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第四十九話 意志のぶつかり合い



ただでさえうるさい街に、サイレンが鳴ることによって一層うるさくなった。

ホテル・ヘルメスから出たアルベル、エリナ、デルミア、ビンス、メグ。

そしてたまたま部屋にいた英雄フォルゲル、その娘のソーニャは緊急放送の時に招集をかけられたため、急いで領主邸へと向かっているところだった。


アルベル達が走っている時に、街中の幻映水晶にはこの街の領主であるパロミデスの姿が映されていた。


『あー・・・この街にいる奴らァ。ちょっと落ち着いて聞いて欲しいィ。今ァ、町の周辺に魔獣王の一体、伯奇が出現したって情報が入ってきた。・・・と言ってもここから十数kmは離れているからそんなに死に物狂いで避難しなくても大丈夫だ。とりあえずは領主邸まで来てくれ。それと戦闘の出来る者は何よりも優先で領主邸まで来てくれ。以上だ。』


との放送だった。


「十数km離れてるのに放送がかかるのですね・・・。」


「それほどに恐ろしい魔獣なのです。さぁ急いでパロミデス殿のところへ向かいましょう。」


デルミアが先導してその後ろを他のメンバーが付いて行く形で一行は、領主邸を目指した。


ーーーーーーーー



領主邸の扉が開くと、そこには案の定パロミデスのメイド達がいた。


『お待ちしていました。我が主がお待ちです。こちらでございます。』


またしても不気味なほどに揃ったその声を発したメイドたちにアルベル一行は付いて行った。




アルベル一行はエレベーターに乗り込んだ。

小さい子供も含めてとはいえ、エレベーターにこの人数で乗るのは流石に厳しい・・・と愚痴をこぼしそうになったが、今はそれよりももっと大切なことがあると余計な思考を振り払った。


数十秒経つとエレベーターの扉が開いた。

そしてその後もメイドたちは早足で先導していった。


メイドたちがある部屋の前で立ち止まった。

そして一人のメイドがその扉を開けた。


その部屋の中では大きな地図が広げられており、恐らくこの街であろう場所に黒いマークが、そしてあの忌々しい魔獣の出現地点と予想される場所には赤いマークがされていた。

そしてその地図の横にはパロミデスと地図を見て顎に手を当てるドラード、何かの資料を読み漁っているガヴェルドの姿があった。

三人は扉が開いたのに気が付き、各々の作業を止めた。


「おう来たかァ。とりあえず入れ。」


そう言ってパロミデスはアルベル達を部屋へと入れた。

部屋の中は外から見るよりずっと多くの資料や本が転がっており、チャラく見えるパロミデスからは全く想像できないほどの資料の数々が部屋のあちこちに配置されていた。


「ドラード、先に来てたんだな。」


アルベルが近くにいたドラードに声を掛ける。

確かドラードも招集の時に名前を呼ばれていた。


「まぁね。私のほうが泊まっている階は下だったし、窓から飛び降りて建築物の屋根を辿って走ればすぐに着くわ。」


サラッと言うがこの男はとんでもない高さから飛び降りていることになる。

この男は確か17階に泊まっていたため、その高さから着地し、更には屋根の上を走ったということになる。

なんと恐ろしい。


「現状はどうなっているのですか?」


とエリナがパロミデスに問いかける。


「あァ。今は特に暴れている様子もないィ。・・・本人からすればなァ。」


「それはどういう・・・」


パロミデスの何か含みのある言い方にエリナは聞き返した。

パロミデスはそれに珍しく冷や汗をかいたようにして答えた。


「暴れちゃいねェが、あの野郎が歩くことで周辺の森林や生態系が破壊されていってる。魔法を放っている様子もないが、いつ暴れ出してもおかしくはねェ。」


歩くだけで全てを蹂躙していくのか、あの怪物は・・・。


「それで、今回我々を集めたのはどういうことなのですか。」


デルミアがパロミデスに対して敬語で話した。

今の真面目な姿を見て、少しだけ見直したようだった。


「それが本題だァ。今ァ、この街には腕利きの騎士が大勢揃っている。」


そう言ってパロミデスはデルミアやビンス、ガヴェルドにドラードとフォルゲル、そして最期にアルベルの方へと目を向けた。


「そこでお前らに頼みがある。」


パロミデスは改まって言った。

一歩後ろに下がってから真っ直ぐアルベル達の方を見た。

そして頭を下げてきたのだ。


「どうかこの伯奇を・・・共に討伐してもらえないだろうか。」


その言葉はアルベル達にとって衝撃的だった。

勿論、早くに集まったガヴェルドとドラードは知っているようで顔には何の変化もなかった、

ただ真剣にアルベル達の方へと見を向けていた。

その沈黙の空気を破ったのはデルミアだった。


「そんなことだろうとは思ったが・・・まさか本当に討伐を考えていたとはな。」


「予想してくれてたって事は了承してくれるのかしら?」


「いや、私は反対だ。」


ドラードの問いかけに対してデルミアはアルベル達の予想外の返答をした。

しかしデルミアの表情は真面目そのもので、ふざけているようには見えなかった。


「理由ゥ・・・きいてもいいか。」


「まず、勝ち目が薄すぎる。今の我々の戦力を考えてみろ。伯奇に対してダメージを与えられるかつ、奴の攻撃を食らっても戦闘が続けられる人間は私、ガヴェルド、ドラード、フォルゲルのみだ。アルベルもビンスもそして貴方自身も攻撃力こそあってもそこまでの耐久力はない。そして二つ目だ。戦闘中この街を誰が守る。エリナ様やこの幼き少女二人、その他大勢の住人達を誰が守る。戦闘に参加できる人間を全員伯奇に仕掛け、万が一敗走したとなっては誰がこの街を守るのだ。圧倒的戦力差のある相手に対して、先手へ回るのは愚策中の愚策だ。実力もわからない、そんな相手に正面から飛び込み、勝てる見込みなどあるものか。ここは街の防衛を最優先とし、もし、街の目の前まで来ようものなら"叩く"だけだ。・・・以上が私の意見だ。」


デルミアの言葉は確かにもっともな考えだった。

感情ではなく事実に基づき話している。

それを理解できないパロミデスではなかった。

彼が「分かった」と言いかけたその時、一人の男が口を開いた。


「俺はやるぜ。」


それはアルベルの言葉だった。

一同はアルベルの方へと視線をやった。

するとアルベルは他のメンバーより一歩前に出てパロミデスへと近づいた。


「あの野郎には個人的な恨みもある。俺がこの手でぶっ殺してやらねぇと・・・あのとき死んだ騎士団員や村人。それに・・・俺の親父も報われねぇ・・・!!」


「だから言っているだろう!今の戦力差では到底勝てぬのだ!今ここで犬死にして何になる!」


とデルミアが強く反発してきた。

しかしアルベルの真っ直ぐな瞳は曇らない。

それどころか口元に笑みすら浮かべている。


「へっ・・・古株の騎士様ってのは案外受け身なんだな・・・くだらねぇ。」


「なんだと・・・!!」


デルミアはアルベルの言葉に怒りを顕にした。

そしてアルベルの胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。

しかしアルベルはそれに負けじとデルミアの手首を掴んだ。


「受け身の戦法が嫌だったから・・・お前は騎士団の訓練から逃げ出して・・・攻撃特化の天川流の道場の門を叩いたんじゃなかったのかよ・・・!国を守るのが、俺達騎士の仕事だろうが・・・お前は、それからも逃げるのかよ・・・!」


「何を言ってやがる・・・!!」


アルベルの胸ぐらを掴む力はどんどん強くなる。

だがアルベルもデルミアの手首を掴む力を強くしたのもまた事実だった。



「後手に回って逃げた結果が、お前の親父が誘拐事件起こして何の話も聞けなかった後悔だろうが!!さっさと自分から話に行けばいろいろな話を聞けたかもしれねぇってのにだ!!」


「・・・・・・」


アルベルをの胸ぐらを掴む力が弱まった。

それに続けてアルベルは叫んだ。


「受け身でいい未来が訪れるわけねぇだろうが!!何か変えてぇんだったら自分から動かずにいてどうすんだよ!!」


アルベルは自身の前世での経験からそれを口にしていた。

何もせずに受け身で親に嫌われようとし、そのくせ何も言われなかったら期待されてないんだと勝手に落ち込む。

挙句の果てには、死んだあとになって今までの言動を後悔する。

そんな事、他の皆には経験してほしくない。

その一心だった。


デルミアは完全にアルベルの胸ぐらから手を離し、突っ立っていた。

そんなデルミアを避けて、アルベルはパロミデスの方へと歩いた。


「・・・それに勝てる喧嘩だけするのは弱い奴のすることだ。本当に強い奴ってのは勝算無く相手の顔面殴れる奴の事を言うんだ。俺は強くならなきゃならねぇ、エリナを守るために、皆を守るために・・・だから俺は一人でも戦う。」


アルベルが自分の意志を主張するとその次に声を上げたのはなんとビンスだった。


「私もアルベル様に賛成です。魔獣王が現れてから今の今まで、誰一人として討伐に成功していないのです。国としてもいつかは対処しなければいけない問題です。それに、この中で一番戦闘能力の低いアルベル様が『一人でも戦う』と仰っているのです。ならば、我々が戦うことを辞めて良い理由など、どこにあるのですか。・・・・・・それは貴女様も分かっているでしょう。デルミア様。」


とビンスはデルミアの方を向いて言った。

デルミアはビンスのその言葉に顔を上げたが、暫く納得のいかない顔をしていたが、ようやく口を開いた。


「わかった。だが、無茶だけはするな。死んだら許さんぞ。」


「へっ・・・このツンデレ頑固ババアがよ・・・」


そして最期に声を上げたのはフォルゲルだった。


「わかった。俺も微力ながら参加させてもらいます。何せ・・・因縁があるのはアルベル君だけじゃないんでね。」


そう言ってフォルゲルはアルベルの方を見ながらソーニャを近くに抱き寄せた。

彼も親友を失い、自分の娘にトラウマを植え付けてしまった事による後悔と怒りがアルのだろう。

ヴェルゴのことを思ってアルベルを見つめたのはアルベル本人も理解していた。


「そんじゃァ姫さん。あんたはどうするよォ。俺やガヴェルド、ドラード、フォルゲルはあんたの部下ではない。あんたの了承がなくても作戦を実行できるが、そこの三人は違う。そこの三人はれっきとしたあんたの忠実な部下だァ。あんたの判断ですべてが決まる。」


パロミデスはそう言ってエリナにプレッシャーをかけた。

そのプレッシャーはとてつもなく大きく重たいものだったが、アルベルはパロミデスを責めない。

パロミデスは事実を口にしただけなのだから。

そしてエリナはアルベルと初めて会ったときのような凛とした表情を浮かべた。


「私から、三人への命令は一つです。"絶対に死なないこと"以上です。・・・・存分に戦ってきてください!」


後半の言葉を言うときはいつも通りの笑顔になっていた。

アルベル達の考えを尊重しつつ、自分の願いも織り交ぜた、エリナにとっての精一杯の激励の言葉だった。



「そんじゃ今から、魔獣王の一体『伯奇討伐作戦会議』を行う・・・!」

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