葵の出発
アスタ達がシャロンに起され、朝市に引っ張り出された。
ホテルのロビーまで出ていくと早朝だというのに葵が既にいた。
「おはよう!葵さん!」
「おはよう、早いな。朝市か?」
まどろむアスタ達をよそにシャロンが元気に答える。
「うん!葵さんも一緒にどう?」
「悪いが俺は急用で今から街を出ることになったんだ」
全員が目を丸くし、一気に目が覚める。
「そんな!俺らの滞在費は!?」
「一番目に言うな!そんなこと!」
呆れながらも答える。
「ちゃんと俺の口座から引かれるようにしてあるから安心しろ!」
「でも遊ぶお金無いよね」
困ったように言うシャロンに睨みつける。
「知らん!寝泊まりできて、二食ついてるんだ!ありがたいと思え!」
「わかったわ。じゃあせめて今からの朝市代だけでもちょうだい!」
手を出すキャメリアに背を向ける。
「何でだよ!自分らで払え寄生虫ども!」
「そんな!」「酷い!」「鬼!悪魔!」
「うるさい!何とでも言え!!」
葵は早朝の街へと出ていった。
「本当に行っちゃった・・・」
葵がホテルを出て向かったのはチョコがいる児童養護施設のあすなろ荘だった。
扉をノックするとアイリスが出てきた。
葵を見て驚く。
「あなたは!四天王の葵・・・さん」
「初めまして。ご存知でしたか」
「もちろん。今やどこの組織でも四天王の顔を知らない者はいません」
「そうですか。有名になったもので」
アイリスが睨む。
「四天王がしがない施設に何のご用?」
「組織が運営しているのにしがないとは、とても謙虚なものですね」
葵が声をひそめ、黙るアイリスの耳元で囁く。
「我が魔王軍があなた方を保護します」
意表をつかれたかのように目を丸くして葵を見上げた。
「近々チョコレート・リリーをあなたのところの組織が引き取りに来るらしいですね。コロシアムで戦果を上げた彼を本格的に組織の人間として育てるのでしょう」
「何故それを・・・」
葵が怪しく笑う。
「我々の諜報力をナメないでいただきたい」
不安気ではあるが、しっかりと葵を見据える。
「あなた達の目的は?」
力強く睨むアイリスの瞳には意志の強さを感じさせる。
その目は例え格上の相手である葵だとしても刺し違える覚悟はあると物語っているようだ。
「あなた達もウチの組織と同じようにチョコに人殺しをさせる気でしょ?あの子はとても優しい子なの!」
隠し持っていたナイフを葵に突きつけた。
「チョコの手を汚させたり、他の子ども達に危害を加えるつもりだったら、私が今ここで刺し違えてでも守る!!」
興奮するアイリスに対し、葵が声をひそめる。
「あなたの組織はチョコを迎えに来ると同時に不必要なカモフラージュ用の子ども達やあなたを始末するつもりだ」
驚きのあまり、ナイフを落としてしまった。
さっきまで気丈に振舞っていたが、一気に恐怖が姿を現す。
動揺のあまり手足も口元までもが震えていた。
「もう一度言う。俺はあなた達を保護する為に来た」
「・・・本・・・当?」
涙を流して葵にすがる。
「本当に助けてくれるの?私達、みんな?」
優しく震える手を握った。
「こちらの準備が整い次第、別の者が迎えに来る。きっと来週くらいになるだろう」
それだけ言うと葵は去った。
「新しい依頼だ、パルフェ!」
昼頃、きしめんがパルフェを訪ねた。
パルフェはいつもと違うきしめんを頭からつま先までまじまじと見る。
「何その格好?」
「スーツだ」
なんときしめんはスーツを着ていた。
足元は革靴、首元にはネクタイまでしっかり締めてある。
「きしめん用のスーツ?よくそんなサイズあったわね」
「ちゃんと採寸して仕立てた。そんなことはどうでもいい!依頼の内容を言う!」
珍しい物でも見たかのような口ぶりのパルフェに若干怒りを露わにしながら話を戻す。
「俺とパルフェでこの街を調査する。目的は例のプルチネッラや、以前葵が言っていた科学の組織の者の発言などに該当する人物を探し、捕獲すること。場合によっては殺す許可も下りている!」
「で、何であんたはスーツなの?私はこのままでいいの?」
「今日はこの街全体をパーティー会場に見立てた祭があるんだよ。それの参加者に扮するから、お前の格好は丁度いい。それと、俺は見ての通りスーツだから、武器はハンマーではなく、折りたたみ可能な警棒だ」
きしめんがスーツのパンツのポケットから取り出して見せる。
「また祭?昨日も仮面祭があったじゃない!」
「後夜祭といったところだな。金持ち共は何を考えているのかわからん」
「本当ね。近隣にもスラム街はあるし、お金が無くて困ってる人たちは沢山いるというのに、お気楽なものね」
「満たされた者は足りてない者の苦労なんてわからないんだよ。金がないことに困ったことないから、悩んでること自体わからないものだ」
しかめるパルフェをきしめんは腕組みをして見ていた。
「ところで、何で葵じゃなくてあんたなの?絶対葵との方が違和感無いし、目立たないでしょ!きしめん体格デカいし!!」
「サングラスをかけたら護衛っぽくなるだろ?お前の護衛役だよ」
スーツの内ポケットに入れていたサングラスをかける。
「確かに、凄腕の護衛って感じする」
「それに、葵なら今朝一番に用事とかで街を出ていったぞ」
パルフェが反応する。
「葵がこの街を離れたの!?」
『しまった!!』
思わず口元を押さえた。
『こいつ、重度のストーカーだった!!』
葵が出て行く前にきしめんにその旨を伝えに来た際、最後に釘を刺した。
「いいか、絶対に俺がこの街を出ることはパルフェには言うなよ!」
「言わないけど・・・あいつの千里眼で夜にはバレるだろ?」
「たしかに千里眼の使用条件はパルフェが姿を見た者ならどこでも見られる。だが、その能力で見えるのは一視点から見える範囲でしかない。いくら諜報部でも土地勘が無ければすぐには場所はバレない。仮にバレたとしても、タイムラグがあれば俺は移動できる!それが1日あれば充分だ!!」
『こいつ、毎日そんなこと考えながら生きてんのか』
さすがに嫌いな相手でも不憫さを覚えた。
『葵!すまん!口が滑った!!このストーカーにバレた!!』
しかしパルフェは背を向けた。
「今すぐ追いかけたいところだけど、仕事が先ね!きしめん、ちゃっちゃと済ますわよ!」
「え?」
意外な言葉に拍子抜けする。
「公私混合はよくないでしょ!さっさと済ませればいいだけだし!行くわよ!」
きしめんは内心ホッとした。
『葵との口約束とはいえ、仲間の約束を破ったんだ。できるだけこいつを引き止めておくよ、葵!!』
こうしてきしめんとパルフェは街中を人探しの任務のため、共に行動することとなった。
街にはそれなりに人が多かった。
パルフェの少し後ろを歩くきしめんが街路樹の下で泣いてる少女を見つけた。
サングラスを取って少女に近寄る。
「どうした?迷子か?」
上を指しがら泣くので、見上げると風船が木に引っかかっていた。
「なんだ、風船か」
少し背伸びをして取ってあげる。
「ほらよ。もう泣くなよ」
「ありがとう!おじちゃん!」
おじちゃん発言に苦笑いをした。
「誰がおじちゃんだ・・・。まだ若いっての」
「おじちゃん、お祭の人?」
「お兄さんは違うよ」
負けじと訂正する。
少年は小首を傾げた。
「じゃあ、おじちゃんは何の人?」
その問いかけに少し考えてから笑いかける。
「お兄さんは・・・正義のヒーローだ!」
聞いた途端、少女は笑顔になった。
「すごい!ヒーロー初めて見た!でもいつもTVで見てるのとは違うんだね。もっと細くてイケメンだもん。メリリーシャのヒーローは違うんだね・・・」
「お嬢ちゃん、ヒーローにも心はあるんだよ?それ以上喋ると心が砕けるからやめてもらっていいかな?」
きしめんのメンタルメーターが底に落ちきっていた。
ため息を吐いて背を向ける。
「じゃ、俺も仕事があるから行くよ」
「人助けするの?」
「おう、人助けってよりは悪者退治だな!」
振り返り笑顔で答えると、少女がバックを漁って手を差し出した。
「おじちゃん!これあげる!悪者退治がんばって!!」
少女から飴が沢山入った袋を受け取る。
「おう!ありがとな。がんばるよ。あとお兄さんな!」
それをポケットに詰め込んで去った。
女の子と別れてパルフェの元に戻ると仁王立ちで怒っていた。
「どこ行ってたの?」
「ちょっとな」
「何なのよ、まったく!」
「ほら、飴やるから機嫌直せよ!」
「いらないわよ!てか、何その飴袋?」
「ちょっとな」
「何それ?ま、いいわ。行くわよ!」
パルフェが不機嫌に歩き出す。
「大通りは一通り歩いたわ。路地も見ましょう」
「そうだな」
そして、路地を歩いていた2人の足を思わず止める人物が現れた。
「あ!」
2人の目の前をまさにアスタが横切ろうとしていた。
アスタも目が合い、「あ」と立ち止まる。
「アスタ!!」と2人が大きな声で叫んだ。
「やべ!」




