第十話 親父から
俺はフォルゲルとソーニャを置き去りにし、灰燼と化した村を歩き、母親を探した。
しかし声を出す気力など全く無く、ただ歩くことしかできなかった。
一応の目安として自宅の方へと向かったが、期待はできそうになかった。
灰が混ざった土が靴の中へと侵入してくる。
その感覚の不快ささえ忘れてしまうほどの喪失感と村の状態への絶望感から気にするのも面倒になってきた。
ワープした先は村の外れだったため暫く歩くことになった。
まずは住居が密集してたであろう燃え跡が目に入った。
見慣れた村人たちの笑顔はなく、皆家があったであろう場所の前で項垂れ、嗚咽混じりの涙を流し、焦燥と見えぬ明日への絶望を嘆いていた。
いつも通っていた広場も見るも無惨な姿となっていた。
肉屋の倅、ジャーロと会話したベンチも、子供たちのよく遊んでいた空き地も全てが虚無と化していた。
「これも・・・罰なのか・・・」
これは本当に罰なのか、では何故、罰ならば何故俺では無く、周りの人間を不幸にするのだろう。
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故
何故だ。
そもそも罰ってなんだ。
誰にそんな権利があって俺にここまでの仕打ちをする。
前世での両親か?
あのエルフの英雄か?
それともこの世界の・・・神か?
罰・・・悪行・・・他者への悪行を司る
『強奪の魔術師・イブリス』。
いや、そもそもの魔獣王を生み出した、人の欲望を司る
『飢餓の魔術師・グリード』。
そして村を、俺の親父を襲ってきた張本人・・・
『夢を喰らう者・伯奇』。
そいつらは俺に何をさせたい。
本当に俺でなきゃならないのか。
俺は・・・何を恨めばいい。
恨めば親父が帰ってくるのか。
憎めば俺の心は平和になるのか。
死ねば・・・楽になれるのか
あの時のように。
「アルベル!!」
俯いた俺の正面から俺を呼ぶ声が聞こえた。
母さんの声だ。
「どうしたの?無事だった?怪我は無い?」
俺は答えられなかった。
声が口から出ることを拒んでいるようだった。
「お父さんは・・・一緒じゃないの?」
俺はその時、頬になにか伝う感触を感じた。
熱いものが内側から込み上げてきた。
「お母さん・・・お父さんが・・・」
俺は嗚咽混じりで必死に喋ろうとした。何度も何度も言葉を詰まらせながら。
「俺は・・・俺には・・・何も・・・出来ないっ!!」
俺は自分の無力さを更に嘆いた。
するといきなり母さんが俺を優しく包み込んでくれた。
エルフ特有の長い耳が目の前に引き寄せられ、優しく甘い匂いが俺を包んだ。
「大丈夫・・・大丈夫・・・お母さんがついてるからね・・・。」
そして俺はそこで初めて声を上げて泣いた。
目から涙が止まらなかった。
父の喪失感。
村を焼かれた悲しみ。
自分への怒り。
冷静になろうとその場の状況を深く考え、理解しようとすればするほど再び涙が溢れてきてしまった。
「うぅ・・・父さん・・・。」
俺の意識はそこで途絶えた。
翌朝ー
泣き疲れてそのまま寝てしまった俺はしばらくして落ち着いたあと、父親の遺品が無いか村周辺を散策することにした。
「確か本によればワープってその人の魔力量に比例して選択できる範囲が決まるんだったよな。」
父、ヴェルゴはそこまで魔力に特化したステータスではなかったため、村を中心とした半径数キロ圏内にはいるだろうと予測した。
散策を初めて3時間が経過した頃だった。
徐々に焼け跡らしきものが発見されることが増えてきた。
「ここら辺か・・・。」
俺は焼け跡を辿っていくことにした。
これがあの時の焼け跡なのか、それとも現在進行形で伯奇が燃やしているのかは分からなかったが、行く他道はなかった。
焼け跡の通りに茂みをかき分けていくとそこには人が一人、倒れているようだった。
「親父っ・・・!?」
俺はすぐさま駆け寄った。
枝で素肌は切り傷だらけ泥だらけだったが今は何も気にならなかった。
そこに倒れていたのは身体中丸焦げのー
俺の父親だった
分かっていた。
あの状況ではもう助からないのはわかっていた。
しかし最期を知らない俺達にはまだ信じることが出来た。
だが現実は非情だった。
親父の周辺には無惨にも切り刻まれた腸と食いちぎられたような痕がある両足。
それと伯奇との戦闘で使っていた片手剣だけだった。
「この剣・・・親父のにしては小さいし短いような・・・。」
俺が剣に触れると頭痛が起こった。
なんだこれ・・・!
すると目の前には父親、ヴェルゴがいた。
「ようアルベル。お前がこの声を聞いてる時ァ多分俺ァ死んでる。お前がこの剣に触れた瞬間俺の音声が流れるように戦闘中に仕込んだ。俺のスキル創造があればこんな事も御茶の子さいさいってもんだ!」
この喋り方は間違いなく親父そのものだった。
「んーまぁ。心の優しいお前のことだから俺が死んだことを辛く思ってくれてるとは思う。だけどそれを理由にフォルゲルとソーニャには当たらないでやってくれな。死んだのは弱かった俺の落ち度だ。」
俺が優しいだって・・・?
自分に優しく他人に厳しいの間違いだろ・・・。
それに親父はそんなことはねぇ、弱かったのは俺の方だ。何も出来ねぇのを心のどこかで年齢のせいにしてやがる・・・。
「それとよ・・・剣を教えるって約束守れそうになくて悪いな・・・。その代わりと言っちゃなんだが、この剣はお前にやる。元々こんな日が来るんじゃないかって思って作ってたんだ。いやー自分の子供に剣を教えるの夢だったんだよなぁー。」
その時俺は思った。
俺の夢だったことは親父にとっても夢だったんだ。
こんなどうしようもなく意気地もないこんな俺の夢が立派で尊敬できる親父の夢と同じだなんて。
「あとは・・・まぁ最後にこれだけ。頑張れよ俺の愛息子。」
そう言うと俺の目の前から幻の親父は消えていた。
俺はその場で泣きそうになってしまった。
しかし涙をこらえた。
そして俺は決意した。
母さんを護るために、父さんの仇を取るために・・・
俺はこの剣と強くなって伯奇を討つ・・・!
それが親父の意思なのか、それが手向けになるのか、それは俺には分からなかったが、これは親父のためだけでは無い。俺自身のケジメとしてそう決めた。
何日、何週間、何ヶ月、はたまた何年後になるかは分からないが俺はその時のために今日の涙を取っておくことにした。
それが今の俺に出来る親父への誠心誠意の『ありがとう』だった。
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