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第二十三話 円卓会議

快晴の早朝、王都に次々と馬車が入ってくる。

荒々しい馬の呼吸と馬車の車輪の音が城門前に鳴り響いた。

各々、自分の治める領地や街から馬車を走らせ、王都ユニコスまで集結したのだ。

馬は全部で二十匹。

馬車一台に対して、二匹の馬が引いていた。


国王候補者の一人が、この城の主である『ベルドブール・クラウディア・フォス・エリナ』であり、城門前に停車している馬車は全部で十台。

一名足りないのは一目瞭然である。


馬車から降りた国王候補者達は言葉を交わすことはおろか、目を合わせることもしない。

それもそのはずだ。

これから王の座を賭けて戦う、言わば『敵』同士なのだから。


今日、ベルドブール王国の王城・ラースの円卓の間で行われる国王候補者が一堂に会する会合の場、国王候補者円卓会議、通称『円卓会議』。


彼、彼女らは各々一人、自分の後ろ盾となる、力や称号、実績をもった騎士や英雄を連れ、この会合に姿を現す。


それぞれに国王になった後の思想があり、それを貫き通すために様々な手を打ってくる。

そして何かしら不手際があれば、国王候補者を免罪符に野蛮な行動にも出かねない。

そんな連中が今、一人を除いて、一つの城に集結しているのだった。


そしてそこには全ての空気をぶち壊す存在がいた。

先代国王の娘であり、現国王候補者のエリナ姫の護衛兼、田舎出身の見習い騎士『カイン・S・アルベル』。


「なーなービンス。この鎧どーよ。今日のためにって城下街の防具屋が特注で作ってくれたんだぜ。」


アルベルは軽口を叩いた。

城中が緊張で張り裂けそうなのにも関わらず、部屋で仕事を円滑に進めているメイド『ビンス』に絡んでいた。

ビンスはチラリとアルベルの方を向いて直ぐに仕事に戻った。


「もう少し反応してくれても良くないか?今日は大事な『円卓会議』の日なんだろ?だったら、みてくれだけでもちゃんとしないとなって思ってよ。」


「はぁ・・・。『デジェンスさえも着れば英雄』ですね。」


「でじぇ・・・?・・・なんて?」


全く聞き慣れない単語にアルベルは困惑した。

自室を整理してくれているメイドに対してなんという仕打ちだろう、と言いたげなビンスはアルベルに向き直って口を開いた。


「はぁ・・・学も地位も無い王国騎士様にお教え致しますわ。『デジェンスも着れば英雄』とは、昔存在した極悪非道の犯罪者、デジェンスが英雄の鎧を持ち出し、それを纏って人前に出たら、身の丈に合わない声援と支持を集めたというものです。最終的にデジェンスは行き過ぎた己の行動によって無残な最期を遂げています。」


「何それ怖い!てかそんなに俺に似合わねぇかな・・・。かっこいいと思うんだけどなぁ。」


「だから、"鎧は"良いのです。ただ、中身に問題があるという意味の慣用句ですので。」


どうやらビンスから見て、アルベルの評価は未だ、最低らしい。

アルベルは自分が何か知らぬ間にやらかしたのではないかと、思考を巡らせた。

しかし、身に覚えのないアルベルにとって、考えるだけ無駄であった。


「アルベル、時間だぞ。」


自室の扉が開いた。

アルベルを呼びに来たのは同じ王国騎士団員のユージュだった。

彼は20年間騎士団に所属している言わばベテランの一般団員だ。

本人曰く、20年もいて一般団員なのはご愛嬌、との事。


「悪いな、他の国王候補者が来るって考えてると緊張しちまってよ。」


「なぁに、お前が緊張する必要は無い。ただお前はエリナ姫様を護る事だけ考えていたらいいんだ。」


「それもそうだな。特に俺が発言しなきゃいけない訳でもないし。」


「あぁ。・・・だが、お前の性格を踏まえて一つ忠告しておく。」


ユージュは改まってアルベルの方を向いた。

負担とは違う、とても真剣な表情にアルベルは少しだけうろたえた。


「絶対に粗相は起こすな。お前の性格上、何か頭にくることがあるかもしれないが、耐えるんだ。それがベルドブール王国の騎士団員たるものだ。いいな。」


「わ、わかった・・・。それがエリナの為になるんだもんな。」


ベテラン騎士団員の語気は凄まじく、その貫禄だけで言えば無能な上官よりよっぽどマシだった。


「それじゃ俺はエリナの所に行ってくる。合流して円卓の間に行けばいいんだよな。」


「そうだ。エリナ姫様を頼んだぞ。」


「わかった。任せろ!」


アルベルはそう言い、ビンスとユージュの二人を残し、自室を後にした。

部屋に残された二人の不安気な表情と、期待を込めた眼差しを背中に受けながら。










自室から食堂への道をそのまま進み、食堂手前になってから左に曲がり、そのまま直進するといくつもの小部屋への廊下が続いている。

その小部屋がある廊下を直進し、右に曲がることで階段が見えてくる。

その階段を登り、更に右に曲がることで、城の東棟へと繋がる渡り廊下に行くことが出来る。


本来ならば、直接東棟に入り、上下移動型巨大水晶、言わばエレベーターのようなもので円卓の間へと向かうのだが、アルベルとエリナは城内で暮らしているため、直接歩いて行くことになっていた。

これもエリナが、正確には先代国王が方々に大勢の敵を作っていた影響なのだろうか。


「あっ!アルベル様!」


この聞き覚えのある可愛らしい声の持ち主の方向へアルベルは向いた。

彼女の声は、少し低めであるにも関わらず、よく通る透き通った声で、アルベルはこの声を聞いているだけで胸が踊り、ある程度の事なら許容できた。


「おぉ!エリナ!今日はまた一段と可愛いな!そのワンピースも、普段着ているものと少し違ってとても良い!」


彼女は今回の円卓会議に合わせて、特注のワンピースを着ていた。

パーティーや舞踏会等に着ていくようなドレスとは違い、落ち着いた雰囲気を醸し出す黒い生地に、金髪のおさげと、色白の肌が良く映えている。


ワンピースのデザインも、彼女の豊満な胸を強調するかのように大胆にも空いた胸元。

豊満な胸からは想像できないような華奢な体型の彼女に寸分狂わず密着する腰部分の布地。

そして長くスラッとした足を強調するかのような膝上の短めなスカート。

所々にある黄色と白色の装飾がきらびやかだが、豪華過ぎず、見る者に不快感を与えない程度に抑えられている。

まさに完璧な布陣だった。


「もう、アルベル様ってばまたそんなこと言って。」


「ほら前に俺の匂いが懐かしいって言ってくれた時があっただろ?エリナが言うなら俺も言っていいかなーって思ってよ、俺もエリナに俺の思いを余すこと無く伝えることにした。」


「ふふっ!本当に不思議な御方ですね。」


「お互い様よ。ほら行こうぜ。恐らく、他の人達はもう待ってますよ、エリナ様。」


国王になりたい連中の前で『姫様』とは呼ぶのは流石に呼べないので、アルベルはエリナに『様』をつけるだけにした。

こうすることで他の候補者と平等な立場になって話し合いが聞けるとビンスから事前に言われていた。

事情や情勢に疎い転生者のアルベルにとってはこの上ない情報だった。

アルベルは後でビンスにもしっかりお礼を言おうと考えていた。


二人はそのまま歩いていき、円卓の間の目の前まで到着した。

扉の前では二人の王国騎士団員が武器を片手に堂々と立っていた。


「ようこそエリナ様。他の方々は揃っております。どうぞ中へ。」






遂に王城ラース、東棟八階、円卓の間の巨大な扉が開かれた。

そこには、この部屋の代名詞と言える巨大な黒と金の装飾が施された円卓を囲むように、九人の国王候補者が鎮座していた。

その後ろには、後ろ盾となる英雄や騎士を立たせていた。

そして入口正面の円卓を超えたその先には、国王以外誰も座ることを許されていない、『無人の玉座』があった。

長年使用されていないせいか、汚れてはいないが、少し廃れて見える。


既に座っている候補者達は新たに円卓の間に入ってきたアルベルとエリナの事見つめてきた。

その視線はエリナに対して『やっぱり来たか』と思わせるような目つきが大半だった。


円卓の間に入るなり、アルベルは国王候補者とその従者、後ろ盾となる人物たちを見回した。

そこには謎に指揮棒を振っている男だったり、大きくて筋肉質な女騎士だったり、小柄で華奢な兜を被った男だったりと様々だった。

するとそこには見慣れた顔がいた。


「あーーっ!!お前は!」


その相手は金髪の長い髪の毛をし、整った顔立ち、長く尖ったエルフ特有の耳をもっていた。

肩に掛けられた紫色のマントはまさに英雄の貫禄を更に大きく見せるのに貢献していた。


「レイドール・フォルゲル!」


「アルベル君。やはり君が来たか。」


その英雄とはかつてアルベルの父であり、元王国騎士団員である、豪傑カイン・O・ヴェルゴの唯一無二の親友で戦友の、レイドール・フォルゲルだった。

彼は40年前に発生した他国との大規模な戦争、『レイギスの惨劇』において多大な功績をあげ、既に歴史書にも載っているような男だった。

彼にはアルベルと同い年の、ソーニャという娘がおり、父子共に充実した生活を送っているようだ。


「お前・・・王国騎士団だろ?なんでエリナ様の敵陣営に回ってんだよ。」


アルベルはフォルゲルの耳元で小声で囁いた。

彼の耳はエルフの中でも大きい方かつ、広い範囲の音が拾えるため、空間把握能力や、敵の小さな喋り超えも聞き逃さずに記憶することが可能。

つまりアルベルは、フォルゲルの耳元まで近づく必要はなかった。


「正直に言わせてもらうと、俺・・・いや、私は先代国王様に多大な御恩がある。」


「じゃあなんで・・・」


「私が支持しているこの御方が私の家、つまりレイドール家の本家なんだ。私は言わば分家。しかし功績を上げてしまったのは私だった。だから頼まれては断れないのだ。」


アルベルはそう言われてフォルゲルの前に座っている人物を見た。

その人物は髭を蓄えた老人で、フォルゲルと同じく大きく尖った耳をしていた。

貫禄だけで言えば、国王になってもおかしくないほどの威厳とオーラを纏っていた。


「君は早くエリナ様のところに戻り、残りの候補者と進行役の『魔術師協会の最高幹部』の方々を待つんだ。」


魔術師協会とは国が存在する前に『原初の魔術師』達が立ち上げた組織で、誰にも統治されていなかった時代に終止符を打った組織だ。

今は原初の魔術師達の弟子やそのまた弟子にと、引き継がれていっているらしい。」


「わかった。あんまり根詰め過ぎんなよ。フォルゲル。」

「お互い様だ。」


そう言ってアルベルはエリナのところへ戻っていった。

エリナは何事もないかのように静かに椅子へ座り、他の者の視線など全く気にしていないようだった。

すると円卓の間入口の扉が開いた。

そこには魔術師協会最高幹部の十人中、四人がいた。

彼らは玉座の横に用意された椅子に座った。

座るなり周りを見回して口を開いた最高幹部がいた。


「うむ・・・やはり今回も『ガヴェイン様』はいらっしゃらないようだな。」


「早速始めてしまおう。その方が候補者の方々も安心できるだろう。」


安心・・・?何のだ?


アルベルは心の中で呟いた。

流石に普段のように気になった言葉をいちいち聞き返す事は出来そうになかった。


そして、魔術師協会最高幹部の一人が口を開き、ある言葉を言った。

その瞬間、空気が一変した。

アルベルの"せい"で少し和やかになっていた空気が一気に殺伐とした空気へと変わったのだ。

アルベルは重苦しい空気に押しつぶされそうになった。


これが・・・原初の魔術師の弟子・・・!



「それではこれより、第十二回・・・・円卓会議を始める。」

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