第十二話 九つの依代
「私、十戒支部局長『飢餓』の依代、ナベリウス・ガーレインと申します。」
目の前の赤髪で口元をマスクで隠している男はそう名乗った。
やはり十戒・・・しかも支部局長・・・!
世界に九つ、十戒のそれぞれの戒めの名を持つ、十戒の言わば幹部・・・!
近場で伯奇の魔力を辿ってきたということはここの近くに奴らの拠点が・・・?
「見つけたぞ!捕らえろ!」
すると背後から怒鳴り声が聞こえてきた。
振り返ると王国騎士団員だった。
「君!下がっていなさい!この男は危険なのだ!凶悪犯罪者集団、十戒の幹部だ!」
「おい!子供にそんなことまで教えていいのか・・・?」
「危険を知らせるためだ!やむを得ない!さぁ僕!早く逃げなさい!」
二人の騎士は俺を庇うように前に出て、剣を構えた。
子供の目の前でそこまで言うもんかねと思ったものだ。
「あのさ・・・さっきから黙って聞いてりゃ犯罪者集団だの危険だの酷い言いようじゃないか・・・流石の僕も落ち込むよ・・・。」
ナベリウスは肩をダラっとさせこれまた大袈裟にリアクションして見せた。
「斬り殺せェ!!」
二人の騎士はいきなり斬りかかった。
「残念だよ・・・。」
ナベリウスがつぶやくと彼に飛びかかった騎士達は跡形もなく粉々に飛び散った。
引き裂かれた訳でも切り刻まれたわけでもなく、ただただ肉片と血肉が空中で爆散したのだ。
ナベリウスの頭上には血の雨が降り注ぎ、臓物が地面に激突し、次々と音を立て潰れた。
体の血液をはらいながらナベリウスはため息を吐いた。
「正義の味方の悲しい所だよねぇ。僕は別に君たちを殺す必要は無いけど、君たちは立場上、僕を殺さなきゃならない。僕たちは表舞台の君たちの行動を全て把握しているが、君たちは闇に潜んでいる僕たちの行動を知る術は無い。僕たちは目的優先で手段を選んでいるが、君たち王国騎士団は手段を優先して目的を選んでいる。そんなんじゃ僕の飢餓は満たせないよ。・・・あっ、もう聞こえてなかったか。」
体を拭っていた布を捨てた。
布には拭っていたハズの血が一滴も付いていなかった。
こいつは一体・・・何をした・・・。
十戒の幹部はこれほどの力を持っているのか・・・!
俺は思わず後退りをした。
「あぁ、安心しな君。飢餓ってる人、僕大好きだから殺さないよ。いつか君も十戒に入ってくれるかもしれないしね。」
ナベリウスは俺の横を通り抜けて行った。
「僕は帰るよ。結局伯奇には会えなかったし、今日出逢えたことに飢餓の魔術師と邪神に感謝を。・・・ってな感じの社交辞令も言ったし、それじゃあね。」
その時俺は震えで足が動かなかった。
ただ横を通り過ぎるナベリウスを見送ることしか出来なかった。
「あっ・・・そうだ。」
ナベリウスはそう呟き立ち止まるとこちらを振り返って言った。
「やっぱりお土産、あげちゃう。」
ナベリウスはニコニコしながら指をこちらに向けてきた。
俺はそれが先程騎士二人を粉々にした魔法だと考え、構えた。
そして次の瞬間には体に激痛が走った。
「ぐぅあっ!!!!がぁあああ!!」
痛い痛い痛い痛いー
転生前の車に轢かれた時は外側からズキズキと痛みが広がったが今回のは違う。
内側から破裂しそうな痛みが毎秒襲ってきやがる。
「まっ、まて・・・!」
俺は今にも吐きそうで気を失いそうな状況でギリギリ声を出せた。
するとナベリウスは振り返ってきた。
「えー何?僕今・・・・・・仲間待たせてんだけど。」
重く息苦しい空気が俺を襲った。
何やらナベリウスの背後から流れ出している空気だった。
まるで死人を何人も風上に吊り下げているように嫌な風だった。
そしてその台詞の意味を理解するのに時間はかからなかった。
奴の背後に八つの黒く、禍々しい影たちが立っていた。
俺が恐怖心に負けただけかもしれないし、痛む体のせいで幻覚を見たのかもしれない。
だが奴らは明らかに人智を超えた魔力量とプレッシャーで何十倍にも大きく見えた。
俺はその空気に耐えきれず嘔吐した。
朝一番だったため、朝食など取っておらず、ただ胃液が口から止まらず吐き出され続けた。
「これが・・・十戒の幹部・・・原初の魔術師の・・・依代の力・・・なのか・・・!」
「じゃあその力有意義にね、アルベル君♡」
ナベリウスのその言葉を最後に俺は気を失った。
全く・・・俺は子供の頃に何度気を失えばいいのだろうか・・・。
吐瀉物の溜まった上で俺の目は瞼を閉じ始めてしまった
身体が熱い・・・またこの感覚だ・・・。
俺は再び味わった。
前世で死ぬ直前に味わった『痛み』が『熱』に感じるこの不快な感覚を。
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