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第三十五話 仕打ち

楽園都市ステンチューに到着したアルベル一行。

街の見物や観光は後回しとし、まずはこの街の主であるパロミデス・ラヴァーの所へ向かうことにした。

本来の目的は彼に会うことだからだ。


「しっかし、この人の数の多さには圧巻の一言だな・・・。国王候補者が治める街ってみんなこんな感じなのか?」


人の少なかった田舎村出身のアルベルは王都以来の人の多さに圧倒されていた。

暫く歩いたとて周囲は相変わらずやかましく、かなり声を張り上げないと会話が成り立たなかった。


「まぁ大抵はそうだな。例えば、妖精族の長のベデヴィア・エクスレス様の治める妖精族が住む樹海には、王都と変わりないほどの数の妖精やそれに近い他種族が住んでいる。」


「しかし妖精族の住む樹海はここより広く、のびのび暮らしていると思います。ここは人の多さのわりに狭いです・・・。」


慣れない雰囲気にエリナは少々疲れ気味のようだった。

締め切られたように結界が張られ、それを広さに見合わない数の人間がいるのだ。

そうなっても仕方がない。


「エリナ大丈夫か?少し休むか?」


「いえ・・・大丈夫です・・・パロミデス様もお待ちでしょうし・・・急ぎましょう。」


多分エリナはゲーセンとか無理なタイプだな。

それもそうだろう。

お姫様で普段外になんて出させて貰えないだろうし、こんなに人が密集してる場だ、無理もない。

その点、俺は初めて来るところにも関わらず、割かし適応し始めている。

これも前世でのゲームオタクのおかげだろうか。

ゲームセンターにはあまり行ったことがないが・・・。

そう、前世の俺のまだ救える部分としては遊び歩いている訳では無い、という所だ。

エリナには悪いが今は雰囲気を楽しむとしよう。





暫く歩き、領主邸へと到着した。

領主邸までの道はかなり複雑だった。

謎に裏路地に回ったりしなければ通れない通路、上下の高低差がある道、その道を上下移動型水晶・・・いわゆるエレベーターや、連なった階段が水晶で動く、駆動階段型水晶・・・つまりエスカレーターで移動したり等、水晶で動くような移動に便利な物で移動したり、それらが複雑かつ乱雑に配置され、それを上手いこと乗り継いで、見逃して、としなければ辿り着けないのである。


聞くところによるとこの街ステンチューは昔、複雑な迷路として作られたらしい。

何故作られたのか、この場所である必要性はなんなのか、そしてそのような複雑な街をパロミデスは何故楽園都市として発展させたのか。

その辺が未だに謎なのだとか。


「遠くからでもデカいとは思ってたけど・・・近くで見ると更にそのデカさが際立つな。それに今までの複雑な迷路、一人で来たら間違いなく迷う自信があるね俺は。」


「ここまで案内してくれてありがとうございます。ビンス、デルミア。」


「有り難きお言葉・・・ですがデルミア様は私達の後ろを着いてきただけですので何もなされていません。」


「おい言われてるぞ特別指南役。お前に対してもあんな態度なのかあいつ。」


「伊達に長い付き合いでは無いというところか・・・。」


あいつの態度って一体・・・。

アルベルとデルミアの意見が合致した珍しい瞬間だった。


「ビンスがここまでの道のりを知っているということは・・・ビンスは以前このお屋敷に務めていたのですか?」


その言葉に先程までの空気感とは違い、緊張が走った。

ビンスの目つきは鋭くなり、デルミアは額に汗をかくように焦ったようだった。

アルベルはその空気のマズさを瞬時に察した。


そして周囲が騒がしいのは相変わらずの中、四人の中では沈黙が続いた。


それを破ったのはビンス本人だった。


「いえ。違います。私はここで・・・・・」


そこまで言いかけるとデルミアが「わあぁぁーーー!!!」と柄にもない大声を上げた。


「まぁ、そんなところですよエリナ様!ささ、パロミデス様もお待ちでしょう!行きましょう!」


「えっ!?あっ、はい?」


そんなデルミアはビンスの話をさえぎり、領主邸へとエリナを連れて入った。

そしてアルベルとビンスは外に取り残された。


「ま、人に知られたくない過去くらい誰にだってあるよな・・・」


アルベルはビンスを見ながら呟いた。

しかしビンスは何も言わず領主邸へと入って行った。


なんですか。また置いてけぼりですか。

まぁいいですけどね。

多分あの調子じゃビンスかデルミアのどちらかに恥ずかしー黒歴史でもあるのだろう。

俺だって引きこもり時代の話を他人からされればいい気はしない。


「なんだかなぁ。」とアルベルはビンスに続き、領主邸へと入った。


するとそこには外観のダークで豪華な雰囲気とは違い、内装は「派手」そのものだった。

金の装飾は勿論。

壁一面の黄金。ワインレッドのカーペット、シャンデリアに、黒光りするタイル。


「すっげぇ・・・まるで黄金郷、シャンドラみたいだな・・・!」


「しゃん・・・どら?」


先に入ったエリナは聞き慣れない言葉に首を傾げた。


「あぁいや。こっちの話だ。」


『お待ちしておりました。』


揃った声が聞こえてきた。

声の方へ目をやると四人のメイドが立っていた。


『旦那様がお待ちです。どうぞ奥へ。』


おっ、恐ろしい程に息ピッタリだな・・・黄金に引き続き、これもあいつの趣味なのだろうか?


アルベル達は四人のメイドに着いて行く形で案内された。

しかしこれまた領主邸内も複雑に入り組んでいた。


こんな家に住んでたら不便で仕方ないだろうに・・・一体どんな神経してんだよ・・・。


するとメイド達が急に立ち止まった。


「ん?どうしたんすか?」


「何かこちらに不手際があったのならウチのアルベルが謝罪しよう。」


「おいなんでだよ。」


『いいえ。何の問題もありません。』


先程から感じていたメイド達に対する不気味な雰囲気が更に増した。


「ではどうしたのですか?」


『皆様。是非、"生きて"旦那様の元まで辿り着いてくださいね。』


アルベルは息が合い、逆に聞きやすかった彼女らのその言葉が初めて理解できなかった。

嫌な予感がした。


「は?何言って・・・・・ぬぉうっ!!!」

「なんだこれは!?」

「キャッ!」

「やはり・・・」


メイド達が一歩進んだ。

するとアルベル達の立っていた足元の黒光りしていたタイルがごっそりと全て消えた。

分かりやすく言えば、床が抜けたのだ。


『では。行ってらっしゃいませ。』


「嘘だろぉぉ!!!!」


アルベルの叫び虚しく、四人は領主邸から地下へと真っ逆さまに落下した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

四つの落下音が地下空間に響き渡った。


「痛っ・・・エリナ大丈夫か?」


「はい・・・。アルベル様こそ・・・その・・・重くないですか?」


というのもアルベルはエリナの下敷きとなり、エリナを衝撃から護ったのだ。


「平気平気〜!重くもなんともない!むしろ体が軽くなったようだぜ!」


「すみません。ちょっと何言ってるのか・・・。」


「それとこれとは別に・・・あのチャラ男・・・次会ったらぶっ殺す・・・。」

「それには同感だ。同じ候補者と言えどエリナ様に対するこの仕打ちは許さん・・・!」


「とりあえず先へ進みましょう。何か分かるかもしれませんし。」


「分かりました。では私ビンスが先導致します。」


ビンスが壁に立掛けてあった松明を持って前へ出た。


「はい。お願いします。」


アルベル達は唯一の出口である方向へ歩き出した。

そしてそれを監視している人間が一人。


『おいコラー!誰が細かいモノマネしたよ!早く出せ!!』


『細かいモノマネをすると落とされるのですか?』


『それじゃあ貴様のせいか。』


『いやいや、伝わらないと落とされる・・・って、この話は別にいいんだよ。』





四人の会話が聞こえてくるその部屋では、幻映水晶が無数に置かれており、アルベル達以外も様々な部屋が映し出されていた。


「せいぜい俺"達"を楽しませてくれよォ。」


その特徴的な語尾には笑みと快楽と・・・欲望が含まれていた。

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