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第五十二話 開戦の狼煙

新章始まりましたー!

より多くの人に楽しんで頂けたら幸いです!


今回の『伯奇討伐作戦』は、国王候補者であるパロミデスを筆頭に行われる。

戦闘に携わるイメージが皆無のその男は、「テメェの街一つ守れねぇで何が国の王だァ。」と戦闘への参加を反対する部下を一蹴した。

彼の戦闘能力の高さは、彼の支持者であり部下の、ガヴェルドが保証すると言ってから誰も口を出さなくなった。


パロミデス率いるステンチューの治安維持部隊、『聖流一家(せいりゅういっか)』の構成員が400人、シャーフェリアから来ていたドラードの部下の騎士が50人、そしてそこに、エリナが護衛として連れてきたアルベル、デルミア、ビンスの3人、たまたまステンチューに居合わせたデルミアの実の息子であるフォルゲル。


パロミデス陣営からは、パロミデスとガヴェルドと聖流一家の会長、アルマドス陣営からはドラード、パーシヴァル陣営からはフォルゲル、そしてエリナ陣営からは、デルミアとアルベルとビンスを部隊長とした、総勢457人の精鋭達が伯奇討伐へと向かう。


馬が足りない分は、後衛を担当するビンス率いる魔術部隊とドラード率いる回復部隊が、目的地到着まで二人乗りをして移動している。


そして、伯奇の出現場所に向かうまでの時間、アルベルば自分が任された任について不安に思っていた。


「俺なんかが部隊長でいいのかな……。」


翼足獣に乗りながらアルベルは呟く。

戦闘能力的に考えて、自分が部隊長というのは納得がいかなかった。

それはポジティブな意味では無く、どちらかと言えばネガティブ寄りだったのは言わずもがな。


前線で戦うデルミア、ガヴェルド、フォルゲルは部隊長として申し分ない耐久力と攻撃能力を持っている。

俺と同じ中盤を担うパロミデスもその実力をよく覚えている。

後衛ではドラードとビンスが部隊長を務め、回復や魔術で援護したり、的確な指示を出してくれる。


前衛には戦闘能力の高い英雄達、中盤には近距離や中距離でも戦える猛者達、後衛には魔術に長けた人と前中全てを動かす天才軍師。


完璧に思えるその布陣にいる異物が俺だ。

身体能力も中途半端で頭も良くないし誰かを使う才能もない。

こんな俺がどうやってあいつらについていけばいいのだろうか……。


……そういえば聖流一家の会長と副会長も同じ中盤だったよな。

えっと会長は……


「よっ!兄ちゃん!シケたツラしとんの!」


背後から男の声がした。

アルベルは声をした方を振り返る。

するとそこには、今まさに探していた聖流会の会長の顔があった。


「あんたは確か聖流一家の……」


「おう、『バダロ』言うもんや。よろしゅうな、兄ちゃん!」


アルベルはバダロと名乗ったその男のノリについていけそうになかった。

バダロの話している言葉はアルベルの知っている関西弁に似ていた。

そして極道のような組織名の偏見とその関西弁のようなものからか、アルベルの中に一つの疑問が浮かび上がってくる。


「もしかしてあんた、『ホンゴク』出身なのか?」


「おぉ!やっぱり分かってまうか!」


ホンゴク――それは国王候補者で円卓第四席の男、『トリスタン・ルキウス』の治める街の名前だ。

しかし街と言うには広すぎる領土と文化の浸透具合から、一時期は国として認定されていた時期もあったらしい。

その国では日本的な文化が発展しており、俺で言う関西弁が標準語になっている。

元々あった文化なのか、あるいは俺と同じく日本から転生してきた関西人が広めたのか……それを確かめる術は無かった。


「いやぁ、実はホンゴクの硬っ苦しい文化が好かんくてのぉ。色んなとこほっつき歩いてたら、パロミデスの旦那に出会ったんや。」


「へぇ。そこで聖流一家に引き抜かれたのか?」


アルベルの予想ではそうなっていた。

パロミデスから誘ったという考えが自分から出たのが少し不思議だったが、パロミデスの傘下の組織なのだ。

彼が誘っても不思議では無いだろう。


「いや、あん時ゃワシも荒れとった。旦那自身もな。だからそないな穏やかな話にはならんかった。」


バダロの言葉にアルベルはガヴェルドの言葉を思い出した。

巨人種族であるギガンテ族との戦いですら無傷で生還したガヴェルドの体についている大きな傷。

それは初めて会ったパロミデスにつけられた傷らしい。

この3人が出会ったのは同時期なのだろうか。


「んで結果は?どうせやり合ったんだろ?やっぱし負けたのか?」


「兄ちゃんも痛いとこ突くなぁ。……そりゃモチロンボッコボコやったわ。言い訳の余地もあらへんくらいにコテンパンにやられたわ。」


倒された当時の事を思い出しているハズのバダロの顔は、悔しさなど微塵も浮かべず、ただただ清々しそうに空を仰いでいた。


「自分で言うのもアレなんやけど、当時のワシ、結構強い思ててな。それやったのにボッコボコのボコや。悔しさも一周回って無くなってもうたわ。」


やはりそうだったようだ。

圧倒的なまでに打ちのめされると、悔しさよりも相手の技術の凄さに驚かされ、魅入ってしまう。

俺も対戦ゲームでコテンパンにやられた時はそんな気持ちになったものだ。


「んで、兄ちゃんはなんでそないシケたツラしとったんや?置いてきた姫さんやちっこい嬢ちゃんが心配なんか?」


バダロの言った通り、エリナとメグとソーニャはステンチューに置いてきた。

戦いの最前線に置く訳にはいかない人達だからだ。

エリナの治癒魔術は重宝されそうだったが、それだけの為に戦地に連れていく訳にはいかない。

メグも戦闘能力だけで言えば俺より強い。

しかし戦わせるにはあまりにも幼すぎる。

ソーニャに関して言えば、まだ戦うこともままならない少女だ。

それこそ戦地に連れていく事は絶対に出来ない。


「それもあるけどよ……」


アルベルはその言葉を肯定しつつも、少し俯き気味になって口を開いた。


「いやぁな、俺が部隊長ってのは釣り合わねぇんじゃねぇかなって。」


「ほぉ!そりゃまたデカい事言うたな!俺くらいやったら総隊長やろがい!……っつー事か?」


バダロは大袈裟に胸を張って拳で胸を叩いた。

そして自分より小さなアルベルを見下ろしながら口角を上げた。


「ちげーよ!何から何まで大ハズレだ!俺が言いてぇのはその真逆なんだよ。俺じゃ力不足っつーか、役が足りてないっつーか……正直、戦闘能力だったら聖流一家の他の人だったりシャーフェリアの騎士の人の方が強いし優秀だ。だから俺なんかじゃ部隊を引っ張る部隊長なんて務まらねぇんじゃねぇかなって思ってよ……。」


アルベルがそう呟くとまたしても背後から声をかけられた。

聞きなれた声にそれが誰の声なのか見ずに理解出来た。


「あら、アルベル様もようやく身の程をわきまえたのですね。」


アルベルと同じ人物に忠誠を誓い、氷の魔術に長けた、メイドのビンスだった。


「なんや嬢ちゃん、あんた後衛やろ。あんまし前に出てきたらあかんぞ。旦那に叱られてまうわ。」


「勝手をお許しください。遅刻してきたアルベル様が何か仰っている様子でしたので。」


また小言言われんのかぁ……と、アルベルは心の中で嫌な顔をした。

しかしそんなアルベルなど気にせず、ビンスは喋りだした。

どんな事を言われるのか待っていると、ビンスは普段よりやけに真剣な顔でアルベルに向かった。


「アルベル様、よく聞いてください。他人からの評価を本人がとやかく言う資格なんて無いのです。それが良い評価だろうと悪い評価だろうと、それを決めるのは他人の誰か。信用するかどうかはその評価を見て相手が決めるものなのです。編成を担当したデルミア様が貴方を評価した結果こうなったのです。だから貴方は自分に任された役割を余計なこと考えずにやればよろしいのです。」


驚いた。

いつも通り小言や悪口を並べられるかと思ったら、こんな真面目な事を言う奴だとは思っていなかった。

それに……


「ビンスなりの励ましって事か?任された事をやりゃあいい……か。まぁ、俺なりに踏ん張ってみるよ。」


アルベルは拳を握りしめた。

しかしなんだが締まらない返事にバダロは笑う。


「ガーハッハッハッ!!気合いの割にはシケた返事やなぁ!ま、兄ちゃんも気張りや!ほなな!」


その言葉だけを残して馬で前に走っていった。

何しに来たんだあの男……と半目で走り去って行くバダロを見つめ呆れる。


「あの方は凄いですね。皆様の気遣いを欠かしていません。」


「そうなのか?」


「えぇ。この魔獣王の討伐は国民の悲願でもあります。被害にあった人や、被害にあっていない人でも同様の恐怖を抱いてるのです。それを討伐しようという訳ですから、興奮してる人も不安に思ってる人もいるでしょう。だからあぁして皆に話しかけて緊張を解いてあげてるのです。」


「なるほどねぇ……皆俺の想像以上に色んな事考えてんだな……俺ってば自分の事ばっかだな。」


「一概にそうとも言えませんね。アルベル様が馬に乗らずにその翼足獣に乗っているのは負傷者や重い荷物を運ぶ為なのでしょう。だったらそれはアルベル様なりの気遣いではないですか。『エルファスの影は花を選ばず』……ですよ。」


アルベルは目を見張った。

ビンスが自らこんなに喋るとは思っていなかったのもあるが、自分への言葉でここまでプラスな事を言われたのは初めてだったからだ。


「……そうか。ありがとよビンス。ちょっとだけ気が晴れたわ。まずは俺に出来ることを全力でやってみるよ。」


その言葉を聞いたビンスは安心したように息を吐き、後衛へと戻って行った。


「皆大変なんだ。俺だけ折れてちゃ世話ねぇよな。」


自分の先程の言葉を反省したアルベルの表情は、苦い言葉を吐きながらも笑顔になっていた。


伯奇の討伐は全員の意思ではあるが、彼自身の問題でもある。

一人で行おうとすれば否定する者や、「無理だ」「辞めろ」「諦めろ」と止める者も出てくるだろう。

しかし今は総勢400名越えの大所帯。

これだけの人数がいれば誰も文句は言わないし、不可能だとも思わない。

だが実際のところそんなに甘くはないだろう。

苦戦を強いられ、怪我人や最悪死人も出てしまうだろう。

そのありうる可能性をアルベルは自らの経験で思い出していた。


「でも逆に言や、こんだけの人数が一人も顔を横に振らずに来てくれてんだよな。」


自らのやりたい事と、集団のやらなければならない事が一致し、その場にいる全員が自分の背を押してくれている。

これ程やる気が出る場面が他にあるだろうか。


来たる大きな戦闘に、それぞれが闘志を燃やしながら準備を整えた。

さぁ、運命上等だ。

伯奇を打ち倒すことで、アルベルの止まった時間はようやく動き出すのだ。




ーーー




伯奇が目撃された付近まで、軍勢は辿り着いた。

そこはステンチューから南西の方角へ30km程の距離にある『ソムニウム平原』だった。

そこには花が咲き乱れ、様々な種類の花が咲いていると、ステンチューに向かう者の休憩地として知られていた。


幸い到着までに目立ったトラブルは無く、距離の問題上、到着したのはすっかり明け方に近い時間帯だった。


月の明かりと星々の煌きにのみ照らされた草花が青黒く夜風になびく。

しかしそんな幻想的な風景とは裏腹に、その場にいる全員が不安に思っていることがあった。

それは――


「伯奇の姿がどこにも無い……だと……?」


その言葉にその場にいる全員が固まる。

いや、遠くからでも見えてはいた。

しかし、実際に目にするまでそれを信じたくは無かったのだ。


「何故だ!いつから消えている!」


デルミアが近くにいた聖流一家の構成員に問いかける。


「へい!そ、それが水晶の調子が悪くてですね……途中からなんも見えませんでした……。」


聖流一家の構成員が手に持った水晶をデルミアに差し出す。


「何故だ……一体いつ、いなくなったのだ……。」


デルミアに珍しく焦りが見える。

ザワザワと騒がしくなる。

討伐に赴いた人々がそれぞれ口を開く。


「魔獣王はどうなったんだ?」


「いないじゃないか!」


「まさか誤情報だったのか?」


「パロミデス様を疑うのか!」


「いやしかしこれでは……」


その場にいる全員が唸る。

しかしアルベルだけは違っていた。

この場に濃く残った伯奇の気配をアルベルは逃さなかった。


何かがおかしい。

何故消えている。

何故いない。

だが何故か残っている濃い気配……デルミア達の言葉を借りれば瘴気というやつだろう……。

だがこのままいない状況が続くのであれば撤収してしまうだろう。

しかし気配は消えていない。

ならば撤退はまずい。

なんだか……良くない予感がする。


アルベルは中衛から少し前へと出た。

翼足獣はノソノソと歩きながらデルミアのいる前衛に向かう。

そこならば全員の注目を集めやすい。

そして隣に来たアルベルをイライラしているデルミアが声をかける。


「アルベル何をしている。いいから隊列に戻れ。貴様は中衛担当だろうが。」


その声は怒りを無理やり押さえ込んでいるかのような声色だった。

アルベルの勝手な行動ですら火に油を注ぐ行為だ。


「悪いデルミア。でも今は許してくれ。」


「なんだと?」


「俺は今、俺ができる事……俺にしか出来ない事をしに来たんだ。だから、頼む。」


アルベルの意思の籠った瞳にデルミアは黙った。

アルベルはとある事を確信しながら翼足獣から降りて全員に声をかける。


「皆!聞いてくれ!」


その場にいる全員がアルベルの方を見る。

アルベルにとってこれ程の人数に見られるのは初めてだった。

最後にこんな大人数を目の前にしたのは、確か小学生の頃に体育館の前で発表をした時だろう。

アルベルは息を飲んで覚悟を決め、言葉を紡ぐ。

これは、俺にしか出来ない……と。


「いきなり言ってすまない。でも、伯奇は恐らくまだ近くにいる。消えた理由は分からないし、近くにいるっていう根拠も俺の中にしか無い……。」


部隊長以外は「何を言っているんだ。」や「どういう意味だ。」等と罵詈雑言をアルベルに浴びせる。

それもそうだろう。

せっかく覚悟を決めて戦場に赴いたのにも関わらず、討伐対象がいないのだ。

しかも上司達の情報を信じて着いてきた上でのこの現状だ。

彼等の怒りは突然現れたもので無く、伯奇がいない、と疑い始めてから積もった憤りの矛先が、今アルベルに向いただけだ。


「皆の意志も分かってるつもりだ。どんな気持ちでこの戦いに挑んでくれてるのか。俺より強い気持ちを持って挑んでくれてる人もいるだろうし、俺みたいなのが部隊長で納得がいってない人もいると思う。」


「アルベルちゃん……。」


ドラードが心配そうにアルベルを見る。

しかしその視線にアルベルは気付かない。

アルベルは額や至る所に汗をかいていた。


「でも……だけど、この中で俺が、フォルゲルと同じくらいに伯奇の事をよく知っている。俺の縮こまった誇りが、あいつの恐怖を知っている。震え上がった心が、あいつの気配を知ってる。逃げて負けて失って……そして泣いた。俺その生き恥が、あいつへの復讐を覚えてる。」


アルベルは拳を心臓の所で握り締める。

大勢の前で話した事の少ない弊害が出た。

心臓が苦しく、バクバクと音を立てる。

呼吸がしにくく、呼吸が荒くなる。

しかし、これは自分にしか出来ない。

誰も言わないなら俺がやるしかない。

そう思いながらアルベルはまた口を動かす。


ーーー


『俺の故郷は伯奇に壊滅させられた。今も村は復興中だ。俺は今すぐにでも今の使命を放棄して、逃げ出して復興を手伝ってやりたい。』


「!!」


アルベルのその言葉に連絡水晶からアルベルの話を聞いているエリナは口を押えた。

その光景を見てメグとソーニャは心配そうにエリナの顔色を伺う。


「お姫様……?」


「アルベル様……。」


アルベルの心からの本音なのは、エリナも理解していた。

胸の辺りが苦しくなり、服を握り締める。

先程のアルベルの言葉にエリナにその先を聞く勇気は残っておらず、エリナは無意識にその先の言葉を拒絶していた。

しかし水晶から言葉は流れ続ける。


『襲われた当時、俺はまだ幼かった。勝てそうに無いのを年齢のせいにして戦おうともしなかった。多分それは、今も変わらないと思う。この精鋭達の中でどう見ても異物は俺だ。俺がこの中で一番弱い。戦闘能力も頭も精神面でもだ。……だけど、そんな俺だから、人より多くの絶望を味わって、そして学んだ。』


ーーー


アルベルは顔を上げて全員に向かって言葉をなげかける。


「……俺が誰よりも弱いからって、ここで今俺が全てを放棄して逃げていい理由にはならないって。」


次第に、アルベルの発言に文句を言う者は次々と減っていった。

それどころか、聞いてすらいなかった者達でさえ、彼の言葉に耳を向ける。


「……そんな俺だけど、皆は俺の事を信じてくれるか。まだ近くにいるっていうこの俺にしか分からない不確かな事実を、皆は信じてくれるか……?」


しばらくの間沈黙が続く。

アルベルはやはりダメかと思いながら少し俯く。

すると一つ、声が上がる。


「俺は信じるぜ。」


それは聖流一家の一人だった。

すると次々に声が上がる。


「そうだ!俺も信じるぞ!」


「よく言ったなちびっこいの!」


「俺だって伯奇ぶっ飛ばすの諦めちゃいねぇよ!」


「全員で成し遂げなきゃな!」


「そうだ!なんせ俺達、今夜英雄になる予定なんだからよ!」


「その予定で今後の人生組み立てんだから辞める訳無ぇよな!」


初めは十数だった声が数十、百十数、数百と広まっていく。

そしてその場にいる全員がアルベルの声に賛同した。


「よ、良かったぁ……」


アルベルは心底安心したように膝から崩れ落ちた。

すると横に立っていたデルミアが肩を貸してアルベルを立たせる。


「悪いな、デルミア。余計な事だったか?」


「余計な事だと?よく見ろ。ここにいる全員が貴様の言葉に動かされたのだ。これのどこが余計な事だ。」


すると自分で立てるようになったアルベルの元へパロミデスも歩み寄ってくる。


「流石俺の見込んだ男だァ。とんでもねぇ演説だったぜェ。」


「……ったくよ。俺ですら感じ取れる気配なんだから、こういうのはお前等みたいな名の知れた連中がやれよな。無名の俺がやった所で何の効果も無かったらどうしようかと思ったぞ。」


するとデルミアがアルベルの言葉を否定する。


「いや、我々には伯奇の気配など感じ取れなかった。お前と共に伯奇から生還したフォルゲルですら何も言わんのだ。……これは本当にお前にしか出来ぬ事であったな。」


「ま、結果オーライならよかった……はぁ、しんど。」


アルベルは空を仰いだ。

空には満天の星が煌めき、アルベルの心を癒した。


「アルベルよ。伯奇の気配はあるか。」


デルミアが声をかける。


「あ?あぁ、ビンビンに感じ取ってるぜ。でも来るって感じはしねぇな。なんだか待機してるような……なんというか……くそっ。言葉にすんのが難しいな。」


「ふっ。お前にしか分からんのだ。言葉にせずとも良い。気配が来たら知らせてくれ。すぐ臨戦態勢を取らせる。」


「あぁ。任せてくれ。」


アルベルは自分の事ながら半信半疑だったが、

これを疑えばここにいる全員の意志を無駄にする事になる。


俺が俺を信じるのは俺だけの為じゃない。

他の皆の為でもある。

……さぁ、いつでも来やがれ。

俺はお前をぶっ倒すぞ、魔獣王・伯奇……!!



ーーー



あれから十分ほど経過した。

特に何も起こらないが、伯奇の気配だけはずっと感じ取れる。

それは何かを蓄えているかのように静かだが、どこか静かに鼓動している、生きた感触も感じ取れる。

その時、アルベルは後衛にいた。


「ここにいる人全員魔術が使えるんだよな……俺の魔術が使えない理由とか分かる人いないかな……。」


アルベルは自身の魔術が王国騎士団に無理矢理入れられた次の日の訓練の時以来使えなくなっていることが今でも気がかりだった。


「あらアルベルちゃん。後衛の準備は万全よ。」


その特徴的な口調に振り返ると、そこには後衛の主軸となる指揮官のドラードがいた。


「何か不安なことでもあるの?」


「んっ。いや、お前がいてくれりゃ百人力だ。天才軍師の力見せてくれよな。」


アルベルがそう言うと、ドラードは「天才軍師……か……」と呟いた為、アルベルは気になっていたことを聞いた。


「なぁ、なんで指揮官になったんだ?元々騎士だったんだろ?剣の才能よか指揮官の才能があったからか?」


アルベルのその疑問に、一瞬言葉を紡いだ後、ドラードは喋り始めた。


「私ね、指揮官って大嫌いなの。」


唐突な言葉にアルベルは「じゃあなんで――」と言いかけた。

すると


「じゃあなんで指揮官になったんだって思うでしょ?それはね、傲りかと思うかもしれないけど、私以外にあの子達を命を握らせたくないの。」


ドラードは握り拳を作ってそれを見つめた。


「無能な指揮官っていうのは無茶な命令ばっか出して、無理やり遂行させて結果を出すの。でもそれって結局集団としての指揮を下げてる訳。そんなの可哀想じゃない。だから私がその子達の出来るギリギリの作戦を立ててそれを実行する。出来るギリギリだからやる気も失わないし、それが全員だから楽な作業をしている子に向かって恨みも行かない。それが私が指揮官をしている理由よ。」


納得できるようなよくわからないような、アルベルは自分の頭の悪さを少し恨んだ。

人の言っていることも理解できないようでこの先大丈夫なのだろうか……とアルベルはこころの中で呟いた。


「ふふっ、やっぱりアルベルちゃん、なにか心配事があるって感じね。そんなに心配しなくても大丈夫よ。人間の想像してる事って大抵、自分のギリギリ出来そうな限界値である事が多いの。だから大丈夫よ。貴方の作戦、貴方なら出来るわ。」


そう言って、ドラードは後衛を率いて持ち場に着いた。

その言葉を受けたアルベルは、「俺なら出来る……」と呟いて中衛へと戻った。


−−−


更に数十分経過した頃だった。

皆の緊張感も薄れつつある中、変化は突然だった。

アルベルが感じ取った伯奇の気配がとてつもない速度で鼓動を始める。

疲れ果てた時の心臓のように、血管を流れる血潮のように、それは速度を増して迫り来る。


「皆!来るぞ!」


アルベルの大声の掛け声に全員が戦闘態勢を取る。

つい先程まで談話していた者や武器の手入れをしていた者も、少し目を離せば既に戦闘態勢を取っていた。

周囲を警戒し全感覚をフル稼働させる。

この迫り来る鼓動は振動……何かを揺るがすこの感触は――


「下だ!!!」


突然地面が揺らぎ始め、足元の土が盛り上がる。

草花は音を立てて引きちぎれ、浮かび上がってくるものに抵抗せず地面へと落下した。


「うぉぉ!」


「なんだこれは!?」


盛り上がった地面に乗っていた者は次々と落下した。

デルミアを始め、部隊長を務める者は落下しても地面に着地したが、それ以外の一般の騎士や、聖流一家の構成員達は受身を取れない者も少なくなく、地面へと叩きつけられる。

かくいうアルベルも、翼足獣にギリギリで捕まり、翼足獣の持つ翼で滑空したことで事なきを得た。


そして地面に足を着けた全員が、その盛り上がった地面から出てくる禍々しい巨体をただ呆然と眺めていた。


その怪物は、鼻が象のように太く長く、しかし先端には鼻の機関の役割を果たす物が存在せず、牙の生えた口の形状をしていた。

胴体や足は虎のように発達した筋肉と模様をしており、全てを引き裂かんとする爪が恐怖を駆りたてる。

背中には何人も寄せ付けないと言わんばかりの鎧のような皮膚を纏い、そこから盛り上げた土や草花が落下する。

尻尾は牛のような形状をし、伸縮自在のそれは岩や木々をなぎ倒す様をアルベルに思い出させた。


あれは正真正銘、魔道の導きに記され、アルベルやソーニャに癒えぬ傷を植え付けた張本人――



"夢を喰らう者・伯奇"!!



目の前の光景に、部隊長達も思わず息を呑む。


「これが……魔獣王……。」


「なんつーデカさや!血が滾るのぉ!」


「ギガンテ族とは比べ物にならない程巨大だな……。」


伯奇は大きく咆哮し、討伐隊の耳に己の存在の記憶を鮮明に残す。


デルミアですら息を呑んだその瞬間と同時に、戦闘態勢を取り直した討伐隊の面々が一つの同一の思考に行き着いた。


その場にいる戦闘可能な者達は待っているのだ。

彼女の発する、総攻撃指示を――。


彼女は息を吸い、号令をかける準備をした。

そして、それは必然的にデルミアの口から野太い声として発される。


「全員――総攻撃!我々に着いてこい!!」


野太い声に野太い声が跳ね返る。

それは身を焦がす程の戦意の表れで、その場にいる全員が伯奇に向かって突撃する。


凄まじい砂埃を巻き上げながら、彼等は突撃する。




『伯奇討伐作戦』

――その火蓋が今、切って落とされた。





お読みいただきましてありがとうございます!!

ストーリーを忘れている人がいるかもしれないので、ここぞとばかりに宣伝しちゃいます!

ぜひ少しでも気になったら方やどんなお話だったか忘れている方がいましたら、是非最初から読んだり、ブックマークや↓の星で評価の方をよろしくお願いします!!

感想等の反応を頂けるととても励みになります!

これからもよろしくお願いします!

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