第四十八話 疑う我が耳
「それじゃあ私は17階だからここで降りるわね。じゃあアルベルちゃん、ビンスちゃん、メグちゃん。」
そう言ってドラードは三人をエレベーター内に残し、自分の部屋がある階で降りた。
無駄に高いこのホテルのエレベーター内であの男といるのはかなりメンタルを消費させられたアルベルはどっと疲れたように肩から力を抜いた。
「はぁ・・・あいつといると疲れるな・・・」
「何故ですか。」
とビンスが聞いてくる。
珍しくビンスが自分からアルベルの事へ疑問を抱いたため、アルベルは素直に答えた。
「いやぁよ。まず匂いがキツい。」
「匂いですか。」
「あぁ、たまにいるだろ、生姜みたいな匂いのする女の人。俺多分あの匂い苦手なんだよ。そしてドラードからもそんな風な匂いがした。まずそのせいで鼻が疲れた。」
「アルベル様は女心を一生理解できないのでしょうね。女性は香水など様々つけるのですよ。私はメイドという立場なので香水はつけませんが。」
「あの屈強な男が女性なのかは議論の余地があるとして、次だ次。二つ目はあの何でもかんでもズケズケと聞いてくるのが苦手だな。」
「奇遇ですね。私もアルベル様にそう感じているところです。」
「・・・・・・」
まぁ確かに、同族嫌悪って自分がそいつらに似てるから起こるって言うしな・・・
でも俺ってそんなにデリカシー無いかな・・・。
アルベルは今までの言動を思い出した。
心当たりは大量にあった。
エリナの過去について聞いたり、デルミアの過去を聞いたり、ガヴェルドの傷の事を聞いたり・・・と様々だった。
いくらこの世界の事があまり理解出来ていないからと言って、流石に一方的に聞きすぎているような気がする。
相手側には何の見返りも無く情報だけ欲している。
きっと俺は交渉とか向いてないんだろうな・・・
アルベルが更に肩を落とすと、袖が引っ張られた。
メグがアルベルの顔を凝視していたのだ。
「なんだメグ・・・ご主人は今、自分の新たな才能の無さに気づいて、絶賛意気消沈中だよ。」
メグは暫くモジモジとしたが、先程よりは早く口を開いた。
ようやく慣れてきてくれたのか、とアルベルは感心した。
「ご主人は・・・そんな人じゃないです。少し不器用な方かもしれませんが・・・メグにとっては英雄ですっ・・・!!」
その言葉にアルベルは落ち込みと喜びを感じた。
メグから見ても、俺は不器用に感じるのだなと思う反面、何の肩書きもない俺に他の支持者達のように『英雄』という肩書きをくれた嬉しさが落ち込みと張り合っていた。
それを加味した上で、頑張って声を絞り出して言ってくれたのだと思うと、アルベルはメグを抱き締めずにはいられなかった。
「メグぅ〜俺の見方はお前とエリナだけだぁ〜!!・・・・・・あと一応パロミデスも。」
そのほのぼのとした、癒しの光景であるはずのものを冷ややかな目で見てくるビンスなのだった。
「はぁ・・・やはりアルベル様はいやらしい御方ですね。幼女好きだったとは・・・これはエリナ様に報告しなければなりませんね。」
「ちょっと待ちやがれ!健全かつほのぼの空間を邪魔するんじゃねぇよツンデレメイド!あと、誤解されるからエリナには絶対言うなよ!俺の口から説明すっから!!」
そんな夫婦漫才のような事をしていると既にエレベーターは最上階まで着いていた。
そしてアルベルとメグとビンスはエレベーターを降り、エリナとデルミアが待っている部屋へと歩みを進めた。
アルベルはパロミデスから教えてもらった部屋番号を探そうとした。
しかし
「確か最上階の・・・って最上階部屋一つしかねぇじゃねぇか。こんなの誰が間違えるんだよ。」
そう言いながら目の前の巨大な扉を叩いた。
暫くするとガチャッと部屋の鍵が開く音がした。
こんなに大きな扉でも鍵一つで管理されているのかと少し防犯の面で心配になったアルベルだったが、そもそも最上階まで普通は上がって来れないから大丈夫だろうと自己完結した。
開かれた扉からはデルミアが出てきた。
「やっと帰ってきたか。アルベル、ビンス・・・・とその少女は?」
デルミアは自分より遥かに小さい少女の方へと目をやった。
しかも男の姿だったため、メグは完全に怯えきってしまい、アルベルの後ろに隠れた。
「まぁこんなの調子だからよ、話はエリナの所でするぜ。取り敢えず入れてくれ。」
「あぁ。わかった。」
そしてアルベルとビンスとメグを玄関から入れたデルミアは暫く黙っていた。
その視線はメグに注がれていたようだった。
アルベルはデルミアがメグの正体、古代魔人族の生き残りという事に気づいてしまったのかと冷や汗をかいた。
アルベルの計画では、暫くメグと一緒に暮らしてもらって、信頼を得てから種族を明かそうとしていたため、ここでバレてはメグが殺されてしまうかもしれない。
と考え冷や汗が止まらなかった。
そしてその髭を蓄えた口が遂に開かれた。
「なぁ・・・アルベルよ。」
「はいっ。なんでしょうデルミアさん。」
アルベルに緊張が走る。
ここで言うデルミアの一言で今後の全てが変わると言っても過言では無い。
「私は・・・・・・元の姿に戻った方が良いのだろうか。」
期待外れで予想外の言葉にアルベルはデルミアの顔面を殴りたくなった。
「ほら、この少女も私の顔に怯えている。不届きな輩が尋ねてきた時の為にこの見た目になっていたのだが・・・流石に元の姿に戻るべきだよな。」
あぁ、そうだった。
この女、意外とポンコツなところが多いんだった。
しかも多分顔だけじゃないし。
お前、元の姿になっても身長デカいし、筋肉イカついだろ。
もう面倒だ、適当に答えよう。
「あー・・・そうしたらいいとおもうよ」
アルベルは棒読みでデルミアに告げた。
するとデルミアは少し嬉しそうにして姿を元に戻した。
そしてその姿になってからメグを抱き上げた。
デルミアは多分、エリナ以来の小さい子供で、しかも女の子だから母性が働きまくってるんだろうな・・・。
まぁまずは種族がバレなかっただけよしとしよう。
「んじゃエリナんとこ案内してくれ。ここ想像より広いからよ。」
アルベルのその言葉にデルミアは、嫌がっているのと満更でもないのが拮抗しているメグを地面へと下ろした。
「あぁ。そうだったな。では行こうか。お前も驚く客が来ているぞ。」
もうさっき散々驚いたんだけどな・・・。
ガヴェルドと街でばったり会ったりとか。
パロミデスの喧嘩の乱入とか。
俺が歴史学協会会長の兄貴分になったりとか。
そのダストの贈り物を持ってきたのが、その協会の名誉組員で、国王候補者の支持者のドラードとか。
あんたの知らない所で色々あったんですけどね。
それに・・・風で何となく分かるしよ。
アルベルは自分の右耳である禍威の耳を使用した。
先程まで、耳を酷使したせいか、周りが騒がしかったせいか分からなかったが、耳が痛くなっていたため、使用をオフにしていたのだが、今、禍威の耳を使用してみると痛みが引いたのでそのまま使っていた。
人数は三人・・・男が一人に体格が違う女が二人。
片方に比べて大きい方がエリナだろう。
もう一人の方はかなり小さいな、こどもだろうか。
そして男の方はかなりの高身長。
何かが擦れる音も聞こえるから、かなりの長髪だな。
「エリナ様。アルベル達が帰ってきました。」
「おかえりなさいアルベル様、ビンス。街はどうでしたか?」
エリナは部屋の入口までアルベルを迎えに歩いてきた。
部屋番号エリナによって見えなかったが、そんな事は特に気にならなかった。
「いやぁ色々あってさぁ。まずはこの街で遊ぼうと思ってたのによ・・・・・・・・・・」
アルベル。
その言葉に部屋にいたエリナでは無いもう一人の少女は反応した。
その少女はメグより小さかったが、自分の耳にした言葉に確信を持っていた。
「アルベル・・・・・・」
少女のその呟きにアルベルは部屋の中の少女へと目を移す。
そしてその姿を見て驚愕した。
「お前・・・」
アルベルの視線は、会ったのはつい最近だったハズなのに随分昔の知り合いに出会ったように少女を捉えた。
そしてそのついでにもう一人の男の顔を見る。
またしても、会ったのはついこの前の男の顔だった。
「やぁ。アルベル君。先日は大変だったね。」
このムカつくイケメンフェイス。
漫画で見たような口調。
金色長髪。
尖った耳。
そして何より、デルミアと似ている顔のパーツ。
「フォルゲルか。円卓会議以来だな。」
彼はレイドール・フォルゲル。
アルベルの父親のヴェルゴの唯一の親友であり、40年前の戦争にて戦果の八割を担い、大活躍した真の英雄。
そうするとアルベルの考えは必然的に少女の方へと移った。
彼がいるということはこの少女は
「って事は・・・お前ソーニャか!!久しぶりだな!!」
アルベルは久しぶりに見る顔に思わず叫んだ。
その言葉にソーニャはお下げを口元に当てて、嬉しそうにモジモジとした。
彼女はレイドール・ソーニャ。
一度だけアルベルの故郷である村に、フォルゲルと同行してきた少女だ。
その時はアルベルに求婚していた、困ったお転婆な少女だった。
「アルベル様に初めて会った時や円卓会議の時に思ったのですが、やはりフォルゲル様とアルベル様は元々お知り合いだったのですね。」
「私の息子とアルベルの父親が同期の王国騎士団員だったのです。二人はいつも仲良くしていました。そしてフォルゲルが今持っている宝剣。あれはアルベルの父親であるヴェルゴが打ったそうです。・・・しかし、それを受け取った日の内に・・・」
「アルベル様のお父上が亡くなられた・・・と。」
エリナは黙ってアルベルの方を見た。
アルベルはそんな視線には気が付かず、ソーニャやフォルゲルと話をしていた。
「お父上が亡くなって直ぐに、私の元へ来させてしまったのですね・・・。あんな笑顔を浮かべているけれど・・・私は知っていますよ。貴方が誰よりも繊細だということを・・・。」
エリナは知っていた。
アルベルが自分の胸で泣きじゃくっていた事を。
禍威の耳を使っていないアルベルにはその言葉は届かなかった。
それを察したデルミアはエリナの肩にそっと手を置いた。
「それにしても本当だったのね。アルベルの体が大きくなったのって。」
「あぁ。俺も急なことだったからよ。理解が追いつかない時もあったが、その辺は俺の唯一の長所である臨機応変な対応でなんとかなったぜ。」
「なんだかアルベル。体だけじゃなくて心も大人になったみたいね。」
アルベルはその言葉に驚いた。
この体になってから今まで、そんな言葉をかけられたことがないからだ。
まぁ精神年齢で言えばもう24歳位だし、そろそろ大人になっててもらわないと俺も困る。
しかし素直にこう言われることはなかなかない。
結構嬉しいもんだな。
よくよく考えれば俺の子供時代を知っているのって母さんとフォルゲルとソーニャと生き残った村人だけだ。
その人達の言葉は、何か根本から俺の心に語りかけてくるものがある。
「そういや、フォルゲル達はどうしてこの街に?」
「あぁ。ソーニャにいろいろな場所を見せてやりたくてな。ほら、この街は君の故郷のへブーレも近いだろう?君の母親であるセイラや村人の様子を見に行くついでに来てみたんだ。そしてついさっき到着してね。」
フォルゲルのその言葉を聞いてアルベルは地図を思い出した。
王都から食の街エイトまでの地図、エイトからステンチューまでの地図の中に確かにへブーレは入っていた。
近いと言ってもここから百数十キロはあるため、ついでと言うには不自然ではあった。
しかしその疑問は次の言葉によって振り払われた。
「私が行きたいって言ったの!お父様が口を滑らせたの!昔ここによく遊びに来ていたって。」
「・・・・あんた何やってんだよ。子供にこんな所来させて、いい影響があるわけ無いだろ。」
目をキラキラと輝かせて言うソーニャの言葉にアルベルは思わずフォルゲルに突っ込んだ。
「うっ、子どもの君に言われたくないが・・・何故か君に言われると反論できない・・・。」
アルベルとフォルゲルはひそひそ話をしながら、ソーニャには聞こえないように話していた。
「ここってなんか如何わしい店もあったし、絶対そっちには連れて行くなよ・・・!」
「そこは任せてくれ。伊達に長年ここで遊んでいないよ。健全な場所に留めておくさ。」
「この街でそれは難しいかもしれねぇけど・・・まぁ頼んだぞ。」
「ねぇ二人して何をヒソヒソと話しているの?私も混ぜてよ!」
自分だけ仲間外れにされたことに怒ったソーニャはアルベルとフォルゲルの上に乗っかった。
二人の上で暴れるソーニャは今にも落ちそうになったが、なんとかアルベルとフォルゲルで支えていた。
危ねぇ!!
お転婆だとは思ってたが・・・ここまでだったっけか!?
「なんか・・・!!前会ったときよか元気だな!!」
「ははは、やっぱり、久しぶりにアルベル君に会えて嬉しいんだろうね。」
ソーニャを地面へとおろしたアルベルとフォルゲルは会話を続けた。
「俺は何日か前に君を見たけど、ソーニャにとっては一月程会っていないわけだし。」
「まぁそう考えれば合点が行くというか・・・にしてもだろ。見ろ。ビンスからのあの視線。」
そう言って部屋の入口からアルベルへ突き刺さる冷たい視線にフォルゲルは目をやった。
「あれは幼女に懐かれる俺を見下し、そして軽蔑している目だ。・・・だが俺はもう慣れた。これくらいの軽蔑で、俺は幼女を愛でる事はやめんぞ・・・!!」
「君はなんというか・・・とても、おっさん臭くなったな・・・。」
「おい、実年齢クソジジイのエルフに言われたくないぞ。・・・って俺も半分エルフだったな。」
そんな会話でエリナやデルミアも笑っていた。
メグは少し不服そうにしていたが。
すると不意に、ソーニャがアルベルに問いかけてきた。
「そんな事よりアルベル!あの時の返事をもう一度聞かせてもらうわよ!」
「あの時の返事?」
アルベルは心当たりが無かった。
何か俺はソーニャにとって納得のいかない答えを出してしまったのだったっけ・・・。
うーむ・・・全くわからん。
「フフフ、お子さんと言うのは可愛いものですね。アルベル様も彼女と同じくらいの歳というのが信じられませんね。」
「おーいエリナ。サラッと今、俺に可愛げがないみたいなこと言ったかー?」
「フフ、言ってませんよー。」
「しょうがないわね・・・もう一度言うわよ!」
アルベルは心して聞いた。
ソーニャが言っているのは俺と村で会った時にした会話の内容の事だろう。
しかもそれは自分にとって納得のいくものでは無かった。
あの時は俺も精神的に子供だった事もあるから、恐らく無神経なことを言ってしまったのだろう。
だから今回くらいは真面目に答えてやるとするか。
「アルベル!!私の旦那様になりなさい!!」
一人の幼女のその言葉に沈黙が走る。
デルミアとエリナは呆気にとられ、メグは言葉の意味が理解出来ずに首を傾げている。
ビンスはあまりの出来事に直立したまま一ミリも動かない。
フォルゲルはと言うと、やっぱりこの事か、と言わんばかりに全てを察したような表情をしていた。
そうだった。
そういえばこんな話した気がする。
あの時俺はお受けしますって言おうとしてたが、つい本音が口から出て親父に殴られたんだっけ。
「そそそそそ、それはは、いいいい一体・・・どういう事なななのでででですか・・・!??だだだ旦那様だなんて・・・こっ子供が簡単に言ってははははいけませんよ・・・!!」
エリナはあからさまに動揺してあたふたした。
最後の方はずっと声が上ずっていた。
「エリナ様落ち着いてください!!フォルゲル!!貴様!自分の娘にどういう教育しているのだ!!エリナ様が困惑なさっているだろうが!!」
「すっ、すみません母様!!何分、私が妻との馴れ初めを良く話す物でして・・・恐らくそれに憧れたのかと・・・」
「惚気話も大概にしろとあれだけ言ったのに貴様はまだやっているのか!!しかも自分の娘に対して!!」
「お祖母様、お父様を虐めないで!!お父様から聞いたのよ!お祖母様もお爺様との馴れ初め話が酷くて毎日飽き飽きしていた・・・って!」
フォルゲルはソーニャのフォローになっているようで全くなっていないその言葉にビクリと反応した。
デルミアも自分の可愛い孫の口から出たその言葉にフォルゲルの方を見た。
「フォルゲル貴様・・・私に対して、そんな事を思っていたのか・・・」
「いやっ・・・違うんですよ母様・・・!これはその・・・」
「問答無用だ!!ぶった斬ってくれる!!」
そう言ってデルミアは部屋に立てかけてあるハウンドダガーを手に取り、フォルゲルに向けて振り下ろした。
フォルゲルは自分の持っていたヴェルゴの打った宝剣を引き抜いて、すかさずガードした。
剣の押し合いにフォルゲルが少し劣勢だった。
「どうした。英雄と持て囃されて鍛錬を怠ったか!それとも力ではまだ私には勝てぬか!!」
「だから謝ってるじゃないですか・・・!!こんな事してる暇なんて・・・・・・」
『ヴーヴーヴーヴーヴー』『ヴーヴーヴーヴーヴー』
二人の剣の押し合いの最中、ホテルの部屋内でサイレンが響き渡る。
「なんだこの音は。」
「さあ・・・分かりません。」
その大きなサイレンの音に二人の親子喧嘩は中断された。
アルベルもそのサイレンが一体何なのか検討もつかなかった。
しかしその答えはすぐその後に明かされた。
『これは緊急警戒放送です。現在、この街の付近に魔獣王の一体"伯奇"が出現しています。』
アルベルはその言葉に目を見開いた。
その目には怒りと憎悪の感情が込められており、作った握り拳からは血が吹き出すほど、力んでいた。
怒りを抑えるために唇を噛み、眉間に皺を寄せ、小刻みに震えた。
伯奇・・・・・・親父を殺した、魔獣王の内の一体。
俺から大切なものを奪い始めた、全ての元凶。
『住人や観光の皆様は直ぐに領主邸にお集まりください。なおアルベル様、ビンス様、デルミア様、エリナ様、ドラード様、フォルゲル様、は大至急、領主邸へとお集まりください。』
そこで放送は終わった。
アルベルはその時点で壁を殴り付けた。
血の出た腕で壁を殴り付け、壁には血飛沫がついた。
それを心配そうな目でエリナは見た。
「アルベル様・・・」
「大丈夫だエリナ。俺は落ち着いてる。一人で突っ込むだなんて無茶はしねぇよ。」
「いや、"落ち着いている"のと"冷静"は全くの別物だ。貴様はまず冷静になれ。私だって伯奇が憎い。先代国王の死に関わっているのかもしれないあの魔獣が、もしかしたらそのせいでエリナ様は記憶を失ってしまわれたのかもしれない。」
デルミアですら隠しきれていない怒りがあった。
彼女もまた、エリナという伯奇の被害者の母親であり、自分を近くに置いてくれた先代国王は父親のような存在だったのだろう。
本当の父親は犯罪者となり、後日自殺したらしいから、本当の父親はどちらかと言うと先代国王の方なのかもしれない。
「デルミア・・・。」
エリナは小さく呟いた。
自分のためにここまで憤っているのだと察したのだ。
「それにしても我々をピンポイントで呼び出してくるとはどういう事なのでしょうか。」
とビンスが口を開く。
確かにそれだけが不明だ。
だが、このメンバーに共通していることと言えば国王候補者の関係者であるという事だ。
そしてもう一つ、俺とエリナを除けば猛者揃いの戦闘要員になるという事だ。
その根拠として、今の放送ではメグやソーニャの名前が呼ばれなかった。
メグに関して言えば存在を知られていなかっただけかもしれないが、ソーニャが呼ばれなかったのは恐らく戦闘要員では無いからだろう。
「取り敢えず行ってみるしかありませんね。」
エリナはそう言い、全員がそれに頷いた。
「お父様・・・」
「ご主人・・・」
ソーニャはフォルゲルに、メグはアルベルへと声をかけた。
その声には恐怖と不安が混ざっていた。
しかしアルベルは膝をつき、メグに目線を合わせ、フォルゲルはソーニャの頭に手を置いた。
「大丈夫だ、メグ。俺がついてる。・・・フォルゲル。この二人も連れて行こう。ここにいさせるよりは安全だ。」
「あぁ。俺もそう考えていた。第一、可愛い娘をこんなところに放置しておくわけないだろう。」
「へっ、流石だねぇ・・・」
アルベルはそう言って膝を地面から離し、立ち上がった。
「そんじゃまずは領主邸に向かってパロミデスの野郎から話を聞くとするか。」
アルベルはデルセロを持ち、デルミアはハウンドダガーを背中に携え、フォルゲルは宝剣を腰に差し戻し、部屋の出口へと向かった。
それ以外のメンバーも心の準備だけは怠らず、その頼りになる背中を持つ三騎士の後に着いて行ったのだった。
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