表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/63

第十六話 はじめてのくんれん

目を覚ますと見慣れない天井が目に入り、部屋の窓から眩い光が差し込んできた。

その光は転生前に部屋に引き篭ってゲームをし続け、気づけば朝になっていた時に自室の窓から差し込んだ光にそっくりだった。


俺は普段とは違う部屋で起床した。

それは元々殺人と一応、公然猥褻(わいせつ)の罪で王都まで連行され、打首宣告されていたのだが、10人の原初の魔術師を神格化し、国が危険視している凶悪犯罪組織『十戒』の幹部の1人である《飢餓》の依代、ナベリウス・ガーレインの情報を提供することで打首を免れた。


そして国王候補者である先代国王の娘、ベルドブール・クラウディア・フォス・エリナの後ろ盾に半ば無理やり任命されたのだ。

そのため、王都の城で住み込みをしながら王国騎士団の訓練を受けつつ、エリナの護衛兼後ろ盾として生活していかねばならなかったのだ。


「はぁ。なんだか体が大きくなってからか、朝は起きなければならないような気がしてならない・・・。子供の体の時は遅くまで寝ててもなんの背徳感もなかったのにな。」


俺はベッドから飛び起きてカーテンを開けながら呟いた。

転生前はカーテンを開ける習慣など無かったため、やってこなかったが、こういうマメなところは性格上存在していたため、異世界に来てから新たに自分に対して気づくことが未だに多い。


「もう7年経ってるハズなんだけど。」


まぁそのほとんどの期間も本を読んですごしていたため、最近の出来事が濃密かつ、凝縮された数週間だったなと我ながら思った。


そう考え、着替えまで終えると無駄に大きいと言っては失礼だが、巨大な部屋の入口の扉からノックの音が聞こえた。


「空いてんぞー。勝手に入ってくれ。」


そのノックに俺は答えた。

そして入ってきたのは案の定メイドのビンスだった。

漫画やアニメで得た知識で推測するに、ベッドメイクやら俺の身辺の面倒を見てくれるのだろう。


「おはようございます、アルベル様。今日から王国騎士団の訓練に参加して頂きます。この部屋の整頓は私におまかせ下さって結構ですので、朝食を取りに食堂までお越しください。そして訓練は今から1時間後となりますのでそれに間に合うようよろしくお願い致します。」


やはりな、俺の予想は的中していた。

こういうアニメ要素満載の世界観当てクイズがあれば俺はこの世界で世界一を取れる自信があった。

そして俺はビンスに言われるがままに食堂へ向かった。


先日は散策することが全く出来なかったため、城の構造を理解出来ておらず、説明すらされていない俺は城をうろちょろすることにした。


やれと言われたこととは逆のことをし、探検しているのは修学旅行の部屋移動を思い出す。

まぁその時はバレて俺だけ先公に売られたのだが。


「まぁでも食堂の位置を知らないってのはあるし、探検も悪かないだろう。」


俺はそうして自分の意見を正当化し、探索を続けることにした。


無駄に広い廊下に、無駄にデカく豪華な窓、壁の装飾の一つ一つに至るまで細かいかつ、煌びやかな様子だった。


すると正面から他のメイドが歩いてきた。

俺は何か言われるのかもしれないと少し怯えながら横を通り過ぎようとすると「おはようございます。」と挨拶されただけだった。


成程、これは悪い気がしない。

と思い切りドヤ顔をしていた。

もちろんメイド達が通り過ぎた後にだが。


次に近くにあった扉を開けてみた。

するとそこは外見からじゃ想像できないほど大きな図書室だった。


これはあれだ。実際見るのは初めてだったが、以前本で読んだ魔法のひとつで『空間隔離魔法』だ。

実際の部屋と別空間にある部屋とを繋げる魔法だ。

その証拠に部屋の中央に空間隔離魔法を発動している水晶が装飾の一部として設置してあった。

今考えると実家の書庫も、この魔法を使っていたのだろうか。


俺はなんとか好奇心を抑え、図書室の扉を閉めた。

今度時間がある時にじっくり来よう。

転生前、俺は割とゲームでは敵の情報を知った上で攻略のための作戦を練るのが好きなタイプだった。

だから知識の塊である図鑑や歴史書などはかなり買い揃えていた。

流石にあの物量を目の前にして理性を抑えられないほどではなかったが、気になりはした。


図書室を出ると道の角で騎士団員達が会話しているのが聞こえたので盗み聞きする事にした。

これも悪いことしてる感あって背徳感が半端ない。


「なぁ聞いたか。あのパッとしない田舎者がエリナ姫様の直属の護衛に着くらしいぞ。」


「マジかよ・・・。デルミア様は何を考えていらっしゃるんだ。」


「なんでも自分のご子息である、英雄フォルゲル様の親友、ヴェルゴ殿の息子だからという理由があるらしい。」


「チッ!・・・結局は王族とか英雄贔屓(びいき)かよ。あんな美人の姫様の護衛に田舎モンか・・・。」


「俺たち平団員のことなんざ、考慮してくれるわけねぇだろ。」


「それもそうだな。」


そう言って会話していた二人の騎士団員は立ち去った。

まぁこれも予想出来た展開ではあるな。

いくら英雄の親友の息子だからって、ぽっと出の犯罪者もどきがいきなり姫の護衛につくだなんてありえない話だ。

それにしても俺の顔面をパッとしないだの田舎者だの

罵倒するいわれは無いのだが。


「今後は、言われなき中傷は否定することにしよう。」


俺は一人で頷いた。

そして再び城内の散策に戻った。


図書室の次に入った部屋は浴室と脱衣所だった。

今の時間はメイドが掃除をしている時間だったため、メイドから「おはようございます。」と挨拶された後やることも無いため直ぐに退室した。


「ただお湯に浸かるってだけの役割の風呂まであんなに広いのか。」


浴室は人が何十人でも入れそうなほど広かった。

流石にあれに全員で仲良く入浴・・・だなんてことは無いよな。


俺は騎士団員のむさ苦しい男共がギチギチになりながら入浴するのを想像してしまった。

あまり考えたくないことを思い浮かべてしまった。

さっさと忘れよう。


ちなみに城内を散策しているうちに見つけたトイレの数は40個だった。

これが多いのか少ないのか俺には分からなかったが、一般家庭の俺からすれば

めちゃくちゃ多い。


そしてふと窓の外を覗いてみると大きい広場のようなところがあり、既に鎧を身にまとった人が大勢居た。

あれが王国騎士団の訓練場だろうか。


「俺行ってないけど、とりあえず飯食えって言われたからまだいいのかな。」


しかしアルベルは城が広く大きいせいで気づいていなかった。

彼は既に1時間以上城内を歩き回っていることに。


「うぉぉぉぉ!!!!!アルベル貴様野郎ぁぁ!!!!」


後ろから急にドロップキックが俺に炸裂した。

車に轢かれた以来のこの衝撃は俺にトラウマを蘇らせた。

俺はその場に痛みでうずくまった。


「何すんだよ!ジジイババア!!」


振り返ると案の定デルミアだった。

こんなに元気なジジイがいてたまるかってんだ。


「何をする!・・・では無い!もう集合時間はとっくに過ぎているのだ!時間が無い!貴様は朝食抜きだ!」


「おい!姫さんの護衛にこの待遇かよ!」


「エリナ様の護衛はあくまでお飾りだ!私が直接出来ないから貴様にやらせているだけだ!自惚れるな戯けが!」


さらに俺は頭突きを喰らい、さらに悶えた。


「さっさと支度をせんか!馬鹿者が!!」


そう言われ俺は、鎧すら受け取れず、訓練場まで連れ出された。






「いやー・・・遅刻してすんませんね。」


俺は沈黙しながら整列している訓練場の騎士と上官に向かってヘラヘラしながら少し頭を下げた。

全員顔をピクリとも動かさず冷たい目つきで俺のことを睨みつけていた。


「貴様・・・いい度胸をしているな。」


上官らしき人物は俺に向かって近づいてきて見下すような視線をした。

生まれつきの体格を自分の努力によって手に入れたと勘違いしている俺が嫌いなタイプの人間だ。

さながら体育教師のような嫌悪感を感じる。


「話は聞いているぞアルベル。初日から遅刻とはその度胸と図太さだけは認めてやろう。貴様は姫様の護衛だが、扱いは平団員と同じ扱いで良いデルミア殿から言われている。」


「おいまじかよ!あのジジイババア!俺は断固認めなーい!節度ある待遇を求めーる!」


 俺は運動会で言う選手宣誓のように右手を垂直に振り上げ主張した。


「ええい黙れ!貴様は訓練の前に訓練場40周だ!」


俺は上官に訓練場の広場を指さされ、促された。

青々と鮮やかに芝生が茂っているはずの広場が今は地獄のような広さに見えた。

俺は明らかに嫌な顔をして顔をしかめた。


「おいおかしいだろ!俺、見た目は好青年だけど中身は7歳児だぞ!」


俺はそういえば自分の実年齢を思い出し言い訳に使った。

上官はなにか思い出したようにハッとした。

しかし


「こんな七歳児がいてたまるか!!くだらん言い訳はせんでさっさと走ってこい!!」


気の所為だった。

そして俺の話が通じなかった。

あのジジイババアは肝心なことは伝えていなかったようだ。

恨むぜ畜生ぉ・・・!

俺は大人しく広場の外周を走ることになってしまった。


「はぁ・・・なんでこんな事に・・・。姫さんの護衛につけるって聞いたからもっとモテモテウハウハな展開が待ってると思ってたのに・・・。」


俺がお約束を嫌いなようにお約束も俺が嫌いなようだ。





俺は長く苦しいランニングを終えた。

もと引き籠もりにとっては地獄を具現化したような体験だったが、親父が死んでから毎日数キロを往復していたおかげか、想像よりはマシだった。


「走り終えたか。では訓練に移る。」


上官は後ろで腕を組みながら俺の所へ近づき、偉そうに言った。

お前は外周40周走りきれんのかよ

と悪態をつきそうになったが我慢して飲み込んだ。


「そんなことより・・・俺の剣・・・預かってねぇか・・・?」


俺は親父から最後にもらったプレゼントである剣の心配をした。

するとそこへ


「上官、発言の許可を頂きたいのですが。」


一人の中年くらいの騎士団員が来た。

ここでは一言一句

発言するのに上官の許可がいるのかよ。


「よい。申せ。」


「おい待てよ、今俺と話してる最中だろうが。」


上官は俺の話を無視し、中年騎士の発言を許可した。

あんたらゲームのやりすぎだろ。いまどきそんな堅苦しくやってると『なんとかハラスメント』で訴えられるぞ。

いやまぁゲームのし過ぎでこの考えになる俺のほうがおかしいのだろうが。

なぜならここはどこまで行っても異世界なのだから。


「ありがとうございます。・・・それでは、私とこの無礼者とで決闘をさせていただけませんか。」

「は?」


思いがけない提案に俺は思わず反応してしまった。


「ふむ・・・面白い。」

「は!?」


俺はそれを承諾したっ上官にも思わず反応してしまった。


「この躾のなっていない小僧に引導を渡してやるといい。アルベルも構わんな?」


上官は鋭くムカつく顔をこちらに向けた。

ものすごい剣幕で逆らえばぶった切られそうだった。


「いやいやいや!おかしいだろ!俺は今日入団したてで、剣だってまともな振り方知らねぇんだぞ!今まで積み重ねてきたやつが初めてのやつボコボコにして騎士道もクソもねぇな!」

「アルベルもそれで・・・良いな・・・!!」

「チッ・・・。わーったよ。腐りきったゴミみてぇな騎士道に従えばいいんだろ?」


俺は半ば無理矢理、圧に負け渋々承諾してしまった。




俺と相手の騎士は訓練場中央に集まり、剣を構えた。

無論木剣だったが。

涼しい風が芝生を撫でたが、その風が今はただただ不快にしか感じられなかった。

木剣を構える相手の中年騎士はどういう気持で俺と相対しているのだろうか。

剣を握ってから数週間の子供に剣で勝って何を証明したいのだろう。

それほどまで自分に自身がないのか、それとも俺に恥をかかせたいのか。

その答えは頭で考えているだけでは出てこなかった。

俺は剣を持った相手を始めて相手にして思った。

これが剣圧というものなのだ・・・と。

さっきまでただの中年のおっさんにしか見えなかったが、剣を持ち、構えた瞬間からまとっている空気が明らかに変化し、俺と同じくらいしか無い身長が倍近く大きく見えた。


くそっ。悔しいが俺じゃ勝てねぇのかもしれねぇ・・・。



だがここで負けたら男が廃る!!


俺は何の策もなく中年騎士に飛びかかった。

俺の振り下ろした一撃は当たり前のように避けられた。

しかも体を少しそらすだけという必要最低限の動きだけで。

その後横薙ぎの一撃を振るったが、それは剣によって受け止められ、弾かれた。

俺はその隙をつかれ、脇腹に一発食らわせられた。

その一撃は想像より重く、深く、痛かった。

「ぐあっ!!」


俺の口からは唾液が漏れ出した。

血のようにドバドバと大量に出てきた。

実際にここまで吐くとは思わなかった。

俺は少しの間うずくまった。

それに追い打ちするように中年騎士が今度は背中に木剣を食らわせた。

メキっと骨にヒビが入る音と、木剣の衝撃の音と俺の悲痛の叫び声が城内に鳴り響いた。

そして中年騎士は入れの髪の毛を掴み、持ち上げた後に、膝付近に蹴りを入れた。

そして俺が膝をつくと顔面に木剣を何発も打ち込んできた。


何発も何発も何発もー


メキ、バキ、と俺の顔面の骨は音を立てて粉々になっていき、所々から出血し、体中痣だらけになった。

おれは声を出す気力すらなく打ちのめされた。

歯が飛び散り、次に血と、取れそうな部分は既にボロボロと地面に打ち付けられていた。


「ふん。英雄の親友である豪傑の息子もこの程度か・・・。そんな力しか持たないくせに長年付き従ってきた私が護衛に選ばれないのは・・・気に食わん!!」


中年騎士はさらに俺の顔面へと木剣を叩き込もうとした。


何故ここまでされなきゃいけないのだ。

俺が何をした。

これもまた"罰"の一つなのか。

もう目も開かねぇし口も開けねぇ。

耳だって片方聞こえねぇし、鼻が曲がっているような気もする。

俺がここまでされなきゃならねぇ理由は何だ。

そっちがその気なら

やってやるよ。

この中年野郎・・・



『ぶっ殺してやる』




俺は体の中心に渦巻く黒いなにかを感じ取っていた。

これは恐らく負の感情。

それが魔力に呼応してなにか新しいものが生み出されているのだろう。

魔力の性質に関しては謎が多い。

怒りという感情が魔力と混ざり合って新しい属性の魔法になっているのかもしれない。

もしかしたら殺傷能力のある魔法ではないのかもしれない。

もしかしたらこれを使ったら俺自身が危ないのかもしれない。

だが今はそんな事どうでもよかった。

只今はこのジジイを無性に殺したくてしょうがなかった。


俺はニッと口角を上げた。


「何を・・・!何を笑ってやがるぅ!!」


予想通り中年騎士はそれに激情し、俺に斬り掛かった。

俺はぎりぎり開いた右目で中年騎士を睨んだ。

木剣が俺の顔面近くまで近づいた。

そして俺は腹に溜まってる魔力全てを解き放った。

それはどす黒く闇すら飲み込みそうな漆黒色の魔力だった。

その力を全てを開放し、中年騎士の目前まで行くと





「そこまで!!」





俺が開放した黒い魔力も中年騎士の木剣もその一言を言った人物によって受け止められた。


「誰・・・だ、てめぇ・・・。」


俺はボロボロの目でその人物を睨んだ。

その人物は緑色の髪の毛をしており、身長は低く、まるで子どものようだった。


「これは!王国騎士団・・・・・・"副団長"!」


その少年は振り返り、こちらを向いた。


「セルビオ・ストライク殿!!」


俺の記憶はそこで途切れた。

倒れた時の芝生の感覚は、風景のときに感じた事と変わらず、まるで地獄の業火の上で寝ているような感触だった。

お読みいただきましてありがとうございます!!この作品が面白いと感じていただけたのなら是非ブックマークや感想、レビューやいいねの方をどうぞよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ