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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
メリリーシャの街
96/218

あなたを大切にします

今日のあすなろ荘は少し違った。

部屋にいっぱいのみんなで手作りした装飾が飾ってある。

そこには大きく手書きで「アイリス姉さん誕生日おめでとう」と書かれてある。

「乾杯!」

合図の後、みんなでジュースを一斉に飲んだ。

「姉さん、誕生日おめでとう!」

「ありがとう、皆!」

アイリスが嬉しそうに微笑む。

「私アイリス姉さんの似顔絵描いたよ!」

「僕はお菓子を買ってきた!」

「私はお人形さん作ったよ!」

「わー!ありがとう!どれも素敵なモノばかり!!」

チョコからもプレゼントを渡す。

「僕からはエプロン!」

照れながら渡すチョコから受け取り、アイリスが喜ぶ。

「姉さんに似合うかなって思って!」

「ありがとう、チョコ!大切に使うわね!」

そして皆がパームを見る。

「パームは?」

「もう皆渡したよ?」

「あとはパームだけだよ?」

みんなに言われてパームが顔を赤くしながらそっぽを向く。

「いいのいいの!祝ってくれるだけでも十分嬉しいわ!」

そう言うとパームが近づいて手を出した。

「ん!」と無愛想に差し出された手の中にはリップクリームがあった。

アイリスが両手で大事そうに受け取り、パームにお礼を言う。

「ありがとう、パーム!すっごく嬉しい!」

パームは照れて顔を真っ赤にしていた。


その後あすなろ荘のみんなで沢山食べ、沢山遊んだ。

夕方頃には疲れた子どもたちがみんな床で寝ていた。

真っ赤な夕陽が子どもたちの無垢な寝顔を照らす。

年長者のチョコとアイリスの2人で片付けをしていた。

チョコが台所に食器を運び、アイリスが洗っているとチャイムが鳴る。

「はーい!僕出るよ!」

「ありがとう!」

チョコがドアを開けて出たが誰もいない。

「あれ?」とつぶやきキョロキョロと辺りを見渡す。

「チョコ、どなた?」

不思議に思ったアイリスも出てきた。

「それが誰もいないんだ」

チョコが見渡すと、足元に花が置いてある。

「お花だ!」

拾い上げ、振り返って見せた。

「姉さん、お花だよ!誰かからのプレゼントみたい!」

チョコの持つ花を見てアイリスに戦慄が走った。

「ハナ・・・ズオウ」

「え?何?」

チョコの背後から銃口の反射が光る。

「チョコ危ない!!」

チョコを突き飛ばした途端、アイリスが胸を撃たれた。

「姉さん!・・・姉さん!!」

すると、チョコの頭をかすめて弾がもう一発飛んできた。

チョコはアイリスを引きずって中に入れ、ドアを閉めた。

心臓は外したようだがアイリスの血が止めどなく溢れ出る。

「あぁ・・・姉さん、しっかりして!姉さん!!」

チョコが泣きながらアイリスに呼びかけ、傷口を押さえていると弱々しく目を覚ました。

「チョコ・・・」

「姉さん!!」

チョコが慌てて忙しなく首を左右に振ってキョロキョロと周りを見る。

「病院!すぐに病院に行こう!!」

アイリスがチョコの手を握る。

「このままでいい・・・側にいて・・・」

「でもこのままじゃ死んじゃうよぉ!!」

「お願い・・・」と再度言われ、チョコも黙った。

アイリスが花を見る。

「ハナズオウ・・・花言葉は・・・裏切りのもたらす死」

「・・・裏切りって?」

「・・・あすなろ荘はね、魔王と敵対する科学の世界の組織が運営する施設なの。組織は・・・魔王によって孤児にされた幼い私を拾って、チョコくらいの時にここの施設を任せたわ・・・」

「組織が・・・」

不安気なチョコに微笑む。

「ここね、魔王が滅ぼしたある一族の生き残りを隠しているの。戦闘に優れた一族。・・・その子がね、有名になりすぎちゃったの・・・」

困ったように笑う。

「だって・・・沢山コロシアムで優勝しちゃうんだもん」

「え・・・それって・・・」

弱っていくが、がんばって笑顔を見せて話すアイリスにチョコが動揺する。

「・・・魔王軍に対抗する戦闘員として、使えそうになったチョコを見て、組織が近々迎えに来るって言ってた・・・。チョコに人殺しなんてさせたくなくて・・・その前にここを皆でこっそりと抜け出そうと考えていたら・・・四天王の葵さんが来たの。私達を、保護してくれるって・・・。それがバレたみたい。魔王軍に・・・他の組織に取られるくらいなら、始末しようとしてるのよ・・・ここの皆も」

アイリスが苦しそうに呼吸をする。

「チョコ・・・コロシアムで有名になって、親に迎えに来てもらうって・・・言ってたわね・・・」

話の内容に言葉が詰まるチョコは唇を噛み締める。

「あなたのこと・・・全部・・・黙っててごめんなさい・・・」

「姉さん・・・何で今まで逃げなかったの?皆がいるから?」

チョコの涙がアイリスの頬を伝う。

「それもあるけど・・・組織からは逃げられないわ・・・。絶対に見つけられて、殺される・・・。本当は皆の仇だけど・・・組織より大きな勢力の魔王軍が保護の話を持って来た時、安心したの・・・。だけど、ウチの組織の対策の方が早かったみたい・・・」

アイリスは手を伸ばしてチョコの頬を触った。

その手が冷たい。

チョコは温めてあげるように包んで握り返した。

「時間が無いわ。皆を連れて逃げて・・・」

「嫌だ・・・姉さん!」

アイリスが軽く笑う。

「チョコ・・・悪い子。言う事聞きなさい。皆を・・・守ってあげて。・・・お兄さんでしょ?」

アイリスの手がどんどん冷たくなっていく。

「・・・姉さん!」

「もうすぐ組織があすなろを襲いに来るわ。私を置いて・・・行きなさい」

「嫌だ・・・姉さん。嘘って言ってよ!」

アイリスの手がチョコから離れて落ちていく。

チョコは抱きしめた。

もうすでにアイリスは動かなくなっていた。

チョコは顔を上げ、真っ直ぐ扉の向こうを睨みつける。

「姉さん・・・僕は逃げないよ。僕がみんなを守る!!」

チョコはブラックサレナの衣装を纏い立ち向かう決意をした。


玄関から組織の者が銃を構えてドアを合鍵で開けると、面を着けていないブラックサレナが立っていた。

唖然としているとブラックサレナが口を開いた。

「姉さんはずっと自分を楯にして守ってくれていた。今日のことだってそうだ」

組織の隊員たちは黙って銃口を向けているが冷静に続ける。

「僕は最後まで守られていたよ、姉さんに・・・」

銃口がゆっくりと眉間を狙う。

「これは姉さんの弔い合戦だ」

ブラックサレナは面を被った。

正面の敵を一歩踏み込み素早くアッパーで飛ばす。

その隣の敵を間髪入れず左フックで蹴ちらした。

後ろに控えていた3人が銃を撃つが、殴った敵を盾にされ当たらない。

盾に使った敵を投げ付け2人を倒す。

最後の1人が銃を撃つも乱射をしたためもう弾が無い。

充填する間にブラックサレナが目の前に立っていた。

ボディブローをくらわされ、倒れる。

近くに停まっていたワンボックスカーから発砲音が聞こえたと思ったら、弾が腹に当たった。

初めてくらった銃の弾丸の威力を噛み締める。

しかし、チョコは1つ大きく息を吸うと走って近づき、ドアをこじ開けると震えて怯えながら銃を構えていた。

「ひっ!!」とブラックサレナの迫力に小さく悲鳴を漏らす。

「怖い?姉さんはずっと君らに怯えてたんだよ。何年も何年も、僕らを抱えて」

言い終わるとブラックサレナは相手の顔面に拳を叩きつけた。


ホテルにいたアスタの部屋の電話が鳴り響く。

「はい」

電話に出ると給仕からだった。

「チョコレート・リリー様からお電話でございます。今お繋げいたします」

少しすると回線が変わった。

「チョコどうした?」

「すぐにあすなろに来て。シャロンとキャメリアも一緒に。お願い」

それだけ言うとすぐに電話が切れた。

いつもと違う雰囲気のチョコに嫌な予感がし、2人を連れてあすなろ荘へと急ぐ。

到着するとピアノを演奏する音が聞こえてきた。

そして、あすなろの様子が明らかにおかしい。

やけに静かで、近くに不審車がある。

「これ何?」とシャロンが聞く。

「車ってやつじゃないかしら?都会にはあるのね・・・」

アスタが駆け寄ってあすなろ荘のドアを少し引くと鍵は開いていた。

中に入ると真ん中にソファーが置かれたプレイルームでチョコがピアノを弾いていた。

「チョコ・・・」

ソファーにはアイリスがこちらに背を向けて座っている。

演奏を3人で終わるまで聞いた。

演奏が終わるとチョコが手を鍵盤から離した。

「シューマン、子供の情景第7曲トロイメライ」

チョコがようやく振り返る。

「姉さんが好きだった曲。よく教えてもらったの」

「チョコ、その怪我どうしたんだ!?」

チョコがアイリスに近寄る。

「姉さん、今までありがとう。いつまでも愛してるよ」

頬にキスをする。

3人が前に回って見ると、アイリスの胸から大量の血が流れていたが、安らかな顔をしていた。

「アイリス・・・さん?」

「急に呼び出してごめんね。とりあえず・・・大使さん達の協力が必要なの。呼んでもらえるかな?」

チョコがアイリスの膝に寄りかかる。

「僕・・・少し寝るね」

「おい!チョコ!しっかり・・・」

次第にアスタの声も聞こえなくなった。


チョコは夢を見ていた。

大好きなアイリスと一緒にピアノを弾く。

「チョコ、そこ違うわよ!」

「あ・・・また間違えちゃった!」

照れ臭そうに笑っていると何故か涙が溢れてきた。

「あ、あれ?なんか止まらないや・・・あれ?おかしいな・・・」

「もう、チョコったら泣き虫ね!」

そう言ってアイリスが涙をハンカチで拭いてくれる。

「僕、姉さんとピアノ弾くの大好きなんだ!」

「そう、じゃあこれからはたくさんの人に聞かせてあげてね!」

「僕は姉さんに一番聞いて欲しいんだよ!それからここの子ども達!!」

困った様に笑ったあと、額にキスをしてくれた。

「私はいつでもチョコのピアノを聴いてるわ」

「姉さん、これからも教えてくれるよね?僕、まだまだ間違えちゃうから・・・」

「トロイメライ、上手になったわね。これからもたくさんピアノを弾いてね」

アイリスの言葉で何か強い思いが溢れ出てきそうになるのを必死に押さえ込む。

「チョコは才能があるのかもしれないけど、それだけが才能じゃないわ。ピアノだって、十分傷ついた私の心を癒してくれた。私はこの時のためにチョコにピアノを教えたのかもしれない・・・」

アイリスがチョコの右手を両手で包み込み顔に当てた。

その時になってようやくアイリスが死んだことを思い出した。

「姉さん・・・姉さん・・・嫌だよ・・・僕、これからどうしたら・・・」

「チョコにはきっと一族の使命があるわ。ちゃんとチョコの使命を果たすのに協力してくれる仲間もいる。あなたは強いけど、優しい。その優しさと強さで仲間を守ってあげて」

「そんな人いないよ!!僕はここでみんなと・・・アイリス姉さんといたいんだ!!今度は僕が守るよ!!僕が・・・守るから・・・」

涙が次から次へと流れ落ちる。

わかっている。

今度なんてない。

最愛のアイリスは亡くなったのだ。

「チョコ・・・いつまでも愛してるわよ」

そう言って頬にキスをしてくれた。

チョコは大きな声を出してアイリスに抱きついて泣き崩れた。

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