第四十五話 魔人の血脈
「古代魔人族・・・!!??」
ヤクザ風の男はメグの姿を見てそう言った。
メグの体からは橙色の魔力のオーラが溢れ出し、緑色の髪の毛は色の深みを増し、剥き出しとなった牙がとてつもない怒りを表していた。
古代魔人族!?あのメグが・・・!?
そんなんおかしいだろ・・・だって古代魔人族っていや・・・
自分が本で読んだ事と、デルミアにされた話を思い出した。
他種族との戦争によって一人残らず滅ぼされたということを、剣術は多彩かつ強力な古代魔人族に対抗するために発展したということを。
そしてそれだけに留まらず、メグの左目の結膜の白が次第にどす黒い漆黒に染っていった。
「まっ、間違いねぇ!黒い結膜・・・"禍威の眼"だ!!」
禍威だと!?
俺の耳も"禍威の耳"だ。
地下迷宮で不本意にも助けたという天神の従者を名乗る少女から押し付けられた耳だ。
つまり禍威とは魔獣のものではなく、古代魔人族のものだったのか・・・?
しかしそんなことを考えているとメグに向かって一人の男が飛びかかった。
「こんの小娘がぁ!!死ねぇ!!」
「やべぇ!メグッ!!」
アルベルが椅子から跳び上がり、メグの元へ駆けつけようとしたのだが・・・・・・
またしても目の前でありえない光景を目の当たりにした。
メグは男の振り下ろされる拳を一瞬で避け、避けた勢いで男の顔面に回し蹴りを叩き込んだ。
男は回転しながら吹っ飛び、他の台に叩きつけられその台を破壊した。
「ぐがあっ!!」
吹き飛ばされた男を見て周囲の男たちは一瞬唖然として立ち尽くしていた。
「ひっ、怯むな野郎ども!!全員でかかれ!!」
そこからはまさに大乱闘が勃発した。
振り下ろされる拳や剣を全て紙一重で躱しながら、確実に相手の急所を攻撃するメグ。
それにより吹き飛ばされた男たちに激突し、倒れる男たち。
下段を狙われれば跳び上がり相手の顔面に蹴りを入れ、両足を掴まれれば、とてつもない脚力で、男たちを持ち上げ、他の男たちに向かってそのまま蹴りをお見舞いする。
とにかく子供の足のリーチと威力では無かった。
自分より二倍近く背が高く、体重で考えるならば六倍近くあってもおかしくない連中を相手に、一撃も攻撃を喰らわず、逆に敵を一撃で打ち沈めているのだ。
恐らくあの『禍威の眼』というものの特性なのだとアルベルは考えた。
アルベルの『禍威の耳』は異常なまでの聴力と、風を声として聞くことで敵の行動の先読みと、その情報からの少し先の予想の映像を脳裏に見ることが出来るという魔獣特有の耳なのだが、
メグの『禍威の眼』は名前から予測するに、目視している物の先読みが出来るという魔獣の眼なのだろう。
音が聞こえない場所や、風の発生しない場所では禍威の耳は役に立たない反面、禍威の眼ならば、見えていればどんな攻撃も避けられるというまさに"完全なる対人戦特化の眼"だ。
そしてもうひとつ予想される能力としては見たものの学習だ。
禍威の眼は恐らく、目で見たものを瞬時に理解し、覚えることが出来る。
というのも、先程から乱闘を見ていると敵の行動パターンを確立したり、綺麗な足技に加え、先程は使っていなかった拳をも荒々しく振るっていたのにアルベルは気がついた。
敵の足を払い、体勢を崩した後膝蹴りを食らわせ、それをサマーソルトキックで敵の固まっている方へと吹き飛ばす。
足技が主流のようだが、拳も敵が避けた先の地面を砕き割るほどの威力を持っている。
「あんのクソガキィ・・・!これでも・・・・・・喰らいやがれ!!」
テーブル近くによろけた筋肉質の男は重く硬いテーブルを持ち上げ、メグの方へと投げつけた。
しかし、それと同じテーブルを易々と蹴り上げ破壊したメグにとっては小石を投げられたも同然。
逆にそのテーブルを蹴り返し、筋肉質な男を沈めた。
そして乱闘開始から僅か2分という短時間でメグは30人近くの男を殆ど全員再起不可能にした。
敵はもう、一人も立っていない。
「これが・・・古代魔人族の力なのか・・・」
アルベルはメグの鬼の如く蹂躙する様にに恐ろしささえ覚えた。
するとメグはアルベルの方へと振り返った。
眼はまだ正常に戻っていなかった。
「メグ・・・?」
「ヴヴ・・・」
メグは獣のように低く唸った。
するとアルベルの方へと走って来た。
アルベルは思わず目を閉じ身構えた。
メグの様子から考えるに、自我を失っているメグに自分が襲われると思ったからだ。
しかしメグが飛びかかったのはアルベルの背後にいた満身創痍の男だった。
鋭い牙で首元に噛みつき、大量に出血させた。
暫く男は喚いていたが、その後は全く動かなくなり、ぐったりしていた。
動かない男をメグは犬が壊れたおもちゃを振り回すように強靭な顎で噛みつきながら振り回した。
「メグ・・・!もういい!もういいんだ!!」
アルベルはメグのことを羽交い締めにし、男を口から離させた。
それでも口から男を離さないメグの顔を自分の正面へと向けた。
アルベルはメグのその顔を見て唖然とした。
「メグ・・・!お前、泣いてるのか・・・?」
メグの黒い眼には大粒の涙が浮かんでいたのだ。
鼻からは鼻水を垂らし、まさに号泣という具合だった。
「ごべんなざい・・・あの人だぢ、ご主人の悪口言っだがら・・・!!」
「メグ・・・」
その言葉を聞いてアルベルは自分自身が情けなくなった。
何やってんだ俺は・・・!
メグは俺を守るためにやってくれてたってのに、そんな心の優しいメグを怖がって・・・!!
涙を流す程に悔しくて、悲しかったんだ。
古代魔人族だとかそんなのは関係ない。
この子はただの優しい子だ。
それなのに俺は・・・!!
「・・・ありがとうな、メグ。お前は本当に優しい子だ・・・。」
アルベルがそう言ってメグを抱きしめるとメグの体から発せられてた橙色の魔力は引っ込み、髪の毛の色も美しい淡い緑色へと戻り、黒かった眼も元に戻った。
そして声を上げてアルベルに抱きつきながら泣いた。
その状態は暫く続いただろう。
五分ほどその状態でいた。
そして二人が離れた頃合いを見計らって声をかけてきた男がいた。
「あの!そこのお二人!」
アルベルがメグを庇いながらその方向へ目をやるとそこには先程のヤクザのような風貌をした男が立っていた。
何を今更"お二人"だ。
メグをこんなに泣かせやがって・・・ぶっ殺してやる。
アルベルは腰からデルセロを引き抜こうとした。
アルベルの瞳には燃え盛る怒りが込められており、デルセロを握る腕は力み、血管が浮き上がった。
「まっ!待ってください!私は歴史学者の『ダスト』と申します!!」
「歴史学者だぁ?」
「はい!実は私の専門は『古代魔人族』でして!そこのお嬢さんに是非協力して頂きたいことがありまして・・・!」
「あ?てめぇ・・・懲りてねぇみてぇだな・・・。」
アルベルはやはりここで殺そうと考え、再びデルセロに手を伸ばした。
「待ってください!!古代魔人族の情報は本当に限られているのです!!」
「だったらなんだ。この子は古代魔人族なんて呼ばれ方するような子じゃねぇし、お前の実験サンプルでもねぇぞ・・・!」
そう言ってアルベルはメグを抱き寄せた。
メグはそれに寄り添うようにしてきた。
「恐らくお嬢さんは・・・」
「お嬢さんじゃねぇ。この子には『メグ』って名前がある。でも、呼んだら殺す。」
アルベルはメグの口についた血を拭きながら言った。
「そんなぁ・・・・・・ですが武器の扱いに秀でた古代魔人族の中であれ程素手の戦闘能力が高いのは限られています。恐らく、古代魔人族の中でも異例中の異例とされている『パルアナ』という少数部族の生き残りなのでしょう。」
アルベルはいい加減イラつき始めていたが、メグの細かい事などは気になったため、仕方なく黙ることにした。
「本来武器を持っているハズの古代魔人族が武器を持たず、己の肉体だけで戦場を蹂躙した。古代魔人族の中でも選りすぐりの実力派集団です。あの特徴的な足技と戦闘の最中ですら学習しているのが、何よりの証拠です。」
アルベルは不本意ながらもその説明に耳を傾けてしまっていた。
こいつは思ったより色々知っている。
これならメグの親を探せるかもしれない、そうしてメグの両親を見つけたのなら、メグを売りに出した事を取り立てるために、半殺しにしてやろうとも考えていた。
するとメグは泣きべそをかいた後、目元と鼻を赤くしながらアルベルの袖を引いた。
「どうした?メグ。」
「ご主人・・・あの人、さっきズルした。」
そう言ってダストを指差した。
「ギクッ!!」
ダストはあからさまにうろたえ、一歩後ずさりした。
「ズルって・・・どんな?」
アルベルのその問いかけに「ん」とまたしても指差す。
その方向へアルベルが目をやると先程メグによって蹴り飛ばされたルーレットの台があった。
「あれがどうした・・・・・・って、ん?」
アルベルが何か不振な点を見つけた。
目を凝らしてよくよく見てみると台の中に人影が見える。
その男が台のしたからボールの位置を操作していたのだ。
「ちっちちちち!!!違うんです!!あれはあの・・・えっと・・・申し訳ありませんでしたぁ!!!」
ダストはその場で地面に頭を擦り付けながら土下座をした。
どうやら一瞬誤魔化そうとしたようだったが、最終的には認めたらしい。
「もしかしてメグが怒った理由って、俺への悪口とズルした事だったりする?」
メグはまたしてもコクリと頷いた。
先程まで泣いていたが、悪事を暴いた事によって少し自慢げにしていた。
そこもまた可愛らしいとアルベルは思った。
しかしそれと同時に
・・・でも、ごめんよメグ。
気持ちはありがたいんだけど・・・
そのご主人も、ズルしてたんだ。
禍威の耳使ってさ。
本来なら俺も制裁を受けなければならないんだ。
ダメなご主人でごめんよ。
と、アルベルは心の中で呟いて全力で頭を下げた。
メグはそれを不思議そうに見ていた。
どうやら伝わっていないようだったが、アルベルにとってはその方が良かったのかもしれない。
アルベルはダストの土下座を横目で見ていたが、メグはアルベルの後ろからダストを指差して言った。
「ズルっこは・・・ダメっ・・・!」
痛いけな少女のその正論かつ、精一杯声を出した指摘にアルベルとダストは、共に呻き声を上げながら膝から崩れ落ちた。
もう金輪際、ズルはしないようにしよう。
そう心に固く誓ったアルベルなのだった。
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