第二十六話 《飢餓》
「久しぶり♡アルベル君。」
円卓中央に立っている男は不気味な笑みを浮かべながらアルベルを見つめている。
彼の瞳は全てを欲する『飢え』と、恋をする乙女のような瞳をしていた。
「ちょっとごめんね。」
ナベリウスは静かにそういうと一瞬で魔術師協会最高幹部の四人にの目の前まで移動し、彼らの顔に掴みかかった。
「待て・・・!何する気だ!止めろ!!ナベリウス!!」
「君が悪いんだよ。」
そして魔術師協会最高幹部の四人は顔面が膨れ上がり、破裂した。
『パァン』という破裂音の次は『ヌチャッ』と血で汚れた腕を破裂した頭から外した音、その次は『ボタボタ』と彼らの頭のない死体から溢れだす大量の血液の音。
悲鳴も無く彼らの椅子には破裂によって舞い上がった血と臓物が振り落ちる。
「僕はね・・・君のこと、本気で好きだったんだよ?」
「何を言ってやがる・・・!」
ナベリウスは手に乗った臓物を地面に捨てながらアルベルの質問に答えた。
その光景にエリナは思わず嘔吐し、激昂したアルベルの代わりにフォルゲルと駆けつけたデルミアがエリナの護衛に回っていた。
「そのままの言葉として受け取って欲しいなぁ〜。だって僕は君で色々なことを想像したんだよ?僕の言った言葉、僕の行った場所、それに対して君はどんな返答をしてくれるのだろう。僕の感じたこと、僕のしたことについて君は何を思うのだろう。怒ってくれるのか、泣いてくれるのか、喜んでくれるのか、それとも何も感じないのか。それも勿論『飢餓』さ!僕は君の全ての欲を許容する・・・。もちろん自慰行為だって一回やそこらじゃないさ!僕は君が、興味深くて仕方がない!もっと・・・もっと!僕の飢餓を埋めてくれぇ!!!」
ナベリウスがそう叫んだ瞬間、ユーラスがナベリウスの背後に回り込み、剣を振り抜いた。
肉が裂け、骨が砕け、血が勢いよく吹き出す音がした。
鈍い音と共に、円卓には血の海が出来た。
しかし手応えは違った。
血の海の上を『ユーラス』が転がり回り、苦しんでいた。
「グッ!!」
「ユーラス!!!!」
よく見るとナベリウスの右腕にはユーラスの剣を持ったままの腕が握られていた。
そしてナベリウスは何事も無かったかのように話を続けた。
「って最初は思ってた・・・そう、思ってたんだけど・・・君はあの女に取られた・・・!そこのクソビッチに"君"を取られたんだ!!」
震え声で叫ぶ彼の指先にはフォルゲルとデルミアに護られている泣き崩れながら嘔吐した『エリナ』がいた。
「僕が先に見つけて、結婚出来る年齢まで体を大きくして・・・!僕はあの時、今ほど君に好意を寄せてはいなかったが、『あの人と結婚したい!』って思えるくらいには君のことを好いていた。でも仲間も大切だった。だからつい待たせたくなくて帰ったけど・・・帰ってから気がついたんだ・・・!君のすばらしさに!!君の愛おしさに!!仲間より君だったんだ!僕の好意の優先順位は!!でも戻ったら君は既にいなかった・・・。でもたまたま君を王都で見かけた・・・!後をつけてみたら・・・そこの女といつまでも、イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャァーー!!!!!反吐が出るかと思ったさ!!!!!」
「なんつー気色の悪い野郎だァ・・・!」
「黙れ!遊び人が!!!君は伴侶となる女性が五人もいて僕の純粋な恋心を馬鹿にできる立場なのかよ!!!」
「ナベリウス・・・お前・・・いつ俺の事を見た・・・?」
アルベルは自分に身に覚えのないことを確認したかった。
ナベリウスの発する魔力とプレッシャーを肌で感じたアルベルが見逃すはずがない。
そのことに関する確証が欲しかったのだ。
「ふふふ・・・この顔に見覚えなぁ〜い?」
するとナベリウスの顔が徐々に変化していった。
それは先日、オーガトロルとの戦闘で自分の愚かさを知り、一から出直すために王国騎士団を辞めた『ケルス・バンブレイド』の顔だった。
「お前・・・!その顔!」
「いやぁ〜、顔を維持するってのも大変でね?気を張りすぎると文字通り顔が破裂しちゃうからさ〜。」
ナベリウスは自分の元の顔へと戻した。
いやこの顔も本来の顔か分からない。
素顔がバレないように常に別の顔をしているのかもしれない。
「そうそう、ここに来るまでに懐かしい顔に会ったから・・・はい、お・土・産♡」
そうしてナベリウスの手から放り出されたものは、人間の生首だった。
それはアルベルが訓練初日に酷い暴行を受けてたが、その後は仲間としての絆を深めつつあった『ユージュ・スタイン』と遠征任務で利き手を負傷し、ケルス・・・ナベリウスに着いて行った戦友『アルス・トリノ』、その二人の生首だった。
「ーーーー!!!」
言葉にならない怒りと叫びがアルベルの身体中を駆け巡る。
そしてそれは一つの咆哮となった。
「ナベリウス・ガーレイン!!!!!」
「それだ!!君のその"目"が僕を射止めた!!怒りっ!!憤怒!!憎悪!!私怨!!それも『飢餓』だ!!やはり君は最高だよ!!!!」
憤るアルベルを見下ろし、興奮状態にあったナベリウスは一通り笑うと、冷静さを取り戻した。
「はぁ・・・まぁ安心してよ、今日は特に君たちに危害を加える気は無いから。ただ、今日は僕たち"の"原初の魔術師の弟子を名乗ってるコイツらにムカついて殺しに来ただけだから。」
「どうやら普通の人間とは違い、頭のネジが数本足りていないようだな・・・。」
「よくも・・・よくも・・・俺の部下を・・・!!!」
「憎しみ・・・それも良い『飢餓』だ。」
「ふざけるなぁ!!!!」
部下であり友人のユーラスの腕を取られ、激昂したケイは円卓上のナベリウスへと斬りかかった。
その腕はパンパンに膨れ上がり、触れただけでも全てを破壊せんとする腕だった。
しかしその剣はナベリウスの直前で止められた。
セルビオの剣によってかち合いになり、ケイの剣は弾かれた。
「どういうつもりだ!セルビオ!!」
「ここでこの人とやり合っても益が無い。ただ、貴方や他の人が怪我をするだけだ。僕たちに危害を加える気は無いと彼は言った。だったらそれで良いじゃないか。実力差は圧倒的、怒っているのは貴方とアルベルだけだ。皆この状況を理解している。」
そう言われると皆戦闘態勢を取り、口出しさえすれど、"攻め"をしているのはケイとその部下ユーラスのみ。自分の支持相手を"守る"ことに徹していた。
「ありがとおチビさん。僕は服が汚れるから人殺しなんて好きじゃないんだよ。なのに君たちが僕を殺そうとするから反撃せざるを得ないんだよ。」
「何度も言うようやけどホンマにイカれとるなぁ兄さん・・・。」
「あれ?もしかして自分は殺されないとでも思ってるの?そんな覚悟もなく、この国の王になろうとしてたなんて、笑えない冗談はよしてくれ。」
ナベリウスは鼻で笑うような仕草をし、全員に向かって言った。
「良いかい?王様ってのはそんな軽いものじゃないんだよ。王様ってのは、死者の血で生者を穢し、その生者を平然と口に運んで骨の髄まで喰らい尽くす。それが出来る人間だけが『王』の器なんだ。そんな覚悟も無しにこの選挙に参加しただなんて・・・愚の骨頂だよね・・・?」
「おーおっかな。関わらんとこぉ〜。」
トリスタンはまたしても何事も無かったかのように寝転んだ。
「それじゃあ緑髪のチビさんの意向もあるし、僕はそろそろお暇させて頂こうかな。」
ナベリウスは円卓から飛び降り、円卓の間の壁を拳で破壊した。
そして候補者・・・正確にはアルベルの方へ向き直った。
「・・・久しぶりに会えて嬉しかったよ、アルベル君!またそのうち会えるといいね!」
「勝手に行こうとしてんじゃねぇ!!待てっ!ナベリッーー」
そう言い、ナベリウスは破壊した壁から飛び降り、立ち去った。
円卓の間は今までにない悲惨で無様な様子だった。
侵入者一人に、死亡者『126名』怪我人『1名』という異常すぎる結果を残され、惨敗したのだ。
このようなことはベルドブール王国建国以来稀に見る大事件だった。
国中は思い知った。
十戒の依代の恐ろしさを。
国王候補者は思い知った。
王たる器の為の覚悟を。
アルベルは思い知った。
あの男は必ず殺さなければならない・・・・・・と。
十戒『飢餓』の依代、ナベリウス・ガーレインという男の事を・・・・・・。
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