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第二十二話 仕返し

「立てるか?手、いるか?」

「あぁ悪ぃ・・・。」


ユージュの手を借りて俺は立ち上がった。

体中ボロボロすぎて風が吹いただけで全身の骨が折れそうだった。

立ち上がるときに目の前のオーガトロルの死体が動き出すのではないかと少し心配したが、ユージュが教えてくれた『ゴブリン種は耳が垂れたら死んでいる』の知識に基づくなら、オーガトロルも例外無く死んでいるはずだ。


「本当に倒したんだな・・・俺達。」


俺は自分で言ってながら未だ頭が状況に追いつかなかった。

先ほどなんて『勝ったぞ』等言っていたくせに情けない。


「八割お前と小隊長殿だよ。俺なんて囮の仕事しかしてない。命の危機で足が速くなったかもしれないな。」


「ユージュの冗談は・・・本当に笑えねぇ冗談だ・・・。」


ユージュが腕のもげたアルスの応急処置をしながら他の小隊が来るのを待った。

ケルスにも手当をしようとすると「問題ない。」と一蹴された。

俺たちは、各々座るなり寝転ぶなりして休んだ。

俺もユージュに起こされ、岩にもたれかかった。

するとケルスが俺の目の前まで来て立ち止まった。


「なんだよ?もう歩き回れるなんて元気なこった。」


俺は皮肉混じりに鼻で笑いながら言った。

どうせ反発してくるのだろう。

そしたら俺の『殺人ヘッドバット』で沈めてやるぜ。

しかしケルスは俺の想像とは違った行動を取った。


「今回の事・・・お前には感謝している。世話になったな。」


素直にお礼は言えないものなのかと思ったが、この男に面と向かってこういう事を言われるのはなんだかむず痒い。


「あれだけ馬鹿にしていた相手に助けられちゃ、俺も世話ねぇな。何が一般団員で1番強いだバカバカしい。」


「別に誰もお前が1番強いだなんて言ってねぇよ。ただ"一二を争う"って言ってるだけだ。」


ケルスが1番強いというのは本当だったが、俺はそれが気に食わなかったので、余計な情報を付け足してやった。


「確かに、そうだったな・・・。俺は今回の事でわかった。無力で非力なのは俺だと。だから俺は・・・王国騎士団を辞める・・・!!」


ケルスのそのセリフは誰も予想出来ていなかった。

いや考えれば妥当な判断だったのかもしれない。

本人が言っていた通り、自分が馬鹿にしていた相手に命を救われ、頭まで下げたのだ。

プライドが高いケルスにとっては屈辱であり、恥なのだろう。

俺はその言葉を聞いた後、ヨロヨロと立ち上がった。


「そうかよ・・・だったら!」


次の瞬間俺はケルスの頬を力の限り右フックで殴った。


「ーーー!?」


「いっってぇぇー!!!」


俺は殴りつけた右腕を抑えた。

自分で殴っておきながら相手より痛がるとはなんと滑稽だろう。


「くそぉ・・・痛えぞ畜生!」


「なんのつもりだ・・・?オーガトロルの攻撃を耐える俺が、お前のパンチ一発で倒れる訳ないだろう。」


「でも、一発は一発だ。これでてめぇが俺にやってきた事は・・・チャラにしてやんよ。」


俺はニヤリと笑いながらケルスを睨んだ。


「辞めるのは勝手だが、そんくらいのケジメはつけとけよ馬鹿野郎が。」


するとケルスは俯き、突然小刻みに震え出した。


「ふっ・・・ははははは!!」


俺はケルスが大声をあげて笑うのを初めて見た。

こいつもこんな笑い方をするのか。

まぁするか、こんな奴でも"一応"人間だもんな。

そんな話をしていると遠くから旗手が生き残った隊員達を引き連れてこちらにやってきた。

ケルスの打ち上げた魔法弾に気づき、到着したのだ。


「無事か!」


「これが無事に見えっかよ。何人も死んじまった。だが、大元は倒した。」


俺はそこで何があったのかを説明した。

ゴブリン狩り中に上がった信号弾。

駆けつけた時の惨状。

オーガトロルとの戦闘。


その説明をしている間にオーガトロルに襲われそうになり、気絶していた第1小隊のレスト・ルァンは目を覚ました。

そして目の前にあるオーガトロルの死体に驚き、再度気絶してしまった。


そして旗手は連絡用水晶で王都の本部へと連絡し、無惨にも殺されてしまった団員の遺体と、ゴブリンとオーガトロルの死体と、疲れ果てた俺たちを運ぶために馬車を手配してくれた。


「はぁ〜もう動けねぇ・・・。」


「さっきから休んだり動いたり繰り返してるからだろ。功労者は大人しく寝とけ。」


「左腕無いやつもゆっくり休めよ。」


「こりゃ二つの意味で痛いな・・・。」


そんな会話をしている中、アルスは口を開いた。


「・・・なぁユージュ、アルベル。・・・俺もさ・・・騎士団辞めようかと思っててよ・・・。」


一同はアルスのその発言も予想出来なかった。しかし全員驚きはしたが何も言わず、アルスの話を静かに聞き続けた。


「利き腕も無くなっちまったし、ケルスについて行って強くなって帰ってこようと思うんだが・・・どう思う?」


「ふっ・・・」と俺は鼻で笑った。別に嘲笑の意味では無い。前にも同じことを言うような機会があったのを思い出していたからだ。


「いいんじゃねぇのか?お前だけの人生だ、好きに生きろよ。どうせ腹は決まってんだろ?」


アルスは静かに、小さく頷いた。


「誰がどうして、決意した男に『辞めろ』っつって辞めさせる権利があるんだ。」


俺は少しだけ体勢を起こしてアルスの方を向いた。


「・・・だがまぁ、やらなきゃならねぇことに迷う必要はねぇけど、"やる必要のねぇ事"を選べる内は、自分の心に従えばいいのさ。なー?デルセロ〜♡」


俺は愛剣を抱きしめ、再び瞼を閉じた。


「あーあ、折角カッコよかったのに。」


ユージュが苦笑いしながらアルベルの方を向いて言った。


「ちょっと待て、聞き捨てならない事が聞こえたんだが・・・アルス。お前、俺に着いてくる気か?」


「おん。もう決めちまったしよ。俺にも魔法教えてくれよ!そうすりゃ隻腕でも強そうじゃねぇか!『隻腕の魔法剣士・アルス』、なーんてかっけぇじゃねぇか!」


「ったく・・・。しょうがねぇな。厳しくするからな。」


「モチのロンだ。ドンと来いや。」


そしてアルベル達は王都へ到着した。

怪我人は・・・というか、ほとんどの遠征組の騎士は医務室へ運ばれて行った。

多少はゆっくり休めるだろう。


倒したゴブリンの群れの戦利品である肉は食料として街の人へ振る舞われた。

ゴブリンの肉は硬めだが、その食感がクセになると人気なのだ。

オーガトロルの死体は剥製として王都の博物館に展示されるらしい。


そして今回のMVPであるアルベルはというと


極上の空間で、至福の時間を過ごしていた。


「あの・・・アルベル様・・・。」


「なんだい?エリナ。」


「えっと・・・その・・・」


「ん?どうした?何かあるなら言ってごらん?」


エリナはモジモジと恥じらいながら回復魔法を使っていた。

俺はそれに身体を治してもらっていた。


「回復魔法は"膝枕"しなくても使えるんですけど・・・。」


「これは仕方の無い事なのさ・・・全身の骨が砕けてしまったのだから・・・。」


というのも俺が城内をユージュの肩を借りて歩いている時にエリナと鉢合わせた時。


『よぉ、エリナ今帰っ・・・うおっ!!』


『ご無事で何よりです・・・・・・アルベル様?』


限界だった俺の体はエリナからの抱擁という嬉しすぎるハプニングをきっかけに崩壊を始めた。

足から始まり、頭部以外の全身の骨という骨が砕けた。

俺は抱きつかれている手前、叫び声もあげることが出来ず、そのまま気絶した。


そして目を覚ますと永遠に謝ってくるエリナがいたため、膝枕をしてもらいながら回復魔法をかけてもらっていた。

そのような経緯を辿って現在に至る。


「それは本当に申し訳ございませんでした・・・。つい、嬉しくて・・・」


その言葉を聞いて悪い気はしなかった。

全身を蝕む痛みも、少しは和らいだ。


「安心しろよ。円卓会議までには元気になっておくから。」


「もうほとんど治ってます!」


そう言われ、俺は膝枕から立ち上がった。

そして伸びをする俺にエリナは真面目な表情で話を始めた。


「先程の発言から察するに、円卓会議の事はご存知なのですね。」


「あぁ。ユージュから聞いた。ま、それまで存在すら知らなかったけどな。」


「それはすみませんでした。お伝えするのが遅れてしまって・・・。」


「いや、いいんだ。後でデルミアをシバキ回すから。」


俺は握り拳を作り、シャドーボクシングの真似をした。


「今から円卓会議について説明させて頂きたいのですが、よろしいですか?」


「おうよ。俺も立ち振る舞いは聞いとかねぇとならねぇし頼むわ。」


そうしてエリナはアルベルの部屋で『国王候補者円卓会議』の内容について説明を始めた。

いつもと変わらないはずの夕日が、すこしだけ、愁いを感じさせた。


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