第三十九話 骸
耳を澄ました。
左耳からは何も聞こえない。
だが、右耳から入ってくる情報は尋常ではなかった。
「・・・・・・」
全員が静まり返っている。
俺の邪魔をしまいとしているのだろうが、恐らく周りの声がうるさかろうが関係ないだろう。
耳から聞こえる『音』を脳で『声』として理解している感覚だからだ。
だからテレパシーに少し近いような気がする。
「次は左から二番目だ。」
アルベルはそう指示をし、五つある通路の中から左から二番目の道を選んだ。
風がそう言っているのだ。
アルベル達はただそれに従うだけだ。
「本当に便利ですね!そのお耳!」
エリナがアルベルの耳に対して感心した。
それにアルベルは耳をさすりながら答えた。
「へへへ、まぁな。まだあんまり慣れてないからこれから応用の仕方を調べていきてぇな。」
「例えばなんですか?」
「そうだな・・・風の聞こえる範囲の変更ができるのか、魔法的な風も聞こえるのか、風から予想されるイメージ映像がどれぐらい先まで見れるのか、とかかな。」
「そのお手伝い私にもさせてくださいね!」
「もうエリナったら、そういうとこまじ可愛いなぁ〜!!」
「エリナ様に気安く馴れ合うな。・・・・・・ッ!!」
何かに気がついたようにデルミアがアルベル達の前に手を出した。
すると地面からモンスターが四体現れた。
骸骨が鎧を纏い、片手には刃こぼれた剣、もう片方には古びた盾を持っていた。
「モンスターですね。」
「あれは『スカルブレイダー』だ。頭蓋骨の中にある『核の根』を斬らねば無限に復活してくる。」
「見た目が完全にドラ〇エIVのがいこつけんしだ
な・・・。」
「ふぉーのがいこつけんし?」
デルミアがハウンドダガーを構えた。
それに合わせ、アルベルもデルセロをスカルブレイダーに向けた。
それを見たスカルブレイダーは四人に向かって斬りかかってきた。
しかしその攻撃虚しく、三体のスカルブレイダーはデルミアに一刀両断された。
あれ程の大剣を狭い通路の壁に当たらないように振り回す様は美しく流麗だった。
「甘いわ。所詮骸か。」
そして残りをアルベルが対応することになった。
アルベルは右耳から聞こえる風の声でスカルブレイダーの剣をことごとく避けた。
「ふはははは!当たらなければどうということはない!!」
避けるのが楽しくなり、反撃をしていなかった。
その上調子に乗って、死ぬまでには言いたいセリフランキングの一つを達成していた。
そして全ての攻撃を避けられたスカルブレイダーは怒ったように飛び跳ね、上から飛びかかってきた。
アルベルはそれに合わせて剣を突き立て、脳天ごと串刺しにした。
「貴様の戦闘も様になってきたな。」
「藪からスティックだな・・・まぁ、この耳のおかげもあるけどな。」
デルミアが褒めてくるのは珍しい。
珍しいし嬉しいから素直に受けとっておこう。
そして剣を地面から引き抜いているデルミアに対してアルベルは言った。
「なぁデルミア。俺に剣術教えてくれよ。」
「どうした突然。」
「いや、俺のって剣術っていうよりただ剣を振ってるだけだったからよ。強くもねぇしカッコよくもねぇなって思って。デルミアの流れるような剣術がすげぇカッコよかったからよ。」
「貴様という奴は・・・。その向上心は認めるが、かっこいいが優先で出てくるとはな・・・。」
それは否定できなかった。
法治国家に生まれた俺はゲームで剣をを振ることはしても、現実で道場に通ったりしたことは無い。
勿論こちらの世界での父親、ヴェルゴから教わろうとしていたが、その矢先魔獣王『伯奇』に父親を殺され、それ以来習う機会など無かったのだ。
「なぜ私なのだ?騎士団の訓練は受けているだろう。」
「いや・・・そうなんだけどよ。俺はお前の剣術が使いてぇ。知らねぇ仲のクソみたいな上官に習うくらいだったらお前から習いてぇ。」
デルミアは振り返ってアルベルの顔を見た。
自分よりはるかに背も実力も低いハズのその男の目は、真剣そのものだった。
デルミアはその目から逃げることは出来ないと悟った。
「はぁ。上官に対しての態度は褒められたものでは無いが、考えておこう。」
「やったぜ!!」
アルベルは飛び跳ねて喜んだ。
父親に教われなかった悔しさがここに来て報われたのだった。
「その前に、流派について説明しとかなければならないな。」
お。中二心をくすぐる単語が出てきた。
流派か・・・『魔道の導き』には剣のことは書いてなかったな。
今考えればそれも変な話だな。
流派だって歴史あるものだ。
本来存在しないはずの歴史書である『魔道の導き』に載っていないのはおかしい。
まぁ今はデルミアの話を聞こう。
「まず剣術の流派が発展した理由としては、魔法が使えない者が気軽に習得できるという事と、力の悪魔として恐れられていた『古代魔人族』の使用していた槍や斧に対抗するために別の武器として魔法と剣が発展したのだ。
魔法の方は原初の魔術師達が、剣の方はこれから説明する流派を生み出した人物たちが広めたのだ。」
デルミアはアルベルに対してそう説明した。
しばらく通路は真っ直ぐな道のためアルベルはデルミアの方を見て話を聞いていた。
古代魔人族の話は魔道の導きで読んだことがあった。
原初の魔術師が今の人間に繋がっているのに対して、古代魔人族は今で言う『人間』の立ち位置にいた種族だ。
しかし他種族が増えたことによって、短気な古代魔人族は戦争を仕掛けた。
その時に全種族からの攻撃で滅ぼされたと書いてあった。
「そして剣術の主立った流派は五つ存在する。まずは、私の使っている一太刀一太刀の流れを基本とした『天川流』だ。途切れること無く敵を殲滅する事を目的とされている。そのため攻撃後の隙が少ない。だが避けられた時の防御手段が少ない。」
「だからデルミアは大剣を使って防御手段を増やしてるのか。」
「そのとおりだ。
そして二つ目は、一撃一撃の威力が全ての流派の中で特筆して高い『鬼獣流』だ。『斬る』というより『破壊』を目的とした殺戮特化の荒々しい流派だ。敵の武器ごと破壊するため、ある戦場では古代魔人族の武器を残らず破壊したという話もある。こちらも防御に乏しい流派だ。
三つ目は、カウンターや防御を重要とする『護陣流』だ。戦場では指揮官の周りを固めているのはこの流派であることが多い。現に我が国の騎士団はこれに武術を取り入れ、攻守のバランスを取った『王国流剣武術』として習わせている。」
王国流剣武術、親父の口から聞いた名前だ。
結局習わないまま終わってしまったのだが。
「四つ目は、突きや居合、受け流し等の対人戦に特化している『聖心流』だ。派生元が護陣流ということもあり、防御も出来て、攻めのリーチも長い。対人戦において最も厄介となる流派だ。
最後の五つ目の流派は、流派が作られた当時唯一魔力と掛け合わせた『魔断流』だ。太刀筋の特徴は他の流派に比べ自由度が高く、人により個人差があるが、当時唯一の特徴として、魔法と剣術をあわせた流派となっている。今は魔法剣士も増えてきたことによって影が薄くなりつつあるが、並の魔法剣士では到達できないレベルまで極められるという。」
「こうやって聞くとすごい情報量だな・・・。もうちょっと事前知識を持っておけばよかったぜ。」
「私が貴様に教えられるのは『天川流』と『鬼獣流』と『護陣流』だけだ。」
「めちゃくちゃ使えるじゃねぇか!お前ってやっぱりすごかったんだな・・・!」
「勘違いをするな。天川流以外は心得がある程度だ。実戦で猛者共と戦えるかと言われれば自信はない。」
「え?でも教えてるのは護陣流なんだろ?」
「あぁそのとおりだ。だから私が騎士団員時代は後手に回る剣術に嫌気が差して訓練から逃げて天川流の門を叩いた。そして数年後に国に戻り、当時の騎士団長と戦い、今の立場となった。」
「へぇ〜。デルミアにもそんな時期があったのですね。真面目な貴女が・・・ちょっと意外です。」
「エリナ様の乳母になる前のデルミア様の性格と言ったら、大変の一言でした。すぐ物壊してましたし、言うことを聞かない部下には暴力を振るいますし、上官に対しても口は悪いでそれはもう・・・」
「止めろ!この流れで私がダメージを受けるのは納得がいかん!」
「というかビンスはそんなことまで知ってるのかよ。お前は一体何歳なんだよ・・・。」
「女性に対して年齢を聞くだなんて恥を知ってください。」
「はいはいすいませんね・・・・・・お。またしてもデカい部屋に出たな。しかも風曰く、この部屋が最後みたいだぜ。」
アルベルの耳のお陰で四人は迷宮の最後の部屋まで来ることが出来た。
しかし出口は見当たらない。
それによく見れば奇妙なところばかりだった。
まず今までの通路や部屋とは違い、部屋は明るく、昼間と変わらないくらいには周辺が見えた。
「もう松明も必要なさそうですね。」
そう言ってビンスは手に持っていた松明の火を氷で消した。
消した松明の棒はなぜか持ったままだった。
愛着が湧いたのだろうか・・・?
すると天井付近から巨大な水晶が吊るされた。
「あれは・・・幻映水晶?何故こんなところに・・・。」
デルミアがそう呟くと幻映水晶が光だし、壁に映像を映し出した。
そこにいたのはこの地下迷宮にアルベル一行を叩き落とした張本人。
パロミデス・ラヴァーの姿だった。
「ようようお客人楽しんでるかァ?」
「テメェ!!パロミデス!!」
「おうおう怒るなってェ。コイツァ余興だよォ。」
「余興?一体何のですか。」
「何って・・・ん?お前はァ・・・。」
ビンスの問いかけに答えかけていたパロミデスは映像に映るビンスの顔をマジマジと見た。
「まぁいい。聞いて驚けェ!今までの数時間!お前らの行動全ては、この街の金持ち連中に中継されてたんだよォ!!」
パロミデスのその発言にエリナ以外の三人が怒りを覚えた。
自分が仕える主人をこのような目に遭わせ、それを娯楽に使われたのだから当然だった。
「お前らの行動の全てに賭け金が発生していたァ。誰が何回罠に引っかかるか、何回休憩するのか、何回敵と戦闘するのか様々になァ。」
「テメェ・・・本当に外道だな。」
「侵害だなァ。金に関する仕事をしてる奴が、この世で最も律儀だって言うのによォ。」
パロミデスはやれやれと言わんばかりに手を横に振った。
その行動にアルベルは反吐がでそうだった。
「さぁて・・・この部屋が最後の部屋だァ!ここに配置しているモンスターを倒して俺のところまで来るが良い!!」
「モンスターを配置だと・・・まさか!」
デルミアがパロミデスの言葉に心当たりがあるようだった。
「そこの乳と背のデカい姉ちゃんは気付いたみてぇだなァ。」
「デルミア。なにか心当たりでもあんのか?」
アルベルがデルミアに聞いた。
それに対してデルミアは警戒を解かずに答えた。
「貴様が撃破したオーガトロルがいただろう。あれは数年前に一度捕まり、一時期は音沙汰が何もなかったのだが、その後突然被害が出だしたのだ。」
「その通りだァ。あん時ァ俺の不手際で地下迷宮に設置しようとしたオーガトロルを逃がしちまったんだァ。それをそこの小僧が殺してくれたおかげで助かったってわけだァ。まぁ他の国王候補者たちは気がついてたみたいだけどなァ。」
「そういうことだったのかよ・・・!クソっ!結果的にお前のためになっちまったってことかよ。」
「そういうことだァ。さぁて、お喋りはここまでだァ。お前らが"コイツ"を倒せるのを願ってるぜェ。」
そこで幻映水晶の映像は途切れた。
握りこぶしを作っていたデルミアは拳から出血していた。
そしてビンスは巨大な氷の塊を作りだし、幻映水晶を破壊した。
しかし休んでいる暇など無く、地面から禍々しい魔力が漏れ出した。
どす黒く紫色の煙が周囲を包む。
そして巨大な骸骨が地面から頭、腕、体と出現し始めた。
スカルブレイダーとは比べ物にならないほどの大きさで、鎧や武器を所持していなかったが、その分凄まじい魔力を感じさせた。
「コイツは・・・国指定討伐モンスター・・・"餓者髑髏"!!」
その巨大な骸骨は四人に向かって、とてつもない咆哮を放った。
尋常ではない戦闘が始まる前の寒い気配が、アルベル達を包みこんだ。
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