第二十九話 旅立ち
「本当に行かれるのですね・・・。」
「はい。これが『試練』ですから。お城のことは皆さんに頼みました。」
「はい!どうかお気をつけて、行ってらっしゃいませ。」
まだ太陽も昇りきっていない早朝の頃。
城門前に一台の馬車を停車させ門番と話している少女がいた。
日が完全に昇らずまだ少し肌寒いため、ほのかに赤みがかり、透き通るような白い肌と、うっすらと差し込む陽の光を反射し、輝いている金色の髪によく映えた。
「エリナ、そろそろ出発しよう。」
「あっ、はーい。」
馬車の御者席から手綱を持ったアルベルに声をかけられ、エリナは馬車に乗り込んだ。
馬車は五人乗りでそこそこ大きく、中にはちょっとした飲み物や軽食の類が置かれており、椅子を変形させればベットになるという便利仕様だった。
何故、エリナやアルベルがこんな朝早くから馬車に乗り、馬車など運転したこともないアルベルが御者席に座っているのかと言うと、遡ること4日前。
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「はぁ〜!?楽園都市・ステンチューに行くぅ〜!?」
風呂上がりで頭を拭いている最中のアルベルは驚きと疑問が混ざった叫び声を上げた。
その叫び声は城中に響き、目の前にいたエリナは耳を塞いでいた。
『楽園都市・ステンチュー』とは国王候補者の一人で円卓末席の男、
『パロミデス・ラヴァー』が治める娯楽と欲望の街。
彼は圧倒的な人心掌握能力によって、人の執着心や欲望を駆り立て、自分の街へと吸収していった。その事で『夜の帝王』という異名を持ち、容姿端麗でまさに遊び人のような見た目をしている。遊び人らしく、伴侶となる人物が5人いるようだ。
「いやいやいや!あそこってあのチャラチャラした軽口遊び人野郎の街だろ!?」
チャラチャラした軽口遊び人野郎、パロミデス・ラヴァーの事だ。
アルベルは彼にいい思い出が無かった。
彼はアルベルの事を田舎者のノミとバカにした挙句。両親と自分の血を『薄汚い』と罵った。
その上金持ちでイケメンで奥さんが五人もいることに、アルベルはムカつきつつも羨ましく思っていた。
それを認めたく無いというのもパロミデスを嫌う理由の一つだった。
「ですが・・・せっかくのご招待を一蹴してしまうのは・・・」
「エリナの気持ちはよーく分かるんだが・・・何考えてるか分からねぇ相手の誘いにホイホイとついて行くのはちょっとなぁ・・・」
「やはり軽率でしょうか・・・。」
「ハッキリ言ってそうなるな。一応敵同士だしよ。それにあいつ、人心掌握のカリスマだって聞くじゃねぇか。記憶と年齢が七歳児の俺たちなんて、きっとすぐ丸め込まれちまう。」
アルベルは手に持っていた自分の髪の毛を拭いた白いタオルをくしゃくしゃと丸め込み、手の中に収めた。
「何で向こうはエリナのことを招待したんだ?呼びつけたって事は何かしら用がある筈だろ?」
「それがですね・・・ゴホン!『おうお姫さん、円卓会議の時の詫びをさせてくれねぇかァ?ついでにあの田舎騎士も連れてくれよォ。他の候補者のエルフと妖精とジジイにあんなこと言われたらよォ、不本意だが俺の商売の不手際も事実だしよォ、礼のひとつくらいしといてもいいかなと思ってよォ。そんじゃ絶対来いよォ。』・・・って」
エリナの似ても似つかないわざとらしく声を低くしたその声真似にアルベルは半笑いになった。
それと同時にパロミデスの言った言葉にアルベルは呆れた。
「一体何様なんだあの野郎・・・。お礼よりも謝罪しろってんだ。」
アルベルは呆れ返って寝転がりながらボヤいた。
まだ乾いていない髪の毛がベッドを濡らし、後頭部が冷たかった。
「私は・・・行きたいです。」
「・・・」
雰囲気が変わり、真面目な雰囲気になった。
アルベルは聞き返したい思いを堪え、エリナの話を静かに聞くことにした。
「私は記憶が無くなってからお城の外に出たことがありません。高祖父のお墓も見つけなければなりません。だったら試練の期限が長い内に世界を見て回りたいのです。その・・・旅をしている内にもしかしたら私の記憶も・・・高祖父のお墓も・・見つかるかもしれません。」
「なるほどね・・・・・・エリナにも考えがある訳だな。・・・・・・わーったよ。」
俯きながらアルベルの返事を待っていたエリナはアルベルの返答に思わず顔を上げ、目を輝かせて喜んだ。
「いいんですか!?アルベル様!!」
「おう。まぁ事実、初代国王の墓をみつけるってのもやらなきゃやらねぇことだし。あの野郎のいけすかねぇ顔面にキツいの一発食らわせてやるぜ。」
そして何よりの理由・・・部屋の外からの視線だ。
先程から扉を少し開けてこちらを覗いてくる二人がいるのだ。
メイドのビンスと王国騎士団特別指南役デルミアだ。
俺が『嫌だなオーラ』を醸し出し始めると二人から尋常じゃない殺気が盛れ出していた。
お前らは普通止める側だろうが・・・!
何普通に姫の意志尊重しようとしてんだよ!
でもこれ・・・
アルベルは再び部屋の入口の方を見た。
殺気は消えていなかった。
断ったら殺されるヤツだ・・・。
「・・・そんな建前じみたこと言ったが、俺はお前のやりたいことをやらせてあげたい。だからこれに乗っかって、城の連中に説明すればいい。なんかあったら俺にそそのかされたとか言っとけ。」
「その言い訳はしませんけど・・・分かりました!ありがとうございます!アルベル様!」
やだこの子可愛い!
断らないで正解だったぜ。
あの男に会うのは癪だが、謝るって言うぐらいなら行ってやっても良いだろう。
それに俺も王都と故郷以外行ったことねぇしちょっと楽しみだな。
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そして現在に至る訳だ。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ!アルベルもしっかり姫様を護るんだぞ!!」
「おうよ!任せとけ!!」
そうしてアルベル一行は王都を離れた。
「・・・で、ひとつ聞いていいか?」
「なんでしょうか?」
アルベルは御者席の後頭部あたりにある窓から馬車の中に顔を向けた。
「なんでビンスとデルミアがいるんだよ!!??」
馬車の中には優雅に紅茶を飲むメイドのビンスと剣の点検をしているデルミアがいた。
「ふん。貴方様のような不躾で無愛想で不器用な方にエリナ様のお世話が務まるとお思いなのですか。」
「相変わらず冷てぇし、ひでぇ事言うこの子!」
「族や密猟者、はたまた暗殺者が現れ、貴様にエリナ様を完全に護る力があると思っているのか!自惚れるなこの童が!!」
「うるせぇ!ジジイババアのくせに!てか今女の姿なのかよ!!」
その可愛らしい見た目に合わない物騒な剣の点検をしているデルミアに向かってアルベルは言った。
「こちらの方が馬鹿共が集ってくるだろう。健気な女子三人に、頼りない騎士一人・・・馬鹿共を斬るにはうってつけだ。」
「お前はエリナ護るんだろうが!自ら敵を引き寄せてんじゃねぇ!!」
そんなこんなで癒し枠のエリナ、お世話係のビンス、脳筋交渉担当大臣のデルミア、そして頼りないエリナの騎士アルベル。
この四人でのエリナの記憶と初代国王の墓を探す旅が始まったのだ。
お読みいただきましてありがとうございます!!
2章これにて終わります!
3章からはついにお話が大きく動きます!
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