幸せの鐘
メリリーシャの魔王軍の一拠点には四天王の葵率いる部隊に潰された盗賊団がいた。
その盗賊団はかつて西の大陸では力のあるグループの一つだったが、あっという間にやられてしまった。
メリリーシャ近郊の攻略のため、特攻力を買われた元盗賊団はメリリーシャに配置されていたが、昼からギャンブルに酒にとすっかり腑抜けている。
その現場を葵に見られてしまい、叱責をくらって掃除をし、部下の1人がゴミ出しをした際にそこにいた少年少女3人組が「願い事が叶う白い鐘」の話をしているのを小耳に挟んだ。
「本当にあるの?願い事を叶えてくれる白い鐘なんて」
探し疲れた栗毛の少女が項垂れ、鐘の存在自体を疑い始めていた。
そんな栗毛の少女に赤髪の少年が怒り気味に言い返す。
「あのな!シスターがあるって言ったんだろ?それに過去の事例も教えてくれたんだろ?てかシャロンが持ってきた話なんだから一番諦めんなよ!!」
「そうだけどさー」と栗色の毛の少女が項垂れた。
「これだけ人も多くて土地も大きなメリリーシャの妖精だからきっとそれなりに力があるはずよ!それに、メリリーシャの伝統行事みたいなもんでしょ?ライバルは多いはず!もう誰かが見つけてるかも・・・」
栗色の少女が口を鳴らす。
「ぶー。・・・ねぇ、ところで2人は何をお願いするの?」
唐突な質問に目を丸くする2人。
「うーん、私は・・・素敵なバッグや宝石が欲しいかな!お洒落して、金持ちにナンパされたい!!」
「やっぱあの姉にしてこの妹有りだな」
「欲深い血は争えないね」
2人して首を横に振る。
「何よ!そういうアスタは何なの?」
先程からの少年少女はいつものパーティ3人組だった。
「俺?俺は・・・不老不死になる!!」
キメ顔で言うが冷ややかな目で見られる。
「何それ?」
「小さな幸せって言ってるんだよ?それ全人類の永遠の願望でしょ?」
シャロンとキャメリアにつっこまれるが負けじと言い返す。
「うるせぇ!日々の健康という安心あっての幸せだろ!」
「はいはい」「叶えるかどうかは結局妖精だもんね」とあしらわれる。
「けっ!お前らなんかより早く見つけて不老不死になってやる!!」
3人が去った後で子分も走った。
そして基地の扉を勢いよく開ける。
「リーダー!今日この街のどこかに白い鐘が置かれてるらしい!それを鳴らせば願いが叶うんだとよ!!」
「何?そんな物があるのか!!」
驚きと嬉しさでリーダーが立ち上がった。
「ものは試しだ。今の俺らじゃ確実にやられる。全員でその鐘を見つけて魔王軍に一矢報いてやろうじゃねえか!!」
「おー!!」と皆で立ち上がった。
葵の部下2人が街を歩いていた。
「なんだか喉渇いてきたな」
「ジュースでも飲もうか」
2人でベンチに座って休む。
「今日はどこも店がやってないな」
「自販機あってよかったー」
すると、街の子ども達が2人の近くで探し物をしていた。
「今年の鐘は黒だって!」
「見つけたら夕方の鳴らせる時間まで内緒にしてないとね!」
「小さな幸せのお願い何にする?」
部下2人がジュースを飲みながら黙って会話を聞く。
「俺はスーパーヒーローの人形をもらう!」
「私は可愛いドレス!」
「僕は美味しいお菓子をたくさん!!」
そんなことを言いながらどこかへ行ったのを横目に見ていた。
それから報告をしに葵の泊まるホテルに行くと、ロビーに頭を抱えた葵がいた。
「葵様、巡回終わりました」
「本日も街は平和でした」
「・・・」
葵は無反応で一点に集中している。
「葵様?」と再度呼びかけた声にやっと反応した。
「はっ!すまん!巡回ご苦労。何か飲んで行けよ。喉渇いただろ?」
「いえ、先程自分達で飲みましたので!」
「お心遣いありがとうございます!」
葵がいつものように優しく笑い返す。
「そうか。あまり頑張りすぎるなよ。体が資本なんだからな!」
「はい!」と返事をして2人はホテルを後にした。
「葵様疲れてるな」
「何か力になってやりたいけど・・・」
少し黙ってから気づく。
「黒い鐘!!」と同時に叫んで走った。
早速仲間に伝え、皆で黒い鐘を探すことに。
勿論、イナリにも声がかかった。
「なにぃ!?願いが叶う鐘だって!?」
「おう!葵様の為に探そう!!」
しかしイナリは自分の私利私欲に塗れた妄想が膨らんでいた。
「願いが叶ったら葵様に誉めてもらうんだ!いや!頭ナデナデもしてもらえる!!わっ!もしかしてあんなこともこんなことも・・・」
そして鼻血が出た。
「おい!大丈夫か?」
「ご心配なく!!」と片手で鼻を押さえて、もう片方の手を前に出して見せた。
「あった!!幸せの鐘だ!!」
なんと、先に見つけたのは魔王軍だった。
「あれ?でもこれ白いぞ?」
持ち上げて観察しながら首を捻る。
「振っても鳴らないし・・・。偽物か?」
物陰からパーティがその姿を見ていた。
「やばいぞ、魔王軍に先に見つけられてしまった!!」
「どうしよう・・・」
「変装して街の子どものフリして貰ってみる?」
2人が提案したシャロンを見つめる。
「・・・え!?シャロン!?」とまさかの視線に驚いて自分を指差す。
「そうだ。言い出しっぺの法則だ!」
「シャロンならできるわ!あなたは女優よ!!」
シャロンはアスタのズボンを履いて、スカートを入れ、髪をツインテールにして帽子を被った。
「シャロンは女優、シャロンは女優・・・」と呟き暗示をかける。
「行ってくる!!」
「ファイトッ!!」
アスタは服を伸ばしてパンツを隠し恥ずかしそうにしながら送った。
シャロンが魔王軍の前に現れると注目を浴びる。
「オ兄サン、オ兄サン!ソノ鐘ガ欲シイノダケレド、ドウカ私ニクダサイナ!」
手を出すシャロンは終始真顔で棒読みだった。
「大根役者め!!」
アスタが拳を作って陰から怒る。
「ああ、これが欲しいの?」『めちゃくちゃ真顔棒読みだな。怖っ!』
「いいよ!持っていきなよ!」『何だこいつ?変な格好』
「え!?いいの!?やったー!!」
シャロンは受け取ってはしゃぎながら走った。
「見た?シャロンの名女優っぷり!主演女優賞級の名演技!!」
自信満々で喜んで帰ってきたシャロンを呆れながら迎える。
「見てられないくらい真顔棒読みだったわよ」
「よく貰えたな。まあ、いいか」
アスタがズボンを履いて鐘を持つ。
「これを夕方に鳴らせば、願いが叶う!!」
すると、横から粘着質の物が飛んで来て鐘に引っ付き、奪い取られた。
「あ!!」
「鐘が!!」
「返しなさい!!」
鐘を目で追いかけると、見知らぬ男が2人いて、そのうちの1人の手元に収められている。
現在魔王軍の配下にいる元盗賊団だった。
「悪いな!こいつは頂いていくぞ!」
「俺達が代りに世の為に役立ててやるよ!」
鐘を奪った元盗賊団の男達は去っていった。




