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心懸けの片曇り・中編

王都を出てから二日目の夜。

山岳地帯を乗り越え、平原の川沿いで火を起こしていた。

そしてデルミアはその日の出来事を思い出していた。


「先程はやり過ぎてしまっただろうか。私の10分の1の年齢にすらならない童には、少しばかり大人気無かったかもしれんな。」


デルミアは先程の盗賊と追放したローブンにはキツイ言い方をしたかと考えた。

しかしそれと裏腹に少し懐かしむ様な顔をした。


「ふっ、そうか……。あの軟弱で未熟で怠け者だったローブンが誰かの師匠か……。世の中、よく分からんな。」


剣の師匠として、彼の上司として、追放はしても、彼等を嫌いになる事は無かった。


「明日も早い。そろそろ休むとしようルド。」


ルドは鼻を鳴らして同意し、目を閉じて伏せた。

その後デルミアはルドにもたれかかり、再び昼の出来事に思いを馳せていた。

何も無いようで何かある。

余計だが無駄では無い。

デルミアは昼に盗賊と出会う事で、この休暇に少しだけ充実感を覚えた。

最初はエリナの記憶が戻る可能性を期待して始めた小さな旅だが、思わぬ所で別のことに気付かされた。

自分の知らないところで誰かの物語は途切れずに紡がれている。

それを改めて実感させられた。


「エルフがなんだ……長寿だろうが魔術に長けた一族だろうが、結局は知らない事ばかりじゃないか。私もまだまだ修行が足りんな。」


そう呟いてデルミアは瞳を閉じた。

しかし眠ることは無く、常に周囲を警戒しながら目だけを休めていた。



ーーー



そんな代わり映えのしない日々が四日と続き、遂にデルミアは星詠みの森付近の湖に辿り着いた。

その湖は何故か穴だらけで、小さな細かい穴もあれば、大きな穴もあり、直径2m深さはおよそ1m程の穴があったりなどもした。

想定よりもだいぶ早く森林付近に到着した為、その湖の近くに住んでいる村人達に、記憶を取り戻す薬の情報を聞くことにしたのだ。


「さて、この周辺には村がある。そこに行ってみるとしよう。」


するとルドが歩くのを拒否し、湖の方へと勝手に歩いた。

デルミアは一瞬困惑したが、すぐにその理由を察した。

デルミアが寝ずに起きていたこの一週間程の間、ルドも同様に寝ていなかったのだ。

主が寝ていないのに家臣が寝てどうする、という考えがルドの中にあるのかもしれない。

しかし、流石に水分補給はしたかったのか、湖の方へと歩いて行った。

おおよそこんなところだろう。


「しょうがないやつめ。」


湖の水を飲むルドの体を優しくさすりながらデルミアは言った。


「別にお前は休んでもいいのだぞ?無理して私に合わせる必要は無い。」


ルドはデルミアの言葉を気にせず水を飲み続けている。

しかし尻尾でデルミアの背中を素早くひっぱたき、デルミアの提案を拒否するようにした。


「全く……頑固だなお前は。誰に似たんだが……。」


少し微笑みながらその時間を過ごした。

すると突然、ルドが激しく顔を上げた。

そして本能に従うように湖から離れていった。

ルドが逃げた次の瞬間だった。

地面と水面が激しく揺れ、並の人間では立っていられない程の強い揺れが、デルミアを襲った。

しかしデルミアは気にする様子も無く、その揺れに疑問を抱いた。


「なんだ……この揺れ。それに、風も変わった。……まさか……。」


そのまさかだった。

水面に大きな水飛沫が舞い上がった。

しかしそれは上から何かが落ちてきた訳では無い。

それは、水面から何かが出てきた事によって発生した水飛沫だった。

飛んでくる水飛沫をものともせず、水面がよく見えるまでデルミアは湖を凝視した。

その目は既に戦闘態勢に入っており、体は軽く脱力され、いつ戦闘が始まっても対処できるようにしていた。

やがて水飛沫が収まり、水面が晴れた。

そしてそこに居たのは、なんと巨大な貝殻のモンスターだった。

貝殻の内側からは触手が見え、光る赤い目は何十個も貝殻の外側についていた。


「コイツは……なんだ。こんなモンスター見たことも無い……。似たようなモンスターならば、『シェルオクス』というのがいるが……遥かに大きさが違いすぎる……。」


デルミアの言った『シェルオクス』とは、直径40cm程の巻貝の形をしたモンスターだ。

数本の触手で獲物を捕まえ、それを触手から分泌される消化液で溶かし、柔らかくなったところを貝殻の中に引きずり込んで捕食するという小型のモンスターだ。

しかし、目の前にいるそのモンスターは大きさにして約10m。

シェルオクスとは比べ物にならないほど巨大かつ強大なプレッシャーを感じる。


「……ここで引いては意味が無い。さっさと片付けるとしよう。」


デルミアはそう呟いてその辺に落ちていた木の枝を手に取った。


「太さ、硬さ、長さ……共に申し分ない。振るには丁度いい棒切れだ。」


そしてその木の枝を右手に持ち替え、モンスターに向けた。


「貴様に知性があるかは知らんが、一応言っといてやろう。……どこからでもかかってくるがいい。全ていなし、今晩の夕食にしてやろう。」


デルミアがそう言った瞬間、モンスターは触手をけしかけてきた。

知性があり怒ったのか、はたまたただの餌として見られたのか、どちらにせよデルミアは、「甘く見られたものだ」とその触手を一蹴し、モンスターの攻撃を避けた。

一本一本の触手の動きは早かったが、避けられない程では無く、むしろデルミアからすれば遅く感じる程の攻撃速度だった。


そして、触手から飛び散った液体が地面に触れると、触れた地面の部分が溶けた。

湖周辺の穴ぼこはそれのせいだろう。


「全く……こんな酸性の雨を降らされては、土地に大きな影響が出てしまうでは無いか。……というか、ルドにここの水を飲ませてしまったが平気なのだろうか……。」


モンスターの攻撃の鈍さに、デルミアはつい余計なことを考えて呟いた。

しかし最終的には「一目散に逃げてたし大丈夫だろう」となった。

デルミアが一人納得しているが、モンスターの攻撃は止まらなかった。

四方八方からの触手攻撃に逃げ道が無い……と思われたが、細身で華奢なデルミアの体は、柔軟に動き、触手の間を上手くすり抜けた。

しかし、一部分が触れていたのか、ピチピチの黒い服の腹部が溶けていた。


「……私もまだまだ未熟だな。触れていないと思ったのだが……衰えたのかもしれんな。」


動きやすい服装なのに避けられなかった、と感じたデルミアは、城に帰ったら修練の時間をさらに増やそうと考えていた。


「次はこちらから行かせてもらうぞ。」


デルミアは木の枝を構えた。

普段デルミアは、どんな相応しくない相手にだろうが、どんなに弱い相手にだろうが、人間相手になら剣を使った。

それは死合う相手への最大限の敬意からであった。

しかし、モンスター……つまり『敵』には剣を使うことを極端に嫌った。

『相手』と『敵』は違う。

それを己の中で確立した上での考えだった。

そしてもう一つ。

誇り高き王国の騎士が、モンスターごときに武器を使わねば勝てないと、民に思わせてしまうかもしれない……と考えているからだ。


剣を使わなければ勝てないものがいるのならばそれも良し、だが、皆の模範とならなければならない私は、モンスターごときに遅れをとるわけにはいかない。

それがデルミアの考え……一種の騎士道精神のようなものだった。


『我が心の刃は主のため、我が技の刃は殲滅のため、我が体の刃は敬意のため。』


それがデルミアの掲げる騎士道精神だった。

心を主に預け、技術は敵の殲滅のために使い、体を張るのは相手への惜しみない賞賛のため。

デルミアはそれを忘れずに日々の鍛錬に打ち込んでいた。


「貴様は私の相手になることが出来るか……!!」


高く飛び上がり、モンスターの目と思われる部位の真上に着地した。

そしてデルミアは木の枝の先端ではなく、自分が持っている方の端でその部位を突き刺した。

案の定かなりの手応えがあり、棒の先端ならば確実に折れていた。

敵の防御力を見越した上での攻撃には、流石の戦闘経験と言わざるを得なかった。


モンスターはやられた部位を触手でおおい、その付近に立っているデルミアを触手で追い払った。

デルミアは一度陸に着地し、再度飛び上がった。

またしてもモンスターの目らしき部位に木の枝を突き刺した。

その部位の多さ故の防御の甘さが、デルミアには透けて見えるのだ。


しばらくそんな攻防を繰り返し、遂に全ての部位を破壊することに成功した。

しかし、モンスターの気性は収まらず、更に暴れていた。


「流石に体の大きさだけあってタフだな。ならば……」


そう呟いてデルミアは影から巨大な黒い剣を取り出した。

デルミアの愛剣『ハウンドダガー』だ。


「貴様を『相手』として認めよう。ここからは対等だ。簡単に精魂果ててくれるなよ。」


デルミアは姿勢を低くし、モンスターへと飛びかかった。

デルミアはハウンドダガーを握りしめ、低い姿勢から瞬時に跳躍し、モンスターの中央部を目指して突進した。

触手が彼女を迎え撃とうとするが、デルミアの動きはまるで風のように軽やかで、触手が地面を叩きつける音が連続して響くだけだった。


「その程度では届かんぞ。」


デルミアは跳躍中、触手の攻撃を巧みに避けながら剣を構え直し、空中で姿勢を制御してモンスターの甲殻へと滑り込んだ。

剣を両手で握り、黒い刃を甲殻に深く突き立てる。

金属音とともに火花が散り、分厚い甲殻を切り裂く音が湖に響き渡る。


「やはり硬いな。だが……これぐらいで怯む私ではないぞ!」


モンスターは怒りに満ちた咆哮をあげ、甲殻の中から無数の触手を展開する。

それはまるで森の中に無数の木の枝が一気に動き出したような恐ろしい光景だった。

その触手の一部がデルミアに迫り、彼女の腕を捉えようとする。


「ほう、正確だな。だが甘い。」


デルミアは剣を一瞬引き抜き、素早く後方に宙返りをして触手の攻撃をかわした。

その反動を利用して再び地面に着地し、体勢を整える。

触手が一斉に彼女に向かって飛んでくるが、デルミアは剣を水平に振るい、その軌跡から発生した風圧で触手を払いのけた。

その一撃の威力に、モンスターの触手が数本切断され、地面に叩きつけられる。

切断された触手からは蒸気のような液体が噴き出し、地面に触れるたびにジュウジュウと音を立てながら溶けていく。


「なるほど、これが分泌される酸か……ならば、その源を断つまでだ。」


デルミアは再び跳躍し、モンスターの甲殻を縦横無尽に駆け回る。

ハウンドダガーを振るうたびに、黒い刃から光が一閃し、甲殻を切り裂き、モンスターの触手を斬り落としていく。

モンスターの潰れた赤い目がデルミアを追尾するが、その動きの速さに追いつけない。

やがて、デルミアはモンスターの甲殻の中心部にあると思われる「核」の位置を見定めた。

デルミアは地面に降り立つと、体勢を低くして剣を構える。黒い剣からほのかに光が漏れ出し、彼女の集中力が限界まで高まっていることを物語っていた。


「天川流――『鬼哭鏑(きこくかぶら)』。」


デルミアは地面を蹴って加速し、一瞬でモンスターの核に突進する。

剣を逆手に構え、甲殻の隙間に刃を突き立てると、そこから力強く刃を引き上げた。

その瞬間、黒い剣が赤黒い閃光を放ち、甲殻が内側から爆ぜるように裂けた。

モンスターはうめき声に似たものを発し、力なく項垂れた。

しかし、これで終わりではないことをデルミアは知っていた。


「貴様がシェルオクスと同類の種ならば核はもう一つある。死んだふりはやめろ。時間の無駄だ。」


デルミアに言われてなのか、モンスターは体を少しだけ起こした。

すると何を思ったのか、モンスターは触手を限界まで伸ばし、逃げた先でデルミアとモンスターの戦闘を眺めているルドに向かって攻撃を仕掛けた。


「まずい……!」


デルミアは落下している最中のため、空中では身動きが取れなかった。

普段は一瞬であるハズの着地までの時間が、永遠にすら感じられる程に長く、いち早くルドの元へ駆け出したい気持ちでいっぱいだった。

そして、ルドの目の前に触手が迫った瞬間。

デルミアの足が地面に着いた。

そこからは一瞬で、デルミアがルドの元へと着くやいなや、ルドを庇ってモンスターの触手に捕獲されてしまった。


「ぐっ……!」


迂闊だった。

まさかこのモンスターに『仲間を狙う』という知性があるとは思わなかった……。

いや、これは知性というより本能に近しいものだろう。

勝てないと悟るやいなや、勝てそうなものに手を伸ばすのは必然。


デルミアはモンスターに持ち上げられた。

すると触手から酸性の液体が分泌され、デルミアの服を溶かし始める。


「……私を捕食する気か。」


デルミアがどう脱出して、どう倒そうか悩んでいると、モンスターは余った触手をルドの方へとのばし、ルドを触手で掴んだ。


「ルド!!」


ルドは藻掻いたが、その抵抗虚しく、モンスターに捕まった。

そしてルドを持ち上げ、それをデルミアに見せつけるかのようにデルミアの目の前に持ってくる。

そのモンスターの様子はまるで嘲笑っているかのようだった。

モンスターのその態度に、デルミアの中で何かが切れた。


「……どうやら私は、貴様を買い被り過ぎていたようだな。」


認めかけていた敵に裏切られる。

デルミアの中では珍しい事だった為、その反動は大きい。

今のデルミアは、完全にキレていた。

非力な相手に手を出し、それを嘲笑う者をデルミアは嫌い、憎しみ、嫌悪した。

それをこのモンスターはやったのだ。

もう、モンスターに未来(いのち)は無い。


デルミアは、自分を掴んでいる触手を素手で破壊した。

モンスターは驚きと悲鳴の混ざった音を発した。

デルミアは地面に着地し、モンスターを見上げた。

折角動きやすかった服をデロデロに溶かされ、ほぼ全裸と化していたが、そんなことを気にしている程、デルミアの中に余裕はなかった。


「ルド。少し待っていろ。」


ルドの体が溶かされてしまうまでの時間は長くても5分。

その間に触手からルドを救い出し、モンスターを倒す。

一般兵には到底無理な時間制限だったが――


「1分。それで詰みだ。」

 

モンスターの一本の触手が空を切る音と共にデルミアへ向かう。

彼女はわずかに上体を反らし、触手を紙一重でかわすと、すぐさま手を伸ばしその触手を掴んだ。

触手から分泌される消化液が手のひらを刺激したが、その程度の痛みではデルミアを止めることはできなかった。

硬質な感触とぬめりを感じながら、デルミアは一瞬で触手をねじり上げる。


「力は強いが、単調だな。」


デルミアは素早くかわし、そのまま伸びてきた触手を両手で掴むと、一気に力を込めて引き寄せる。触手の根元がギシギシと軋み、モンスターが苦痛のうなり声を上げた。


「これでどうだ。」


デルミアは触手を引き寄せながら大きく振り回し、地面に叩きつけた。

その勢いでモンスターの体勢が崩れる。

崩れたモンスターの一瞬の隙を突き、デルミアは一気に駆け上がる。

触手に捕らわれたルドに向かい、跳躍してその根元を掴んだ。


「大丈夫だ、ルド。すぐ助けてやる。」


デルミアは全身の力を集中させ、触手を引き裂くように握り締める。

消化液がデルミアの手のひらを裂いたが、彼女は構わず力を込め続けた。

グシャリと不気味な音が響き、触手が根元から引きちぎれた。

解放されたルドが地面に転がり落ちる。

デルミアはすぐさまルドの側に膝をつき、その無事を確認する。


「よく耐えたな……少し休んでいろ。」


彼女の優しい声にルドは微かにいななき、応えるように頭を下げた。

デルミアはルドを優しく後退させると、自ら再びモンスターへ向き直った。

デルミアは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「さて……ここからは力勝負だ。」


彼女は低い姿勢を取り、体全体に力を込めると、一気に跳躍してモンスターの背面に着地する。

貝殻の一部が割れ目になっている箇所を目に留めると、拳を構えた。


「これで終わりだ。」


デルミアの拳がうなりを上げ、貝殻の割れ目に叩き込まれる。

力の集中と正確な打撃が、巨大なモンスターの中心を貫くように響いた。


「割れろ……。」


拳を連続して繰り出すと、貝殻がついに亀裂を広げ、内部から不気味な音を立てて崩壊していく。

モンスターの触手が一斉に動きを止め、その巨体が地面に崩れ落ちた。

デルミアは崩れたモンスターの横で立ち上がり、拳から垂れる血を見て小さく息を吐いた。


「やはり、女の姿で素手で殺り合うと骨が折れるな……だが、悪くない感触だ。」


後ろを振り返ると、ルドが少し離れた場所で彼女をじっと見つめていた。

デルミアは微笑みながら手を振る。


「お前が無事で良かった、ルド。」


ルドは満足げに鼻を鳴らし、デルミアの元へ駆け寄った。そのまま優しくデルミアの手に顔を寄せる。

そしてルドは鼻を動かしてデルミアの体を指し示す。


「あぁそうだな。どこかで服を調達せねばならんな。全く、面倒なことをしてくれたものだ。」


手に持ったモンスターの核を握りつぶしながら、デルミアは呟いた。

すると――


「な、何だこれは……!!一体何が……。」


慌てた様子で、一人の青年が走ってきた。

デルミアは殴り砕いたモンスターの死骸を見て驚いている様子だった。

暫く呆然とモンスターの死骸を見ていた男だったが、ふと顔を上げ、デルミアと目が合った。


「驚かせてしまってすまない。先程そのモンスターに襲われてしまってな。それはその死骸だ。」


「貴女がこれを……?……って!!」


男はデルミアから目を逸らして顔を隠した。

デルミアはそれが不思議で男に尋ねた。


「どうしたのだ?」


「どうしたもこうしたも無いですよ!!服を着てください!!」


「あっ……。」


デルミアは愛馬と目の前の男の二人に指摘され、改めて自分の体を見下ろした。

少しだけ残っていた服は、戦闘中に全て剥がれ落ちてしまったのだ。


「不躾な格好ですまないと思っている。だが服の替えを持っていなくてな。失礼だが、そちらはこの周辺にある村の住人か?」


デルミアは男の目の前まで回って口を開いた。


「わーーっ!!見ないようにしてるんですからこっち来ないでください!!と、とりあえずこれ来てください!!」


男は更に後ろを向き、何も着ていないデルミアに自分の着ているカッターシャツを渡した。


「そ、そうか。」


しかしデルミアの身長は180近い。

到底男物でもすべてを隠すことはできず、前を閉めてもギリギリだった。

村までならいいかと、割と雑に着ていた。


「あの……さっき村がどうこう言ってましたよね……?もしかして何か御用ですか?」


「あぁ。予定より少し早めに着いてしまってな。少し情報が欲しいのだ。」


「なるほど。でしたら御案内します。村にならもっとマシな服もあるはずですので。」


「ではお言葉に甘えよう。」


ーーー


デルミアは青年に案内され、湖の近くにある小さな村へとたどり着いた。

森を背にしているこの村は、湿り気を帯びた空気と草木の香りに包まれ、どこか穏やかな雰囲気を漂わせていた。

だが、所々に見える補修された家々や砦のような木造の柵が、この村が決して平穏ばかりではないことを物語っている。


村の中心にある広場には井戸があり、数人の村人たちが集まっていた。

デルミアが青年と共に広場へ入ると、彼女の堂々たる体躯と、見るからに武芸者らしい雰囲気に村人たちの視線が集中した。


「おい、その人は……?」


「この辺りで見ない顔だな。」


「皆落ち着いてくれ。」


青年が声を張り上げ、周囲をなだめる。


「この方は俺が案内してきたんだ。湖に住んでいる巨大なモンスターを倒してくれたんだ。」


村人たちは一気にざわつき始めた。


「湖のモンスターだって?あの怪物をか!」


「あの大物を倒せるなんて、ただの旅人じゃないな……。」


デルミアは一歩前へ出て、冷静な声で語りかけた。


「突然訪れて驚かせたことは詫びよう。しかし、少しの間、助力をお願いしたい。私は旅の途中で戦闘に巻き込まれ、服を失ってしまった。それに……記憶を取り戻すための薬に関する情報を探しているのだ。」


「記憶を……?」


「あぁ。星詠みの森にある泉にその効能があると聞いたのだが……。」


村人の中で、年配の女性が一歩前に出た。


「そんな話聞いたこともありませんが……もしや森に入るおつもりで?」


「その通りだ。何か不都合があるだろうか?」


デルミアの言葉に、村人たちは困ったように顔を見合わせた。


「いや、星詠みの森に向かうというなら、覚悟を決めた方がいい。その森には古代の魔法生物や呪われた遺跡があるって話だからな。」


「なるほど……一筋縄ではいかないか……感謝する。」



その後、村人たちの手助けを受け、彼女は新たな服を調達した。

流石に男物のカッターシャツでも小さかった為、採寸してから制作した為、ピッタリの服が手に入りデルミアは感謝した。

村の縫い子が作った布地のしっかりした旅装束で、動きやすく耐久性もある。

この小さな村で手に入る最上の一品だ。


「本当に助かった。すまないな。」


デルミアは服を着直しながら感謝の意を述べた。


「お気になさらず。貴女が私たちの村を守ってくださったようなものですから。」


縫い子が微笑む。

そして青年が「森の入口まで御案内します。」と言い、星詠みの森の目の前まで連れて行った。


ーーー


デルミアは新たに整った装いを確認しながら、森の入口に立った。

そして振り返り、自身を案内してくれた青年に言葉を投げた。


「いくつもすまないな。今度何か礼をさせてくれ。」


「いえいえ。そんな大したことはしてませんよ。それに、何回も謝られるより、一回ありがとうって言われる方が嬉しいんで。お礼ならそれでお願いします。」


「そうか………何もかもありがとうな。村の皆にも伝えておいてくれ。」


「はい、どういたしまして。薬見つかるといいですね。」


「あぁ、それじゃあ行ってくる。」


その言葉を交わした後、デルミアは星詠みの森へと入っていった。

青年はデルミアが見えなくなるまで、手を振り続けていた。

お読みいただきましてありがとうございます!!

前後編のつもりがやはり長くなってしまいそうなので中編にしました!!

この作品が面白いと感じていただけたのなら是非ブックマークや評価、いいねの方をどうぞよろしくお願いいたします!!

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