剣豪同士
しばらく柊は2人を見送っていると、薮から人の足音が聞こえた。
振り返ると藪の中に四天王の葵が立っている。
今にも斬り掛かってくる錯覚を覚えるような強い殺気に、咄嗟に刀に手を掛けた。
「すいません、道に迷ってしまって」
困ったように笑う葵に冷や汗を一筋垂らし、刀から手をゆっくりと離す。
一呼吸してから返事をした。
「そうでしたか。てっきり野犬かと思ってしまいました。失礼」
葵の腹が鳴ったので、柊は拍子抜けして微笑み返す。
「こちらへどうぞ。何かご馳走致します」
「す、すいません」
恥ずかしそうにする葵の先導をした。
『背を向けても何も仕掛けてこない。薮の中からは夥しい殺気を感じたんだけどな』
家に入ると茶の間に通した。
「何か食べられるものを探してきます。どうぞ、ごゆっくり」
「すいません、ありがとうございます」
しばらくして柊がご飯と漬物を持ってきた。
「このくらいしかありませんでしたが、どうぞ召し上がれ」
「ありがとうございます。いただきます」
一礼して静かに食べる葵の横にあるサーベルが気になり、柊は手で指して聞いた。
「剣術をお使いになられるのですね」
「ええ、そういうあなたは和刀の使い手のようで。珍しいですね」
「先祖が大和の血筋でして、代々伝わる刀です!すいませんがそちら、見せて頂けませんか?」
「いいですよ」
快諾した葵が箸を置いてサーベルを渡してくれた。
「ありがとうございます!」
両手で受け取り、少し抜いて刀身を見る。
「ほう・・・良い仕事をされていますね。綺麗な刀身だ」
「はい、上司からいただきました。自分の分身の様に大事にしております」
誇らしそうに葵も刀身を見ていた。
「よく手入れもされている。刃こぼれ一つ無いし、この美しい輝き・・・惹かれますね!」
「お褒め頂きありがとうございます!」
刀を納めて返す。
「お食事中にすいません。お見せ頂きありがとうございました」
「いえ」
そして部屋を出た後、柊はうずうずしていた。
「た、戦いたい!あの隙の無い立ち居振る舞い!あの刀身の手入れ具合!!間違いなく手練れ!!あの方と剣を交えてみたい!!」
興奮を持て余しながら家をうろつく。
「しかし、理由が無い。何とかして剣を交えられないものか?でもあの方、どこかで見たことあるような・・・」
その時、勝手口にあった新聞が目に入った。
「あれ?この人・・・」
葵は食事を終えてお茶を飲んでいた。
そこへ帯刀した柊が入ってくる。
「失礼。こちらを拝見致しました」
柊が新聞を広げると大きな写真付きで葵の事が書いてある。
「ここは我々を敵視する新聞社ですね」
新聞を受け取り目を通す。
「ええ、あなたを悪魔の手先だと書いてあります。それと同時に指名手配もね」
葵が新聞を畳む。
「今やこの大陸でも我々の組織に対しては賛否両論ですからね。中にはこういった賞金を賭けた指名手配を配る所もあるでしょう。それで、あなたの目的は?」
柊が口角を上げた。
「単刀直入に申します!私と決闘をしてほしい!!」
「俺も、あなたと剣を交えてみたいと考えていました!」
2人は場所を移動し道場に来た。
「改めまして、私は柊と申します」
「ご丁寧にどうも。俺は魔王軍四天王、葵です」
間合いを保って向き合う。
「本当は指名手配もあなたの組織や立場もどうでもいい!純粋にやり合いたいんです!」
「よかった、俺もです!」
帯刀した2人は互いに笑顔だった。
「真剣勝負でお願いします!」
「勿論!」
葵が抜刀して切りかかる。
葵の刀を半歩退がって避けると、柊も刀を振り上げで葵の頭上から振り下ろした。
それを葵も横に避ける。
「体捌きが素晴らしい!これが四天王か!!」
「あなたも無駄が無い!!」
間合いを取る。
互いに見つめ合って、踏み出した。
切られた血痕が葵の身体に大きくへばりつき、辺りにも散っている。
葵の頬にも血飛沫が染み付いていた。
目の前には壁にもたれる柊が虫の息で座っている。
荒い呼吸の柊は肩から腹まで袈裟を切るように切られていた。
「久しぶりですよ、柊さん。俺に本気を出させるなんて、やはりあなたはいい剣士だ」
「ハァ・・・ハァ・・・何故とどめを刺さないのですか?」
「必要が無いからです。今すぐに追って来られなければあなたから逃げ切る自信があるので」
葵が笑い「あとご飯の恩もありますしね」と言った。
柊に近づき「失礼」と言うとサーベルを太ももに刺す。
「ぁぐあ!!」と悲痛な叫びを漏らす。
「きっと追えないでしょうが、足だけは両方切らせて頂きます」
そう言うと無表情のまま反対の足も刺した。
そして懐から綺麗な白い布を取り出して、血を丁寧に拭き取る。
何より優先したのは、自分の顔や体の返り血よりも分身と言っていた刀の方だった。
光に当てて満足そうに見てから鞘に納めた。
それから辺りを物色する。
「さてと、俺は魔王様に何か献上しなくてはなりません。何かしら価値のあるモノを頂きたいのですが・・・」
柊の刀を手に取って抜く。
「素晴らしい・・・。しかし武人の刀を奪うということはあなたの死も同然。それに、この刀だと他人が使っても言うことを聞かないでしょうね」
柊が弱々しく笑う。
「はは・・・葵さん、あなたっていう人は・・・本当に甘いですね」
「はい、よく言われます」
柊が懐から脇差を出した。
「・・・この脇差はいかがです?」
差し出された脇差を受け取る。
「脇差?」
「大和の国で作られたそうで・・・切れ味も抜群、魔除けの力があります。様々な持ち主を渡り歩き、祖父の代で家に来たらしいです。・・・折れて脇差となったそうで、今では私の護身用です」
鞘から抜いて刀身を確認する。
「・・・綺麗だ」とつい感嘆の声が溢れた。
「元は私の童子切と同じく・・・和刀だったようで。いつ生まれ、何故折れたのか、何故多くの持ち主に渡っていたのか、殆どが分からない刀です」
話を聞き終わると刀身を納めた。
「こちらを有り難く頂きます」
「一つ・・・頼みがあります」
弱る柊を見ると、首を持ち上げもせずに俯いている。
「是非・・・あなたに使って頂きたい」
「頼んでみます。お世話になりました」
葵は一つ頭を下げると家を去った。
その数分後、体がだんだん重くなって動かなくなってきた。
「血を流しすぎたか・・・どうしようか・・・」
意識が朦朧とする中、遠くから走って駆け寄る足音が聞こえてきた。
目の前まで来てやっと医者だとわかった。
「柊さん!!ご無事でしたか!!」
「お医者様・・・何故?」
頭を持ち上げ、医者を見る。
「背の高い軍服の男性が教えてくださりました!」
柊は目を丸くし、少ししてから微笑んだ。
「本当・・・どこまで甘いんだ」
葵は夕陽に向かって歩き、剣豪の住む町を後にした。




