第二十一話 山を消し去る者
「うおりゃっ!」
「グギャッ!!」
俺の振り下ろした剣は群れの中のゴブリンを斬り裂いた。
「やっぱし群れともなるとキリがねぇな。」
後ろでゴブリンを蹴り飛ばしたアルスがぼやいた。
「そうっ・・・だな!!」
ユージュもどんどんゴブリンを斬って倒していく。
「しっかり耳が垂れたか確認しろよ。」
「流石ベテラン。知識豊富〜。」
「"スカル・シェイバー"」
「グギャッァ!!!」
そんなやり取りを尻目に、ケルスの生み出した巨大な風の刃は大勢のゴブリンを一撃で葬った。
森林近くまで来ていた為、樹木も何本か切れた。
シェイバーとは風の刃を生み出す魔法だ。
俺の親父も使っていた。
だが魔法の名前の先頭に『スカル』と付いていた。
もしかしたらオリジナルの魔法なのかもしれない。
親父もスキルと魔法の内容は全く別物だったため、それでも不思議ではない。
「流石、小隊長殿。魔法剣士の名は伊達ではないですな〜。一人で群れ一つ壊滅させるのも余裕ですね。」
アルスがケルスをおだてた。
それに対してケルスが「まぁな。」と軽く受け流して答えた。
よく考えると名前が似ている二人だ、気が合うのかもしれない。
「俺はもう少し森の中へ入ってみる。お前たちは森の外のゴブリンを頼む。」
「しかし小隊長殿!小隊内での単独行動は厳禁です!」
森の中へ進もうとするケルスに対して、ユージュが反論した。
「少し入るだけだっての。それに深入りしなきゃいいんだろ。」
「しかし・・・!」
「ほっとけっての。好きにさせてやれよ。」
俺はユージュの肩に手を置き、ユージュを止めた。
あんなやつを気に掛ける必要など無い。
仮に何かあったとしてもあの強さなら問題ない。
そしてケルスは振り返らずに手を振り、森の中へ入っていった。
「俺達はこのままゴブリン達を一掃しよう。」
「そんじゃ臨時の隊長はユージュでいいな。」
「異論なーし。」
俺とアルスは冗談交じりに提案し、勝手に同意した。
「全く・・・調子の良い奴らだ。」
ユージュは半笑いになりながら俺達の冗談をいなした。
しばらくゴブリンを狩り続け、正午を回ったあたりで昼食を取ることにした。
俺達は補給で配られたおにぎりを口に運びながら、汗を拭いていた。
こういうところでの日本食は嬉しい。
「俺は15匹倒したぜ。ユージュはどうよ。」
アルスがおにぎりを口に運びながら自慢気に言い、ユージュに話を振った。
ユージュは面倒くさそうにこちらを見て、口の中のおにぎりを飲み込んでから答えた。
「自慢じゃないが、俺は30匹くらいだな。」
「げっ・・・ダブルスコアじゃん。自慢じゃないってそんなドヤ顔で言われても説得力ねぇぞ。・・・んじゃあアルベルは?」
俺は自分に話が振られるのではないかと緊張していた矢先、アルスに振られた。
「俺は・・・4匹・・・。」
微妙な空気が流れた。
俺は恥ずかしさと悔しさでうつむいてしまった。
「ま、まぁ初めての遠征で実戦だし、しょうがねぇよ。だから落ち込むな・・・な?しょうがねぇ事だからよ・・・・・・俺の髪の毛を引っ張るのをやめてくれ。」
俺は話を振ったアルスの髪の毛を引っ張った。
「てめぇもユージュと同じにしてやるよ。」
「おい!どういう意味だ!俺はまだ禿げてなんかない!」
俺とアルスはその言葉に思わず顔を見合った。
「冗談だろ。」
「面白くねぇぞユージュ。」
「お前ら・・・。」
俺たちはそんな感じで昼食の時間を終えた。
「よっしゃ、腹ごなしにまた行きますかね。」
準備が終わった俺はまだ座っている二人に呼びかけた。
「そうだな。少し休憩し過ぎた位だし、行くとしよう。」
「了解。"仮"小隊長殿!」
アルスがまたしても冗談を言った。
俺たちの空気感は既に友達だった。
最初俺をボコボコにしてきたユージュやそれまで話しかけすらしなかったアルス。
歳の差などもはや気にならなかった。
しかしその空気は一瞬にして壊された。
『応答せよ!応答せよ!』
すると突然、連絡専用の水晶が音を立てて反応した。
声の主はかなり焦っているようだった。
「こちら第3小隊!どうした!?」
ユージュが大慌てで応答した。
『現在!巨大モンスターと交戦中!至急応援を・・・グアッ!!』
「おい!どうした!」
何かが弾ける様な鈍い音がした後、隊員からの連絡が途絶えた。
そして連絡が途絶えた瞬間に、北西の方角で信号弾と思しき魔力の球が上がった。
「あそこか!行くぞ二人とも!」
ユージュは俺とアルスに叫び、信号弾の元へ向かった。
そこへ俺たちが到着すると見るも無惨な光景が広がっていた。
頭や胴体が潰れた死体、あるものは喰いちぎられたような跡すら見えた。
アルスは目の前に広がる光景に我慢できず嘔吐した。
俺は動揺しながら辺りを見回すと血が続いているのに気がついた。
「血が・・・森の方に伸びてる・・・」
「急がなければ・・・。」
そして血が続いている方へ俺たちは走って急いだ。
森林の中に続いている・・・!嫌な予感がしやがる・・・。
俺たちは茂みをかけ分け、躓く足を限界まで動かした。
森林の出口が見えてきた頃、一つの悲鳴が平原中に響いた。
森林を飛び出した瞬間俺たちは剣を抜き、構えた。
「誰かぁ!!」
すると目の前には今にも襲われそうな第1小隊のレスト・ルァンがいた。
そしてそのレスト・ルァンを襲おうとしていたモンスターに俺たちの勇気は一気に砕かれた。
漆黒色の体にゴブリンと同じように尖った巨大な耳。赤い瞳と黄色く尖った一本角と血の着いた無骨な棍棒が特徴的だった。
あれは国指定討伐モンスター・・・・・・
"オーガトロル"!!!
通常個体のトロルとは違い一つ目で、体長4m程の巨体を持つモンスター。気性が荒く、動くもの全てを蹂躙するため、行商人や旅人に毎年多くの被害を出している危険かつ、超凶悪なモンスター。
ゴブリンの亜種でありながら、その戦闘力はゴブリンの遥か上層。
俺が前に戦闘したベテランキラーとは比べ物にならないほどの相手だ。
ベテランキラーの方が大きいにも関わらず、オーガトロルの方が何倍も怖く、そして恐ろしかった。
オーガトロルはこちらに気がつくとタン・ファイドのことをほおって、俺たちの方へ走ってきた。
「くそ!全員防御だ!」
俺たち三人とも剣でガードした。
しかし、攻撃の反動は俺の予想を遥かに上回り、俺はどうにか防げたが、アルスの左腕が耐えられず、引きちぎられた。
「ぐあぁ・・・!」
アルスはその場で左腕を抑えながらその場で悶え苦しんだ。
オーガトロルは剣を握ったままのアルスの腕を口に入れ、何回か噛んだ後剣だけ吐き捨てた。
「まずい!次が来る!」
咆哮した後、オーガトロルは再びこちらに走り出した。
次は防げねぇ・・・!!
先程の反動がまだ残っていた。
次は受け止められそうになかった。
「スカルシェイバー!!」
背後から風の刃が飛んできて、オーガトロルの目を眩ませた。
「全く・・・世話のやけるボンクラ共だ。」
あの技とムカつくセリフは・・・
「ケルス!」
「小隊長すまない。アルスが重症を・・・!」
「今はそれどころでは無い。」
アルスを抱き抱えたユージュはケルスに近づいたが、それどころでは無いと判断したケルスに拒否された。
ユージュもそれを察し、後ろに下がった。
「俺の魔法が効かん奴だ。ならば・・・直接たたっ斬るまでだ!!」
ケルスは剣に手をかざした。
「『魔道付加・風刃』!!」
そしてケルスが唱えるとケルスの剣に風の刃が付与された。
風属性のエンチャントか・・・!
そしてその剣でオーガトロルに斬りかかると先程まで目眩しにしかなっていなかった刃が、スライムを斬るように斬れた。
「ヴォォォ!!!」
その時初めてオーガトロルは悲鳴をあげた。
「よし!効いてるぞ!」
「まだだ。」
だが、オーガトロルもただ斬られるだけでは無かった。
両腕を地面に叩きつけ、地面を砕き、大小様々な岩の破片を次々と飛ばしてきたのだ。
トロルの技の一つ、『グランドクウェイク』だ。
そしてその破片の一つがケルスの目の前まで迫った。かなり巨大な破片だ。
「危ねぇ!ケルス!」
しかし俺の心配など不要だった。
なんとケルスの目は水色に光り、視界の中の岩から死角の岩まで、全てを避けていた。
「安心しろ。これが俺のスキル、見切の気位。俺がこのスキル発動中に『来る』と意識したモノは全て避けられる。」
エンチャントからスキルまで使いこなすとは、流石魔法剣士と言わざるを得無かった。
しかし、他を見ると、今まで順調に岩を避けていたユージュだったが、アルスを抱えたまま全ての岩の破片を避けられるはずもなく、岩のひとつがユージュの後頭部に直撃した。
「ぐっ・・・!」
「ユージュ!!」
俺は倒れるユージュに声をかけたが、他人の心配をしている場合ではなかった。
俺の背後からも俺目掛け岩が飛んできていた。
後ろからの攻撃かつ、少し体制を崩してしまっており、避けることも出来ずに頭部に直撃した。
その時の衝撃は凄まじく、俺は立っていることが出来なくなっていた。
「くそっ・・・油断した・・・」
俺は頭から出血し、地面に倒れた。
そしてその時、俺たちに攻撃が当たった事を喜んでいるように咆哮したオーガトロルを見て初めて思い知った。
『実戦』という"殺すか殺されるか"の場の命のやり取りというものを、命を軽んじた思考をした"自分自身の愚かさ"というものを。
「くっ!やはり足手まといが!!」
俺達が倒れた後もケルスは一人で戦っていた。
所々攻撃を喰らいながらも確実にオーガトロルの体に傷を作り出していた。
しかしオーガトロルのタフさも尋常ではなく、まるでダメージを喰らっていないかのように攻め続けてくる。
そして遂に、ケルスは足元にあった死体の一つに足を取られ、転倒してしまった。
スキル発動時間には限界があり、その時に丁度スキル解除をしていたようだ。
「なっ・・・!?しまった!!」
尻もちを着いてしまったケルスに立ち上がる時間はなかった。
目の前には既に棍棒を振り上げたオーガトロルがいたからだ。
ケルスは死を覚悟し、オーガトロルを強く睨みつけた。
すると目の前に影が現れた。
「うおぉぉ!!!!!」
アルベルは遠ざかる意識の中、叫びながら力を振り絞り、ケルスの前に飛び出した。
「お前!!」
振り下ろされた棍棒はアルベルを直撃した。
振り下ろされた棍棒は地面に衝突し、土煙を舞わせた。
「くそっ!お前はいつも余計なことを!」とケルスは怒りに任せ地面を殴り付けた。
「そんな・・・アルベル・・・!」ユージュも堪らず、握り拳を作った。
しかしオーガトロルの様子がおかしい事にケルスは気づいた。
すると突然、オーガトロルは悲鳴を上げながらアルベルがいた場所から離れた。
何が起きたのかわからなかったケルスは、よく見てみてみるとオーガトロルが棍棒を持っていた右腕から大量に血が吹き出しているのに気がついた。
そして潰れていたと思ったアルベルが土煙の中からヨロヨロと立ち上がったのだった。
「流石親父の剣だ・・・防いでたら腕が逝っちまってたが・・・突き刺しゃどこまでも刺さりやがる・・・。まさか棍棒まで貫通するとは・・・思わなかったけどな。」
なんと棍棒を"防ぐ"のではなく、その勢いを逆に利用し、オーガトロルの腕を突き刺すという"攻め"に転じたのだ。
オーガトロルは一瞬よろめき、自分の腕を見た。
恐らく自分の血など、まともに見たことが無いのだろう。
強いが知能の低いモンスターにはありがちな行動だった。
そして少し怯んだ後、叫びながら再び棍棒を振り上げた。
どうやらかなり怒ってるらしい。
それに合わせ、俺も剣を構えた。
オーガトロルが叫びながら棍棒を振り下ろすのと同時に懐に潜り込み、棍棒をいなした。
「今のは・・・!!」
ケルスは今のアルベルの行動に目を見開いた。
俺は最後の力を振り絞り、剣にありったけの力を込めた。
「お前なんかじゃ・・・!!」
そして俺は伯奇の全てを思い返した。
あの日の屈辱と怒りと悲しみの全てを。
あの"山"のように巨大だった怪物を。
俺の故郷と両親と同郷を酷い目に合わせた罪を。
「お前みたいな"小さな山"じゃ・・・役不足なんだよ!!」
振り下ろされた棍棒を紙一重で避け、オーガトロルの巨大な一つ目の眼球を突き刺した。
突き刺した目からは血と謎の液体が吹き出した。
オーガトロルはしばらく目を押さえながら悲鳴をあげ、もがき苦しんだ。
そして遂にその場で倒れた。
ゴブリンと同じく巨大な二つの耳が垂れている。
とうとうオーガトロルは死んだのだ。
「やった・・・のか・・・?」
ユージュのそのフラグ臭いセリフを聞く元気もなく、俺は疲れ果ててその場に倒れ込んだ。
その顔の横にはオーガトロルの眼球から外れた親父の剣が地面に突き刺さった。
「へっへへへ・・・勝ったぞ・・・」
「嘘・・・だろ・・・」
「あのオーガトロルを倒した・・・」
その場にいた生き残った全員が目の前の光景に唖然とししばらく沈黙が続いた。
最初にその沈黙を破ったのはアルベルだった。
「よし・・・決めたぜ・・・。お前の名前。」
俺は剣に手を伸ばした。
「ガキの頃、母さんの読んでくれた絵本に出てくる『山をも吹っ飛ばす程の力』と、『全てを助け、救い出す優しさ』を持った王様・・・。俺が一番好きな"優しいの王様"の名前・・・・・・」
「お前の名前は今日から、山を消し去る者だ。」
すると『デルセロ』の刀身はギラリと光を反射し、まるで俺に対して返事をしているようだった。
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