている。生きようとすれば体が血液を作り、それを各部位まで運んでいく。息をすれば肺が膨らみ、それによって取り込まれた空気が血液に乗って身体中を巡る。それを増幅すればどうなるか分かるかい?」
その言葉を投げかけられ、アルベルの中に一つ、恐ろしい考えが思い浮かべられる。
それは我々生物にはどうしようも無い物であり、防ぎようの無いものだった。
「……まさか……」
「そう、限界まで膨れ上がった肺や血管、心臓達が爆発して、死ぬ。それが僕のやっている殺し方だよ。正直、人体に伸縮する部分がある限り、僕はこの力を行使できる。」
「それで今、あいつの鎧骨格の中にある血管を破裂させて内側から破壊したって事かよ。それにしたってなんつー破壊力だ……。」
アルベルはナベリウスに持ち上げられた状態で真下の血の噴水を見つめる。
口で原理を言われるのは簡単だったが、実際に威力を目の前にすると末恐ろしい。
「これが欲の増幅で出来るっつーのがまた恐ろしいな……。デタラメ人間の万国ビックリショーかよ。……ん?待てよ?じゃあ、お前が他人に変身出来るのってなんでなんだ?」
次から次へと疑問が止まらない。
分からない事があればすぐ聞いてしまうのは、前世からのアルベルの悪い癖だった。
少しは自分の頭で考えた方が良かったのかもしれないが、正直面倒臭いというのが本音だった。
しかしアルベルがそう聞いたのにも理由がある。
それは、アルベルの前で一度、他の人間の姿に変化した事があったからだ。
その事もあって、彼の能力について考えるのに随分苦労した。
そんなアルベルに全く嫌味も無く、ナベリウスは淡々と答える。
「僕は他者の欲だけじゃなくて自身の欲も操れるんだ。誰かみたいになりたい。誰かになりたい。そんな欲、誰にだってあるでしょ?それを増幅させて、本人に限りなく近しい状態になれるんだよ。それとはまた違うけど、さっきのエルフの人の剣を防いだのも欲の操作なんだ。肌だって筋肉だって、押せば抵抗があるでしょ?僕はそれを『生存欲』として捉えてる。だから反発するの肌の生存欲を強化して斬撃を耐えたって訳。……でも、あんまりやり過ぎると文字通り体が爆発しちゃうんだけどね。ナハハハ。」
こいつ……シャレにならねぇ……。
なんでこんな事笑いながら言えるんだ……。
「そんじゃあ、俺の疲労を消したのも、俺の体を成長させたのも、体が疲労を治そうとする無意識の欲とか、体が成長しようとする無意識の欲を増幅させたって事なのか?」
アルベルは自身の体の疲労が治った理由や、7歳の体を17歳前後まで成長させられた理由を自身の見解で話した。
今の説明を受ければ何となく説明がつく気がしたからだ。
するとナベリウスは
「大正解っ!!」
とアルベルを落としそうな勢いでアルベルを空へ高らかに投げ、その後お姫様抱っこでキャッチした。
「何考えてんだてめぇ!ふざけんなよ!危うく死ぬとこだっただろうが!!ぶっ殺すぞ!!」
口から自然と出る罵詈雑言をあびせ続けるが、ナベリウスは微塵もダメージを食らっている様子がなかった。
その様子に呆れたアルベルは諦めた。
「はぁ……もういい。とりあえず背中の装甲が剥がれた今、伯奇にダメージが入りやすくなった。……ナベリウス、俺の声を出したいって欲をデカく出来るか?」
アルベルはナベリウスに聞く。
すると彼は嬉しそうだったが、同時に困惑の色を顔に浮かべていた。
「出来るけど……いいのかい?だって君は僕が嫌いで話も聞いてくれなくて……でも僕からは情報を絞り取ろうとする……なんだか僕の琴線に触れまくりな人だね!僕の内に秘めるMの要素が飛び出しそうだよ!」
「だー!!うるせぇな気持ち悪ぃ!!いちいち気色悪い事言ってんじゃねぇ!お前の事は大嫌いだし、俺がSなのも納得してねぇけどよ!!……この短時間で、多少なりの信頼は得られた。」
ナベリウスはアルベルの話を黙って聞いている。
その顔はアルベルな口から自分に対するプラスの言葉が出てきた事に驚いている顔だった。
「お前は自分の所属してる組織の信仰対象を平気で傷つけた。何がお前をそこまでさせるのかは理解出来ねぇけど、伯奇への敵対は信頼してもいい。……だから、その為の俺の犠牲は心配してねぇ。」
「アルベル君……」
「……さぁ!さっさとやりやがれ!ドでけぇ爆音鳴らしてやらぁ!!」
「〜〜〜〜ッ!!!やっぱり君は最高だぁ!!!」
そう言うとナベリウスはアルベルの喉を掴んだ。
一瞬、息が出来なくなる程締め付けられたが、その後すぐに喉が透き通るような感覚がした。
そしてアルベルは大きく息を吸い込み、腹の底から声を吐き出した。
「よぉく聞けぇぇ!!!!討伐隊!!!!」
数km先まで届きそうなほど巨大なアルベルの声は、突然消えたアルベルとナベリウスの事に唖然としている討伐隊のメンバーに届くには十分だった。
その一言を言い終えると、再び大きく息を吸い込み、今までに無い程の勢いで吐き出す。
「総・攻・撃だぁぁぁぁ!!!!」
その言葉を聞いて、困惑していた者すらも一瞬で顔つきが変わる。
デルミアからはアルベルの姿が確認できなかったが、アルベルに合わせて頷くように頷いた後、大剣を掲げて指示を飛ばした。
「全員総攻撃だ!!あの馬鹿者に我々も続くぞ!!」
伯奇へと、大きな雄叫びを纏った集団が特攻していく様子がアルベルからもよく見えた。
抱えられているアルベルはナベリウスにも指示を出した。
「おい、俺の肉体、もっと強くできるか?」
アルベルがそう聞くと、ナベリウスは不敵な笑みを浮かべる。
アルベル自身も、先程の声が大きくなる事でナベリウスの能力に味を占めていた。
だが今はこれしか無い、とリスクを考えず口にした言葉でもあった。
「フフ……もちろん!僕好みの細マッチョにだってしてあげられるよ?……でも、どうしてまた?」
「お前の好みはどうでもいい。やれんならやってくれ。だが筋肉だけをだ。またいきなり体ごとデカくなったら慣れるまで時間がかかっちまう。」
アルベルは自分なりに考え、やれる事を挙げていった。
今のアルベルの身体能力は、一般の騎士としては弱く底辺の方だ。
その肉体を一般人レベルにまでナベリウスに上げてもらう事で、身体能力の限界値の上昇、それをデルセロで更に解放する。
そうする事で今までよりも強い力を手に入れられると考えた。
「じゃあ、降ろすよ。そのまま戦ってきてね!流石の僕でも一撃でこいつを爆発させることは出来ないから、色々な所を攻撃してくるよ。」
「おう、そんじゃあ頼むぞ!」
アルベルがそう言った瞬間、ナベリウスは空中からアルベルを落下させた。
そこは伯奇からは死角となっており、ナベリウスの能力でアルベルの肉体が成長するのにいい時間稼ぎになった。
そして落下している間も、討伐隊のメンバー達が伯奇へ攻撃を仕掛ける。
その夜余波をアルベルも肌で感じ取っていた。
さぁ来い……!
あん時の……体の内側から爆発するみてぇな痛み……!
こちとらもう引き返せねぇんだ!
痛みぐらいで気絶してらんねぇんだよ……!
アルベルが心の中で覚悟の叫びをした瞬間、それは突然襲ってきた。
「――ッ!!!!!」
内側から何かが破裂しそうな感覚。
体中の肉と細胞が膨れ上がり、空気に晒されているだけでも失神する程の痛みが毎秒襲ってくる。
骨が砕け、内蔵が引き裂け、筋肉達が神経という神経を締め付ける。
この痛みは、体を大きくされた時よりもキツい痛みだった。
しかしアルベルは必死に声を抑える。
声を吐き出したが最後、意識を持っていかれそうな気がしたからだ。
――彼は一体、何秒落下しただろうか。
それは本人にすらも分からず、地面が激突する直前まで痛みは続いた。
落下してくるアルベルにいち早く気がついたビンスが、後衛の遠いところから翼足獣に乗って駆けつける。
自分の主であるアルベルが落下したのを目視した翼足獣も、全速力でそこへ走っていく。
そして、落下してくる彼を、彼女達は空中で受け止めた。
ビンスは真っ先に声をかけようとしたが、ビンスの口に手を出したアルベルは彼女の言葉を止める。
「受け止めてくれてありがとうな。……けど、もう大丈夫だ。」
ビンスはアルベルの体が少しだけ大きく、そして屈強になっているのを感じて、自分の手は借りなくても大丈夫なのだと察した。
「ここで降ろしますよ。」
「あぁ、悪い。」
そう言って伯奇を正面に捉えた場所で、アルベルは降ろされた。
デルセロを握り直して手の感触を確かめる。
「アルベル様、ご武運を。」
その言葉を残して、ビンスは後衛へと戻って行った。
ビンスからの言葉を受けて、ニヤリと笑ったアルベルは正面に向き直って掌に拳を打ちつけて叫んだ。
「新生アルベル!!バリンバリンの本調子だぜ!!」
屈強な肉体、しかし俊敏性を損なわせないようにバランスよく調整された筋肉。
デルセロを握る腕の力は明らかに以前より強くなっている。
背丈は変わらないのに力だけが増しているのを、アルベルは感じ取っていた。
そんなアルベルが伯奇を睨みながら呟く。
「覚悟しろ、デカブツ。こっからが本番だ……!!」
アルベルは再び、決着をつける為に伯奇の元へと走り出した。
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