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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
東の大陸
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椿

「魔王は二の次!俺の真の目的は!島の外に出て!運命の女性と!キッス!!することだーーーーーー!!!!!」

アスタの渾身の叫びが虚しく響く中、キャメリアは呆れてモノも言えない様子で見ていた。

「あっそ。真剣に聞いた私がバカだったわ。バカバカしい。それじゃ、がんばってね」

立ち上がり去ろうとするキャメリアを呼び止める。

「キャメリア!」

「しつこい!何よ!?」

障子に手をついて怒りながら振り返った。

「お前は俺をバカにしているが、キッスしたことはあるのか?」

アスタに背を向けたまま固まる。

「デートしたことは?」

更なる尋問に反応して体を硬らせる。

「男と手を繋いだこと・・・あるか?」

最後の尋問に勢いよく振り向いて涙を溜めながら怒鳴った。

「うっさいうっさいうっさい!!・・・ない」

小声でボソっと最後に本音を言うと、アスタがそれを聞き口角を上げた。

「お前はこのまま、父ちゃんの言いなりになって、姉のお下がりである柊さんと結婚させられてもいいのか?」

「イヤよ!良くないわよ!!あの2人の関係には憧れるわ!でもそれを姉にぞっこんの柊さんとしたいんじゃないの!私だけの運命の人とイチャイチャしたいの!!」

拳を握って俯き、悔しそうに打ち震える。

「キャメリア!お前は家という殻にこもりすぎたんだ!今こそ俺と旅に出て自分だけのフィアンセを探そうじゃないか!!」

それでもまだ「でも・・・」としぶる。

「なんだよ?何が不安なんだ?」と口調を緩めて問いかけた。

「富裕層の集落とは言え、こんな山奥の田舎でずっと暮らしてきたわ・・・。さっきも言った通りキッスもしたことないし・・・」

「だから探しに行くんだろ?」

キャメリアが赤くなる。

「だって・・・キッスしたこともない田舎者が都会に出たらバカにされるじゃない!!」

顔を上げたら不安気に涙を浮かべていた。

「バカ野郎!!」

アスタの大声に圧される。

「バカにされる?このまま家の言いなりで姉のお下がりと結婚した方がバカにされるわ!自分の足で探せ!幸せは自分で見つけるもんだろうがよ!!」

その言葉についつい黙ってしまった。

「大声出して悪かったな。ま、お前にその気が無いのなら俺もこれ以上無理には誘わないよ」

ご飯を食べたアスタは立ち上がり刀を手にして歩き出した。

「お邪魔しました。それとご飯ご馳走様」と礼を伝えてアスタが家を出る。

「柊さん、留守を頼める?西の口まで送ってきます!」

「はい!」

涙を拭いてキャメリアが追いかけ、アスタの見送りに行った。

「悪いな」

「いえ。出口まで送らないとわからないでしょ?」

2人で暫く無言で歩いた。

「なあ、結局どうなんだ?」

歩きながらの問いかけに「え?」と返す。

「来るのか?来ないのか?」

俯いて少し考えてから返答をした。

「やっぱり色々と考えたんだけど、辞めておくわ。姉のこともあるし、それに今父が仕事で家を長らく離れているの。私がいなくなったら家を空けることになってしまうわ。お誘いありがとうね」

「そうか・・・」と言うアスタにキャメリアが弱々しく続ける。

「それに・・・」

「それに?」

言いかけたが軽く首を横に振って否定した。

「いえ、何でもない」

2人はゆっくりと歩いていった。


2人が出てから柊は食器を洗っていた。

すると近所のお手伝いさんがお菓子のおすそ分けを持って来た。

「ありがとうございます!家の者に伝えておきます!」

「柊さんはいつも偉いわね!あ、そうだ!この辺で野犬がうろついてるらしいから気を付けて!さっきも子どもが1人西の口付近で噛まれたそうよ!」

「それは恐ろしいですね・・・」と心配そうに柊が返す。

「でも、柊さんならお強いから安心ね!」

ご近所さんが笑いながら言うので、「いえ、そんな・・・」と照れながら謙遜しているとふとキャメリアとアスタを思い出した。

「西の口・・・?は!」

柊は急いで帯刀し、家を飛び出す。

「柊さん!?」

「すいません!少し用事を思い出しました!!」

走って行く柊をご近所さんが呆然と見送った。


「キッスだろ」

「な、何が!?」

突然の真理をついた問いに、あからさまに慌てふためく。

「父も姉もただの口実!お前はただ、キッスをしたことが無いという負い目から来ないんだろ!」

赤くなっていくキャメリアを指差して追い詰める。

「そ、そんなこと!」

「あるだろ?」と食い気味に攻めるとキャメリアは横を向いて俯いた。

「うぅ・・・」

「キャメリア、俺も無い!!」

「はっ!」と顔を上げてアスタを見つめる。

『なければ!!』

『今しちゃえばいいんだ!!』

華々しい都会に出ても恥じない“キッス経験”者という既成事実を作ろうと互いに向き合ってアスタが肩を掴む。

キャメリアが目を閉じた。

アスタもゆっくり近づく。

しかし、寸前のところで顔面を殴られた。

「やっぱり嫌!!」

殴られた頬を押さえて、泣くキャメリアを見る。

「好きな人とキッスしたいの!!既成事実じゃダメなの!!誰でもいいわけじゃないの!!」

「そうだろ!キッスだけじゃない!結婚も同じだ!」

涙を流しながらアスタに訴えかける。

「私だってこんな田舎より、キラキラした素敵な都会でおしゃれに暮らしたい!それで、イケメンな運命の人を見つけてキッスしてみたい!!」

アスタを見ると真剣な顔をしていた。

「で、どうする?」

「私・・・」

キャメリアが何かを言おうとしたら近くの草が揺れて野犬が出てきた。

「きゃ!」

慌ててアスタの後ろに隠れる。

アスタが剣を構えるが、あっという間に野犬に囲われた。

「数が多い!!・・・そうだ!キャメリア!さっき何かやってたよな!?俺を助けてくれたやつやってくれよ!!」

「ご、ごめん!家に置いて来ちゃった・・・」

申し訳無さそうに言うキャメリアに絶叫する。

「何ぃ!?絶体絶命かよ!!」

その叫びが引金となり、野犬が飛びかかってきた。

「うわ!!」

アスタが両腕を顔の前に出し、ガードをして目を瞑る。

すると、背後から風が通り過ぎた。

足音も無く走ってきた柊が瞬時に犬の間合いを詰め抜刀する。

颯爽と犬を真っ二つに切り抜けた。

その後、近くにいた犬を4体続けて切る。

柊の背後で犬が倒れていった。

「柊・・・さん」

振り返った柊はいつものように爽やかな笑顔だった。

「間一髪でしたね。遅れて申し訳ない。この辺で野犬の被害が出たと聞き、慌てて来ました」

アスタが犬を覗く。

「犬達・・・切れてない!!」

「あぁ、いけないいけない!」

柊が刀を鞘に沿わせて納める。

鯉口に納まる音で野犬達が飛び起きたかと思うと、踵を返して走っていった。

「な、何で!?何で切れてもないし、しかもあんなに元気なんだ?」

アスタに刀を見せる。

「それは、我が愛刀、童子切安綱の特殊能力です!」

「童子切安綱?」

刀を見て頭を傾ける。

「ええ、ウチに伝わる名刀です。童子切とは大和の国のある土地に悪さばかり働く酒呑童子という鬼のことです。その鬼の元へこの刀、安綱を持った武人が鬼の首を斬って退治したという言い伝えがあります」

「鬼の首を!?」

アスタが首を両手で触って目を丸くする。

「ええ。この刀は鬼を斬る特殊な力があります。今、私はあの犬達の鬼だけを斬りました。鬼がもたらすのは簡単に言うと殺気や憎悪等です。彼らはもうここへは来ないでしょう」

「鬼だけ・・・だから犬は無傷だったのか。それ、俺でもできんの?」

自分を指差すアスタに柊がクスクスと笑う。

「鬼だけを切るのにも技術が必要なんですよ!誰にでもできるわけではないんです!」

「へぇ〜!外の世界には色んな特技を持った人がいるんだな・・・。本の中の世界だけかと思ってた、不思議な力って」

柊がキャメリアに手を貸して立たせてくれたので「ありがとう・・・」と礼を言う。

「あ、そうだ!」と袖から犬の人形を出した。

「はい、どうぞ」

人形を差し出され「え?」と柊を見上げる。

「行かれるのでしょ?外へ」

「知ってたの?」

柊が口元を手で隠して小刻みに震えながら顔を横に逸らせて笑った。

「お2人がかなり大きなお声で話されていたので、離れていても聞こえましたよ!」

2人が恥ずかしそうに赤くなる。

「いってらっしゃい。お気をつけて!」

「柊さん・・・。私、必ず姉さんを見つけてきます!」

また柊が笑う。

「ありがとう。椿さんの運命の方もね!」

キャメリアが恥ずかしそうにしていたが、アスタは聞き逃さなかった。

「椿って?」

はっとして柊がしまったという顔をする。

「な、何でもないわよ!聞き間違いじゃない!?」

「いいや!確かにこの耳で聞いたね!柊さんがお前を椿って呼んだ!!」

凡ミスをしてしまった柊が焦って謝った。

「すいません、キャメリアさん!もう言ってしまいましょう。これから旅をする仲間なんです。隠し事はよくありませんよ!」

キャメリアがため息を吐いて、開き直る。

「私の本名は椿って言うのよ!でもそんな名前可愛くないし田舎くさいから嫌なの!」

「そうですか?私は素敵だと思いますよ!」

「へー、そっか。で、俺は何て呼べばいいんだ?」

「勿論、キャメリア!」

「よろしくな!キャメリア!・・・ところで、それは?」

アスタが犬の張り子を覗く。

「これは私の使い魔よ!」

張り子を手に乗せて見せた。

「私召喚士なの。ステファニア!」

名前を呼ぶと張り子が犬に変化し、地面に現れた。

「うわぁ!!」

「これで野犬からあなたを守ったのよ!」

ステファニアをよく観察する。

「使い魔・・・?」

アスタは初めてのものに混乱していた。

「知らないの?」と聞かれて大きく何度も頷く。

「アンティパストじゃ一度もこんな生き物見たことなかったよ!人形から生き物に変わるなんてまるで魔法や手品じゃないか!!」

「手品?」と逆に首を傾けられた。

「魔法をみたことがないのですか・・・。さっき見せた鬼を斬るのも魔法の一種になります。それを道具や血筋によって特殊な応用をしたのが童子切安綱の鬼斬りや張子から使い魔を出す召喚士もその一つなのです。それらを行うには必ず妖精の力を借りて魔法を使わないといけません」

キャメリアが困ったように聞く。

「日常生活はどうしてたの?火を点けるのも、水を出すのも妖精の力を借りてるはずよ!」

「あ、たしかに普通にコンロも水道も使ってた。あの普通に使ってるものって魔法だったの?」

「何言ってるのよ?こんなの学校とかで習うでしょ?」

「俺の島・・・学校無かったから・・・」

また2人が首を傾ける。

「島内に学校が無いなら、島の外まで出て通わないの?」

「魔王軍が指定する開拓作業しかさせてもらえなかったし、そもそもお外なんて出れないよ。連帯責任でとんでもない罰を島民全体で受けるとか聞いてたから誰も出ようとかしなかったし!」

2人が口元に手を置いて哀れみの目でアスタを見た。

「魔王軍もなかなかエグいことをされますね」

「でもそのおかげで全部が驚きだから、刺激だらけでいいけどね!」

俺は楽しいよと言わんばかりにアスタが親指を立てて見せると「リスクを把握できないバカって幸せね」とキャメリアが呆れていた。

「柊さん、しばらくの間留守にするけど、お家のことよろしくお願いいたします」

キャメリアに柊は笑顔を返した。

「はい。任せて下さい!」

「必ず姉さんを連れて帰るから!」

真剣なキャメリアに柊が再び吹く。

「ぷっ!・・・運命の殿方もね!」

笑われて顔が赤くなり、柊に背を向けて歩いて行った。

「おい!待てよ!」とアスタも走って追いかける。

少し離れてからアスタが思い出したかのように戻ってきて、柊の元に来たかと思うと、肩を組んでキャメリアのいる方向に背を向けた。

「何かありましたか?」

「いや、飯食わせてもらっておきながら、何もお礼できてないなと思って・・・」

柊が笑いながら「そんなに気を使わなくてもいいのに」と言うと、アスタが悪い顔をしながら自分の胸ぐらに手を突っ込んだ。

「へへ・・・まあ、フィアンセがいるあんたにこんなもん見せんのはあれかもだけどよ、でも全男の本能的なもんだろ?見て損は無いはずだ!」

何のことかわからないまま聞いてると、アスタの胸元からエロ本(保健体育の教科書)が出てきた。

『教科書?』と未だにわからないでいるとページを捲り、例のイラストのページを開いた。

「ほら、ここ・・・。俺らの島で唯一のエロ本を魔王軍から死守しながら持ってきたんだ!へへへ、何度見ても、ゴクッ・・・いいだろこのページ!全裸なんだぜ・・・へへへ!」

『えぇ〜、内臓・・・』

柊は完全に引いていた。

目の前の世間知らずを傷つけないような言葉を迷いに迷った挙句に出たのが・・・

「栄えた町には人が多いので、きっと魅力的な方は見つかりますよ!」

柊はアスタから逃げた。

よだれを拭くアスタはまだ興奮冷め止まぬ様子である。

「うへへへ!フィアンセのいるお侍様さえすぐに逃げるほど興奮する代物だ!これは間違いなく上物だな・・・うひひひひ!!」

『え、何?この子、怖いっ!!!』

アスタの異常さを怯えていると、遠くからキャメリアが「何してんの!早く来なさい!!」と呼ぶ声でアスタは興奮を抑えながら歩いて行った。

「椿さん・・・この旅、大丈夫なんでしょうか?」

遠く小さくなりゆく2人を見送っていると、真隣の薮から人の足音が聞こえた。

今にも切りかかってきそうなほどの、とてつもない殺気を感じ、咄嗟に刀に手を掛ける。

振り返ると藪の中には魔王軍四天王の葵が立っていた。

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