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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
メリリーシャの街
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情報提供

プルチネッラの仮面と黒いフードを被った人物を取り逃がした翌日、葵は街の図書館で置き土産の蛾を横に図鑑を広げていた。

「メンガタスズメ。こいつか」

葵は透明のケースに入った蛾をよく観察した。

「背中の不気味な模様が人面やドクロに見えることからメンガタと呼ばれる。悪趣味な虫だ」

図鑑を閉じて図書館を出ていった。

そして向かった先は仲間のいる遠征拠点。

そこには四天王のパルフェときしめんがすでにいた。

「何だ、葵。俺らを呼びつけて」

「何かあったの?」

「そうめんはいないのか?」

見渡すが見当たらない。

「あいつは今朝魔王様に言われてペッパー砂漠へと向かったわ!」

「そうか。それならここにいる者だけに、昨日俺が体験したことを伝える」

葵が蛾の死体と地面に貼られていたシールと小瓶を机に置いた。

「何?これ?」「蛾?」と2人が顔を近寄せて覗く。

「昨日の晩、例のフードに会った」

2人共目を丸くして顔を上げた。

「フード!?コロシアムの時に俺の膝を撃ったあいつか!!」

「恐らく間違いないだろう。しかし、残念ながら昨日は逃してしまった」

「それで、昨日はそいつと出会って戦ったの?」

「いや、あいつは逃げるだけだったよ。魔法による特殊能力の有無はわからない。とても、用意周到な奴だった」

葵が小瓶を見る。

「あいつは昨日、素顔を晒さぬよう仮面を付けたまま俺の前に現れた。それは、ここ数日この街で仮面祭りが行われていることを知っていての行動だった。さらに、逃走時にはこのノーティーエッグズを使って壁の向こうへと逃げていった。ノーティーエッグズは知っての通り、アスタ達がよく使ってるこの街で売られているおもちゃだ」

パルフェが小瓶を手にとって見る。

「皮肉ね。子どものおもちゃで。しかも、それをわざわざ置いて行って・・・」

きしめんも腹を立てて舌打ちする。

「俺らをバカにしているかのような態度にこのシールのイラスト、まるでプルチネッラだな!」

パルフェが瓶を置いてきしめんを見る。

「プルチネッラって、風刺劇に出てくるあの道化師?」

「そうだ!俺らを嘲笑うような態度、劇中で市民の代表として政治を批判した、仮面を被った道化師そのものだ!!少数派のヒーローにでもなったつもりかよ!!」

葵が蛾のケースを持ち上げる。

「きしめんの言う通りかもしれない。実際にあいつはプルチネッラの仮面をつけている。それに、この蛾も置いていったんだ」

パルフェがしかめる。

「それにしても気持ち悪い柄の蛾ね」

「その蛾、どこかで見たことあるな・・・」

「これはメンガタスズメと言う蛾で、背中にあるドクロに見える模様から不吉の象徴される虫だ」

きしめんがまじまじと見る。

「たしかにドクロだ。不気味だな・・・」

「更に言うと、メンガタスズメはハチミツ農園からはハチミツ泥棒として嫌われている。強靭な口吻で巣盤に穴をあけてミツを吸うらしい」

「何それ?私達を甘いものだけ吸う蜜泥棒扱いしてるの?」

「または忌み嫌われていることの暗示かもしれない」

「いずれにせよ、不愉快ね」

不機嫌そうな顔をしてパルフェが腕を組んだ。

「今回、俺らを暗示したこの虫の死体をわざと置いていったということは、なんらかのメッセージだろう」

「メッセージだと?」

きしめんが訝る。

「不吉、不幸、死の象徴である虫の死。この虫が象徴しているのはあいつにとって魔王軍を指す。その象徴の死、つまりは魔王軍の崩壊だ」

葵の推察に一気に緊張感が走った。

「魔王軍の・・・崩壊?」

「そんなことありえるか!!これはただの愉快犯だ!!魔王軍が崩壊などありえん!!」

きしめんが怒って机を拳で叩く。

「そ、そうよね!きしめんの言う通り、ありえないことよ!しかも、そんな一市民が・・・ね、葵!考えすぎなんじゃない?」

パルフェの言葉に対し黙って考えていた。

「そうだ!真に受けることはない!バカバカしい!!」

パルフェはきしめんの言葉に見るからに安心する。

「考えすぎ。それならいいがな・・・」

そう言うと2人に向き直った。

「だが、ウエストポートで闇組織の発言の件もある!一概に今回のことを軽視できない、ということだ!!」

葵が立ち上がった。

「なんにせよ、このプルチネッラは今後何かしらの行動を起こしてくるかもしれない。そうめんにもこの事を伝え、俺達も警戒を強化しよう!」


葵は遠征拠点を出た後、アスタの元へと訪れた。

「アスタ、このおもちゃに見覚えはあるか?」

「ノーティーエッグズの【通り抜け薬】?知ってるよ。その辺で売ってるし」

葵から受け取った小瓶を返す。

「よく売ってるものなのか?それとも、限定的な店や地区だけとかじゃなく?」

「うん。これはよくあるやつ」

「そうか・・・やっぱり特定できないようにしてるのか」

顎に手を当てて改めて小瓶を見ながら呟く葵にアスタは思い出したように言った。

「あ!思い出した!葵に言おうと思ってて忘れてたことがあるんだ!」

「何だ?」

「この前・・・」と言いかけて少し思い止まる。

『機関銃のことは言いたくないな』

「この前何だ?」と再度葵が聞く。

「仮面祭りの本番じゃなくて前の日なんだけどさ、変な兄弟に絡まれたんだ」

「変な兄弟?今はどうでもいい情報は・・・」

困ったように眉を歪める葵を手で制する。

「違うんだ!いつものシャロンのしょうもないタレコミとは違うんだよ!」


「葵さん!葵さん!大変!!大ニュースだよ!!」

「どうした?」

「東通りの大きな公園で密会があったの!!」

「何?一体何の密会なんだ!」

「ずーっと怪しんでた奴がいて、ここ数日張り込んでやっと掴んだの!!」

「それで、何の組織なんだ?」

「ふふふ・・・R-510付近の茶トラ猫さん達の猫集会!!」

葵の目から光が失われた。


葵はシャロンとのやり取りを思い出して眉間にシワを寄せる。

「俺が会ったのは科学の世界の奴だ。しかもウェストポートで会った奴と同じような奴だと思う」

葵の目が鋭くアスタを捉えた。

「科学の世界だと?何故同じだと言える?」

「・・・同じ武器を持ってた。あの黒くて珍しいやつ」

それを聞き前のめりになる。

「銃を持ってたのか!?」

「ああ、だけど同じ組織かはわからない」

「他に何か情報は無いか?特徴とか!」

「うーん・・・あの、何て言うの?かしこまった服。外交官とかが着るような」

そう言ってアスタがジャケットを羽織る仕草をする。

「スーツか?」

「そう!それ!あと葵くらいの長さの茶髪でサングラスかけてた」

「うーん・・・そんな特徴なんていくらでもいるからな。ところで、どこで会ったんだ?」

「えーと、中央付近のお菓子屋さん!木の下でクッキー食べてたら人違いで声かけられたんだよ。たしか・・・プチ・・・ネッラ?だったかな?」

「プルチネッラか!?」とつい大きな声を出してしまった。

「え?あ、そうそう!そんな名前!!なんか武器の取引か何か言ってたよ。かなり頭の悪い兄弟だったからペラペラ喋ってた」

「他には何か言ってなかったか?そのプルチネッラについて!」

アスタの肩を掴んで聞く必死な姿に少し驚く。

「あ、いや・・・実はそいつらも代理でプルチネッラのことを知らないっぽいんだ。電話でベットって奴と連絡取ってたよ」

「ベット?・・・そうか。わかった、ありがとう。これは謝礼だ。みんなで美味しい物でも食べろ」

アスタはお金を受け取った。

「え!?こんなにもいいの!?」と目を丸くする。

「ああ、またプルチネッラか科学の世界の組織の情報をくれたら同じくらいやるよ」

「マジかよ・・・わかった!みんなにも言っとく!!」

葵とアスタはすぐにそれぞれの仲間に話した。


シャロンは翌日葵の元に茶トラの猫を連れてきた。

「葵さん!葵さん!この子、餌をよくあげてる人からプルちゃんって呼ばれてた!プルチネッラかもしれないよ!!」

「シャロン、お前はもう俺に情報をよこさなくていい」

葵の目から再び光が失われたことは言うまでもない。

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