第四十一話 目論見
眩い光が四人を包み込んだ。
餓者髑髏との戦闘を終え、出口らしき通路が開いた。
そとに出られると考えていた四人は道もそこにしかないためその道を歩んだ。
アルベルが出口の先の光の眩しさに目を覆うと、そこはパロミデスの屋敷だった。
「いつの間にここまで上がってきたのでしょう・・・。」
「かなり落ちたからな・・・確かに不自然だな。」
「恐らく気が付かない程度にこの地下迷宮自体が傾いているのだろう。」
『その通りでございます。』
少し前のはずなのにもかかわらず、随分久しぶりに聞いたような重なった声が背後から聞こえてきた。
振り返るとそこには案の定パロミデスのメイド達が寸分狂わず横に並んでいた。
「げっ・・・あん時のメイド・・・」
『あの時の無礼をお詫びいたします。我が主からの命令でしたので。』
メイドたちは同時に頭を下げた。
その行為ですらまたしても寸分狂わずに同時に下げたのだ。
ここまで来るともう気味が悪い。
初めて王国騎士団での整列を見た時以来の不気味さだった。
「許せだと・・・我々の主の身はどうでもいいと・・・そう受け取って良いのか・・・?」
「デルミア・・・!そのような言い方・・・!」
制止してくるエリナを逆に腕で庇いながら言った。
デルミアからは静かな怒りを感じた。
それもそうだ。
エリナの乳母として今までずっと世話をしてきたのだ。
実の娘と思っていても当然だし、従者としても憤るのは当たり前だ。
『そう捉えていただいても構いません。』
「飾りの順位とはいえ仮にも末席のパロミデス殿が、第一席であるエリナ様に対してのこの行為・・・何もなしでは済まされぬぞ!」
デルミア・・・今までになくブチギレてやがる。
呼び方も『様』から『殿』になってるし。
そりゃ俺だってあいつには頭にきてるけど俺は一発ブン殴れればそれでいい。
だがこのままだとデルミアはパロミデスを斬り殺しかねない・・・その時は流石に止めよう。
デルミアが一番憤っていることによってアルベルは冷静に物事を見ることが出来た。
「案内。お願いできますか?」
『承知いたしました。そのために我々はここにいますので。』
よく言うぜ。
ったく・・・。
「エリナ、体調は大丈夫か?」
「はい。もう大丈夫です。それよりもパロミデス様とお話しなくてはなりません。」
エリナは心配するアルベルの問いかけに笑顔で返した。
無理をしている時の笑顔だったが、アルベルはそれ以上何も言わなかった。
エリナの面子を潰さないためと、話を止めないためだ。
「・・・とのことだ・・・私の気が変わらんうちに早く案内をしろ・・・!」
『承知いたしました。それでは御案内させて頂きます。』
デルミアは自分の怒りを最大限抑えて拳を開いた。
その後ビンスは「よく我慢しましたね。」と言わんばかりにデルミアの大きな背中をぽんぽんと叩いた。
領主邸はアルベル達が地下迷宮に落ちる前とは違い、とてもシンプルな構造になっていた。
これも何かしらの水晶の効果だろうか・・・。
もうこの際何でも水晶のせいにしてしまえば大抵のことは解決しそうだ。
そんなことよりも・・・・・・
空気が重たい。
何この雰囲気、ちょっと殺伐としすぎじゃない?
ビンスは同じメイドだからなのか目の前を歩いてるメイドたちを睨みつけてるし、デルミアはめちゃくちゃ静かだけど殺気が漏れ出しすぎてさっきから俺の汗が止まらない!
エリナは普段とは違ってオロオロせずに凛とした表情で歩いてるし・・・
声出せる雰囲気じゃねぇ・・・!
早くパロミデスのとこに着いてくれぇ・・・そして俺をこの耐えきれない空気から開放してくれ・・・。
結局アルベルのその願いは叶わず、十数分ほど歩いた。
『こちらがパロミデス様のお部屋でございます。どうぞお入りください。』
メイドたちの手によってパロミデスの部屋の扉が開かれた。
その瞬間デルミアが地面を思い切り蹴り、部屋の中へと飛び込んで行った。
「ようようよく来たなァお客人〜!改めて俺グワァッ!」
そして黄金に輝く椅子に座っているパロミデスの顔面にストレートパンチを喰らわせた。
ガヴェルドは後ろに手を組んだまま立ち尽くしていた。
「・・・って何やってんだお前ぇ!!!」
アルベルはデルミアの予想できたはずの行動に驚愕してしまった。
そして拳から湯気を出すデルミアをアルベルは引き戻そうとした。
「何故止める。貴様もパロミデス殿を殴りたいのだろう。ならば殴ればよいではないか。」
「俺も殴りたかったけどお前のそのストレートを見せられちゃやる気も失せるって!!良いから一旦戻ってこい!!このきかん坊!!」
自分より遥かに巨大な女を引きずろうとしていたアルベルは逆に自分からエリナの下へ戻って行ったデルミアに引きずられて行った。
「へっへへ・・・ガヴェルド、今の撮ってたか・・・?」
「バッチリでございます。」
パロミデスは仰け反った体を起こしながら幻映水晶を持っている自分の支持者であるガヴェルドに声をかけた。
そして黄金が煌めく椅子に座り直した。
「まぁ聞けやお姫様よォ。」
「"エリナ"だ。」
「あぁ・・・面倒だなァ。エリナ様よォ。今回読んだ理由は分かってるよなァ。」
「はい。円卓会議での無礼を謝罪したいとのことですよね。しかし私の大切な従者に対してこの仕打ちをするあなたの言葉では許す気も起きません。」
「それは悪かったよォ。地下迷宮にお前らを落としたのは、勝手だが俺からのちょっとした礼のつもりだったんだァ。」
何を言ってやがる。
あの地獄が"礼"だと?
誰が好き好んで惚れた女の苦しむさまが見てぇんだ。
やっぱりコイツはぶん殴ろう・・・。
「お前らが国指定の討伐モンスターを殺せばお前らの知名度が上がるだろォ?そしたら国王選挙に有利になるじゃねぇかァ。」
は?コイツはずっと何を言ってんだ?
「そりゃおかしいだろ。あの日の円卓会議で王になる条件は『初代国王の墓を見つける』って言われたばっかじゃねぇか。」
「あァ?お前ら知らねぇのかァ?円卓会議が合ったあの日、魔術師協会の最高幹部の爺さんたちが国王候補者に伝達したんだァ。もし期間内に初代国王の墓を見つけられなかったら期限が切れたその瞬間に総選挙を行う・・・ってよォ。」
一度も聞いたことのない情報にアルベル達は唖然とし、立ち尽くしていた。
それまで腕を組んでそっぽを向いていたデルミアも、まともにパロミデスの話を聞いていなかったビンスもそれには思わずパロミデスに顔を向けた。
そのような情報はエリナの耳に全く入っていなかったのだ。
「死ぬ間際にかなり引き伸ばしたくせに割としょーもねぇよなァ・・・。」
そんなことがあり得るのか・・・。
しかし魔術師協会の生き残った最高幹部たちの言葉だ。
恐らく真実なのだろう。
「だからよォ、俺みたいに強い軍事力を持ってねぇような候補者は諦めて支持率を上げることを目的にし始めてるんだ。」
「そういうことだったのか・・・餓者髑髏を俺達が倒せばオーガトロルに加えて国指定討伐モンスターを二匹も退治したということになる。そうすれば支持率も上がり、先代国王の風評被害で嫌われたエリナの評価も上がる・・・ということか。」
「おっ!お前なかなか飲み込みが早いなァ。んま理解してくれたんならそれでいいィ。」
アルベル達が自分の行動に納得したのを見るとパロミデスは椅子にもたれかかった。
今までは割と姿勢を正していたほうだったのだろう、より深く座ったのが伺えた。
「でも俺等が餓者髑髏を倒せなかったらどうする気だったんだ?」
「あァ?あぁ・・・それはなァ、あそこ地面空洞だっただろォ?いざとなったらあの地面ぶち抜いて『核の根』とやらを引きずり下ろしてあの場からお前たちを逃がしたさ。演者が死んじまったら放送事故だ放送事故ォ。」
アルベルは気になる単語が聞こえてきた。
それによってとある事を思い出した。
「お前確か俺達の事を"放送"してるって言ってたよな。賭け事に使ったってことだろ。それに対する弁明はあるか・・・。」
「へっ・・・俺は根っからのエンターテイナーだァ!使えるものは全て使い、どんな事にも無駄のない結果を求めるゥ!!お前らは餓者髑髏を倒せて名声が手に入るゥ!俺達は娯楽とスリルと金が手に入るゥ!だがお前らにこれを伝えなかったとてお前らは餓者髑髏を倒していたァ!双方に不利益も無駄もない俺の計画は成功したんだよ!!俺の目論見が当たったんだ!!」
アルベルは淡々と言い連ねるパロミデスに清々しさすら覚えた。
被害者である俺たちからすれば納得出来ないものではあるが、傍から見れば合理性の塊のような行動だ。
無駄を無くすところと言い、自らの体を張った行動もエンタメの一つとして捉える辺り、俺の想像している人物とは少し違うのかもしれない。
「まァ、お前らが知らなかったってのを俺は知らなかったァ。それはすまねぇ、詫びるぜ。」
今までの態度が急変し素直に頭を下げてきた。
誤解が解けた事によってこの態度になったのなら元々エリナや俺を嫌っていた訳じゃないのかもな。
あの日はのこいつは、ただ自分の支持者の積み上げてきた地位を俺なんかが一気に同格になったのが許せなかっただけなのかもしれない。
「こっからは歓迎ムードだお客人!おい"アレ"持ってこいィ。」
『かしこまりました。』
パロミデスはメイドに手を叩いて命じた。
"アレ"で伝わるのだろうか。
暫く待っていると後ろの扉が開いた。
アルベルたちが入ってきた扉だった。
「やっと来たなァ。」
パロミデスは椅子から飛び降り、入口付近へ立った。
そして入口から入ってきたのは
大量の光り輝く金貨だった。
「これはよこの街と他の町で俺が提携してるカジノでしか使えねぇ『クロ』っつー通貨だ。この街ではこれが金の代わりになるゥ。・・・そ・こ・でだァ。今日は本当に悪かったァ。詫びのついでだ、ここに1億クロある。存分にこの街で遊んでってくれよォ!なっ!」
そう言って初めて悪意の籠っていない笑顔をアルベルたちに見せてはにかんだ。
アルベルたちはあまりの屈託の無い顔と簡単に手渡された額に驚きを隠せなかったのであった。
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