第三話 魔道の導き
フジイ・カルマこと、カイン・S・アルベルは玄関から物音がし、その方向を見ながら横たわった。
自分は異世界の赤ん坊へと転生され、なんとなく世界観は察したが父親や母親はいるのか等はまだ分からなかった。
家に入ってきた人物が両親であるだろうと期待し、部屋の入口を見た。
入ってきた人物は案の定二人の男女だった。
二人とも俺の顔を見るなり驚きと喜びの表情を浮かべ、俺の方へと近づいて来た。
男の方は少し老け顔で緑色の髪の毛、緑が混ざった青い瞳をしており、肉付きが良く筋肉質だった。
強面だが、優しさを感じさせる顔立ちだ。
女の方は、白いロングヘアに尖った耳、そしてRPGでは定番の巨乳に華奢な体と美人な顔。こちらは赤い色の瞳をしていた。
どうやら男の方は背格好は人間で、筋肉質なところはドワーフや巨人族の様な感じだ。
ハーフドワーフとでも呼んでおこう。
女の方は大きな尖った耳が特徴的だ。
恐らく普通のエルフだろう。
不覚にもその二人は前世の両親に似ていたため、さらに複雑な感情となった。
しかし両親共に特殊な種族なため、どのような種族がいるのかは今ので大体理解することが出来た。
思わぬ収穫だった。
「あら起きたの?アルベル。」
とりあえずヒアリングは可能。
この年齢でこの世界の言語を理解しているのは少しおかしい気もするが・・・この際良いだろう。
今考えても答えが出ないことを考えるのは無駄なことだ。
頭を切り替えよう。
アルベル、それは俺のことだ。
呼ばれ慣れない名前に違和感を覚えた。
やはり名前はそのままの方が楽だったかもしれない。
「ほーらアルベル。お父さんだぞ。」
父親は俺をベッドから抱き上げ、高らかと掲げた。
高い高いなど何年ぶりだろう、されていた頃の記憶など無いのだが。
そして薄い顎髭を蓄えた父親は俺に対して接吻しようとしてきた。
正直やめて欲しい。
何故に美人の母親を差し置いて先に強面おじさんにキスなぞされにゃならんのだ。
俺はそっと嫌がる素振りをし、顔を遠ざけた。
「見てあなた。この子魔力と知力が高いの!同い年の子供でもここまで知力の基礎値が高い子なんていないわ!」
母親は俺の傍に置いてあった水晶から映し出された映像を指さし、父親に向かって言った。
それに対して父親は映像に顔を近づけてよくよく見た。
「本当だな!きっとお前は母さんに似たんだな。魔力が高いのもハーフドワーフの俺じゃなくてエルフの血を引く母さんに似たんだろう。」
案の定俺の考察は的中した。
母親は純粋なエルフ、父親は人間とドワーフの間に産まれたらしい。
こういう場合はなんと言ったっけ。
ワンサードとかだっけか。
知力が高いのは恐らく前世からの記憶を引き継いでいるからだろう。
ドワーフといえば髭面なイメージだがそこは人間の要素が多いのだろうか。
父親の方の血筋を突き詰めていけばもっといろいろな種族に繋がってそうだ。
「この子はきっと立派な魔法使いになるわね。」
「俺としては俺の打った剣を持って戦ってもらうってのも夢の一つだなぁ。」
確かに魔法には憧れるし、法治国家の日本では手に出来なかった剣を振るってみたいのもある。
しかし俺は腕力のパラメーターが低く、長い道のりになるだろうが、魔法剣士などはいいかもしれない。
それにしてもウチは鍛冶屋の家系だったのか。異世界では重宝されそうだな。
どんな剣を打っているのか是非見せてもらいたいものだ。
「どちらにせよ、大きく優しく健全に育って欲しいわね。」
おっとそれは無理な相談だな。
大きくはなれるかもしれないが、優しく健全って時点で無理だな。
俺はその言葉とは真反対の言葉を具現化したような人間なんだから。
まぁ前世で出来なかったことを今世でやるのが目的になりつつある訳だし、できる限りはやるとしよう。
「それじゃあアルベル、また来るわね。」
「いい子で寝てろよ?俺らの可愛いベイビーちゃん。」
二人は俺の額にキスをし、部屋を後にした。
美人エルフの母親のキスならウェルカムだが、ムキムキのおっさんからの二度目のキスは拷問以外の何物でもない。
俺はそっと掛け布団で額を拭った。
そした再び俺は一人になった。
「異世界に来ても結局は無限に時間がある訳か・・・。まぁ赤ん坊だし、しょうが無いよな。」
することも特に無いのでベッドから降り、家中を探索することにした。
俺の予想ではエルフは魔術を使う種族なため、魔術の書のようなものがあるはず。
剣を振るえない今の俺はその類の本を読むのが一番の暇つぶしになるはずだ。
アルベルはベッドから飛び降り、四つん這いでよちよちと歩き出した。
ハイハイで歩く事など今まで無かったため、こちらも新鮮だった。
「意外と膝は痛くないんだな。足がムチムチだから膝に負担が大してこないのか。」
アルベルは部屋を出て、左に曲がった。
右側は玄関だったため、何も無いだろうと思ったからだ。
部屋を出て曲がるとそこには三つ程部屋があった。
まずアルベルは手前の部屋を覗いた。
そこには大きなベッドか一つと本棚やテーブルなどの極々一般的な寝室だった。
恐らく両親の寝室だろう。
俺が最初いたのはリビングだったのだな。
そして次は隣の部屋に入った。
するとそこには案の定巨大な書庫があった。
様々な種類の本が沢山あり、自分との大きさの差に圧巻の一言だった。
この中にどれほど有益な本があるのだろう。
それを考えるだけで胸が踊る。
しかしまだ一つ奥に部屋があったため、本を読むのは後回しにし、一番奥の部屋へと向かった。
だが部屋は暑すぎて入ることが出来なかった。
恐らくここが父の仕事場、鍛冶場なのだろう。
あぁ・・・この先にもどれだけのお宝が眠っているのだろう。
RPG脳の俺は知識だけで無く、武器にだって心は踊る。
だって男の子だもん。
そうして書斎に戻ってみると改めてその規模に驚かされた。
一般家庭とは言いつつも書庫はかなり充実しているようだ。
それに外見より中が圧倒的に広く感じる。
これも魔法か何かだろうか。
しかし一つ問題があった。
本棚に手が届かないのだ。
本を取ってもらおうにも、両親は今は家にはいない、その上両親は俺が既に自我を構築していることに気づいていない。
厳密に言えば、自我ではなく前世の記憶なのだが。
生まれたてだと思っていた赤ん坊が急に流暢にしゃべり始めたら、それこそ両親に要らぬ心配をかけてしまうかもしれない。
そうこう考えていると目の前に一冊の本が落下してきた。
「危ねぇな。しっかりしまっとけっての。」
俺は本を手に取り、開いた。
本のタイトルは『魔道の導き』魔術の歴史や性質、特性など様々なものが記載されている魔法を学び始めるにはうってつけの本であった。
歴史は全く知らないが、性質や特性などは様々なゲームをやってきた俺からすれば容易いものだった。
俺は身の丈ほどもあるその本を抱き抱え、ベッドに持ち帰り、読むことにした。
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