外部試験的実践
魔王軍メリリーシャの拠点では上機嫌なパルフェが葵ときしめんの前に現れた。
「葵!頼まれてた情報よ!!」
「さすが諜報部隊長だな!仕事が早い!」
資料を受け取り中身を確認するときしめんも横から覗く。
「何の情報だ?」
「ブラックサレナと、あすなろ荘についてよ。あそこ、なかなか面白い施設じゃない!」
葵が資料を片付ける。
「こいつはありがとう。それで?そんなにご機嫌なのは?」
「ふふん♪実は・・・」
パルフェの後ろから真っ白い人形が入ってきた。
身長はパルフェくらいの大きさで、横幅は鍛えた成人男性より一回り大きく、顔はのっぺらぼうだ。
「ウチの開発部が作っていた兵器の新作が出来たの!」
葵ときしめんが近寄り観察する。
「真っ白だな。人の形をしてるが大雑把で人らしくもない。それに大きいから潜入向けではないな」
「素材は何で出来ているんだ?この見た目といい、臭いといいまるでデカい消しゴムだな」
きしめんが軽く拳で叩くと思いっきり殴り返された。
勢いよくきしめんが飛ぶ。
「正解!これゴムで出来てんの!だから名前はゴムゴーレム!!」
殴られた頬を押さえて立ち上がる。
「こンのヤロッ!!」
ボディーに全力で殴りかかるが、感触に違和感がある。
「おかしい!俺は確かに殴ったはずなのに全くダメージを与えた感触がない!!」
葵も驚いていた。
「きしめんの全力の拳を受けても立っていられるのか!?普通の人間ならバラバラになってもおかしくない威力なんだぞ!!」
「ゴムの柔軟性を活かして物理への耐久性を上げたのよ!鉄や石で出来ていたのならきしめんの拳で木っ端微塵だったでしょうけど、ゴムの柔軟性をもって衝撃を逃すの!」
きしめんも感心する。
「なるほどな。物理の耐久性は完璧だな。それに感情が無いから殺気も感じない。殴られる瞬間まで攻撃に気づけなかった」
葵が近づきいきなり切りつけた。
真っ二つになり倒れる。
「どれだけ打撲に強くとも、切ってしまえば流石に無理だろう」
サーベルを収めた途端、ゴムがみるみるうちに半分のサイズの人形に形成されて立ち上がった。
「切ったら増えるのか!?」
「これはすごい!!無敵なんじゃないか!?」
「そうでしょそうでしょ!!すごいでしょ!ウチの開発部隊は!!ピノキオの核から作ったのよ!何回も他の部下で試験したんだから!!」
葵ときしめんはパルフェを睨みつけた。
「お前か!俺の部下を何人もボコボコにしやがったのは!!」
「通りで最近部下達の怪我が多いと思ったよ!」
パルフェは苦笑いを向ける。
「あっは!ごめん、ごめん!組織の為だから許して〜!!」
そんなパルフェに2人がため息を吐く。
「まったく。しかしそのお陰でこれだけ強い兵器が出来たのは立派な功績だな」
「そうだな。それに、毎日怪我してたとはいえ、部下の成長もあったし良しとしよう」
パルフェがゴムの人形を触る。
「でも、これ切られたら1人では元の大きさに戻れないのよね。しかも、小さくなった時の威力は原型より当然のことながら劣るわ」
2人に視線を戻す。
「ゴムゴーレムは出来たとはいえまだ課題だらけの試作段階なの。ゴムの臭いだとか、形だとか、最終的な完成ではないわ。だけど、十分な威力と耐久性に加えて、自立した行動と聴覚による追尾、それとある程度の知能があるから、組織外部での実戦を試したいの・・・」
その言葉にきしめんがニヤリと笑った。
「それならいい相手を知ってるよ。しかも、そいつにはここにいる全員、何かしらの恨みがある奴だ!!」
「恨み?」
「そう!しかも今、丁度この街にいる!!」
そこでパルフェがピンと来た。
「ああ、なるほどね。確かにあいつなら丁度いいわ!色々と返さないといけない借りもあるし!!」
葵は答えなかったが興味はあった。
『恨みは確かに山ほどあるが、頭のキレるあいつがゴムゴーレムとどう戦うのかや、以前から言われているアスタの多種多様な謎の能力も気になるな。それと・・・』
考えているときしめんに「いいだろ、葵?」と聞かれた。
「ああ、俺もあいつがこのゴーレムとどう戦うのか興味がある。それと、最近あいつはチョコレート・リリー、つまりブラックサレナとよく行動を共にしている。あの2人が揃っている時に戦わせてみたい」
「そうね、グラディエーターとして有名なブラックサレナの実力も見てみたいわ。その2人とゴムゴーレムを戦わせてみましょう!!」
こうしてアスタの元に試験的に戦闘要員として送られることとなった。
アスタとチョコが街を歩いていたら、街中を行き交う人々がいつもより多かった。
「今日人多いし、街の雰囲気も違うな」
「今日は年に一度の仮面祭りだよ!露天やお店に売られている仮面をつけたり、ペイントしたりして、仮装しながら街を歩くんだ!!」
アスタが不可解な顔をする。
「あー、前からポスター貼ってたあれね。なんで仮面つけんの?顔わかんないじゃん」
「今日は身分に関係無く平等に楽しめるお祭りなんだ!だから顔は見えない方がいいってこと!でも、最近は仮面をつけずにペイントする人も多いんだ!」
アスタは興味無さそうにする。
「ふーん、なるほど。キャメリアとシャロンが朝から忙しそうにしてたよ」
「あの2人も出るんだ!きっと楽しめると思うよ!」
嬉しそうに言うチョコに質問する。
「チョコはしねーの?」
「僕は夕方から参加しようかと思ってるんだ!ちょうど、ブラックサレナのお面があるし!」
「それチョコってバレバレじゃん!意味無いだろ!」
「そうでもないよ!結構僕と同じ格好の人いるからさ!」
この前の自分を思い出す。
「へ、へぇ・・・たしかに売ってるもんね」
「アスタは・・・興味無さそうだね」
「俺はいいかな。めんどくさい」
ブラブラ歩いているとビストートと出会った。
「よ!ビストート!何してんの?」
「こんにちは!ビストート!」
ビストートが2人の声に振り向く。
「よお、いいとこに来たな!一緒に来いよ!良いもん見せてやる!!」
ビストートに連れられ倉庫がたくさん建ち並ぶ場所にやって来た。
数ある箱の中でビストートよりも背の高い箱の前で2人が目を丸くする。
「何これ?」
「瞬間冷凍機!科学の世界から買ったんだ!」
「へぇ、珍しいね!科学の世界の物なんてめったに買えないのに!!」
箱を開けると中から瞬間冷凍機が姿を現した。
「お客さんで科学の世界との貿易商がいてな、そこを通して奮発して買ったんだよ!」
ビストートが少年のようにウキウキとする。
「こいつがあれば料理の幅がぐっと広がるよ!!今まで魔法でじっくりしか冷やせなかったけど、こいつはスイッチ一つで瞬間冷凍をしてくれる!夢のような機械だろ!!」
アスタがドアを開けて中を覗く。
「全然冷たくないよ。本当に冷やせるの?」
「話聞け!スイッチ入れたらっつってんだろ!」
チョコが後ろを覗いた。
「電気繋いでないのに出来るの?科学の世界のは線でつないで電気がいるんだよね?」
「こっちの業者に頼んで、中で雷を操る妖精の力を借りられるように改造したんだ!配線だらけだとうっとうしいし、それに妖精の力借りた方がこっちじゃ便利だしな!」
アスタが一度ドアを閉め、チョコがスイッチを押す。
少し待ってから再び開けるとさっきとは比べ物にならないくらい冷えていた。
「ひゃー!こりゃ、驚きだな!」
「すごいや!」
「だろ?今日の昼にウチの店に届けてもらうんだ!今から料理仕込んどかないと!それじゃあな!」
ビストートが嬉しそうに店に帰っていった。
「普段口悪いけど、あんな表情するんだな、ビストートって」
「凄く嬉しそうだったね。なんか少年みたいなさ」
アスタが見渡す。
「そういえば、ここって何なの?めっちゃコンテナやら箱が多いけど・・・」
「ここは別の町や大陸から買った物を一時保管しておく場所だよ!買い手に行く前にここで預かって、それから配達されるんだ!」
「ほー、なるほどね。じゃあ、あのでっかいの何?」
アスタが近づき中を覗くと大きく太い刃が何本も噛み合わさって、まるで獲物を今か今かと待ち構えている怪物の口元のようだった。
「シュレッダーだね!きっとダンボールや不良品の処分をする専用のシュレッダーだよ!」
「へー。そんなんもここにあるんだな」
アスタがチョコに向く。
「チョコ、そろそろ行くか!昼飯の時間だ!」
「そうだね!」
2人で振り返ると背後に真っ白い人形が立っていた。




