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第十八話 記憶の彼方

話す前に俺たちは場所を移した。

忘れがちだが、今は国王を決めるための選挙、今後は『国王選挙』とでも言っておこう。

そしてその国王選挙の準備期間である。

弱みを握るために聞き耳を立てている人間がいるかもしれない。どこで誰が聞いているか分からない、そんな状況なため、城内の俺の部屋で話し合うことになった。

彼女がが誰にも話したくないのならば俺はその意志をなるべく尊重したかった。


そして俺の部屋へ到着し、お互い椅子に座り、話しが始まった。

エリナ医務室でこの話をしてたから俺の部屋に到着するまで、ずっと浮かない顔をしている。


「そんで・・・俺の部屋に到着した訳だが・・・これはもうお楽しみタイムを期待してもいいってことかな?」


俺はそれが気になり、悲しげなエリナの表情が少しでも和らがないだろうかと冗談交じりに言った。

無論、本人に悲しい顔をしている自覚は無いのだろうが。


「変に茶化さないでください!折角真面目な雰囲気になっていましたのに・・・。」


エリナは頬を赤くし言ってきた。

良かった、まだ冗談に反応してくれるくらいには落ち込んでいないらしい。

その証拠に『カーッ』というエフェクトが出現していたからだ。

そして頬を膨らませそっぽを向いているのが純粋過ぎて可愛い。


しかし、赤らめていた顔を締め直し、真面目な表情をした。


「先程もお話しましたが、この話は決して他言されないようお願い致します。知っている人物はデルミア一人だけですので、彼女には私から説明しておきます。」

「おう・・・分かった。他の奴には言わねぇ・・・。」

俺はエリナに対して自分の意思を示した。

そしてエリナは頷き、話を始めた。


「単刀直入に申します。」


俺はエリナの態度と強い語気に固唾を飲んだ。

ここまで強く言われては流石にビビる。

滴り落ちる汗ですら緊張しているようだった。


「私・・・お父様が亡くなる前の記憶が・・・無いんです。」


それは思いがけない言葉だった。俺が感じていた違和感の正体はこれだったのか。

だが俺は口出しせずエリナが話始めるのを待った。


「お父様が亡くなってから今年で7年目なのですが、私にとってはその7年の記憶しか・・・その記憶以外無いのです。」


7年・・・俺がこの世界に来てから今までの期間と合致する。

俺は一人、頭の中で情報の点と点を繋ぎ合わせ、一つの線として考えていた。

「キッカケは多分・・・」


エリナはそこで言葉に詰まったがそのまま話を続けた。


「デルミアが言うには当時の私は前日まで何事もなく、普通に過ごしていたようです。当時9つの私はやんちゃ盛りでして・・・それまで何事もなく過ごしていたようでした。」


この可憐で優美なお姫様にもやんちゃな時期があったのか・・・。

いや、本来の彼女はもっとやんちゃでこの性格の彼女は記憶を失ってからのものだろう。


「しかし翌日の誕生日の日に・・・お父様は亡くなられました。」


俺はそれを彼女から聞いた時、胸が締め付けられる感覚に襲われた。好きな相手の、しかも言いたくもない過去の話を言わせてしまった自分への怒りでそうなってしまったのかもしれない。


「お父様の死因は聞かせていただけませんでした。しかし・・・騎士団員の噂によるとその日、一匹のモンスターによって王都近くの騎士団支部が壊滅したそうです。」


俺はその話に反応し「そのモンスターの名前は!?」と強めに聞いてしまった。

エリナは少しうろたえたが、そのまま続けてくれた。


「そのモンスターの名は伯奇。魔獣王の一体です。」


その時俺は拳をテーブルに打ち付けた。

こんなところでもあの野郎が関わってんのかよ・・・!!


「すまねぇ・・・少しカッとなった。話、続けてくれ。」


俺は一旦冷静さを取り戻せた。

そして話をさえぎってしまったため、エリナに続きを話すように促した。


「私はそしたらその日一日中泣いていたそうで・・・食事も取らずで皆さん大変だと仰ってたそうです。」


やめてくれ。

そんな笑顔を見せないでくれ。

そんな悲しそうに笑うエリナなんて、俺は見たくない。

しかしこれは俺の頼んだことであり、俺のエゴだ。

それに、エリナ自身に悲しそうに笑っている自覚はないだろう。


「そしてお父様が亡くなった翌日の朝、私の記憶は失われていました。」


彼女は今までどれほど怖い思いをしたのだろうか。

朝起きたら自分が何者なのかも分からず、今になっては嫌われ者の先代国王の娘として国王選挙に駆り出される。


「私はその時、全てが怖かった。見たことない光景・・・ここでは見覚えのない光景と言った方が正しいですかね。見覚えのない顔、そして何も覚えていない自分自身が一番怖かった。」


彼女は少し震えながら自分の感情を押し殺しすためにスカートを強く握った。

俺はその手を握ってあげるべきだったのだろうが、そんな勇気も持てず、膝の上で握り拳を作っていた。


「でも・・・不思議なことに貴方の顔だけが、頭の中に残っているんです。」

「は?」と、俺は思わず強い語気で言ってしまい、彼女を驚かせてしまった。

俺は一言「すまん!」と謝り、話し始めた。


「でも俺たちって初対面だよな?」


俺は当たり前の質問をした。

俺にエリナの記憶は勿論ないし、そのはずもないからだ。


「それは・・・分かりません。記憶を失ってから見たのか、はたまた記憶を失う前に見たことがあったのかもしれないですし・・・。」

「確かにそうかもしれないが・・・」


俺は困惑して思わず立ち上がって考えた。



「はい。しかしアルベル様の記憶に無いのでしたら私が一方的に見ていたのかもしれません。」

「いや。それはありえない。俺がこの姿になったのは連行されてきた日、つまり昨日だ。でもエリナは俺のこの姿を見て、なにか懐かしいと思ったんだろ?だったらそれは俺ではない"誰か"という事になる。」

「ではアルベル様に似た誰かが・・・。」


エリナは顎に手を当てて頭を悩ませた。

俺はあまり考えさせないように他の話題を振った。


「んじゃあよ、俺の事を気にかけてくれてたのは謎に記憶に残ってたからって事か?」


『うーん』と唸っていたエリナの"効果音"がその質問をした瞬間『モジモジ』に変化し、エリナは再び顔を赤らめた。


「じ・・・実は・・・アルベル様のその・・・匂いがですね・・・どこか懐かしくて・・・。」


意外すぎる答えに俺は唖然とし、何も言えなかった。

そして自分の匂いを嗅いでみたが、特に変わったところはなかった。

いや少し汗臭いような。


「記憶に無いのに懐かしいの?」

「は、はい・・・。おかしな話ですよね。デルミアは達はアルベル様の匂いを『酷い臭いだ』と言ってましたが、私はどこか懐かしくて、幸せな気分になれるんです。」


正面からそう言われると少し恥ずかしい。

そしてそんな事を言っていたジジイババアと他の騎士達は後でシバいてやろう。


「大体のことはわかった。確かに記憶が無いと分かれば、その弱みに漬け込んでくる奴もいるだろうしな。」


するとエリナが不安そうな顔をしたため、俺は


「まぁ・・・安心してくれ。俺はお前の護衛、お前だけの護衛で騎士だ。例え、この国の騎士団全員が敵になったとしても、俺はお前の味方だよ。」


そう言うとエリナは小さく吹き出して微笑んだ。

先程の悲しそうな笑顔とは違い、太陽のように眩しい笑顔だった。


「もう・・・アルベル様ったら・・・そんな冗談仰られても、何もいい事なんてありませんよ?」

「別に今回は冗談な訳じゃないんだけどな・・・。」




「それでは失礼致します。今日は・・・その・・:ありがとうございました。」


エリナはそう言い、部屋を後にした。

エリナは俺にいくつかの謎と喜びを残していってくれた。

俺の匂いが人によっては安らぎを与えて不快を与える時もあるのか・・・。

匂いとは不思議なものだ。

しかし、今日はもう既に夜だ。

明日は流石に普通の訓練になるだろうしさっさと休むとするか。


そう言ってアルベルは昨日と同じく再び、ベッドに寝転がり身を任せた。


明日から頑張ろう・・・エリナのあの笑顔を守るために。

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