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第二十五話 戦慄

円卓の間にて、国王候補者全員が唖然としていた。

候補者全員が驚いた理由であるその『国王を決める試練』とは、円卓中央の幻映水晶に映し出された『初代国王の墓』を探し出す、というものだった。

一同唖然とし立ち上がり、ある者は震え、ある者は笑い、ある者は緊張で汗をかく始末。

それほどに初代国王の墓を見つけることが困難なのだろう。

いや、皆の反応を加味するとどちらかといえば初代国王自体に問題があるようだった。


「マジかよォ・・・!」

「これを考えた方・・・つまり魔術師協会最高幹部の方々は正気なのでしょうか・・・」

「人間の王の墓を見つけるのが『王』になるための試練・・・か。」

「なんてそそる試練なんだ・・・!!」

「ホンマ・・・ごっつい事考えるのぉ・・・」

「それの何が難しいんだ?」


殺伐と緊張が空気を埋め尽くす中、読めない発言が一つ。

正確には本当になぜ難しいのか理解していない様子だった。

国王候補者全員は揃って円卓第一席の方向へ顔を向けた。

第一席に座っているエリナを通り越し、一同の視線はその奥に立っている、アルベルへと向けられた。


「やっべ・・・完全に余計なこと言った感じ・・・?」


アルベルは自分の軽率な発言に気づき、すかさず口をふさいだが、時すでに遅し。

不信感と不快感と関心の全てが入り混じった視線がアルベルを突き刺す。

全ての視線とプレッシャーを一身に受けているアルベルは第一席に座っているエリナの後ろに

隠れた。


「どうしてそんなこと言ってしまったんですか・・・?」

「いやだってお墓なんてそこら中にあると思ってよ・・・。」


第一席に隠れている最中にエリナに小声で話しかけられ、アルベルも小声で返答した。

護る対象であり、好きな相手の後ろに隠れるのはなかなか気が引けたが、他の十人の視線がアルベルの元引き籠もりメンタルには想像よりも大きなダメージを与えられたため、隠れざるを得なかった。


「テメェ・・・今自分で何言ったか分かってんのかァ?」

「軽率な発言にも程がある。少しは己の発言に責任を持つべきだ。」


パロミデスとパーシヴァルがアルベルに対して文句を言った。

本当に意味がわかっていなかったアルベルに二人は強い苛立ちを覚えた。

二人とも、アルベルが苦手な人種で、二人もアルベルのような性格の人間が嫌いなタイプであったため、敵対という溝はより一層深くなっていった。


「逆にあんたらは何をそんなにビビってんだよ?」


アルベルはひっそりと第一席から顔を出しながら反応した。


「はっはっは!!面白い兄ちゃんだな!けどよ流石に今の発言は聴き逃がせねぇな?俺達がビビってる?バカ言え!これはな武者震いってやつだ!」


人獣種のベスタ族であるケイ・ステリオンがアルベルの顔面近くまで一瞬で近づき、言った。


「いやでもよ・・・さっきからあんたの足の震えと冷や汗が気になってしょうがねぇんだ・・・。」

「止めろユーラス!」


すると突然、ケイは脈絡なく自分の支持者の名前を大声で呼んだ。

アルベルはユーラスの方を向くと、彼は既に腰に差した片刃の剣に手を伸ばし、抜きかけていた。


「ビビらせて悪かったな兄ちゃん。けど俺があと少し止めるのが遅かったらお前・・・首チョンパだったぜ。」

「ヒェッ」


『ビビってる』と言ったアルベルに対して、皮肉なのか本気で言っているのか、しかし冗談で済まないのがこの円卓にいる人間たちなのだ。

やるといったらやる。

国王候補者というのを免罪符に、アルベルを斬ろうと思えば、いくらでも斬り刻める。


「危うく神聖な円卓の間が、薄汚ねぇ田舎モンの血で汚れるところだったなァ。」


アルベルはその言葉に我慢できなかった。

自身の償いである『両親を失望させない生き方』を未だ心がけているため、自分の両親への侮辱も許せなかったのだ。


「ちょっと待て・・・テメェ、今なんて言った・・・?」


田舎者は甘んじて受け入れたが、敬愛する両親の血を『汚れた血』と評されたことに関して言えば、黙っていることは不可能だった。

しかしそれを心がけているばかりに、軽口を言ったパロミデスに対して、今までにない静かなる激昂を見せた。


「あァ?薄汚ぇ種族の薄汚ぇ血で神聖な円卓の間が汚れるって言ったんだよォ。それともあれかァ?自分の血は汚くねぇって豪語すんのかァ?そりゃ見上げた親子愛だなァ!!」

「このチャラ男が・・・テメェみたいなクソは生まれて初めてだ・・・!」


アルベルの怒りは最早抑えられるものではなく、今にもパロミデスにオーガトロルを貫いた自分の愛剣、デルセロで斬りかかるところだった。

しかし


「今の発言は聞き捨てならない。エルフである私に対する冒涜と受け取らせてもらうぞ。戦争ならばいつでも歓迎なのだがね。」

「同じく・・・。妖精も他人事じゃない。エルフと妖精は同じ一つの種族から生まれた存在だ。」


すると激昂するアルベルを宥めるようにフォルゲルがアルベルの隣に移動し肩に手をおいた。

そして彼の叔父でエルフであるパーシヴァルがパロミデスに反論した。

それに同調し妖精族の長、ベディヴィアもパロミデスを責め立てた。

この二人はそれぞれエルフと妖精族、自然と生きるエルフとその派生種族であるドワーフの間の子供であるアルベルに対する侮辱は自分たちの種族としての誇りを傷つけられたと捉えたようだった。

流石の二人の貫禄と堂々とした態度にパロミデスは「チッ!」と舌打ちをした。


「どうしたんじゃパロ?今日はやけに噛みつくではないか。」


苛立ち、いきり立っている軽口男に第八席に座って無邪気にはしゃぐ少女、ボールスが椅子から身を乗り出し、質問を投げかけた。

パロと呼ぶ彼女はパロミデスと仲が良いのかもしれない。


「もういい、今日はもう喋んねェ・・・」

「不貞腐れるでないパロォ〜」


しばらく二人の馴れ合いが続いた。

張り詰めていた空気に一つの笑みが生まれ、それが全員に伝播し、先程までの緊張が嘘のような笑いが円卓の間で起こった。


「この兄ちゃんとボールス嬢には適わねぇなぁ。」


アルベルはケイの獣人特有の毛むくじゃらな巨大な手を頭に置かれた。


このモフモフ感・・・嫌いじゃない。


「そんで?幹部さん達よ、期間はいつまでだ?」


アルベルの頭に乗せていた大きな手をどけ、腕を組みながら魔術師協会最高幹部に問いかけた。


「期限は今日、この日から"3年と半年"です。」


「そんなら、ワシらの誰も見つけられんかったらどうなるんや?」


「はい、それが今回、最も重要です。この話をするために集まってもらったと言っても過言ではありません。」


「ほーん。やけに焦らすやないか・・・」


「もし、期間内に初代国王陛下の墓を見つけられなかった場合は――」


『侵入者!!侵入者!!』


警告水晶から爆音の警報音が鳴る。

和みかけていた空気の緊張感がまた冒頭へと戻った。

空気は氷のように冷たく、身体中に針を刺されているかのようにビリビリと震えた。


「侵入者は何人だ!?」


魔術師協会最高幹部の一人が連絡用水晶に向かって叫ぶ。

その返答に円卓の間全員の注目が集まった。



『それが―――ぐわっ!!』

「どうした!?」


パァンと何がが弾け、その後液体が滴り落ちるような音が聞こえた。

その後警備をしていた者からの返答はなく、しばらく沈黙が続いていた。


「一体なんだと言うのだ・・・!」


すると連絡用水晶から応答があった。

恐らくは隠れていて、何とか助かった警備からの連絡だろう。


『ほっ、報告します・・・。侵入者は一人・・・!長身の男です・・・!深紅の髪に口を黒いマスクで隠しています・・・!うわぁ!!やめてくれ!死にたくなっ――』


そして警備からの連絡は再び途絶えた。

先程と同じく何かが破裂するような音と滴り落ちる液体の音を最後に。


「なっ!?まさか・・・!」


一同はアルベルの方へ向いた。

アルベル自身もまさかと思った。

あの男だ。

俺が王都に来るきっかけとなった、あの日出会った男。

深紅の髪色、黒いマスク、長身。

この情報だけでアルベルはあの時の恐怖を思い出し、嘔吐いていた。


「それって・・・アルベル様が仰っていた・・・!」


凶悪犯罪組織・"十戒"支部局長『飢餓』の依代――

ナベリウス・ガーレイン


「じゃーん、正解♡」


とてつもなく不気味なプレッシャーと魔力に当てられ、アルベルは振り向いた。

誰も気づかなかった。

その瞬間に至るまで。

だが赤髪の彼は、自分がどれほどの事をしているのか理解していないように平然と円卓の中央に立ち、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべ、ただアルベルを見つめていた。


「久しぶり♡アルベル君。」



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