第五十六話 嫌悪の提案
今回不毛で意味の無いセリフが大量にあるのですが、それも含めて彼の魅力なので、嫌がらず読んであげてください。
それではどうぞ。
「助けに来た」
目の前の男はそうほざいた。
赤く派手な髪色と、初めて会った時から全く変わっていない白い服装。
その場に不釣り合いなほど目立つ姿は、焼け焦げた大地の上で妙に浮いて見える。
仮面はそのまま彼の顔を覆い隠し、素性を隠しているつもりなのだろうか。
しかし、それがより異様な威圧感を生んでいる。
もしかしたら、こいつの所属している組織の制服のようなものなのかもしれない。
しかも、その仮面――以前、俺が米と味噌汁を食べたいと言った時に偶然遭遇し、デルミアとビンスが捕まえてきた者が着けていた仮面と同じだったのだ。
それは正しく――十戒の一般構成員の仮面だ。
「なんでテメェがここにいやがる……!」
アルベルは地面に伏せながら吐き捨てるように言った。
デルセロの武性発動の反動による疲労で起き上がれない彼には、嫌悪感と憎悪しか抱けない相手へ声をかける事しか出来ない。
焦げた地面の熱気が肌を刺すように痛い。
かつて草原だった場所は黒い焼け跡とくすぶる煙に覆われ、風が吹くたびに灰が宙を舞った。
鼻に詰まるような焦げた匂いは、辺りに満ちた緊張感と不快感を増幅させる。
魔獣王と同じく、長年にわたって人々を恐怖させてきた犯罪組織『十戒』。
元々は原初の魔術師を信仰しているだけの健全な集団だったという。
だが、三百年近く前からその動きは過激化し、今や裏社会での頂点――ただの犯罪者の集まりとなっている。
しかし、その信仰の根っこは変わらない。
原初の魔術師や彼が作り出した魔獣王をいまだ信仰の対象としているのだ。
魔獣王にわざわざ殺されに行く熱心な信徒がいるほどに。
そんな組織に属する九人の幹部。
彼らの素性はほとんど知られていない。
容姿や性別はおろか、名前すらも分からないのだ。
その理由は単純で、彼らと遭遇したが最後、十戒の構成員に殺されるのが常だからだ。
出会ってしまった時、選択肢は二つしかない――
『逃げる』か『殺す』か、だ。
彼らと出会えば中途半端は許されず、両極端の選択肢しか残らない。
逃げ切れれば運が良いが、殺さなければ殺される。それがこの国、この世界での暗黙の了解として共有されている。
だが、目の前の男は違った。
この男、十戒支部局長『飢餓』の依代――ナベリウス・ガーレイン。
彼は他の幹部とは異質だった。
彼の判断基準は奇妙だ。
殺す相手と見逃す相手を己の裁量で選び、その結果、俺は見逃された。
だが、その場で王国騎士団の人間が二人、謎の爆死を遂げたのを目の当たりにしている。
彼が持ち出した判断基準――『飢餓っている人間』。
そして、本人が背負う『飢餓』の名を冠する原初の魔術師。
その言葉や名から考えるに、『飢餓』とは『欲望』の事なのだろうと、アルベルは推測していた。
それらの事実を総合すると、彼が今この場に現れた理由は、アルベルにもおおよそ想像がついていた。
「えー、せっかくの再会なのに冷たいなぁ。まぁ君のその知りたいっていうのも『飢餓』だ。僕は君の全てを肯定するよ。」
ナベリウスの声は柔らかいが、その意味のわからない言葉に、アルベルは一層苛立ちを覚える。
すると伯奇の攻撃が一旦止んだ事で落ち着きを取り戻した討伐隊のメンバーが、突然草木が生えたアルベルの方を見ていた。
そしてちらほらとナベリウスに対する疑問とアルベルへの心配の声が聞こえてくる。
「なんだあいつ……」
「一体どこから出てきたんだ……。」
「アルベル部隊長は無事か……!?」
「どこからあんな大きな木や草が……?」
「あの仮面……十戒のじゃないのか?」
「それが本当ならアルベル部隊長が危ねぇぞ!」
「魔獣王だけでも大変なのに、こんな時に限って……!」
「アルベル部隊長は今動けねぇ!早くあいつを殺すぞ!」
「殺らなきゃ殺られるぞ!」
周囲のざわめきが増し、次第に不安と焦燥が隊員たちを包み込む。
ナベリウスが十戒かもしれないと分かると、ナベリウスが何者なのかという声より、アルベルを心配する声からナベリウスを殺すという物騒なものが増えてきた。
それがこの世界の暗黙の了解を物語っている。
するとまたしても唐突に物事は運んだ。
凄まじい風がアルベルの頬を撫でた。
しかしそれは伯奇の打ち出した風ではなく、何者かが通り過ぎた時に生じた突風だった。
その通り過ぎた者とは、デルミアだった。
「貴様、何をしに来た。円卓会議での一件、忘れたわけではあるまいな。」
デルミアが一瞬にしてアルベルとナベリウスの隣まで迫ると、ナベリウスの首元に鋭い刃を突きつけながら、冷徹な声で問い詰めた。
空気が一気に冷え込むような緊迫感が走る。
アルベルからはデルミアの顔は見えないが、彼女が握る剣の柄は、握力の強さで軋むように音を立てていた。
怒りの感情を必死に抑え込んでいるのが、ただの立ち姿からも伝わってくる。
「あ?誰、お前。……ってなんだ、あん時の。……へぇ……なるへそねぇ。」
一瞬だけアルベルから視線を外したナベリウスは、デルミアの顔を見て興味を持った様子だったが、その視線は、デルミアを警戒しているよりも、憐れんでいるようにも見えた。
そして、まるで一人で納得したかのように「そうだそうだ」と一言呟くと、再びアルベルだけを凝視し、話し始めた。
「さっきの話の続き、忘れそうだったよ。どこから話すべきかなぁ。……僕達が伯奇、というか魔獣王を追ってるって話は前に言ったよね?君と出会った後に、君のことをいろいろ見たんだ。その時に分かったんだけど、伯奇と君は密接に関係してるんだよね。だから伯奇を追っていれば君とも出会えるかな〜って思ってたんだ。魔獣王も追えるし、君とも再会できる。いやぁ、我ながらいい作戦だったよ。ほら、魔獣王なんて普通の人が近寄れる存在じゃないじゃん?それを君がどうやって絡んでるのか、正直、興味津々だったんだよね。でも、ただの好奇心ってわけじゃなくてさ、君のことをもっと知りたいって思ったからなんだよ。僕にとって、君は……特別だから。あっ、そうそう!これって何だか運命っぽくない?君を追いかけてるつもりが伯奇にも繋がってるなんて、まるで全部が計算されたみたいでさ、僕、本当に驚いたよ。でね、君も感じてるかもしれないけど、こういうのって偶然じゃなくて必然なんだよね。あ、でもでも、ちょっとだけ話を戻して――ほら、伯奇のことだけど、あれ、意外と感情がある気がしない?いや、僕もまだ確証はないけど、あの視線とか、動きとか、なんとなく人間っぽさを感じるんだよね。どう思う?まぁ、それはどうでもいっか!だから君の話に戻るんだけどさ……」
ナベリウスはそこで一瞬間を置き、顔をほころばせる。
「君さ、本当に面白い人だよね。最初に会ったとき、僕、正直驚いたんだよ。だって君、普通の人間とは明らかに違うでしょ?あの飢えた目、何かを求め続けるあの感じ……僕、あれ見た瞬間に思ったんだ。“あ、この人、僕の理想そのものだ”ってね。いやいや、ちょっと引かないでよ。僕、割と真剣なんだよ?君みたいな人、他にいないんだって。ほら、他の人って結構簡単に満足しちゃうじゃない?でも君は違う。君の目にはいつも『もっと先を見たい』っていう欲望がある。あれ、僕にとってはもうたまらないんだよね。それに、君のその顔、いや、見た目の話じゃなくて表情とか佇まいとか、もう全部が僕のツボなんだよ。あ、でもでも聞いて!僕これでも自重できるようになったんだよ!十戒の幹部に愛にやたらうるさかったり、幹部の一人に恋をしてる女の子がいるんだけどその子達に相談して色々とアドバイスを貰ったりしてさ!それだけ僕って全力なんだなって身に染みたよ!……うん、これってもう運命以外の何物でもないよね……。ああ、そうだ、話を戻そうと思ってたんだっけ。えっと、伯奇の件だけど……いや、でもさ、やっぱり君の話がしたいんだよなぁ。だって、今こうして君と話してる瞬間が僕にとっては一番の幸せなんだから。ほら、他の幹部にこの話をしたら絶対呆れられると思うんだよ。“ナベリウス、お前また無駄なことしてんのか”ってね。でも、どう思う?これって無駄だと思う?僕は全然そう思わないけどなぁ。むしろ、これこそが僕の存在意義だと思うんだよね。あ、待って、なんか話が逸れちゃったけど……まぁいっか、君と話してるだけで楽しいし。」
彼はまくしたてるように言葉を続けながらも、どこか悪びれた様子もなく、まるでそれが当然のことのように自然に振る舞っていた。
そして、ふっと目を細めて、また新たに口を開く。
「それでね、君のことをもっと知りたいって思って色々調べたんだけど、君って意外と真面目なんだね。いやいや、そんな顔しないでよ。僕には分かるんだって。君、周りからは適当に見られるかもしれないけど、実はめちゃくちゃ一途だし、責任感も強い。まぁ、それが君の魅力のひとつでもあるんだけどさ。あ、でもさ、ちょっとだけ君にお願いがあるんだ。もっと自分を大事にしてほしいなって思うんだよ。ほら、僕って君のことが好きだから、君が傷つく姿を見るのが辛いんだよね。あれ、なんか話がまた逸れちゃった?まぁいっか、君の話をするのが一番楽しいからね。それでねそれでね――」
ナベリウスは鼻高々に、しかも長々と話す。
アルベルは後半の部分をほとんど聞いていない。
彼の声色はどこか浮ついていて、その場の状況に不釣り合いなほど楽しそうだった。
だが、ナベリウスの視線を感じるアルベルは、全く同じ感覚ではいられなかった。
なんなんだこいつは……何が「いい作戦」だ……。
アルベルは心の中で毒づく。
伯奇の次の攻撃を警戒しながらも、目の前で話し続けるナベリウスの言葉を無視することができなかった。
幸いにもパロミデスが伯奇につけた黄金の足枷と拳の一撃で、伯奇の動きは鈍くなっている。
それに禁術の反動も重なり、今はまだ動けそうにない。
少なくともこの瞬間だけは、攻撃される心配はなさそうだった。
アルベルは警戒を少し緩め、仕方なくナベリウスの言葉に耳を傾けることにした。
「――って訳で、もうドンピシャ!やっぱりこれって運命だよねぇ〜!」
ナベリウスが自信たっぷりに言い放つ。
長々しい話にようやく終止符が打たれたしようだ。
……運命?何がだよ……。
アルベルは顔をしかめる。
目の前の男の言葉は終始支離滅裂で、何が言いたいのかまるで分からない。
それでも、彼の放つ異様な雰囲気に飲まれ、耳を塞ぐことができなかった。
「そんじゃ、テメェの目的は一度に二つも果たされたって訳かよ……。じゃあ伯奇に会ってテメェはどうすんだ。他の連中みたく死にてぇのか。」
アルベルは低い声で問い返す。
その冷たさには、自分自身の疲労と苛立ちが滲んでいた。
ナベリウスはアルベルの言葉に微笑みを隠さなかった。
その笑顔は、どこか気味の悪いほど自然で、まるで彼が狂人であることを認めた上での余裕のようだった。
「そうそれ。一般の信徒はそうする人もいるけどね。僕の場合はちょっと違う。」
ナベリウスは初めてアルベルから視線を外し、伯奇の方向へと目を向けた。
その目は、アルベルに向けられていたものとは明らかに異なっていた。
穏やかさの欠片もなく、鋭く冷え切った感情だけがそこに宿っていた。
だが、それがただの殺意や憎悪であるとも言い切れない。ナベリウスが抱える感情は、どこか別種の執着を感じさせた。
「まぁ僕にもいろいろある訳だけど――」
一呼吸置いて、ナベリウスは再びアルベルに視線を戻す。
その目には再び余裕の笑みが浮かび、鋭さをほんのり帯びた光が宿っていた。
「――アルベル君に提案があるんだ。君にしか頼めないことなんだ。」
ナベリウスの言葉に、アルベルは不快な予感を覚えた。
声のトーンは穏やかだが、その目の奥に潜む底知れない圧力は尋常ではなかった。
「……なんだよ、言ってみろ。」
アルベルは、渋々ながら応じた。
その瞬間、ナベリウスの瞳が一瞬だけ鋭く光を帯びた。
喉仏が微かに動く音、息を吸い込む音。
彼の一連の動作は蛇が獲物を捕らえる直前のように緩慢で、しかし恐ろしく確信に満ちていた。
ナベリウスはニヤリと口角を上げて目を細めたら、
その仕草は人間の本能に直接恐怖を植え付けるような、理屈では説明できない種類のものだった。
そしてただ一言、それだけを口にした。
「"僕と一緒に伯奇を殺さないかい?"」
ナベリウスの言葉が耳に届いた瞬間、アルベルの思考は完全に停止した。
何を言っているのか、理解が追いつかない。いや、理解したくないという方が正しいのかもしれない。
「は?」
"イッショニハクキヲコロス"――
その言葉が面倒な変換を挟んでアルベルの耳へと入ってくる。
胸の奥から次々と湧き上がる疑問が、混乱した思考を埋め尽くす。
伯奇を倒したいという感情は確かにある。自分の村を焼き、父を殺した仇だ。
それを倒すためなら、どんな手段だって選ばない――そう思っていたはずなのに。
でも……こいつと一緒だと……?
ナベリウスがどんな目的を持っているのか、どんな手段を取るつもりなのか、全く分からない。
そもそも、伯奇を倒すという言葉を、目の前の男の口から聞くこと自体が異常に思えた。
十戒は信仰対象である原初の魔術師が作り出した魔獣王も敬愛して崇めているんじゃないのか……?
「お前、言葉の意味分かってんのか……?」
洪水のように溢れ出てくる疑問たちをなんとか押しのけ、ナベリウスのペースに乗せられないように冷静に振る舞った。
しかし、彼の目にはその薄っぺらい誤魔化しは見え透いているだろう。
「うん!もちろん!」
ナベリウスはあっさりとした口調で答える。
屈託のないその笑顔と軽さがさらにアルベルの苛立ちを煽った。
こいつ……何を考えてる?どうしてそんなに平然としていられる……。
いくら俺が伯奇を殺そうとしてるからって所属している組織の信仰対象を躊躇いもなく殺せるのか……?
アルベルの胸の中で、感情がぐるぐると渦巻く。
怒り、困惑、不信、恐れ――どれもが強く主張し合い、やっと留まっている冷静な判断を押し流そうとする。
この男の実力は計り知れないほど強大な事をアルベルは知っていた。
己の発言一つでこの場がどうなるか分からない。
この場全員の命をアルベルが握っているのかもしれない、もしかしたら自身が殺されてしまうかもしれない、あるいは何もせず帰っていくかもしれない。
複数の選択肢がアルベルに重苦しいプレッシャーを与える。
しかしそのプレッシャーに負けず、アルベルもただ一言答えた。
「……断る。」
意を決したように言ったアルベルに、面食らった様な表情をするナベリウス。
遠くからその光景を見るビンスとフォルゲル、その言葉に安堵するデルミアやガヴェルド、そう言うと信じていたかのように笑うパロミデスとドラードとバダロ。
辺りは一層静かになった。
伯奇が苦しみもがいているうめき声と大地が振動する音だけがこの場にいる全員の耳に入ってくる。
するとナベリウスの顔が少し俯く。
今度はなんだか悲しそうな表情をしている。
本当に感情の起伏が激しいヤツだと心底感じさせられる。
「そう……だよね……。アルベル君が僕と一緒にいたくないっていうのは、薄々気がついてたんだ……。さっきも……僕の話あんまり聞いてくれてなかったし……仕方ないよね………」
聞いていないのがバレていた。
アルベルは少しだけ申し訳なくなって視線をそらしたが、ナベリウスの不服ながらも納得してくれた様子に少しだけ安堵した。
そしてナベリウスは顔を上げ、今度は伯奇の方ではなく、デルミアの方を向いた。
「アルベル君がそう言うなら仕方ない……」
「分かってくれてありがた――」
「………だからこの場にいる全員……殺しちゃうね。」
アルベルが安堵の言葉を口に出そうとしていた瞬間だった。
背中を氷柱で刺されたようだった。
その場にいる全員が目を見開いて冷や汗をかいた。
「――!!」
デルミアはその言葉を聞いて、ナベリウスの首めがけて剣を振り抜いた。
すると金属が弾かれるような音の後、デルミアの剣はナベリウスの首を通り過ぎて地面に突き刺さっていた。
「なっ!!」
「はぁ……せっかちだね君、もしかしてホモ?首、痛いんだけど。」
ナベリウスは全く傷のついていない首をさすりながらデルミアの方を見た。
デルミアは己の剣が一人の人間の首に弾かれたことで驚愕し、唖然としている。
そのデルミアにナベリウスの手が翳される。
それがなにかの攻撃のモーションだと察して、デルミアは一気に距離を取り、その横にドラードとガヴェルドが並んで牽制する。
「やめろナベリウス!!そいつ等に手を出すな!!」
アルベルは焦ってナベリウスの顔を見ようと上を向いて必死に言った。
体中の骨が折れるような痛みが走るが、今はそれどころではない。
ナベリウスはアルベルにそう言われて手を引っ込めた。
「えー……だって一緒に戦ってくれないんでしょ?それに僕今普通の人間だったら確実に死んでたよ?それなのに平等に命を差し出してくれないなんて不公平じゃないか。」
もっともらしくナベリウスは言う。
それが当たり前の世界で生きてきたという事を、この場の人間全員に悟らせる。
「正直、僕は君以外死んでも構わない訳でさ。まぁこの場にあのお姫様がいない事が唯一、僕が冷静でいられる理由かな。あのお姫様までいたら君の許可無く殺してるところだったよ。」
やれやれと言わんばかりの仕草でナベリウスは首と手を動かす。
顔面蒼白なアルベルは握りこぶしを作って地面を殴りたい気持ちでいっぱいだったが、デルセロが手元にない今、体を動かすことは叶わない。
「……お前と共闘すれば……誰も殺さないのか……?」
「もちろん!!なんならこれ以上被害者が出ないというのも約束するよ!」
アルベルの中に失いかけていた葛藤が再び生まれる。
やはり自身の選択一つで人が死んでしまうのだ。
今はくだらない自分のプライドなどに従っている場合ではないのかもしれない。
「……分かった。」
アルベルは低く呟いた。
先程、アルベルが断ったことを当たり前のように思っていた者達も、今のアルベルの返答で彼を攻める気にはならない。
それは、多かれ少なかれ、他人の命を握っている自覚のある者達だったからだ。
アルベルの返答に心から喜んだ表情をしたナベリウスが「じゃあさじゃあさ」と言葉を続けようとすると、それをアルベルは「ただし!!」と言って遮った。
「――ただし、共闘はあくまで伯奇を殺すまでだ。それと、お前の能力を教えろ。そうすれば多少なりお前を信頼できる。」
ナベリウスはアルベルから出された交換条件を喜んで承諾した。
なんなら交換条件を出されたことにすら喜びを感じている様子だった。
「それじゃあ、アルベル君立てないの不便だよね。ちょっと失礼。」
そう言ってナベリウスはしゃがんでアルベルの背に触れた。
先程も感じた優しさのある気持ちの悪い手つきにアルベルは嫌悪しながらもそれを受け入れるしか無かった。
触れられた部分の骨が折れるような痛みがアルベルを襲ったが、唇を噛み締めて声を堪えた。
そんな嫌な感覚だけがアルベルの体を駆け回っていると思うと「はいおしまい。」というナベリウスの声とともに体中の無数の痛みが消えていることに気がついた。
「あれ……痛くねぇ……なんだこれ。」
アルベルは誰の肩も借りず、自らの力だけで立ち上がった。
「どうやったんだ?」
「ん?まぁまぁ、それは戦闘中に説明してあげるよ。実践のほうが分かりやすいかもしれないしね。」
アルベルの問いかけを一蹴すると、ナベリウスは伯奇の方を見た。
「この場にいる人達ー。そろそろ準備しといたほうがいいよ。あの足枷、取れかけてるから。」
ナベリウスのその言葉にその場にいる全員が伯奇の方へ目をやる。
無論、手から落ちたデルセロを拾いに行ったアルベルも伯奇を見ていた。
アルベルはデルセロを拾い上げ、刀身の砂埃を払うと、すぐさま前線へと戻った。
するとそこにはナベリウスがいて、その後ろに討伐隊のメンバーが控えていた。
「はぁ……!!夢にまで見たアルベル君の隣!!しかも共闘まで出来るなんて!!僕の共闘処女、奪われちゃったなぁ……!!これはさながら結婚式ってやつじゃないのかい……!!」
「気色の悪い事言ってんじゃねぇよ。ちゃんと能力について教えとけよ。」
デルセロを握り直したアルベルが言う。
背後にいる討伐隊の隊員達も再び戦闘の為の準備をしていた。
「分かってるって!!……それじゃあ、最高の共闘を始めようじゃないか!!」
ナベリウスが登場し、彼の提案によって始まった"最悪の共闘"――
その矛先が今、伯奇の喉元へと向けられていた。
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