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第三十二話 お説教

「なーんか辛気臭くなっちまったな。」


「・・・。」


アルベルとビンスは食の街エイトでとある少女にぶつかられるが、肉屋を営むハーツからその少女、テールは盗人と聞かされた。

しかしその実態は、住人たちが自分たちの罪滅ぼしの為にわざと盗ませていたという。


「このまま歩いてても埒明かねぇし、一旦二人のとこ戻るか。」


「私は・・・少し歩いてから戻ります。荷物、よろしくお願いしますね。」


「・・・わかった。そんじゃあ二人と宿屋にいるからよ。」


ビンスはアルベルの誘いを断り、少し歩くことにしたようだ。

そのため、アルベルは一人でエリナとデルミアのところに戻ることにした。


「・・・・・・ちなみに、方向音痴のお前が迷わないように言っとくと、貧民街はこの道を真っすぐ行ったところにあるからな。絶対行くなよ。」


「私は方向音痴ではありませんし貧民街へ行くつもりもありません。勝手な誤解をなされるなら死んでください。」


後ろを振り返らずにビンスに対して言うとまたしてもビンスからキツい物言いが飛んできた。


「はいよ。そりゃ悪かったな。」


またしてもアルベルは後ろを振り返らず手を振って歩き始めた。

ビンスはアルベルが見えなくなるまで見つめていた。

そしてアルベルが見えなくなると自分の背後へと歩いていった。


歩く速度はどんどん上がっていく。

次第に足の回転速度は走るのと同等になっていた。

子どもがワクワクするような元気な足取りではなく、メスにアピールするために豚速(トンソク)のオスが走るようでもなく、まるで飼い主を見失った犬が焦りと心配の心で全速力で走っているようだった。


景色はどんどんみすぼらしくなってくる。

どうやら貧民街に入ったようだ。


ここにあの子がいる・・・急がなくては・・・


「すみません。この辺で女の子を見かけませんでしたか?」


地面に寝ている男に声をかけた。

男は興味なさそうに一瞬だけビンスを見て、「フンッ」と鼻を鳴らし、再び寝に入った。

ビンスは男の反応をしばらく待ったがそれから何も返ってこないためその場を離れることにした。


「・・・失礼いたします。」


ビンスは一度頭を下げ、その場を後にした。

その後も


「すみません。この辺で女の子を見かけませんでしたか?」

「しらん!どっかいけ!」


「すみません。この辺で女の子を見かけませんでしたか?」

「お前王都の人間だろ。こんなとこにいないで帰ったらどうだ?」


「すみません。この辺で女の子を見かけませんでしたか?」


「すみません。この辺で女の子を見かけませんでしたか?」


「すみません。この辺で女の子を見かけませんでしたか?」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」


「すみません。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ビンスは必死に聞いて回った。

途中子どもたちから石を投げられ、わざとぶつかられ転倒し泥まみれ切り傷だらけ。

欲求不満な男たちに群がられ、食べ物や衣服をせがまれる。

酷い異臭と謎の死体やヘドロがそこら中に蔓延っていた。

そんな中必死にテールを探した。

しかし『仲間を売る奴はいない。」と言わんばかりに誰もまともに対応してくれなかった。



そして探し始めて3時間が経過した。

すっかり日は暮れ始めていた。

決して広くない街を何十回も見て回ったため、大抵の建物の場所を覚えてしまっていた。

すると24回目に通った貧民街近くの川辺で一人の少女を発見した。


「テール様・・・」

「ーー!!誰だ!?」


少女は振り返り、ナイフを手に取り、すぐに戦闘態勢を取った。

しかし非武装で戦意のないボロボロなビンスの姿を見て呆気にとられた。


「なんだ・・・昼間のねぇちゃんか。なんか用か?てっきり街の連中が捕まえに来たのかと・・・」


ビンスは肩で息をしながらビンスへ近づき、少女の小さな肩に手をおいた。

それは昼間の時とは違い、力強く、力んでいた。


「ちょ!いきなり何すんだよ!!」

「いいですか?テール様。」

「なんで私の名前知ってんだよ!?まさか・・・ハーツのおっさんだな!」

「聞きなさい!テール!」

「ーーー!?」


ビンスの強い語気に圧倒され、テールは静かに頭を縦に振った。


「いいですか、よく聞いて下さい。貴方はまだいくらでも変われます。ですので、街の皆様に謝罪なさってきちんと働いてください。」

「本当に何なんだよあんた・・・急に現れて説教だなんて・・・。」


テールは目を合わせようとしない。

しかしビンスは気にせず話を続けた。


「自分が『仕方ない』、『どうしようもない』と思って行動している内は変われません。貴方は街の皆様のご厚意でわざと盗ませてもらっているのです。ハーツ様は貴女のご両親を殺したのは『この街』と仰っていました。貴女に盗ませているのはその贖罪のためだと。それで貴女は納得しているのですか?このまま盗みを続けて、この街を出た後も通用するとお思いですか?」


テールは黙り込んでしまっていた。

これ以上の言葉は意味がない、とビンスはテールの肩から手を退けた。


二人の間にしばしの沈黙が流れた。

川のせせらぎの音、風が木を揺らし葉の擦れる音。

全てが永遠に感じられたその沈黙の空間を破ったのは街から聞こえてきた悲鳴だった。


「キャー!!化物!!」

「モンスターだ!みんな逃げろ!」


モンスター!?何故このようなところに・・・


「テール!貴女はここにいてください。私は街の様子を見に行きます。絶対に動かれないよう・・・お願いします。」


そう言い残しビンスは全速力で街へと戻った。

その速さと言ったら風の如き速度で、道を滑るように進んでいった。

テールはその光景をただただ後ろから見ているしか無かった。

いや、俯いている彼女にはもはや何も見えてはいなかったのかもしれない。

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