第十九話 訓練開始!
俺は朝飛び起きた。
もう見慣れない天井とは言わない。
昨日通りの時間帯に起床し、着替えを済ませた。
そして予想通りメイドのビンスが部屋に入ってきて「おはようございます。」と一言。
「今日はちゃんと食堂に直行するぜ。」
俺は自慢気に言ったが、ビンスの反応は薄く、ビンスは俺をいないものと扱うように部屋の整理をしながら口を開いた。
「それは当たり前のことでございますアルベル様。一言言わせていただくと、昨日は貴方様が勝手にいなくなって勝手に遅刻して勝手に一方的にやられただけでございます。」
「いや全然一言じゃねぇし、厳しいな畜生!一応お手伝いさんなんだろ?」
「お手伝いさんではありますが慰め係ではありませんので。」
全く・・・可愛気の無いメイドさんだ。
いや見た目は可愛いんだけど。
タレ目なのに鋭い目つきだし、髪の毛の色だって、冷静な性格に合っている黒髪で艶やかで綺麗だ。
ベッドメイクしているビンスを尻目にそう思いながら俺は自室を出て、食堂へ向かった。
食堂の到着し朝食が運ばれてくるのを待った。
その時に気づいたが、俺以外の騎士が一人もいなかった。
正確に俺が騎士なのかは怪しいところではあったが。
というか人が一人もおらず、俺だけが広すぎる食堂で座っていた。
「なんか惨めだ・・・。」
俯きながらそう呟くと食堂の扉が開いた。
朝食が運ばれてきたのかと思ったらそこにはエリナが居た。
「おはようございます、アルベル様。」とスカートを上げ、お辞儀してきた。
俺もすかさず「おはよう」と返した。
「エリナも今から朝食か?」
「はい。ちょうどアルベル様がいらっしゃると聞いたので。」
そんな言われ方をしてしまっては悪い気はしない。
その無邪気な笑顔には悪意の欠片もも無かった。
ビンスも笑ったら可愛いだろうに・・・って俺は好きな女の前で他の女の事を考えるとか論外だろ。
「意外だな、こういう『The・みんなで食べます』みたいな空間で食べるんだな。」
「食事は大勢でした方が美味しくなると、デルミアが言ってました。何か隠し味でも入れているのでしょうか。一人で食べる時も是非その隠し味が欲しいものですね。」
その反応何それ可愛い。
自分が一人で食べる時は隠し味入れてもらってないみたいな反応してる。
『ムムム』とか出てきて可愛いかよ。
「まぁでも、そりゃ無理じゃねぇかな?」
「え?どうしてですか?」
エリナの周りに『?』が沢山浮かび上がってきた。
俺は笑いを堪えながら答えた。
「その隠し味ってのが、大勢で食べること自体だからだよ。」
その時エリナの周りの『?』が『???』に増えた。
「何故一緒に食べる人数で美味しさが変わるのでしょうか・・・。」
「俺も詳しくは分からねぇけどよ、多分幸せのおすそ分けが色んな所で起きるからじゃねぇかな。」
俺は自分の考えを述べた。
「幸せの・・・おすそ分け?」
「あぁそうだ。例えばよ、飯は美味いし、食ったら満足して幸せな気分になるだろ?みんなで食えば、それが人数分ある訳だ。それを少しずつ他人に分けてあげたらみんな更に幸せ、って事じゃねぇかな。」
「ほうほう。」
「だから俺が思うに、この雰囲気が出来たのって、小さな幸せを皆で分けようぜ、って教訓を作りたかったんじゃねぇかなって思ってよ。」
するとエリナは目を輝かせて俺を見つめた。
昨日までの憂いのあった瞳ではなく、希望に満ちて、心から俺の意見に感心しているようだった。
無知なお姫様に自分の知ってる知識を披露するのは男のロマンだ。
「その考え方はありませんでした!流石はアルベル様!小さな幸せを分け合う・・・ふふ!良い言葉ですね!」
何この子超可愛い!
俺も初対面時のキャラとはだいぶブレてきた気もするけど、この子も大概だったな。
冷静沈着でクール系かと思っていたら、俺の浅はかな考えにすら賛同してくれるいい子ってキャラになりつつある。
「そんじゃ、名残惜しいけど俺はそろそろ訓練に行ってきます。エリナに良いとこ見せなきゃな。」
俺は胸を張って親指で自分を指差した。
「はい!期待はしてますけど、怪我だけはしないで下さいね。心配になるので。」
「その説は申し訳ねぇの一言です。」
俺は昨日ボコボコにやられた事を思い出して反省し、縮こまった。
「ふふ。それでは、行ってらっしゃいませ。」
「・・・!」
俺はエリナのその言葉に少しニヤつき、少し間を置いて返事をした。
「行ってきます!!」
「今日は遅れず来たようだな。」
昨日の中年騎士が俺に言ってきた。
「うるせぇ。俺は心入れ替えたんだよ。」
俺は本心にないことを言った。
理由は特になかった。
ただ、こいつに俺の本心を話すのがムカついたからだ。
「ふん・・・そういう態度をしてくれていた方がコチラも言い出しやすいというものだ。」
「あ?」
俺は改まった中年騎士に不快感と疑問を抱いた。
こいつが俺に言うことなんて嫌味しか無いだろう。
もし嫌味だったらド突いてやろう。
「先日はすまなかった。ついカッとなってしまった。」
俺の予想は大きく外れ、中年騎士は俺に頭を下げてきた。
何が起きたのか数秒理解出来ず、固まっていた。
「私はこの騎士団に20年いる。だが、そんなキャリアを無視されて君が姫の護衛になったことが納得いかなかったのだ。恐らくそう思っているのは私だけでは無いのだろうが、結果的に姫様に御迷惑をおかけした。怒りに任せて後先考えて行動しなかった私の責任だ。どうか許してくれ。」
アルベルは怒りなどどこかに行ってしまった。
ただ目の前の光景が信じられず、中年騎士の禿げた頭頂部を眺めることしか出来なかった。
そして中年騎士は顔を上げ、再び喋り始めた。
「それにしてもあの時の魔力解放は凄かった。副団長殿が止めていなければ私も危なかった。流石"豪傑ヴェルゴ"殿のご子息だ。」
俺はその言葉を聞いてやっと我に返った。
目の前の光景に感情と心が追いついたのだった。
どうやら俺はあの日以来、『父親』とそれに近しい単語に無意識に反応する様になってしまったらしい。
そして中年騎士は「そうだ」と何か思い出したかのように懐を漁った。
そして何かを取りだした。
「これは君の剣だろう?騎士団員の殺害現場に落ちていたものだ。とてもいい剣だ。」
そう言って俺が大きくなった日に無くしていたと思った親父の打った最後の剣だった。
俺はそれを奪い取るようにした。
「たりめぇだ・・・世界一の鍛冶師が作った剣だ。」
「はっはっは。それもそうだな!」
親父が最後に打った俺のための剣・・・。
「あんがとよ・・・」と俺は小声でお礼を言った。
「なんだって?」
「うるせぇ!二度と言わねぇよ!バーカ!」
騎士団一同が大笑いしていると端の方から上官が歩いてやってきた。
「随分新参者と仲良くなったものだな。」
笑っていた騎士団員達はさっきの雰囲気を感じさせない程に真面目な表情となり、上官の方を向いた。
緩急がここまでついていると逆に怖くなってくるな。
しかしこれが王国騎士団ということか。
俺も真似し、列に入り後ろで手を組んだ。
「昨日の訓練では負傷者が出てしまったが、今日の訓練は昨日の決闘とは違い、基礎訓練となる!」
クッソ、あの髭面の上官が。
俺の事を完全に目の敵にしてやがる。
しかし上官の言うことに笑う者は一人もいなかった。
先程の和ましい雰囲気は消えたが、皆の中にはどうやら俺は悪く映っていないようだ・・・・・・一部を除いて。
俺を睨みつける鋭い視線に気が付き訂正した。
「では全員!まずは広場を30周走れ!」
『はい!!』
そして俺の地獄のような訓練の日々が始まった。
走り始めの最中
ただでさえ体力ないのに30周とか殺す気かよ。
まぁこれくらい他の事考えてたら終わってるだろ。
そう浅はかな考えを持っていた。
19周目に差し掛かったところだった。
気がつくと走っているのは俺だけだった。
俺以外の全員は30周を終え、端の方で休憩していた。
すると
「がっ!」
俺は考え事に気を取られ、転んでしまった。
「何をしている新参者!!他の者はとうの昔に走り終えているぞ!!」
俺立ち上がろうと腕に力を入れたが、足に力が入らずまたしても転んでしまった。
「こんの虫けらがァ・・・!!」
痺れを切らした上官は俺の頭を蹴り上げた。
「グァッ!!」
治ったばかりの頭に蹴りはかなり響いた。
俺は痛みで悶え、その場でうずくまった。
「さっさと立て!虫けら!!」
クソが・・・このジジイ!!
俺は睨み返すと上官は一瞬怯んだ様子を見せたが、歯ぎしりをしたあと、俺を踏みつけ始めた。
「この俺に恥をかかせ!姫様に面倒をかけ!副団長殿に叱られてしまったでは無いか!貴様のせいで!」
俺はこの手のタイプには抵抗は無駄だと考え、諦めたように抵抗をやめた。
踏みつけが止むまで30秒ほどかかった。
そしてその後何事も無かったかのように走り出した。
これも親父がやってきた事ではあるんだよな。
俺は母さんと親父に恥じない人生を送るって決めたじゃねぇか。
こんぐらいのこと、母さんと親父と・・・エリナの事を考えれば乗り越えられる・・・!
その後は木剣を交えた模擬演習だった。
俺が先日中年騎士とやったようなモノではなく、一撃与えた時点で終了するものだった。
しかし、それが穏やかに終わるはずもなく、上官は俺の相手に俺を恨んでそうな相手ばかり振り当てた。
案の定俺は一撃入れられても攻撃が止むことはなく、何度も何度も木剣を体に食らった。
悪質なことに顔や腕等の目に見える部分には一撃も与えず、見えないところにばかり打撃を打ち込んだ。
「ほらほらー新参者!どうした受けるばかりかぁ?」
乱暴に木剣を振るってくる相手に俺は苦戦した。
打たれまくった俺はもっと太刀筋がまともならば多少避けることができるようになっていたが、ただ力任せに振るってける相手には太刀筋が読めず、防戦一方だった。
「くそっ!」
俺は何とか振り払い、突きの一撃入れ・・・・・・そうになったが、血で手が滑り、木剣が吹っ飛んでいってしまった。
「しまった・・・!」
俺は反撃を覚悟したが、不幸中の幸いとはこの事で、その木剣が相手の顎当たり、ダウンを取った。
「かっ、勝った・・・?」
自分で言ってて疑問形だった。
そんな間抜けなことを言っているとダウンしていた相手の騎士が、飛んでいった俺の木剣を拾い上げ、俺の目の前に差し出した。
「あ、ありが・・・・・・グフッ!!!」
受け取ろうとした瞬間、腹に拳を食らった。
俺はそれに悶え、嘔吐した。
「お前みたいなのが俺に勝っただなんて!一瞬でも思うんじゃねぇ!!たまたまだろうが!このボンクラが!!」
再び俺は何度も踏みつけられる状況になってしまった。
こりゃまたエリナに治してもらうようだな・・・。
こんな時ですら俺はエリナに迷惑をかけないだろうかと等と考えている。
俺はなんてヘタレなんだ。
我慢だなんて言ったが、本心は違った。
勝てないから反撃しない、刃向かったところですぐ返り討ちに合うだけだ・・・・・・そんなこと分かりきっていた。
「やっぱり俺は・・・"ダメな人間"・・・だ・・・。」
そうして俺の楽しい楽しい訓練2日目は終わった。
エリナに心配をかけたくなくて、エリナの部屋はおろか、医務室にすら寄らなかった。
寝るには早かったが、部屋に戻ってさっさと寝ようと思っていた。
外は黄昏色に染まり、その色を見た時に昨日のエリナの表情を思い出した。
「俺はエリナにあんな啖呵切ったくせに・・・情けねぇな・・・。態度ばっか一丁前になって、性根は腐りきったままってか・・・。」
俺は部屋の扉を開けるとそこには思いがけない客がいた。
「やぁ。勝手にお邪魔してるよ。」
先日俺を手合わせでボコボコにしてくれた中年の騎士団員だった。
「なんの用だよ。剣返してくれたお礼なら言っただろ。」
俺はそう言いながら返してもらった剣を部屋の机に置きながら言った。
「いや君と少し面と向かって話をしたくてね。」
中年騎士は俺の方え微笑んだ。
俺はその表情にイラッときた。
「おいおっさん調子に乗るなよ。人によっちゃアレだぞ。トラウマになりかねない行為だからな。」
「はっはっは。おっさんとはご挨拶だな。まぁ確かにそうだね。本当にあれは済まなかった。君の態度が気に食わなかったことは否定しないし、私もその感情は正しかったと思っている。」
「なんだよ。俺の意見を否定しに来たのかよ。」
俺は着替えの横目に中年騎士に悪態を着いた。
というかこのおっさんがユージュという名前なのを今思い出した。
「話は最後まで聞きなさいな。・・・けどね。君の朝の表情が昨日と違っていたんだ。何がきっかけだったのか、それを詮索する気は無い。」
「なんかおっさん・・・キャラ変わったな。」
「はっはっは!私は滅多に怒らないことで有名だよ!それほどに君の待遇が気に入らなかったってだけさ!」
笑いどころじゃねぇだろ。
俺は本気で死にかけたっていうのに。
「んで?さっさと本題に入ってくれ。なんか用があってきたんだろ?」
「あぁ・・・そうだったそうだった。」
中年騎士・・・ユージュは頭を掻きながら笑った。
掻くほどの髪の毛もないくせに。
「実はひとつ、君に提案があってね。」
そう言うとユージュは人差し指を立てながら俺に向かって言ってきた。
「提案?一体何だよ。」
「君に対して私が稽古をつけるのはどうだろうか。」
「は?」
俺はここ最近で何回一文字の疑問形を口にすればよいのだろう。
それほどまでに驚きの連続だった。
「いや。昼間はさっきの通り、君をよく思わない連中に虐められているだろう?それでは姫様を守る護衛としては力不足になってしまう。だから訓練の後、つまり夜に私が上官の代わりに君に剣の扱いから何でも教えるというものだ。どうだ?なかなか悪くない話だろう?」
「そりゃ俺に取っちゃありがてぇけどよ、こんな事しても金にならねぇぞ。」
「これは金になるならないの話ではないんだよ。20年従ってきた私が、今更"損得勘定"で動くとでも?」
「"怒りの感情"ではすぐ動きそうだから頷いとく。」
ユージュは「これは一本取られたと」と言わんばかりに大声で笑った。
「じゃあ一週間後の『国王候補者円卓会議』までにそれらしい振る舞いは出来るようになろうね。」
ユージュは俺の部屋の扉を開けて出ていくところだった。
「わーったよ。大変だろうけど頼むわ。・・・・・・てか待て。」
俺は出ていく瞬間のユージュを引き止めた。
「どうしたんだ?まだ何か?」
「『国王候補者円卓会議』ってなんだよ。」
ユージュは文字通りに目をまんまるにして驚いた。何なら少し飛び出していた。
「国王候補者円卓会議ってのはだな。その名の通り国王候補者全員が一同に会す会議のことだ。まさか、それすら知らされていないとは・・・。」
「ということは・・・エリナを嫌いな国王候補者や英雄がこの城にわんさか来るってことか・・・。」
「まぁそういう感じだな。正式に国王候補者として認められているのはエリナ姫含め、全部で12人。頑張ることだな。」
そう言ってユージュは部屋から出ていった。
俺は深く息を吸い、両腕を天井高く掲げた。
そして大口を開き叫んだ。
「そんなの聞いてねぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
俺の心の底から出てきた、魂の叫び声は呪いのように一晩中城に響き渡った。
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