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第五十話 伯奇討伐作戦会議


ステンチュー付近に突如出現した魔獣王の一体『夢を喰らう者・伯奇』を討伐する為、ステンチューに居合わせた、アルベル、エリナ、デルミア、ビンス、メグ、パロミデス、ガヴェルド、ドラード、フォルゲル、ソーニャの十人は『伯奇討伐作戦会議』を行っていた。


「それではこれより伯奇討伐作戦会議を行う。」


パロミデスの宣言により、その会議は始まった。

まず最初に発言したのはパロミデスだった。


「まぁ、まずは改めて、集まってくれて感謝するゥ。」


と感謝の意を示した。

普段の軽口男やチャラ男とは全く別の人物のように振る舞っている。

この街の領主としての覚悟の現れだった。

たまに出る語尾は相変わらずのようだが。


「現在まで、伯奇の情報はほとんどなかったァ。フォルゲルとヴェルゴとの戦闘でも魔術を使うこと無く、ただ肉弾戦のみだったァ。だが、今回伯奇との戦闘で生き残ったアルベルとフォルゲルとソーニャがいる。そしてあいつの特性が二つ解明された。一つ目は炎の魔術だ。へブーラ村付近での戦闘で鼻から炎を出すというの情報がその三人の情報により新たに発覚した。」


「無闇矢鱈に特攻は出来んという事だな。恐らく今までの討伐隊は物理攻撃に特化し、その結果隠していた炎魔術に一網打尽にされてしまったのだろう。」


とデルミアが自分の意見を述べた。


「恐らくそうなったのだろう。だからそこのメイドや俺の魔術の遠距離攻撃が重要になってくるはずだ。特にメイド。お前の氷なら牽制しつつ敵の攻撃の威力を落とせる。」


「了解です。」


「あのよパロミデス。メイドメイド言ってるけどよこいつにはビンスって名前があるんだ。ちゃんと名前で呼べ。ビンスも了解ですじゃねぇ。ちょっとは反論したらどうだ。」


とパロミデスにアルベルが言った。


同じ釜の飯を食った・・・とまでは言わないが、お互い同じ人間に忠誠を誓った者同士だ。

『あいつ』とか『お前』とか言われるのは釈然としない。


するとパロミデスが何かを思い出したようにビンスの顔をまじまじと見た。

そして


「あーーっ!!お前ェ!十何年か前に、うちの奴隷市場にいた氷使いのガキだな!!」


「あっ・・・」


と叫んだ。

デルミアはパロミデスを止めようとしたが既に遅かった。


「いやぁ懐かしいなァ。確か一回奴隷市場全体を凍らせちまって・・・困ったもんだったなァ。」


「デルミアがこの街でビンスと会ったってのは知ってたけど・・・まさか奴隷市場で出会ったなんてな・・・まるで俺とメグみたいだな。」


俺はメグと手を繋いでそう言った。


「なんでデルミアもビンスもそれ言わなかったんだ?」


アルベルはデルミアとビンスの方を見て聞いた。


「はぁ・・・今はそんな場合では無いだろうが・・・。まぁアレだ。ビンスが嫌な思いをしないか心配だったからだ。」


「言う必要も無いですし。」


デルミアに続きビンス本人も答えた。


「ふぅん・・・まぁいいけどよ。これで"ビンスがこの街に入った時から震えてた理由"がわかったぜ。」

「なっ・・・!」

「・・・・・・」


アルベルの思わぬ発言にデルミアもビンスも驚いた。

彼女らの想定よりアルベルは仲間のことをよく見ているという事を、彼女らは今の発言で理解させられた。


「ま、今はそんな事より伯奇だ。話の腰を折っちまって悪かったな。続けてくれ。」


「話の腰を折ったのは俺なんだがァ・・・まぁ別にいいかァ。」


「まったく男子共ったら・・・いいから話を本題に戻すわよ。」


「現在、伯奇はステンチューから南西の方角に30kmと言ったところだ。」

「十数kmって話じゃなかったか?」

「やつの一歩の大きさはお前もよく知っているだろう。」


「いやぁ・・・実は俺、小さい伯奇しか知らないんだよな。」


アルベルは頭をかきながらそう言った。

それに対してパロミデスが言葉を付け足した。


「それだァ。それが伯奇の生き残りがいることによってわかったことの二つ目だ。」


一同は息を飲んでパロミデスの次の言葉を待った。

それは誰もが予想できることだが、あの規模の魔物が、と考えると口にするのがはばかられた。


「"やつは、分裂する事ができる"・・・」


やはりだ。

アルベルも魔道の導きで魔獣王の詳細を見た時の大きさと、実際の大きさが明らかに異なっていた。

しかし会話を聞いているとその情報を誰も出さない。


「現在確認されている伯奇の大きさは約十分の一の大きさだァ。つまり十体に分裂出来るということになる。・・・これが伯奇の現在確認されている能力の全・・・・・・・」

「情報ならまだあるぞ。」


と、誰も言わない事を不審に思い、アルベルが口を開いた。

その言葉に周囲の目は見開かれた。

本当に皆知らなかったのだろうか。


「俺が読んだ本の中には、その名の通り人の夢を喰らう、幻術に秀でた魔獣・・・と書いてあった。あの鼻から幻術や夢を見せる煙を出すそうだ。」


一同はその情報に口を開けたままだ。

何?俺またなんかやっちゃいました?

いや、「また」と言うほど活躍した覚えはないんだけど・・・。

まぁ転生者のテンプレだ。

一度くらいはやらせてくれてもいいだろう。


「なっ、なんだよ・・・お前ら。開いた口が塞がらないって言葉体現してるやつなんて始めてみたぞ。」


アルベルは流石に周りの反応が大げさすぎて困惑した。

魔道の導きって本来存在しない歴史書だけど誰かが本体となった本を勝手に複製して配布したんだろ?

意外と配布数って少ないのか?


「ア、アルベル・・・どこでその情報を・・・。」


「え?いや『魔道の導き』に書いてあったんだけどよ・・・あれって広く流通してるもんじゃねぇのか?複製品が出回ってるって話じゃねぇか。」


「いや・・・その通りなのだが、実はその本を持っている人間ですら限られてくるのだ。」


「えっ!?」


「突拍子のないやつだとは思っていたが・・・そんな経緯があったとはな・・・。」


「何にせよ有力な情報だ。感謝する。」


とアルベルが困惑する流れをガヴェルドが断ち切った。

それにしても中々話が進まない。

こんなに悠長に話している暇など無いのに。

するとドラードが口を開いた。


「パロちゃん。今出せる騎士って何人いるのかしら。」

「あァ・・・正直ィ、この街にゃまともな騎士がいねェ・・・うちは他の街に比べて、軍に特化した街じゃねぇからなァ・・・出せて精々、不正を働いたやつを締め上げる役で雇ってる『聖流一家』の連中だ。数は400。」


そこにアルベルが言葉を付け足すように言った。


「パロミデス、早速だがダストの野郎を呼べねぇか?あいつそこそこ大きな組織のトップなんだろ?それならそこそこ人間を動かせるんじゃねぇか?」


とアルベルが提案した。

しかし


「アルベルちゃん。それは止めたほうがいいわ。あの子は貴方の部下ではないの。もし今回のことで命を落とせば、誰がその責任を取れるの?それに、彼等が私達に協力する利益がないわ。」


と却下された。


「私が連れてきた部下がまだステンチューにいるわ。数は50とそんなに多くないし、私達の街も軍事に特化しててないから戦力として期待できないと思うけど。」


「いや、十分だァ。感謝する。」

「すみません・・・私達は騎士団員の方を連れてきて無くて・・・アルベル様とビンスとデルミアだけしか・・・」

「いや、謝んな姫さん。急に呼んだのも俺だし、こんなことになるとは思ってなかったしなァ。」


「それでは戦術的には『前衛が、私、フォルゲル、ガヴェルド』『中衛がビンス、アルベル、パロミデス殿そしてその他の騎士や聖流一家の諸君』『後衛が遠距離支援タイプの騎士、聖流一家の面々。ということになるか』ドラード、シャーフェリアの騎士に回復魔法を使えるものはいるか。」

「半分くらいの団員ちゃんは使えたと思うわ。」

「よし、その団員達は後衛に回せ、それ以外は中衛だ。パロミデス殿、この街に騎乗型の魔物や動物はいるか。」

「移動用の馬が300匹いる。少し足りねェか・・・?」

「いや、十分だ。分身したときに備えて、それに対応する部隊も編成しなければならん。パロミデス殿、聖流一家は武闘派集団だな。どれほど後衛と中衛に回せる。」

「魔法が使える奴が40人っつー所だァ。そいつらは後衛と中衛に回してくれ。だがそれ以外は基本的に肉弾戦しか出来ない。残りは中衛に回してくれ。中衛の小隊長を決めて編成してそれに盛り込むのが手っ取り早い。」

「そうなると機動力を必要とする魔法を使用するビンスは、馬に乗る部隊で聖流一家と共に馬からの魔法攻撃、アルベルは馬に乗らずその他の肉弾戦を得意とする聖流一家とシャーフェリアの騎士との部隊で我々前衛の支援と戦闘だ。残りは聖流一家とシャーフェリアの騎士の中で小隊を編成する。」


「了解いたしました。」

「おうよ!!」


ビンスとアルベルがそう返事をした。

するとアルベルの手を引く力を両手から感じた。

片方はメグだと分かったが、もう片方には覚えがなく、目を向けてみるとソーニャがいたのだ。


「どうしたんだ?メグ、ソーニャ。」


「ご主人・・・私は、戦っちゃダメなんですか・・・?」


「なんでアルベルも行っちゃうの?アルベルだって私と同じ子供じゃないの・・・?」


と二人の子どもの問いかけにアルベルはなんと答えるべきか迷った。

正直メグの実力は俺より上だ。

連れていけばかなりの戦力増強になる。

しかし、それを行って仮にメグが死んでしまっては俺は自分を許せなくなる。

ソーニャの言葉にも困った。

精神年齢だけで言えば遥かに年上だし、肉体年齢も成人と同じくらいにはなった。

しかしソーニャから見ればその発言も最もだった。

だが、俺は行かなければならない。

ソーニャのトラウマとなってしまっている伯奇を倒すのも理由としてはそうだが、やはり自分の父親の敵討ちが本命だ。


アルベルは二人の頭に手をおいてしゃがんだ。


「いいか二人共。俺は行かなきゃならない。親父の敵を取るためでもあるし。ソーニャ、お前の恐怖を心から取り除いてやるためにもだ。」

「アルベル・・・・・」


ソーニャの次はメグの方を向いた。


「メグ、お前の気持ちは痛いほど分かる。でもな……戦わずに守れるものなんて、どこにもないんだ。俺たちがここで立ち向かわねぇと、この街もお前の笑顔も、いつか消えちまうかもしれねぇ。それだけは、そのことだけは、俺には耐えられないんだ。」


「ご主人・・・・・・」


そしてその後、アルベルは頭をポンと叩いて立ち上がった。


「さぁ、そろそろ行こうぜ。いつまでもチンタラしてたら伯奇が何をするかわからねぇ。」

「そうだな。ドラード、パロミデス殿、参加者の準備を大急ぎで頼む。」

「任せて頂戴。」

「おう。さっさと終わらせるゥ。」


「アルベル、ビンス、我々は南西方角の街の出口で待機だ。準備が整い次第集まれ。」


「おう!・・・・って、もしかしたら"あいつ"を使ってやれるいい機会になるかもしれねぇな。」


とアルベルは一匹の生物を頭の中に思い浮かべた。

そして


「俺は一旦、ホテル・ヘルメスに戻る。先に行っててくれ。」


と言い残して、作戦会議部屋を出ていった。

他の者の制止など聞かずに。

しかしその場にいた全員はしっかりと理解していた。

誰よりもを伯奇を嫌い、憎んでいるのはアルベルだと。

そのため、誰もアルベルの無鉄砲で無計画な行動に口を挟めなかった。


メグやソーニャに語りかけた時は普通の笑顔だったが、部屋を出る寸前のアルベルの顔は、怒りに支配され憎しみの浮き出た、まさしく"鬼"のような顔をしていた。


そしてアルベルは怒れる足取りで、領主邸の廊下を早足で歩き去っていったのだった。

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