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月桂樹の冠,  作者: 叶笑美
メリリーシャの街
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荊姫

パルフェときしめんは夢の中で荊姫の過去を見た。

貴族生まれで10代くらいの美しい少女が毎日窓から外を眺め、ため息をつく。

「つまらない」が口癖となってしまった少女は町で自由に遊んだり、働いたりする子どもたちが羨ましくてたまらなかった。 

「お姫様、外国語のお時間ですよ!」

呼びに来た家庭教師に振り向いて言い返す。

「外国語なんて嫌い!私がこの家の子どもに生まれてなかったら、サーカス団に入ってたくさんの動物や仲間と一緒に世界中を旅して周れたのに!!」

「行けません!良家の方とご結婚するためにも、勉強をして、学と品を身につけなくては!!」

「いやよ!そんなのが必要なお家にはお嫁に行きたくない!!私、自由に生きていきたいの!!お父様みたいに!!」

父は貴族には珍しく、とても自由奔放な性格だった。

少女は次第に父に憧れて趣味についていくようになり、乗馬に旅行に、ある時は一般市民の格好をして町に出てバイオリンを披露し、チップをもらったこともあった。

彼女は自分の手で稼いだこのチップを彼女だけの小さな秘密の宝箱にしまい、悲しくなった時には手にとって父との思い出を振り返り、勇気づけられていた。

そんなある日、姉が従兄弟いとことのお見合いが決まった。

「お父様!どちらへ行かれるの?」

少女が父に抱きつくと、父も抱きしめてくれた。

「その荷物・・・外国に行くの?」

「ああ、母さんには内緒だよ!」と言って唇に人差し指を当てて見せる。

「お姉様のお見合いには行かないの?」

「親戚が集まるんだろ?父さんはそう言うのは苦手なんだよ!だから母さんに任せるよ!」

「私もイヤよ!!私もお父様について行きたい!!狩りをするんでしょ?やってみたい!!」

「まだ早いよ。もうちょっと大きくならないと!」

「お父様の趣味は全部大好き!!お父様みたいな生き方をしたいわ!!」

「おっと、そろそろ行かないと!じゃあな、愛してるよ!」

父は愛娘の頬にキスをすると、荷物を持って出て行ってしまった。


母に連れられ姉のお見合いの場に同行する。

母と母の姉が話し合うが、どうやらこちらが遅れたことに対してご立腹のようだ。

この叔母はかなり神経質そうなのも無理はない。

早逝そうせいされた夫に代わり、息子が立派になるまで男に混じって政治を行っているから気の置けない毎日なのである。

そして、つまらなさそうに座っている自分に反して、主役の1人である姉はずっと汗を流して緊張している。

そんな姉を横目にため息を吐きながら背もたれにもたれて天を仰いでいると、突然大きな音がした。

その次の瞬間、鹿が茂みから飛び出して逃げて行く。

「あ!待て!!」

そう叫んで出てきたのは今回姉とお見合い予定の若く美しい皇帝陛下。

どうやら待ち時間で狩りに出ていたらしい。

さっきまでつまらなさそうにしていた彼女は目を輝かせて近寄り、猟犬を撫でて可愛がる。

「やあ、久しぶり!綺麗なお姫様になったね!」

「まあ!お久しぶりね!」

かなり昔にこの皇帝陛下とは幼い頃に会ったことがあり、昔話しに花が咲く。

「皇帝陛下!こちらへ!」

「はい、母上!」

ハキハキと答えてから母の元へと寄っていく。

こちらの母はと言うと、緊張する姉の汗を拭いてあげたり、乱れた髪を整えてあげていた。

叔母が我が息子にこちらを見せて紹介する。

「さ、貴方の結婚相手よ!」

「私は彼女をとても気に入りました!赤く可愛らしい唇、綺麗で元気な目元、眩しいくらいの美しい笑顔・・・僕は彼女と結婚します!」

その言葉を聞いて喜ぶ。

「それなら早速声をかけてきなさい!そうだ、お茶に誘うのはどう?」

「はい、行って参ります!」

そうして皇帝陛下が手を差し伸べる。

「どうか、私とお茶をして頂けませんか?」

誘われた本人含め、みんなが唖然と目を丸くし、黙っていた。

それもそのはず、なんと誘われたのは姉ではなく、付き添いで来た妹の方だった。

たしかに、姉よりも妹の方が美人だったのである。

次の瞬間、「まぁ!!」と女性陣が大声を出した。

「私で良いのですか?皇帝陛下・・・」

「はい!私は貴女を気に入りました!共に国を守りましょう!!」

笑顔で手を取り、立ち上がって見つめ合う。

「私の!!今までの努力が!!」と花嫁修行にいそしんできた姉は発狂。

「何でよりにもよっておてんばな妹を!!」と叔母はハンカチを噛み締める。

「私の娘に変わりないから結果的には良いわ!!」と安心する母。

「これからは国のために勤めるということは、大変なことも、我慢することもたくさんあるが、共に乗り越えて行こう!!」

「私たちなら大丈夫よ!」

そう言って口付けを交わした。

こうして、実家よりはるかに大きな家の貴族に見染められ、貴族間では珍しく恋愛結婚をし、家族と離れて嫁ぎ先の国へと移った。

後日姉ではなく妹が嫁いで行ったことを知った父は大反対をしていたが、運命の歯車は止まることは無かった。


嫁ぎ先でも自分がこれまでにやってきた通りの生活ができると思っていた。

しかし、それは叶わぬ夢であった。

早朝に姑に叩き起こされる。

「貴女、いつまで寝ているの?国務に勤める身なら早く起きなさい!!」

「まだ早いですわ・・・」

「遅いくらいだわ!!今日から国務を行って頂きます!!」

「そんな!!私、今日は乗馬がしたいのです!!」

「お姫様、乗馬なんて危ないですわ」

お世話係に止められ、口を尖らせる。

「それなら狩りをしたいです!皇帝陛下もなさっていたでしょう?」

「いけません!それも危ない!!」

これまでも止められる。

「いつまでも夢見がちな田舎娘でいられたら困るわ!とっとと支度なさい!!遅れたら承知しないからね!!」

吐き捨てるように言った後、姑が出て行った。

こうして、これまでの趣味は全否定されて取り上げられてしまった。

助けを求めても夫は姑の言いなり。

助けるどころか、こちらを説得するばかりだ。

涙で枕を濡らす日々が続く。

自室で彼女は嫁ぎ先に持ってきた宝箱に入ったチップを抱え、自分が輝いていた家族との時間を胸に毎日泣いていた。

「お父様・・・あぁ、お父様に会いたい!また私を夢のような貴方の趣味の世界に連れて行って!」

起き上がって窓辺に近寄り、星空を見上げる。

「自由に空を羽ばたく鳥のような貴方と、もう一度この世界を駆け巡りたい!!今の私は鳥籠の鳥よ!羽ばたくことさえ許されない!!」

そして涙をこぼしたが、拭いてくれる人も、抱きしめてくれる人も誰もいない。

冷たい雫が手の甲に落ちるばかりだった。


そんなある日、国の中で革命が起きた。

革命軍が水面下で新聞社と結託して民衆を動かしたのである。

「時は来た!!今こそ王家から奪われ続けた我々の自由を取り返せーーー!!!」

君主制反対派の革命軍によりすぐに捕らえられ、牢獄に幽閉されて何日目かの夜。

夫が処刑された。

姑もまた別の日に処刑された。

1人で聞くギロチンの落ちる音、人々の歓声。

あとはもう自分しかいない。

私が何をしたというのだろう?

政治の肝心なところは一切関わらせてもらえない。

夫の親戚たちからかわいいかわいいとまるで大人しい人形のような振る舞いを強いられる様はショーウィンドウの人形とどう違うのだろうか?

私はただ、好きな乗馬や狩りをして、自由に羽ばたく鳥のようになりたくて木登りをしたり、同世代の子たちと遊んだり、自分の手でお金を稼いでみたり・・・父のように好きに生きていきたかっただけだ。

床を照らす月明かりを茫然と眺めていると、急に暗くなった。

見上げると何かが窓を覆っている。

その物体が離れたかと思うと、背後に気配を感じた。

恐る恐る振り向く。

そこには大きな闇夜のように黒いトカゲが赤い目を光らせてこちらを見ていた。

恐れから呼吸が小さく、荒くなる。

必死に落ち着かせようと試みて、そんな自分がおかしく思え、笑いがこみ上げて来た。

自分が落ち着く理由は何?

今、生きようとした?死を恐れた?

もう明日にはギロチンの餌食になる分際で?

一通り笑うと、トカゲに近寄った。

「どうぞ、私をお食べなさいよ。どうせ明日には生首になるんだから。恐怖が1日早く終わるだけ。そうでしょ?」

トカゲはなんの躊躇ためらいもなく丸呑みにした。

すると、トカゲが彼女の形を成す。

笑い声を聞いて様子を見にきた兵士がやって来た。

不思議なことに死んでいない。

いや、自分は死んだんだ。

死んだけど、自分が魔女になり生まれ変わったことがわかった。

力が溢れ出てくるのを感じる。

手を前に出した途端、荊が兵士を貫いた。

高揚するままに牢を破り、外に飛び出す。

こうして彼女は牢獄の魔女、荊姫となった。

身分にも家にも囚われず毎日が輝き出した。

しかし、それもすぐに終わる。

「一人ぼっちじゃつまらない・・・」

人間は魔女である自分を恐れるので、自分を絶対に恐れない友達を作ろう。

そうだ、よく見かけた同世代の町の子たちや親戚の貴族のような子たちを!!

そうして荊姫はお茶をしたりバラを摘んだりする友達のキメラを荊で作った。

キメラ達はまるで自分の手で稼ぎ、いつも勇気づけてくれたあのコインのように大切な宝物となった。

やっと手にしたその幸せは長年続いた。

その間、死への恐怖を忘れていたが、幸せだった分、知らないうちにそれは心に募っていった。

そんな時にやって来た、自分を怖がらない人間たち。

しかし彼らは自分を殺しにやって来たのだ。

牢獄で毎日聞いたギロチンの音と歓声を思い出す。

怖い、怖い、怖い!!!

自分の死を望み喜ぶ人々。

我らこそが正義、相手は悪。

殺して当然と思いやって来る相手・・・

「殺さなきゃ!!」

立ち向かった結果、前回のようにはいかず、敢え無く焼き尽くされてしまった。

「ああ・・・やっと死の恐怖から自由になれたのかな、私?」

燃えながら天を見上げたが、涙さえ炎の熱に焼かれてこぼれなかった。

涙を拭いてくれる人も、抱きしめてくれる人もいないままだ。

燃え尽きた灰は蝶のように大空へと舞い上がり消えていった。


パルフェは目が覚めた時には魔王軍の拠点でベッドの上にいた。

隣にはきしめんが背を向けてベッドに腰掛けている。

「荊姫・・・処刑前のお姫様だったのね」

「そうみたいだな」

同じ記憶を見たのだと確信してパルフェが少しだけ安心する。

「私たち、スラムの出だから全然わからなくて、いつも贅沢してるような貴族たちを憎んでたけど、みんなそれぞれ抱えるものがあるのね・・・」

「ああ。立場違えば悩みも違うってことだろうな。・・・・・俺は・・・」

一度言葉が詰まり、再び続けた。

「俺はギロチンになる気はない。正義のヒーローになりたいんだよ」

パルフェも言葉に詰まり、それから口を開いた。

「・・・立場が変わればヒーローにも、ギロチンにもなる。だけど、あなたはみんなのヒーローよ。魔王軍ではその強さが絶対的なヒーローだから!」

「おう・・・そうだな。敵に同情なんかして凹んでちゃいけないよな」

きしめんは相変わらず背中を見せていたが、顔を上げた。

「よし、今日もやるか!ヒーロー!!」

「うん!!」

2人の会話をしばらく部屋の前の廊下で聞いていたが、葵は中に入らずそのまま去った。

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