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第三十話 初めてだらけ

国王候補者であり、円卓末席の『パロミデス・ラヴァー』に円卓会議での非礼を詫びたいと、彼の統治する娯楽と欲望の街『ステンチュー』に招待されたアルベル、エリナは不本意にも付いてきたメイドでエリナのお世話係のビンスと、王国騎士団特別指南役で交渉係や戦闘係を担うデルミアと共に、王都から馬車に乗り、ステンチューを目指した。


ステンチューは王都から南西に80km程のところにある都市のため、現在アルベル達は南西方向に向かい、王都とステンチューの間にある食文化が発達した街『エイト』を目指していた。


「なぁ・・・そろそろ運転変わってくれよ。まさかずっと俺に運転させるわけじゃねぇよな?」


アルベルは自分の後頭部付近にある窓を開け、馬車の中を覗き込みながら言った。

既にアルベルと馬は50km程進んでおり、王都を出発した早朝から9時間ほど経過していた。


「お前ら・・・・・・」


しかし、アルベルが覗き込んだ窓から見えた馬車の中の光景は・・・

アルベルを放おっておいて優雅に紅茶とクッキーを食べながら外の景色を楽しんでいる三人がいた。


「見てくださいデルミア!あそこに二足歩行の豚さんがいますよ!」

「あれは"豚速(トンソク)"という家畜モンスターですね。野良でも普通にいる、至って一般的なモンスターです。彼らはメスに対して足の速さでアピールをするのですが、その足の速さが速いほどメスへのアピールとなり、一番速いオスがメスと(つがい)になるのです。速いものでは時速50kmを誇る豚速もいたそうですよ。」

「すごいです豚さん!この馬車よりもずーっとお速いだなんて!」

「ちなみに味も足が速いほど絶品で、しっとりとした肉質に、甘みのある脂身はどんな調理をしても味が損なわれないのです。」


黙って一人でクッキーを食べ尽くしたビンスが口を挟んだ。

彼女は料理もするためそこら辺の知識も多く持っていた。


「ちょうどよかった。今日の晩ごはんがまだ決まっていなかったのです。狩りましょうか。」

「馬鹿者!エリナ様の目の前で解体ショーなどさせぬぞ!」


豚速を今日の夕食にするために懐から二本の短剣を取り出したビンスをデルミアが止めに入った。


「離してくださいデルミア様。私はもう今日の夕食を豚速のカツにすると決めたのです。」

「ちょっ!抵抗する気か!貴様も変な所頑固だな!」


二人は馬車の中で揉み合った。

男の血が騒いだアルベルは気づかれないようにゆっくりと馬車の速度を落としていき、二人の取っ組み合いをじっくりと眺めていた。

触れ合う二人の少女の取っ組み合いはそれはそれは絵になった。

180cm程あるデルミアのほうが圧倒的に大きく有利だと思われたが、マウントを取っているのは160cmあるかないかのビンスだった。

デルミアのエリナに負けず劣らずの豊満な胸をビンスは恨みたらしく揉みしだいていた。

恨みたらしく揉んでいるのは恐らく自分が貧乳だからだろう。


「デルミア様、筋肉質であるあなた様がこのような余分な脂肪などいらないでしょう。なので私に分けてください。」

「何を言っているんだ貴様は!私の胸から手を離せ!私にそのような趣味はない!その謎に怖い目をやめろぉ!!」

「あわわわ・・・二人共落ち着いてくださいぃ!!」


そのやり取りをアルベルは最初は楽しみながら見ていたが、次第に呆れが強くなってきた。


こうやって俺に対して喋らずに見てる分には悪くないんだけどな・・・。

だって普通に美人だし可愛いし、それなのに俺だけにはアタリがとても強い。

何故なのだろうか。

俺が何かした訳でもないだろうに。

・・・・・・いや、突然現れた全裸人間に姫の護衛を任されれば自ずと恨まれるか・・・。


「ん?」


アルベルは組み合ってる二人から少し離れたところにいたエリナの方を見ていると、とてつもない殺気を感じた。

恐る恐る視線を少し下げていくと、組み合っていた二人から同時に、親の仇を見るような目つきで睨まれた。

覗いているのがバレたのだ。


「貴様・・・何を見ている・・・」

「やはり貴方はそういう方でしたか。死んでください。」


アルベルは二人の静かな怒りと殺気を一身に受けた。

体中の鳥肌が飛び出してそこから汗が大量に吹き出すような感覚に襲われた。


これ俺悪くないだろ・・・。


「罰として貴様は夕食抜きだ。」

「おい!それはおかしいだろ!お前らが勝手に取っ組み合い始めたのによ!そりゃ男の血が騒いだのは認めるけど・・・こんなところでおっぱじめるのが悪いだろうが!」

「姫様の前でおっぱじめるとか言うな!」

「とりあえずアルベル様は死んでください。」

「お前はそれしか言わないのな!!」


言い争う三人をエリナはあたふたしながらキョロキョロと交互に見合っていた。

そして


「あわわわ・・・・・・・・・三人とも・・・喧嘩はやめてくださーーい!!!」


と叫んだことによって三人の喧嘩は終結を迎えた。

アルベルは顔に打撲と頭の頂点にたんこぶを作られ、喧嘩は平和に終わったのだった。





四人は夕食の食材を取るために馬車を停め、先程の豚速を狩ることにした。

アルベルは先程二人に作られた怪我をエリナに治されてから狩りに参加することにした。


あの二人・・・後で寝てる間に引っ叩いてやる・・・。


「はい治りましたよ。」

「ありがとうエリナ。そんじゃ俺も一狩り行くとしますかね。」

「はい!頑張ってください!・・・私は何も出来ないので少し申し訳ないのですが・・・。」

「エリナ・・・。」


エリナは眉毛を下げて少し俯いた。

アルベルは少女の何度も見たその表情に同情した。


俺だって騎士って立場がなきゃ何もしなかっただろうし何も出来なかっただろうよ・・・。


アルベルは俯く少女の目線に合わせて膝をついた。


「いいかエリナ。人には必ず『役目』と『出番』があるんだ。」

「『役目』と『出番』・・・ですか?」

「そうだ。例えばだ。俺が馬車を運転したり狩りをしたり、デルミア武力解決とか交渉をして、ビンスが料理や身の回りの世話をしてくれて、そしてエリナが一仕事終えた俺達に『ご苦労さま』って労ってくれる。これが役目と出番だ。」


エリナはアルベルの言った『役目』と『出番』という言葉を呟き続けた後に顔を上げてアルベルの方を見てニコリと微笑んだ。


「それではアルベル様も皆の夕食を頼みましたよ!!」

「へへっ!そうでなくちゃ!良いの獲れたらいっぱい褒めてくれよ〜!」


アルベルは手を振りながらそう言い、馬車を離れた。

馬車の周辺にはビンスが付いてくれているため、デルミアとアルベルで豚速を捕まえることになった。


「よっしゃぁ!デケェの捕まえてやるぜ!!」









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《30分後》


「待てぇぇぇ!!!!豚野郎ぉぉぉ!!!」


あれから30分が経過した。

アルベルの収穫は0だった。

彼の愛剣デルセロは全く活躍できずにから回るばかりだった。


くそっ!足速すぎだろ!こんなん人間が追いつける速度じゃねぇぞ!!


豚速の素晴らしい走り方のフォームはそれはそれは気持ち悪く、その上にとてつもなく速いと来たものだ、一般人と遜色ない身体能力のアルベルに追いつけるはずもなく、どんどんと距離を開けられていった。

心做しか豚速がアルベルを振り返りながら笑っているようにも見えた。


「プゴゴッ」

「あ!テメェこの豚野郎ぉぉ!!今笑いやがったな!!」


というかこっちの方向って・・・!!まずい!


走り疲れた汗と脂汗が混ざりながら流れた。

それもそのはずだった。

豚速とアルベルが走っている方向には戦闘能力がアルベル自身より無い二人、口の悪いメイドと、彼の愛するこの国の姫がいるのである。

次第に二人の姿が見えてきた。

ビンスは火を起こし始め、エリナはその光景を物珍しそうに眺めていた。



しまった!もう見えてきちまった!!

デルミアは・・・・・・いねぇのか!!


走っている最中のアルベルは周囲を見回し、出るミアがいないことを確認してしまった。


「二人共!!!危ねぇ!!!逃げてくてぇぇ!!!」


豚速は狙いを定めたように二人に飛びかかった。


間に合わねぇ!!一か八か魔法を!!


アルベルが手を目の前に構え、幼少期の時やユージュと戦った時の感覚を思い出していた。



「シャザリ!!」


アルベルが魔法を放とうとすると豚速が氷の塊に貫かれた。


「ふぁっ!?」


アルベルは豚速が魔法によって貫かれた事と、その魔法を放った相手に驚いた。

『シャザリ』という氷魔法を放ったのは火起こしの最中でこちらを見ずにいたビンスだった。

アルベルは全速力で走っていたため、片腕を上げることによって体制を崩してしまい、走った勢いとバランスを崩したことで顔面から地面へとダイブした。


「アルベル様。見ての通り私は火起こしの最中です。貴方と遊んでいる暇はありません。」

「お前・・・魔法使えたのかよ・・・」

「当たり前です。これくらい出来なければ城の炊事場を任されません。」


一体城のキッチンはどんな惨劇になっているのだろう。


アルベルはそんな事を考えつつ、土を払いながら立ち上がった。


「とりあえず一匹ゲットだな・・・。後はデルミアに任せよう・・・。一般的なモンスターなのに俺は追いつけねぇから待つしかねぇし。」

「ちなみに、豚速を家畜として飼育し、それで生計を立てている方達は足腰だけムキムキのようですよ。アルベル様もそうなられれば多少マシになりますのに。」

「地味にディスるのやめてくれ疲れてるから・・・。」




そうしてしばらくしてデルミアが戻ってきた。

デルミアの右手には大量の豚速と果物が持たれていた。


「エリナ姫様に揚げ物だけ食べさせる訳にはいかん。少しばかり果物も摘んできた。今日はこれを夕食としよう。」


流石王国騎士団特別指南役だ。何でもかんでも一人でこなしやがる。この有能美人エルフめ。





そしてすっかり日は暮れ、辺りは暗くなっていた。

周りにあるのは焚き火の明かりと空に輝く星星だけだった。

美味しそうな音と匂いとともにアルベルの口からはよだれが止まらなかった。


「さぁ揚がりました。どんどん食べてください。」

「うひょー!!美味そうに揚がってんなぁ!そんじゃ一同、手を合わせてください。せーのっ・・・」


『いただきます!!』



四人は思い思いに豚速のカツを口に運んでいった。

サクサクの衣にジューシーかつ甘みのある脂身が全くくどくなく、まさに絶品だった。


「こりゃ止まらねぇな〜♡」

「そうだもっと食えアルベル。貴様には筋肉が足りておらんのだ!食って食って修行して強くなるのだ!」

「何言ってんだ。酔っ払ってんのかお前。」


「アルベル様は何もしていないのですからもう少し遠慮なさってください。私の食べる分がなくなります。」

「お前昼間から思ってたけど結構食うよな。クッキー独り占めにしたりしてたし。」

「私が食べたい時に食べて何が悪いのですか。死んでください。」

「息をするように死の宣告するのやめろよな!!」


「フフフ・・・」


口喧嘩・・・一方的ではあるが、その口喧嘩の合間に一つの笑い声が響いた。

それはエリナだった。


「どうしたエリナ?」


アルベルがエリナの顔を覗き込んだ。

その顔はとても爽やかで美しい笑顔だった。


「いえ・・・私このようなこと、したことがなかったものですから・・・その・・・楽しくてつい・・・。」

「そっか・・・外も初めてなら狩りも初めてか。・・・・・・だったら俺にいい考えがあるぜ。」


三人は首を傾げた。

アルベルが何をするのか検討が付いていない様子だった。

アルベルは珍しく屈託のない笑顔をし、一言「任せとけ!」と言った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「全員食い終わったな・・・そんじゃ一同!原っぱに寝転がれ!」

「なっ!貴様!エリナ様に地べたに寝転がれと!?」


デルミアがアルベルに対して文句を言っていると真っ先に寝転んだのはエリナだったため、デルミアはその後は何も言ってこなかった。


「へへ、そうこなくっちゃ。そんじゃ火ィ消すぞー。」


アルベルが焚き火に水をかけ、火消した。

そして彼らの目に映った景色は・・・・・・

満天の星だった。


エリナは目を輝かせ、デルミアは優しく微笑み、ビンスは相変わらず真顔だがそれでも楽しそうに見えた。


「これは・・・凄い・・・!!王都じゃこんなにはっきりと星を見えません・・・。」


「だろだろ?俺も故郷の村で初めて思ったよ。明かりがないと星ってこんなによく見えるんだなって。」


「確かにこれはいいものだな・・・こればかりは感謝しよう、アルベル。」


「上からありがとよ。素直に受けとっておくぜ。」


「星なんて今までいくらでも見てきました。・・・けど、今日の星空は今までの星空の中で二番目に綺麗です。よくやりましたねアルベル様。」


「一番を更新できなかったのは少し悔やまれるけど、上から二番目も上々だろ。後、なんで子供に言うみたいな口ぶりなんだよ。」


突っ込みながらふと、横を見てみると、隣にはエリナが寝ていたのだが、エリナの目元に光る何かが見えた。


それの正体は涙だった。


「どっ、どうしたエリナ!?地面に寝るのそんなに嫌だったのか!?」


「いえ・・・!違うんです。私、今日初めて見るもの、初めて知るもの、初めてだらけの事を体験出来たのを思い出してたら自然と涙が・・・・・・でも私とても幸せです!」


エリナはアルベルの方を向き、夜の暗い中でも輝いているような笑顔をした。アルベルはその笑顔に再び心打たれたのだった。


「例えば豚さんのモンスターがいたり、その事をデルミアが知っていたり、アルベル様の足が遅かったり、ビンスが魔法を使えたり・・・その他にももっと色々『初めて』がありました。。」


突っ込みたいところはあるが、俺や他の二人の事も初めて知れたことがあるんだな・・・。


「だから、アルベル様・・・・・・ありがとうございます・・・です!!」


「おう!喜んでもらえたなら何よりだぜ!」


「流石にアルベル様。御自分では何もなされていないのに全て自分が計画した感。お見逸れ致しました。」


「うるせぇ!痛いとこつくんじゃねぇよ!今超いい雰囲気だったのに!もう今日は寝ちまえ!明日も早いぞ!」


半ば照れ隠しのその発言は全員に伝わっていた。

三人とも笑みを浮かべながらアルベルの方を一度見てから布団に入ったのだった。


「おやすみなさい・・・アルベル様。」


エリナのその声はアルベルの母親を連想させるように優しく、暖かく、彼を安心させるものだった。

そして月明かりに照らされながら四人は眠りに落ちたのだった。

お読みいただきましてありがとうございます!!この作品が面白いと感じていただけたのなら是非ブックマークや感想、レビューやいいねの方をどうぞよろしくお願いいたします!!

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