合図
昼下がり、サンスベリアから出てきたパーティは大使達と別れ、街を散策していた。
ある店でシャロンが立ち止まり指差す。
「見て見て!仮面祭だって!楽しそう!!」
その先には仮面祭と書かれた色彩豊かな仮面を付けた人々の写真が載ったポスターが貼ってあった。
「へー、仮装して街を歩くんだ!いいわね!今度の週末じゃない!」
キャメリアも興味深そうに見る。
「ねえねえ!行こうよ!どうせ暇なんだし!」
「そうね!どうせ暇だし!アスタも出ない?」
キャメリアが振るとアスタはつまらなさそうにしていた。
「嫌だよ。面倒臭い」
シャロンが頬を膨らませる。
「いいもん!シャロンとキャメリアで楽しむから!」
「勝手にしろよ」
「ま、男の子はあまり興味ないかもね」
シャロンがポスターの貼ってある店を覗く。
「ここ、仮装の道具とか売ってるよ!」
「本当だ!少し見ましょうよ!」
2人がキャッキャとはしゃぎながら店を見ている姿を暇そうにアスタが眺めていた。
「あ!ブラックサレナの仮面と衣装だ!」
「アスタ似合うかもよ!」
「何でチョコと同じ格好しなきゃなんねんだよ!」
しかし、お構い無しに仮面を付ける。
「わあ!似合う似合う!」
「ほら、フードも!」
その姿を鏡で見た。
「これ誰でもいいやんけ!!」
女子達が笑いながら店を後にした。
「ねえねえ、もっと他にも仮装のお店見てみようよ!」
「そうね!」
「俺パス」と言い捨て、アスタが背中を向けて歩き出した。
「えー!アスタも行こうよー!」
「いいんじゃない?アスタはお祭、興味無さそうだし。付き合わせちゃ悪いわよ!」
キャメリアの言葉にシャロンが納得して切り替える。
「そっか!じゃあ女子同士、楽しみますか!」
「そうしましょう!」
2人は楽しそうにアスタと反対方向を向いて歩いて行った。
アスタはというと、2人が去ったことを確認すると、さっきの店に戻った。
「祭を否定した後だったから言いにくかったけど、ブラックサレナの衣装・・・かっこいい〜!!」
ブラックサレナの衣装を手に取り、目を輝かせる。
「フードと仮面ってのが謎めいてていいよな〜!」
所詮アスタも10代、アイデンティティを探し求めるいわば厨二病的かっこよさに魅力を感じる年頃なのであった。
仮面も手に取る。
「よし、買おう!」
購入し、早速身につけて外へ出た。
「うひょぉぉお!最高だ!!今の俺、きっとめちゃくちゃかっこいいんだろうな!」
アスタが手に持つ上着を見る。
「この上着は・・・」
カバンからシャロンの魔法がかかった瓶を出し、そこに詰めると小さくなって入った。
「これで良し!」
すると、お腹が鳴った。
「小腹がすいてきたな。クッキーでも食うか」
近くのお菓子屋でクッキーを買った。
その店を出てすぐ隣にある木の下のベンチでブラックサレナの格好で頬張った。
アスタがクッキーを食べる少し前、2人組のスーツを着た若い男が街を歩いていた。
「この辺だっけ?」
「あった!あのお菓子屋の隣の木だよ!」
1人が指差す。
「あの木の下で、フードとプルチネッラの仮面を被った奴が取り引き相手だ」
「その相手ってどんな奴なの?」
2人は木を観察しながら物陰に身を隠した。
「ベット兄貴がランブルに聞いたところでは、魔法の世界の組織の者だと言ってたけど、兄貴自身の考えでは俺らのrossoと、biancoを仕切ってるrosé(ロゼ)の奴かもしれないって言っていた」
「へー、そんな奴と兄貴が取り引きするはずだったのを、俺らが代わりでいいの?」
「仕方ないよ。兄貴には急遽入ったbiancoとの会議に行かなきゃいけなくなったんだ。そんな“かもしれない”程度の奴とより、biancoに睨みをきかせる方が大切だろ?」
「それもそうだな。今は同じroséに仕切られているとはいえ、元は対立組織だったしな。昔の事だけど、今でも仲悪いし、俺らも個人的恨みもあるし、ここは兄貴に任すしかないよな」
観察を続けていて、気づいた。
「ところでさ、兄ちゃん」
「何だ弟?」
「プルチネッラって何?」
兄が呆れる。
「バッカ、俺が知るわけないだろ?」
「本当?俺も知らないんだ!同じだね、兄ちゃん!」
「当たり前だろ!俺らは組織一の仲良し兄弟なんだぞ!」
「最高だぜ!兄ちゃん!!」
兄弟で拳を合わせる。
「でもさ、どっちも知らないのに相手が誰かわかるの?」
「考えてみろよ。仮面付けた奴とか普通いないだろ?目立つって!」
「流石兄ちゃん!!」と弟が目を輝かせた。
そして街に目を向ける。
「兄ちゃん」
「何だ?まだあるのか?」
弟が街中を行き交う人々を指差す。
「結構仮面付けた奴多いよ?」
「あ、本当だ」
お菓子屋のポスターを見つける。
「あー、きっとあれだな。今週末、仮面祭があるんだとよ」
「へー、だから仮面付けた奴が多いのか」
「きっと相手も仮面付けてる奴が多いことを知っていて、自分も目立たないこの週を選んだんだろうな!普通に考えてみると、組織同士の取引で目立つ格好するわけないよな。だが安心しろ!合図としてクッキーも食うって言ってたんだ!」
「なるほど、他と紛れないようにか。確かにそこまで条件が揃うのはないだろうな!これならプルチネッラを知らなくても大丈夫だ!」
兄弟で話していると、フードを被り、仮面を付けた人物がお菓子屋の隣の木の下に立ち、クッキーを食べ始めた。
「来たな」
「あいつだな」
兄は内ポケットから、弟は頭に乗せていたサングラスを目元に掛けた。
そして兄弟はクッキーを頬張る人物に近づいて行った。




