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第二十七話 一喝する根性

凶悪犯罪組織・十戒支部局長『飢餓』の依代、ナベリウス・ガーレインの襲撃から三日が経過した。

国を運営していた魔術師協会最高幹部の十人中四人が殺害され、国王候補者『ケイ・ステリオン』の支持者であり部下の『ユーラス・ソーシャ』も右腕失う重症を負い、一般騎士団員122名が死亡。

怪我人人数が一名なのに対して死亡者数が126名という異例の事件はすぐに王都の住人たちへと広がってしまった。


「アルベル様・・・今日もお部屋から出ていないの・・・?」


透き通るような金色の髪が映える白い肌をした少女はあの日のショックを引きずっている自分の騎士兼、護衛のアルベルの部屋の前でメイドのビンスと話していた。

彼を心配するエリナは普段通りの落ち着いた心情と表情ではあるが、明らかに憂いを感じさせる仕草と声音をしていた。

その普段との僅かな差を見逃さず、その心情を察していたビンスは普段と変わらず、変に特別なことは言うまいとしていた。


「はい。あの方はここ三日間、この部屋から全く顔をお出しになっていません。まるで『セーヌエイスの砦籠もり』のようです。」


『セーヌエイスの砦籠もり』とは、村人たちの迫害から逃げるために、廃墟と化した砦に籠もった村人セーヌエイスが、村がモンスターに襲われている最中砦の外で何があっても扉を開けなかったという強固な意思と逃亡を意味する慣用句である。


「そうですか・・・・・・でもやっぱり私、アルベル様とお話します・・・!」

「そうですね。エリナ様ならばあの方の心を開くきっかけとなるかもしれません。なんせあの男はエリナ様にはとても甘い男ですので。」





考えろー

アイツを殺す方法をー

考えろー

エリナを護る方法をー

俺がやるんだ。

俺しか出来ない。

俺だけがやるべき事だ。

考えろー

ゲームで培った考察能力を今使わずしていつ使う。


アルベルは三日三晩考え続けていた。

食事も取らず、睡眠もせず。

考え続けの結果が、アルベルの体を蝕み、やつれされていった。

目の下のクマと眉間のシワがどれだけ思い詰めているかを体現していた。


アイツは触れた相手、いや騎士団員を殺した時はポケットに手を突っ込んでいた。触れることは多分、必須条件じゃない。恐らく一定範囲内、もしくは視界の中・・・これも違う。視界の中のみが効果範囲ならユーラスの攻撃が効かなかった説明がつかない。やはり決められた範囲内でその能力が使えるのか。

そして能力を使うその時に共通すること・・・・・・『破裂』だ。

人間を内側から爆発させたような勢いで吹き出すあの血と臓物。あいつの能力は人間を爆弾にできるのか?

いやこれも恐らくは浅はかな考えだろう。

仮に爆弾にできるとして威力はどうなる、人間爆弾を作り出してそれで敵を攻撃するのならばあの爆発は規模が小さすぎる。威力や規模も操れるのか?

あとは一定の人物に成りすますことの出来るあの能力も厄介だ。

これからは誰が敵で誰が味方なのかを慎重に見分けていかないといけなくなる。

あれは『破裂』と同じ能力なのだろうか。

それとも別の能力で、アイツはスキルを二つ所持しているのか。

変装の魔法はあるが、あのような魔法のエフェクトでは無い。

つまり魔法ではなくアイツ本人のスキルということになる。

そしてここで最大の問題がある。

俺に倒せるのか。

あんな初見殺しの能力、俺にどうにかできるものなのだろうか。

仮に触れずに人体を爆発させる能力としておこう。

果たしてそれが俺に避けられるのだろうか。

アイツは俺の事を気に入ってるって言ってたから無闇矢鱈に殺しに来ないと考えても良いのだろうか。

それともこちらに戦う意思さえあれば反撃してくるのだろうか。


ー考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろー


すると肩に不意に柔らかな感触を感じた。

アルベルは完全に考え事に集中していたため、驚いて振り向いた。

するとそこには金髪の髪の毛をした美少女が自分を心配するような目で見てきていたのだ。肩にはエリナの手が置かれていた。


「アルベル様?」


「エリナ・・・。」


アルベルは複雑な感情だった。

なぜならあの時、自分の護衛対象であるエリナをほおりだし、自分の感情を優先し、怒り以外の何も考えられなくなっていたのだ。

『エリナだけの騎士だ』、『国中が敵になってもエリナの味方だ』・・・こんなセリフ何一つ守れていなかった。


「少し・・・・・・放っておいてくれ・・・・・・」


暗く、目に光の無い俯いたアルベルの表情にエリナは、や恐怖と心配を感じられずには居られなかった。



「しかし・・・!」


アルベルは座っているベッドから勢いよく立ち上がり、エリナの両肩に手を置いた。

先程の暗い表情は無く、アルベルの顔は笑顔になっていた。


「・・・大丈夫だ安心してくれ!君のことは俺が必ず守る!だから俺の可愛い可愛いエリナがそんな顔しちゃダメだ!」


しかしアルベルの顔には隠しきれない疲労感とストレスが浮き出ていた。

目の下のクマ、眉間のシワ、充血した光の無い目、それは勿論、やつれ始めた事が確認できる頬の窪み、自分の無力さを嘆いたのだろうか、部屋の壁には血の跡があり、それを作り出したであろうカサブタのついた手が自分の肩に乗せられていたため、かなり目立った。


エリナはその傷に気付き、アルベルの手を肩から下ろし、両手で優しく包み込み、回復魔法を使った。


「アルベル様・・・聞いてください。私はあの会議以来、頭の中で引っかかっていることがあるのです。それをお話したくて、今日はお部屋に伺いました。」


回復魔法をかけられている両手を見ながらアルベルは暖かな光に涙を零しそうになった。


情けない。

護ると決めた好きな人を放置して自分の感情を優先してその上、非力な事を言い訳にして考えることしかしない。

いや、考えている"フリ"をしているだけなのかもしれない。

転生前にコンビニで買うものなど決めているにも関わらず迷うフリをしていたあの時も同様だ。


現状で考えてもどうしようもない事を永遠に考えることは『思考』とは言わない。

決まっている結末に対して頭を悩ませることを『迷い』とは言わない。

それらは『脳死』と何ら変わりない無駄な行為だ。

全ては、自分は何かをしている、俺は何もしてない訳じゃない、俺は無能じゃない、という確証が欲しかったのだ。


そして今この瞬間は自分の不甲斐なさの怒りによる八つ当たりの傷を治される始末。


本当ーーー


「情けねぇなぁ・・・」


治された手をエリナの手の中から外し、しゃがみこんで頭を抱えた。

自分の情けなさと無力さに押しつぶされそうになった。

肌に感じる重力の重みが何倍にもなったようだ。


「だったら・・・」


突然エリナは呟いた。

今まで聞いたことの無い憤りの籠ったエリナ言葉に驚き、アルベルは顔を上げた。見上げたエリナの目には確かな決意と覚悟が感じられた。


「貴方が自分自身の事を情けないとおもうのなら・・・・・・!立って前に進んでください!」


エリナがアルベルを見下ろす視線は記憶を無くし、顔も覚えていない両親が死んだ時の彼女の目ではなかった。


「貴方は私の話を親身になって聞いてくださった!そのおかげで今の私は貴方に出会う前よりずっと幸せです!!貴方が『私だけの騎士』と言ってくれたあの言葉で私は前を向く勇気を持てました!!」


アルベルは自分のその発言に後悔していた。

一丁前に守るだの言っておいて結局は自分優先だ、と心の中で何度悔やんだことか。


「でも俺は・・・結局俺中心なんだよ・・・君を一番に考えても性根は腐ったままで、自分の感情が優先なんだ。」


「それの何がいけないんですか・・・」

「・・・え?」


エリナのその言葉は先程の憤りの籠った言葉と同じだった。


「それでもいいじゃないですか!貴方の人生で貴方が中心ではいけないなんて事!誰も言ってません!私が中心の貴方なんて・・・・・・私は貴方を好きになれません!!」


そうか・・・この子は俺と同じだったんだ。

何も知らず、分からない『自分』という存在だけが確立されて頼れる人間は居ても頼れる自分はどこにもいない。

そうなれば他人を中心とした世界で生きていくと考えるのは当然だ。

それなのにこの子は耐えて戦ってきたんだ。

耐えて耐えて、転んで転んで転んで、耐えて抗って・・・戦って。


アルベルはエリナの今までの苦労を想像した。

そして改めて自分の心の弱さを知った。

性根は、腐った引き籠もりのまま。

根性も無いし、行動理念は全部自分勝手な感情だけ。

誰かのために自分の人生を犠牲にしてると勘違いをし、結局は自らの欲求を満たすだけの獣。


そんな現実をこの数分で全て思い知らされた。

しかし今度は塞ぎ込むのではなく、立ち上がった。


「女の子にそこまで言われちゃ・・・男が泣くな。」


今度こそ・・・俺は・・・

前を向いて歩き出す。


今は亡き戦友、アルスに言ったあの言葉を思い出した。


誰がどうして決意した男に『辞めろ』と言い、辞めさせる権利がある。


俺は・・・


「俺はカイン・S・アルベル!!エリナの騎士兼、護衛のどうしようもない田舎者だ!!だが決めた!エリナも護る!伯奇もぶっ飛ばす!ナベリウスなんてクソ喰らえだ!俺はやるぞ!エリナ!俺を・・・傍で見ててくれ!」


「・・・!!」


アルベルの恥ずかしい宣言にエリナは一瞬躊躇し、その後笑った。

今までで一番の笑顔だ


「はいっ!!」

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