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第三十七話 風を聴く耳


「俺の主人と尿意はどこいった。」


何も無い暗い通路に変な言葉が響く。

尿意を催していたアルベルは用を足すべく、一旦エリナ、ビンス、デルミアから離れると立った位置が丁度回転式の扉になっており、はぐれてしまった。

そうして暗い空間に一人きりになってしまったアルベルは三人の元に戻るべく、歩くことにした。


「皆は一枚壁を挟んで隣にいる。真っ直ぐ歩いてれば会えるだろうか。」


しかしモンスターがいるのならば俺だけでは心もとない・・・。


「まぁ最悪デルセロがあればどうにかなるか・・・」


デルセロは特別な武器だ。

『武性』と呼ばれる特殊な武器の特性を宿している。

その能力とは所持者の身体能力や身体機能を限界まで引き上げるというものだ。

この能力さえあれば、魔法の使い方がイマイチわからない俺ですらもそこそこの敵なら倒せる。


しかし問題が一つある。

使用後の反動が大きすぎるのだ。

行使し過すぎると体が動かなくなるのだ。

これは一回や二回の連続使用ならば疲労感で体が動かないのだが、それ以上使用し続けると体の神経や筋肉組織がズタズタになって最悪一生動けなくなるらしい。


「なるべく敵とはエンカウントしたくないな。」


さてとりあえず進もう。

明かりが無いから壁に手を付きながら進むしかない。


アルベルは松明も無いため、壁沿いに進むことにした。

道中は散々だった。


石につまづいたり、窪みにつまづいたり、出っ張りにつまづいたり、落とし穴に落ちそうになったり、壁から槍が飛び出したりと様々だった。

身体中擦り傷切り傷だらけになった。


小さく弱いモンスターにも襲われた。

コウモリ型のモンスターだったため、モンスターは暗闇に慣れていた。

そのため、アルベルは格下の敵にそこそこ苦戦を強いられたのだった。


今日ほど明かりとなる炎の魔法が使えればよかったと思うことは今後一切無いだろう。


「くそぉ・・・痛ぇ・・・戻ったらエリナに治してもらおう・・・・・・ん?あれは・・・」


すると目の前に明るい光が見えた。

松明の明かりだった。


「おーい!!エリナ!!デルミア!!ビンス!!無事だったかぁー!?」


松明の明かりが近づいてくる。

揺らめく炎が人が持っているものだと確信させた。


「俺はぶ・・・じ・・・」


しかしその叫び声も虚しく、松明のあかりはただの燭台だった。


「はぁ・・・まぁそうだよなぁ。」


しかし燭台があるのは幸運だったな。

これを持っていれば明かりになるのだから、難易度が三つくらい下がる。


アルベルは燭台を手に持った。


おお、流石に明るい。これならまだマシに探索できる。

・・・しかし今まで暗くて、まともに周囲を見回していなかったが、改めて見ると興味深いところばかりだな。

ゲームで言うところのダンジョンのような構造となっている。

今まで通ってきた通路や部屋にはモンスターも多少なりいたし、迷路のように入り組んでいるのはここを冒険した人達を惑わすため以外無いだろう。


壁は石造りでレンガっぽくなっているな。

先程は壁の分厚さで破壊を断念したが恐らくこの壁は物理攻撃を拒絶する効果が付与されている。


先程モンスターとの戦闘でデルセロが壁に当たった時デルセロと壁が反発したように跳ね返ってきた。

なら魔法なら・・・いや、それが可能なら既にビンスがやってくれているハズだ。

これは本で読んだ『付加魔法』いわゆるエンチャントだ。


初めての遠征任務で十戒のナベリウスがケルス・バンブレイドに姿を変えていた時に一度見た。

オーガトロルとの戦闘時に武器に風属性を付与していた。

あれが建築物にも付与可能なのだろう。


とはいえ、あの時の様子を見るとオーガトロルにもダメージはあったが致命傷ではなかった。

ならば強すぎる攻撃なら破壊できるのでは無いだろうか。

モンスター同士をバトルさせるゲームでさえ、どんなに防御に割り振っても必ずダメージを喰らう。

だったら武性解放して壁を殴り続ければいずれ破壊できるのでは無いだろうか・・・。


いや無理だな。

俺の常識が通用する世界では無い事くらい既にわかってきた。

確かに前世でのゲーム知識が全く役に立たなかった訳では無い。

だが、どのゲームでも必ず勝手が違う。

俺のクリアしてきた数多のゲームの、どの知識が当てはまるのか、はたまた全く当てはまらない新しいルールがあるのか、それは分からない。


だがエリナ達を探すという目的に変わりは無い。

俺がどんな状況に置かれようとも、あの子を護らなければならない。

護れるかどうかではなく、()()()()()()()()()()なのだから。





運任せで歩いていると広い空間へと出た。

周囲には何も無く、この空間だけは壁から弱い光が見えた。

恐らく部屋の装飾で、光る石で作られている言わば照明だろう。

嫌な予感しかしない。

こんなの・・・


「こんなの、いかにも中ボスが出てきますよみたいな殺り部屋じゃねぇか・・・!」


アルベルは恐る恐る部屋の出口へと向かった。

部屋の出口は一つだったため、迷うことは無いのだが、今までこの迷宮で何があったのか考えると、慎重にならざるを得なかった。


部屋の丁度中間地点まで歩いたところで、壁に設置されている石像が目に入った。


「でっっっかいなぁ・・・!」


この石像は一体なんなんだろう。

どこかの宗教の何かを象ったものだろうか。

『魔道の導き』やエリナから宗教関連の話はいくつか見たり聞いたことがあった。

大きな宗派としては三つ程あるらしい。

たしか破壊の『魔神』と創造の『天神』と維持の『虚神』を崇拝しているのが有名なんだっけか。


今は犯罪組織となっている十戒も、元々は原初の魔術師を崇拝する真っ当な宗教で、突然過激派な信徒によって構成され始めた事が原因で犯罪組織となったらしい。


こんな所にあるくらいだから御神体とかでは無いような気がするが。

男の子としてはこういう巨大なものにはとても憧れる。

額にある赤い宝石がクールだぜ。


しかし俺は行かなければならない。

さらばだ憧れの巨大石像。


アルベルは石像から向き直り、出口の方向へ向かって歩いた。

すると何やら砂埃が落下してきた。


「ボロいとはいえここまでか・・・早くエリナをみつけよう。」


アルベルは砂埃を払い、再び歩き始めた。


しかし砂埃の量は増えていく。

次第に鈍い音も聞こえてくる。

薄暗い部屋でも分かるほどの巨大な影がアルベルを覆った。


「嫌な予感的中・・・か・・・。」


アルベルは巨大な影が覆いかぶさった瞬間から全てを察していた。

静かに振り返るとそこには

先程の巨大な石像が動き出していた。


「こいつは・・・男のロマン・・・!!巨大石像守護者(ガーディアン)だぁぁぁ!!!」


巨大石像はアルベルに大して拳を振り下ろしてきた。

男のロマンとやらに見とれているアルベルは避けることを忘れ、石像を眺めていた。

アルベルの頭上まで巨大な腕が迫った瞬間にアルベルは正気を取り戻した。

そして体を低くして転がることで避けることに成功した。


いかんいかん!いくらロマンと言えど死んでしまったら意味が無い!俺はエリナの所に戻らなきゃならねぇんだ!!でも・・・


「この大きさはちょっと厳しいんですけど・・・」


石像は無駄に広いその空間の天井付近まで大きかった。

そして石像は再び腕を振り上げ、今度は薙ぎ払いでアルベルを狙った。

アルベルは後ろに飛び退き、またしても回避に成功した。


しかし攻撃の迫力から既に汗をかいていた。


こりゃ軽く20mはあるな・・・。

その石像の攻撃なんて考えたくもねぇ・・・!

当たったら死ぬ。

風圧で吹き飛ばされても死ぬ。

だったら・・・!


「しょうがねぇ・・・!」


アルベルはデルセロを構え直した。

そして意識を剣に集中させた。


「『武性解放・限界淘汰(アンリミテッド)』!!」


暗い空間でデルセロが光だし、その光がデルセロからアルベルの体に流れていき、アルベルの身体能力を限界ギリギリまで強化した。


「っしゃぁ!」


アルベルの叫び声はその空間に響き渡った。

そして尋常ではない速度で巨大石像の足元まで走った。

その間石像は掌を振り下ろし、アルベルを虫のように潰そうとした。

ひび割れた親指と人差し指の隙間を縫うように走り抜け、地面にデルセロを突き刺し、勢いを殺さずに方向転換した。


そして石像の左足首をデルセロで三度斬りつけた。

左右の体のバランスを崩すために低い位置から一段ずつ斬りつけた。


案の定、石像はバランスを崩し、左に傾いた。

アルベルは崩れていく石像の砂埃を利用して隠れながら石像から離れた。

石像がどうやってアルベルを認識しているのか分からなかったため、砂埃で身を隠すのは丁度良かった。


「これで終わってくれりゃ楽なんだけど・・・」


しかしその願いも虚しく、石像は斬られた足を補うように左腕で体を支えながら立ち上がった。


「だよな・・・。」


アルベルは再びデルセロを構え直した。

すると体勢を立て直した巨大石像は何も無い地面を握り拳を作り、叩きつけた。


これは・・・オーガトロルの使った岩属性の魔法の一つ『グランドクウェイク』だ。


「見たことあるぜそれ!!」


アルベルは身体能力が向上しているため、動体視力も上がっていた。

飛んでくる岩一つ一つを全て目視で避けることが出来た。


「へっ!どうだい!伊達に王国騎士やってねぇんだよ!こっから反撃させてもらうぜ!!」


そこから反撃しようと体勢を低くして走り出そうとするとアルベルは周囲の状態を見て絶句した。


オーガトロルのグランドクウェイクとは桁違いで、岩のサイズの規模が何倍もの大きさの岩がアルベルを取り囲んでいた。


くそっ!調子に乗っちまった・・・!

これじゃあ走り出せねぇ・・・!

上に飛ぶか?

いや飛んだら空中じゃ動けねぇ。

叩き落とされるのが関の山か・・・。

一旦岩が無ぇ所まで出ねぇと!


アルベルは後ろに飛び退き、瓦礫の山を次々と飛んだ。

足場が悪いため、この状態で前に進み、攻めることは出来ず、逃げるので精一杯だった。


アルベルは次々と飛んでくる岩や石像の腕を後ろに下がりながら避け続けた。


「だあぁぁ!!!鬱陶しいなぁ!!これでも・・・喰らいやがれ!!」


そしてしびれを切らしたアルベルは限界まで強化された肉体で落ちている岩を石像に投げ返した。


俺このくらいの岩なら持ち上げられるのか・・・!!だったら!!


アルベルは周囲を見回した。

細かい岩に紛れて所々大きな岩も見られた。

面積の広い岩や、柱のように縦長の岩等が主だった。


「よし!いける!」


アルベルは危険を顧みず、石像へ向かって前進した。

そして石像近くの壁をデルセロで十字に斬り裂いた。

すると壁の岩が崩れ、石像の足を埋めた。

石像は動こうとしたが、片足が無いのも相まって、体勢を崩して再び地面に倒れ込んだ。


「今のうちだぁぁーー!!」


アルベルはいそいそと岩が転がっている所へ走った。

そして手に取ったのは柱のように縦に長い岩だった。

それを持ち上げ、位置を整え、地面に置いた。

その後もう一つの縦長の岩を十字になるように上に重ねた。

アルベルは岩でシーソーを作り出したのだ。


アルベルがシーソーを作り終わったタイミングで石像が岩の中から立ち上がった。

そしてアルベルを発見するとその方向へ拳を振り下ろした。


だ、大丈夫だ!絶対成功する!


石像はアルベルが立っている方とは別の岩の先端を叩きつけた。

そしてアルベルはその反動で石像の方向へ進みながら空中へ飛び出した。


ガキの頃一番好きだった遊具が・・・・・・

このシーソーだ!こんちくしょう!!!


アルベルはとてつもない量の空気を正面からうけ、歯茎まで丸見えになった。


見えた!あの赤い宝石がどうせ弱点だ!!


「喰らえやぁぁ!!!」


アルベルは飛んだ勢いで石像の額にある赤い宝石目掛け、デルセロを突き刺した。

するとアルベルの身の丈ほどあった宝石が眩く光だし、宝石は割れた。


そして巨大石像はそのまま崩れ落ちた。

アルベルは武性解放の反動により、受身を摂ることも出来ず、石像の体の岩と共に地面に叩きつけられた。


あーくそ・・・。

ここで倒れちゃ本末転倒だってのに・・・。

ダメだ。

起きれ・・・ね・・・ぇ・・・









「おーいおい!起きろ!起きるのだ!」


疲れ果てて倒れているアルベルは弱々しく目を開いた。

その視界の先には一人の少女らしき人物が見えた。


誰だよ今疲れて起きれねぇんだよ・・・。


「おっ?目を覚ましたのだ。」


「あれっ・・・起きれる。」


アルベルは自分の体の疲労感が無くなっていることに気がついた。

そして少女を目の前に体を起こした。


体の疲れが抜けている・・・。

こいつがやったのか・・・?


「体・・・お前が治してくれたのか?」


「うむ!そうなのだ!」


「そんで・・・あんた誰よ。どっから湧いたロリっ子よ。」


「フッフッフ・・・!よくぞ聞いたのだ!!ワシの名は『ヴァルハラ』!!天神様の配下の・・・神様なのだ!!」


「ていう夢を見たのか」


「ち、ちがわい!!・・・というか貴様、そんなことも知らずにワシを助け出したのだ?」


「は?助けた?俺がお前を?」


「そうなのだ。貴様、あのゴーレムを破壊したであろう?あの額の『魔力供給型水晶』にワシは閉じ込められておったのだ。」


あれも水晶だったのか。

それに魔力供給型・・・恐らくコイツの魔力を吸い取って動いていたのだろう。


「そこでなのだ!助けてくれた礼として、何か一つ、欲しいものを願うがいいのだ!!」


「何言ってんだロリっ子。良い子はおうち帰って寝てろ。」


アルベルは治った体と立ち上がり、身体中の砂埃を払った。


「いやいやそうとはいかないのだ。助けて貰った礼はしろと天神様がいつも言ってるのだ。」


「だから今はそんなおふざけに付き合ってる暇ないんだって。俺は行くから、気をつけて帰れよ。」


「ムム・・・最近の人間の子供というのは・・・では、聞く耳を持たない貴様にこれをやろうなのだ!!」


その少女は自分の耳を引きちぎり、アルベルに飛びかかった。


「えっ!?嫌だよ!!気持ち悪い!!やめろぉ!!そんなもん近づけるな!!」


すると少女はアルベルの耳に自分の耳をちかづけ、アルベルの耳を自分の耳を持った手で握りつぶした。


「ギィヤァァァァ!!!!エリナぁぁ!!!ビンスぅぅ!!!デルミアぁぁ!!!ロリっ子にイタズラされるぅ!!!!」


アルベルの耳を自分の耳と揉み合わせたヴァルハラはアルベルから離れた。


「これは『禍威(まがい)の耳』なのだ!風を聞くことの出来る魔獣特有の耳なのだ。相手の行動を先読みしたり、聴覚から得た情報から未来の映像を想像する事ができるのだ。貴様は人の話を聞かないのだ!だからこれで我慢するのだ!」


「てめぇ!こらクソガキ!!痛ぇだろうが!何しやがる!!」


このロリっ子め・・・人の耳いじくり回しやがって・・・まだ痛ぇぞコノヤロウ!

・・・って待てよ?


「おい!今なんて言った!俺のこの右耳がなんだって!?」


「ん?だ〜か〜ら〜風を聞くことが出来る耳だと言ったのだ!」


確かその能力って・・・国王候補者で円卓第六席、アルマドス・ラモラックと同じ能力じゃねぇか。

いや彼女は自然の音全てを声として聞くことが出来る。

俺は風だけ、つまり劣化版ってとこだな。


「それじゃあ礼もしたいワシは帰るのだ。数百年ぶりのシャバなのだ!楽しむとするのだ!」


「おい!ちょっと待てよ!」


「それではさらばなのだ〜!」


ヴァルハラは背中から人とは思えないような翼を飛び出させ、何重にも重なっている天井を突き破って外へ出た。

その穴からは陽の光が差し込んでいたため、ここは街の外なのだろうと理解出来た。


「マジでなんだったんだ・・・あのロリっ子・・・」


耳はもう何ともなさそうだ。

体が動くようになったことは感謝しなきゃならねぇな。

今は先を急ごう。


アルベルは多すぎる困惑を抑えて石像のあった部屋を後にしたのだった。

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