第三十三話 『贖』の街
ビンスは走った。
街から聞こえた悲鳴の正体を確かめるために。
草木をかけ分け、最短のルートを全速力で走った。
既に走り疲れ、ボロボロの状態で街まで。
「まだ被害が少なければいいのですけど・・・」
ビンスが悲鳴の聞こえたところまで着いた時に既に戦闘は始まっており、アルベルが無数のモンスターと応戦していた。
そのモンスターとは体調2m程のコウモリ型モンスターで、滑空や風を巻き起こして攻撃を仕掛け、羽を広げ、群れをなす姿を壁に例えられ、『ウォールバット』と呼ばれているモンスターが8体いた。
「ビンス!来たか!」
「アルベル様、現在の状況の説明をお願いします。」
「あぁ。急にコイツらがなんかに誘われたように飛んできた。そんで村人を襲おうとしたからデルミアとエリナが避難させてる。エリナは怪我人の治療、デルミアは避難が終わり次第合流する事になってる。」
アルベルが状況を説明しているとウォールバットが二人の元へ滑空して攻撃を仕掛けてきた。
ビンスは飛び跳ねることで回避、アルベルは地面を転がることで回避した。
その後、ビンスは一瞬でウォールバットの位置を捉え、アルベルに指示を出した。
「アルベル様は地上付近の3体をお願いします。私は上空の5体を叩きます。」
「えっ!ちょっ!おい!」
「『シャザリ・板』」
アルベルの了解も聞かずビンスは氷魔法で空中に足場を作り、上空へと跳び上がって行った。
「俺・・・魔法使えないんだけど・・・」
アルベルは幼少期に戦闘したベテランキラーの時と、王都に来て初めての訓練時にユージュから一方的に殴られ、激昂した上で解放しかけていたのを王国騎士団副団長のセルビオに止められて以来、魔法を使っていないのだ。
あの時は確かに腹の中側から感じていた『魔力の感覚』が今は全く感じられず、出したくても魔法が出せない状況にあった。
そのため先日の豚速を捕まえる時もダメで元々で発動しようとしたのだった。
「くそぅ・・・こうなったら・・・豚野郎の時のリベンジといこうぜ、デルセロ!」
アルベルが語りかけるとデルセロはそれに反応したように夕日を反射した。
そしてアルベルはデルセロを構え、集中した。
するとデルセロから徐々に強く、光が放たれた。
「『武性解放・限界淘汰』」
アルベルは城に仕えている鍛冶師から聞いていた。スキル創造を持った鍛冶師や特別な武器にはその武器固有の能力や特性があるという。
それが『武性』であると。
彼の父、ヴェルゴが生前最後に打った剣であるデルセロの武性は、所持者の身体能力を限界まで引き出すというもので、魔法が使えなくなっているアルベルに残された唯一の魔法のようなものだった。
素の戦闘能力が一般人より低いアルベルが使ったところで魔獣王を倒せるかと言われるとそんなことは決してない。
しかし今までのような、足手まといになる戦闘をすることは無くなる。
それ程までに強力かつ希少な武性なのだと鍛冶師は語った。
「よっしゃあ!力湧いてきたぜ!」
アルベルは気合を入れ、地面を踏み込んだ。
そして地上付近にいるウォールバットに向かって跳び、早速デルセロでウォールバットの羽の付け根に一撃を与えた。
それによりウォールバットは地面へと落下した。
「どんなもんだ!元引き籠もりでゲームオタクのウィークポイント探る能力舐めんじゃねぇぞ!」
アルベルの言った通りウォールバットは飛ぶことが出来ずになっていた。
それもそのはず。ウォールバットの弱点は羽の付け根で、このモンスターは飛ぶことに特化しすぎて、足で立つこともままならないほど筋力が衰えているのだ。
アルベルが調子に乗っていると自分の真横に氷に貫かれたウォールバットが3体落ちてきた。
「あまり調子に乗らないでください。」
「はい・・・すみません。」
ウォールバットは群れをなすモンスターの為、味方が半分も倒されたことに少しうろたえている様子だった。
「そんじゃあ、あと2匹だ!」
アルベルは再び、限界まで強化された足腰で跳び上がり、ウォールバットの背後まで回った。
もらったぜ!!
しかしその考えは甘く、ウォールバットよ急旋回の風に巻き込まれ、体勢を崩した。
しま・・・っ!!
アルベルが攻撃を覚悟すると急旋回したウォールバットに氷塊が突き刺さった。
そして落ちると思っていたら氷の足場の上でビンスに持ち上げられていた。
「あらビンスさん・・・力がお強いですのね・・・」
「まったく・・・だからあれ程調子に乗らないでくださいと言いましたのに。今度、武性に関する訓練をデルミア様にしてもらいましょう。」
「そりゃ勘弁してくれ。」
二人が話しているスキに残りのウォールバット達は飛び去っていった。
恐らく仲間の半数が倒される、または戦闘不能になると形勢不利と判断し、逃げるという本能があるのだろう。
「とりあえず片付いたみたいだな。」
「そうですね・・・・・ッ!!」
合計で5体のウォールバットの死体があった。
しかしビンスの観察眼は見逃さなかった。
一体のウォールバットが氷に貫かれながらも口から溶解液を吐き出そうとしているのに。
その口の矛先には逃げ遅れた老夫婦がいた。
ビンスは残り少ない体力を振り絞って老夫婦の元へ走った。
ダメ!間に合わない・・・!
すると瓦礫から一つの小さな影が老夫婦と溶解液の間に割って入った。
テールだ。
ビンスの貧民街から動くなという指示を無視し、老夫婦を守るために飛び出したのだ。
「私はもう・・・守られて仕方ないなんて思いたくない!!」
テールは両腕を横に大きく広げ、老夫婦を庇う形をとった。
老夫婦が背に居る以上無闇に「逃げろ」と言えないビンスはもどかしくもそのまま走った。
しかし溶解液はもうテールの目の前だった。
何かが溶けるような着弾音が聞こえた。
辺りは溶解液によって溶かされた物のの湯気によって見えなくなっていた。
テール様・・・!
ビンスは、小さな勇気を振り絞って大きなことを成し遂げた少女のことを思って絶望していた。
しかし次第に周囲がザワザワと騒ぎ出した。
「おいあれ・・・」
「なんかデカイのが一人いるぞ・・・」
「あれは・・・!」
ビンスは顔を上げて凝視した。
そこには溶けた少女の肉塊も、老夫婦の死体もなかった。
そこに居たのは、老夫婦を庇ったテールを更に庇った、男の姿のデルミアのだった。
「遅くなってしまった、すまない。怪我は無いかお嬢ちゃん?さっきの言葉は流石の私も痺れたよ。」
溶解液はデルミアの強靭な腕によって受け止められた。
「オッサンは・・・怪我ないの?」
「ん?あぁこれか。長年騎士やってるとな、これくらい屁でもないのだよ。」
先程まで汚らしい顔でニヤニヤと笑っていたウォールバットの顔は絶望していた。
ビンスは立ち止まった横にちょうどそのウォールバットがいたため、頭を粉々になるまで踏み潰した。
そしてビンスはテールの元へと近づいて行った。
「姉ちゃん!私、もう『仕方がない』って考えるのは辞めた!守られてる時思ったんだ。このまま誰かに守られ続けてもいい事ない・・・ってさ!」
「それがご理解頂けたのなら・・・十分です。」
二人は見つめ合いながら微笑んだ。
「で・・・アルベル様は何故横たわられているのですか。」
いい雰囲気をぶち壊すかのようにビンスはアルベルに対して言及した。
「ふふふ・・・よくぞ聞いてくれました・・・説明しよう!実はデルセロの『武性』の反動で俺は今、全く身動きが出来ないのだ!・・・なので誰か・・・・・・助けてください。」
「はぁ・・・貴方という人は相変わらずですね・・・。」
「お褒めに預かり光栄だ。」
「いや褒めてはおらんだろ。」
アルベルを抱き起こそうと近づいてきたデルミアがアルベルに対して言った。
「お前はなんなんだよ、デルミア。美味しいとこだけ持っていきやがって。」
「私はしっかりと住人達を避難をさせていたぞ。エリナ様は現在宿屋で簡易的な治療場を開かれている。とりあえずはお前とビンスもそこに連れていく。ビンスは自分で歩けるな?」
「はい。了解致しました、デルミア様。念の為、テール様も行きましょう。」
「おう。わかった。」
そう言ってデルミアがアルベルを肩に乗せて、ビンスもテールと手を繋ぎ、それについて行こうとすると、背後から大きな声が聞こえた。
「テール!!」
それはテールを呼ぶ声だった。
その声を発したのは肉屋のハーツだ。
「お前に謝らなければならないことがある。」
「なっ・・・なんだよ改まって・・・謝るんなら・・・」
テールはゴニャゴニャと言葉を濁した。
その間にハーツを始めとした住人たちが話し始めた。
「お前の両親を殺したのはこの街・・・そう言ったな。その理由というのが、この街から採れる香辛料のせいなのだ。」
「香辛料・・・?それって『エイトハーブ』の事か?そんなのそこら中に生えてるじゃねぇか・・・。」
「そのハーブは実は、料理に使う分には問題ないが、自生しているハーブにはモンスターを引き寄せてしまう効果があるのだ・・・。そのモンスターを引き寄せているのが分かったのが・・・お前の両親が死んだ後の事だったんだ。」
「ーー!!」
ビンスやアルベル、デルミアは静かに聞いていた。
部外者である自分たちの言葉など無粋以外の何物でもなかった。
「『仕方がない』と考えていたのは私たちの方だ・・・!どうか許してくれ・・・。お前に盗まれることで少しでも罪悪感を減らそうとした!貧民街の皆にも協力してもらってお前を守っていた!それが罪滅ぼしになると思っていたからだ・・・。でもそれは違った。逃げていたのは私たちの方だ。」
「もういいってオッサン。」
土下座するハーツや頭を下げる他の住人たちにビンスから手を離したテールが近づき、手を差し伸べた。
「私もわざとやらせてくれてたとはいえ盗みなんてやって悪かったよ。これからは真面目に働くから仲良くしようぜ。」
「テール・・・!」
泣き崩れるハーツとそれを慰めるテールの姿を見てビンスは柔らかな表情を浮かべた。
「俺達がここにいるのは野暮ってもんだな・・・。俺が居なくて寂しがってるエリナのところに早く行こうぜ。」
「調子に乗るな童。」
そしてその二人と住人たちを残してアルベルとビンスとデルミアはエリナの待つ宿屋へと向かったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあなぁ!姉ちゃん達!兄ちゃん!オッサン!」
翌日、アルベル一行はエイトを出発した。
それを見送るように住人一同とテールが街の出口に集まってくれた。
ビンスはテールの手を振る姿をずっと見ていた。
その様子が気になったアルベルはテールとハーツのその後について言った。
「テールとハーツのオッサン。一緒に暮らすことにしたらしいぜ。肉屋で働いていつかは王都に支店を出したいってよ。」
「・・・そうですか。」
「なんだかビンス。とっても嬉しそうですね!」
「そうですか?私にはいつもと変わらないようにしか見えない気が・・・」
「フフ。デルミアは鈍感さんですね。」
見送る住人たちを見るビンスの瞳は確かに喜びと住人たちに対する愛着を感じさせる、優しげな表情だった。
そして再びアルベル、エリナ、ビンス、デルミアは楽園都市・ステンチューへと出発したのだった。
お読みいただきましてありがとうございます!!この作品が面白いと感じていただけたのなら是非ブックマークや感想、レビューやいいねの方をどうぞよろしくお願いいたします!!




